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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 大名古屋ビルヂング ~名古屋駅前景観に潤いを与える~

 

株式会社三菱地所設計         
建築設計一部 部長   
宮地 弘毅

 

1. はじめに

旧大名古屋ビルヂングは,名古屋の地で人々に最も愛されたビルとして知られている(写真- 1)。
 

【写真-1 旧大名古屋ビルヂングの全景】




 
1959(昭和34)年の伊勢湾台風で被災した当時,名古屋に元気を与えたいという願いを込めて建設された。1962( 昭和37)年から1965(昭和40)年にかけて三期に分けて工事が行われ完成以来,名古屋駅前のシンボルとして名古屋の人々に親しまれてきた。その後,建物の老朽化が進み時代に合わせた機能更新が必要となったため,背後の敷地に立っていたホテル(ロイヤルパークイン名古屋)とその間にあった市道を廃道し敷地を一体化した上で,都市再生特別地区制度を活用して建て替えることとなった。
 
新しい大名古屋ビルヂングの高層タワーには,中部圏の業務拠点を形成する最先端のオフィススペース(7~33階/うち7~16階は集客施設を含む),貸会議室やカフェラウンジなどのビジネスサポート機能(5階)が配置され,低層部および地下には名古屋の新しい顔にふさわしい商業施設(地下1~3階),金融サービスゾーン(4階)が配置された最先端の駅前複合施設として生まれ変わった(図-1,写真-2)。
 

【図-1 新ビルの断面構成図】

 

【写真-2 新大名古屋ビルヂング全景】




 

2. 名古屋駅前景観を変える

建て替え前の名古屋駅前の景観は,殺風景なものであった。歩行者は地下街など地下ネットワークを利用することが多く,地上は閑散としていて緑が少なく,歩道上には自転車の違法駐輪が目につくような状態であったため,ビルの機能更新のほかに,駅前景観の改善を目指して新ビルの計画を進めた。また,大名古屋ビルヂングは地下鉄東山線コンコースとを結ぶ地下街(ダイナード)や,桜通り下に広がる地下街ユニモールとも接続する名古屋駅前の重要な地下ネットワークを形成しており,その機能更新とネットワークの再構築も重要な課題であった。これらを踏まえ,都市再生特別地区の公共貢献を次のように提案した(図- 2)。
 

【図-2 特区貢献資料】




 
1) 回遊性ある歩行者ネットワークの形成
・ 周辺との連続性や回遊性を備えた地上と地下の歩行者ネットワークを形成
2) 名古屋駅前における豊かな地下空間の形成
・ 地下鉄東山線コンコースと結ばれる地下街(ダイナード)およびコンコースの通路を拡幅,周辺環境を整備
・ ユニモール地下街との接続部にエレベーターを設置し,地下空間のバリアフリーネットワークを構築
3) 緑豊かな駅前空間の形成
・ 敷地北側と北側広場に緑あふれる空間を整備
・ 低層部屋上に約2,000m2のスカイガーデンを整備
4) 交通結節機能の強化
・ 中部圏初となる大規模地下機械式駐輪場(952台)を整備
・ 敷地内にタクシープール(5台)を整備
5) 環境共生への取り組み
・ CASBEE名古屋※「Sランク」評価
・ 環境共生技術の導入
・ 地下4階に地域冷暖房施設を導入
 
 ※ CASBEE 名古屋とは
  建築環境総合評価システム(CASBEE,キャスビー)の建築(新築)をベースに
  名古屋市の届出用に開発された名古屋版。
 
6) その他の貢献
・ 雨水貯留槽,中水道施設の整備
 
 

3. デザインコンセプト「緑の丘に立つ大樹」

駅前景観に新たな魅力を与えたいという思いは,建築のデザインコンセプトに色濃く反映されている。低層部に商業施設,高層部にオフィスという建物の基本構成を踏まえて「緑の丘に立つ大樹」というコンセプトを提案した。外装デザイン,内装デザイン,ランドスケープデザインからサインデザインに至るまで,このコンセプトの実現を追求している。
 
