- 2016-10-07
- 建築施工単価
1. はじめに
平成23 年3 月11日に発生した東日本大震災によって東北地方整備局の旧二日町庁舎は,壁や天井材の剥落や設備配管の破損など多数の被害が発生し,執務室や廊下に立ち入り禁止などの措置を取りながらの災害対策活動を余儀なくされました。
従前より,旧二日町庁舎は所要の耐震性能の不足に加え,老朽化,業務の多様化・業務量の増大による狭あい化により業務に支障をきたす状況となっていました。このような状況から,災害時に迅速な対応が可能となる防災拠点施設の整備が急務となっていました。
このたび,新たに災害対策活動を行う4官署が入居する広域防災拠点として,青葉区の仙台合同庁舎敷地内に平成23年度より増築工事を進めていた仙台合同庁舎B棟が平成27年12月に完成しましたので,ここに紹介します(図-1)。

【図-1仙台合同庁舎B棟断面図】
2. 広域防災拠点としての整備
仙台合同庁舎B棟の建設にあたっては,東日本大震災の経験を踏まえ,広域防災拠点としての機能を確保し,災害時の業務継続が可能となるよう整備しました。主なポイントは次のとおりです。
(1)耐震安全性の確保
片寄せコア方式の平面計画による間口75.8m×奥行き14.8mの事務室無柱空間(写真- 1)と経済性を考慮し,制震装置をバランスよく配置しています。

【写真-1 9階事務室 片寄せコアの採用による無柱空間】
建物外周部には座屈拘束ブレースを,コア回りには増幅機構付減衰装置と同調粘性マスダンパーを設置することで,複数の制震装置を組み合わせた高性能複合制震システムを実現しています。
また,外周部の制震装置を露出することで,窓からの採光・換気を確保し,防災庁舎としての要素を表現しています。
(2)災害対策用ヘリポートの整備
東北地方整備局では,災害発生直後の広域的な被災状況把握や応急復旧活動への支援を図るため,災害対策用ヘリコプター「みちのく号」を保有し,平成13年度より仙台空港を基地として運航しています。
今回,屋上部に「仙台合同庁舎 東北地方整備局ヘリポート」を整備し,防災官署の集積地である勾こう当とう台だい地区においても,大型ヘリコプターの離発着が可能になりました。
災害が発生した場合に,いち早く防災担当職員がみちのく号に搭乗し,緊急かつ速やかに被害状況などの情報収集および報告。関係者の人員輸送を主たる目的として整備された非公共用ヘリポート(特定機関のヘリコプターのみが利用可能)で,大規模災害発生時においては,他の防災機関ヘリコプターも利用可能であることから広域防災および緊急活動拠点となります。着陸帯の20m×24mのスペースは整備局のヘリポートとしては最大級であり,アルミデッキ製とすることで軽量化を図っています(写真- 2)。

【写真-2 アルミデッキ製の非公共用ヘリポート】
(3)業務継続の確保
災害時における業務継続の確保の観点から,非常用発電設備による7日分の電力供給と4日分の飲料水および雑用水の水槽を整備しています。
また,7~14階の整備局エリアの災害対策室(写真- 3)は,間仕切りの無い300m2の大空間を確保,さらに状況に応じて隣接する大会議室との仕切りを開放することにより一体的な利用を可能としています。

【写真-3 12階災害対策室】
3. 周辺環境に配慮した景観形成と既存庁舎A棟との一体的整備
遠景・中景・近景における調和に配慮し,宮城県庁などの周辺建物の都市軸に合わせるとともに,スカイラインが突出することのないよう勾当台公園の背景となるデザインを意識しています(図- 2,写真- 4)。

【図-2 配置図】

【写真-4 左:宮城県庁 右:仙台合同庁舎B棟 建物高さを周辺建物と合わせ, 周囲のスカイラインとの調和を図っている。B 棟の北東方向にA 棟がある】
外壁は,縦基調の凹凸あるツートンカラーにより圧迫感を軽減するとともに,品格のあるファサードとしています(写真- 5)。

【写真-5 縦基調で凹凸を出すことにより周囲への圧迫感を軽減している】
また,土の質感がある無釉タイルの採用により,親しみやすいデザインとしました。
低層部は,勾当台公園とのつながりを意識し,既存並木に沿って壁面線を形成,行政情報プラザを配置し,ガラス越しに内部の活動を見せることで市民に開かれた施設としての表情づくりを行っています(写真- 6,7,図- 3)。

【写真-6 1階行政情報プラザ】

【写真-7 並木通りに面した行政情報プラザ 内部活動が通りからも見える】

【図-3 1階および基準階平面図】
外構整備においては,利便性と安全性を確保し,既存庁舎A棟との一体的な動線計画としています(写真- 8)。

【写真-8 左:A棟 右:B棟 既存A棟を踏襲したモノトーン の色彩により勾当台公園の緑の背景となるデザインを意図して いる】
4. 環境への配慮
自然エネルギーの利用として,屋上への太陽光発電設備の設置,開口制限付サッシによる高層建物では珍しい窓を開けての自然換気を可能としています。
Low-Eガラスによる断熱性能の向上や照明制御(初期照度補正,昼光利用制御,人感センサー),高効率器具,節水型機器や変流量制御の空調システムの採用,低層部の屋上緑化や屋根面の雨水をトイレの洗浄水として利用するなど環境負荷低減対策を実施しています。
また,エントランスホールの壁面に杉の集成材ルーバーを採用するとともに,受付カウンター回りに木材を活用するなど,来庁する人々を迎え入れる親しみのある空間を創出しています(写真-9)。

【写真-9 エントランスホール 杉の集成材ルーバーや木製受 付カウンターなど木材を積極的に使用している】
5. おわりに
本庁舎が広域防災拠点としての機能を発揮し,安全・安心の実現に貢献するとともに,勾当台地区の官公庁施設の一つとして,末永く地域の方々に親しまれ,利用していただけることを祈念いたします。
【出典】
建築施工単価2016夏号

最終更新日:2016-11-07
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