高層タワーの外装デザインは,街並みに圧迫感を与えないよう透明感のあるガラスカーテンウォールを採用し,数種類のアルミ押出型材の縦リブをランダムに設置した。プログラマーと協働し,自然界にみられる自然のリズム「1/fゆらぎ」に基づく外装デザイン用のプログラムを作成。書き出したプログラム結果を3Dモデリングで視覚化してランダム配置の検討を重ねた。ガラスカーテンウォールの内側には,樹木の幹をイメージしたシャンパンゴールドのスパンドレルが設置され,「1/fゆらぎ」のリズムで配置された縦リブと併せて大樹の葉や幹の重なりを表現している。高層タワーを見上げる時間や視点によって,ガラスカーテンウォールの様相は刻々と移り変わり,あたかも豊かな大樹の姿を思わせ,景観に穏やかな潤いを与えている(写真- 3,4)。
 

【写真-3 「1/fゆらぎ」概念】

 

【写真-4 外装の全景写真】




 
低層部の屋上には,公共貢献要素でもあるスカイガーデンがあり,地上の緑と丘のように連続する緑のヴォリュームを形成し,駅前広場からの景観を彩っている。東側には貸会議室の前庭として,四季折々の彩りが楽しめる「キルティングガーデン」,西側にはカフェラウンジと一体利用が可能な「大樹」の根っこをデザインモチーフにした「イーズラウンジ」,南側には駅前広場が眺望できる「アクロスデッキ」など場所に応じた作り込みをしたランドスケープデザインとした(写真- 5)。
 

【写真-5 スカイガーデン】




 
低層部の外装デザインは,商業施設がもつさまざまなコンテンツが結晶化したきらびやかな「クリスタル」をモチーフとしている。「クリスタル」を感じさせるキラキラした印象を目指しながら,幅約1,400mm,3フロア分の高さのガラススクリーンを,内部空間からの眺望も考慮に入れて間隔をあけながら,互い違いの向きで低層部全周にわたって設置した。ガラススクリーンは吊り構造により自重はテンションワイヤーで支持し,面外方向の風や地震に対応する細い部材で全体を構成することによって,軽やかな印象の構造を実現した。スクリーンは合わせガラスで,アーティストと協働して作成したクリスタルパターンが中間膜の中に挟み込まれ,日射遮蔽と同時に心地よい表情を生み出している(写真- 6)。
 

【写真-6 低層クリスタル】




 
オフィスエリアのインテリアも「大樹」というコンセプトを踏まえてデザインされている。エントランスホールは,森の中に見える木々の姿をイメージさせるランダムなストライプパターンが入った大理石仕上げの壁と柱,天井は「大樹」の木立の下の空間をイメージして,高層タワーの外装デザインと同様にランダムパターンのアルミ押出型材の仕上げとした。石やアルミなどクールな印象の材料で構成されているにもかかわらず,木漏れ日をイメージした狭角の照明とも相まって,自然を思わせる柔らかな雰囲気の空間となった(写真- 7)。
 

【写真-7 エントランスホール】




 
基準階共用部も,LEDライン照明を木立の木漏れ日をイメージしてランダムに配置するなど,同様のコンセプトが展開されている。
 
商業エリアは,株式会社乃村工藝社とコラボレーションを行い,「森の体感」をコンセプトとした。森が持つ「色・形・光・リズム」が生み出す居心地のよい空間を目指した(写真- 8)。
 

【写真-8 商業エリア】




 
木の要素の記号化を行い,建築の基本要素として各階に展開し,照明もそれに合わせたデザインとした。地下1階は「根 柔らかい光」,1階は「幹 バウンドする光」,2 階は「枝 木漏れ日」,3 階は「葉 透過する光」という組み合わせで空間デザインが展開されている。
 
 

4. 歴史継承の取り組み

旧大名古屋ビルヂングは,建築としてというより,人々に愛され記憶に深く刻まれているという点に価値がある。既存建物の解体に先立って歴史調査を行い,建築的価値を確認した上で歴史継承の取り組みを提案した。ビル名称は,三菱地所の新ビルの呼称「ビルディング」ではなく「ビルヂング」が継承され,名古屋の人々の思いが残された。
 
ビル名称サインも,親しまれてきた旧ビルのフォントを踏襲。また,旧ビルにあった住居表示記載のビル銘鈑をそのまま新ビルに設置している(写真- 9)。
 

【写真-9 ビル住居表示銘鈑】




 
旧ビルの特徴的な部位としては,1階のオフィスエントランスホールにあったモザイク壁画と,壁の大理石仕上げ,床の現場研ぎテラゾー,吹き抜け上部の2階のブリッジにあった瓢箪手摺などが挙げられる。モザイク壁画は旧ビル解体時に保存し,新ビルのオフィス車寄せの風除室横の壁面に設置して,新しいオフィスエントランスのシンボルとして活用した(写真- 10)。
 

【写真-10 モザイク壁画】




 
また同様に保存した壁の大理石仕上げ,瓢箪手摺は,地下2階の商業施設の一般来客用駐車場の待合ロビーに設置し(写真- 11),床の現場研ぎテラゾーや天井の塗装色も当時を再現し,旧ビルのオフィスエントランスホールの雰囲気を追体験できる設しつらえとした。
 

【写真-11 地下2階待合ロビー】




 
それぞれに簡単な解説を付して旧ビルの歴史を来館者に伝えられるように工夫している。
 
 

5. 環境配慮

本計画では,CASBEE 名古屋「S ランク」を目指し,さまざまな最先端の環境共生技術を採用した。低層頂部南側外周部には,ガラス庇ひさしと一体化された建材一体型太陽光発電パネルを採用した。高層タワーのガラスカーテンウォールには,9階以上にはエアーフローウインドウ,Low-E ペアガラス,7階から8階の東西面にはダブルスキン,Low-E ペアガラスを採用している。
 
基準階オフィスには,太陽光感知型自動ブラインド,昼光センサーによる照度制御,また全館にLED照明を採用して熱負荷低減を図っている。併せて館内設備のデータを統合管理することによりエネルギー効率を最適化している。
 
また都市環境の保全,地域の省エネルギーの推進を図るため,地下4階に地域冷暖房施設を導入し,名古屋熱供給株式会社の地域冷暖房施設ネットワークとエネルギー融通を行い,CO2削減と電力需給の安定化・平準化を実現している。
 
地下4階には,雨水,空調ドレン,雑排水,厨房排水を再利用する中水プラントを設置し,水資源の循環システムを確立している(図- 3)。
 

【図-3 環境共生概念図】




 

6. BCP(Business Continuity Plan)

地震に関しては,中部圏で想定される最大級の地震に対して,継続的に機能維持できる耐震性を確保している。東日本大震災規模の地震に十分に耐えうる建築基準法の1.5倍を上回る耐震基準を満たしている。
 
電源供給に関しては,耐震性に優れた中圧ガスと重油双方に対応したデュアルフューエル型非常用発電機を採用し,燃料供給源の多重化を行った(図- 4)。
 

【図-4 BCP非常用発電機概念図】




 
名古屋駅前は,下水の排水能力を超える集中豪雨により,浸水被害が頻繁に記録される場所であるため,浸水対策の多重化を行った。非常用発電機室を地上階に設置し,1階と地下1階の外部に面する各開口部に高さ1mの防潮板を設置し,サッシは静水圧に耐える仕様とした。また,雨水貯留槽を設置し,万が一地下に浸水した場合も,ビル機能の再起動に要する時間の最小化を図っている。
 
 

7. おわりに

長い間名古屋の人々に親しまれてきた大名古屋ビルヂングは,その歴史を踏まえながらも,全く新しい姿で生まれ変わった。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催,2027年のリニア新幹線開通などを控え,中部圏の中心である名古屋の新しいビジネス拠点,賑わいの核として今までにも増して人々に愛される建物になることを願っている。



 
 
 
【出典】


建築施工単価2016春号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2016-10-26

 

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