- 2025-07-22
- 特集 公園・緑化・体育施設 | 積算資料公表価格版
はじめに
2017年に都市公園法の改正に伴い、公募設置管理制度(以下、Park-PFI)を活用した公園事例が全国各地に誕生している。
制度改正により、国内では多くの都市公園が本制度を活用し、ユニークな公園計画・運営が増加している。
また、アフターコロナによりライフスタイルが急激に変化し、屋外空間の価値が見直されはじめている。
その結果、我々の生活における都市公園の役割や求められるニーズも変化しており、今まで以上に変化に対応できる整備・運営が求められている。
本稿では、東京都初のPark-PFI事業として、変化・進化を見据えた計画・整備内容に加え、実際の完成後の様子を紹介したい。
1. 公募概要・提案内容(計画)について
都立明治公園は国立競技場周辺に位置する公園であり、今回のPark-PFI事業対象地(図- 1)は、従前都営住宅があった跡地に新設される公園エリアであり、2021年3月に東京都より民間事業者の募集が始まった。
公募の方針については、東京都公園審議会にて協議され、国立競技場の前庭空間・神宮外苑エリアにふさわしい、賑わいと交流の「広場エリア」と豊かなみどりを確保した「杜エリア」を園内に整備することが条件となった(図- 2)。
特 に杜空間については約3,500㎡以上の空間を整備することが条件となっていた。
公募内容をふまえ当社を代表企業とする6社(東京建物株式会社、三井物産株式会社、日本工営都市空間株式会社、西武造園株式会社、株式会社読売広告社、株式会社日テレアックスオン)のコンソーシアムにて提案を行った。
6社の構成については、整備事業者だけでなく、運営も見据えた企業にも参画を依頼し、整備から運営を一体的に提案するチーム構成を行った(図- 3)。
提 案のコンセプトは、コンソーシアム名にもなっている「Tokyo Legacy Parks」である。
既存のレガシーを生かすだけではなく、東京の未来のレガシーを創造することも目標にスローガンとして設定している。
レガシー形成のために、5つのテーマを設定し、テーマに沿う形で具体的な整備内容・運営計画を行っている。
その中で特に注力した3つのポイントについて紹介したい。
1) 事業終了(20年)後も見据えたランドスケープ計画
将来を見据えたランドスケープを創るため、植栽計画・建物配棟計画にもこだわり計画を行った。
まず植栽計画については、提案時に求められていた約3,500㎡の緑化面積に対して、倍以上の約7,500㎡の杜空間を提案。
呼び名を、「誇りの杜」と設定し、杜の樹種や樹高についても完成された植栽ではなく、時間をかけて成長していくハーフメイドの杜の提案を行った。
これにより、杜の成長を感じることで公園に対して愛着・誇りを持てる計画としている。
杜の成長を見据え、高木・中木・低木・地被類など約60種700本の植栽をバランスよく配植している。
樹種については、落葉樹を約7割とし、葉が落ちることにより、腐葉土の形成や地被類にも良質な採光環境を整えることを目指し、見た目だけではない、本質的な杜を創るために必要なプロセスを意識した配植となっている。
ハーフメイドとは、人の手を入れながら事業期間の20年間で杜の基礎を作ることを指しており、20年後は杜自らが自走し、「100年続く杜」になることを目標としている(写真- 1)。
園内には、「誇りの杜」に加えて、3つの広場「みち広場」「希望の広場」「インクルーシブ広場」を計画した。
「みち広場」は、外苑西通りに面しており、既存歩道を拡張するように約7mセットバックし、周辺との調和を図る広場とした。
エリアの歴史を継承する渋谷川をオマージュした水景も備え、地域のレガシーにつながる計画とした(写真- 2)。
園内に高低差があるが、みち広場に階段や段差を生かしたベンチを配置することにより、歩道と公園をシームレスにつながる景観とした。
「希望の広場」は、約1,000㎡の天然芝の広場である。
国立競技場の芝生と同じ芝種を採用することにより、地域のレガシーを生かすだけでなく、さまざまなイベントなどに対応できるように、広場の周辺には電源などのインフラも充実させている。
芝生を囲む形でランドスケープと一体となったベンチが3つあり、広場での活動を自然に見守れる環境となっている(写真- 3)。
3つ目の広場は、「インクルーシブ広場」である。
名前のとおりインクルーシブをテーマに整備された広場である。
障害のある、なしに関わらず遊べる広場として株式会社ジャクエツのRESILIENCE PLAYGROUNDシリーズの遊具を配置した広場を計画した(写真- 4)。
遊具も聴覚が過敏な子どもでも周りの音を制限しながら遊べるブランコなどを設置しており、遊具もインクルーシブな思想があるものを採用している。
遊具は可動式になっており、移動や移設も可能となっている。
長年使用すると、遊具も飽きが来て使用されなくなる可能性もある。
その際に、自由に切替がしやすいような可動式遊具を設置している点も、従来の都市公園の遊具広場と異なる点である。
これにより、社会のニーズや変化に柔軟に対応できる体制になっており、利用者の声を生かした改善を通してスパイラルアップが達成できる広場になっている。
PDCAを確実にできる仕組みこそがインクルーシブだと考えている。
次に建物の配棟計画についても紹介したい(写真- 5)。
将来の環境を事前に想定し、あえて 小規模な建物を分棟配置している。
本事業地は、約1.6haであり、Park-PFIの制度上、最大約1,920㎡の公募対象公園施設を園内に設置ができるが、我々の提案では約1,500㎡とすることにより、建築面積をできる限り小さくしている。
杜や広場などの公共空間をできるかぎり広く確保できる計画としたことに加え、一つ一つの建物についても分棟させることにより、建物の間にも余白を持つ計画とした。
狙いとしては、事業期間終了後に建物を撤去しても公園全体に大きな空白地ができない工夫をしている。
そのほかの効果としては、分棟して店舗を設置することで、各店舗に足を運ぶきっかけとなり、園内全体の回遊性の向上につながり、公園の隅々まで体験してもらえる一つのきっかけを作ることができている。
2) 多様なニーズを受容する公募対象公園施設(店舗)計画
Park-PFI事例の多くは、園内にカフェのみを設置するケースが多く存在する。
旧来の都市公園との比較においては、それだけでも十分な進化だが、冒頭のとおりライフスタイルの変化に伴い、利用者が公園に求めるニーズも変化している。
そのような背景から、本提案ではエリアの特徴などを鑑みた多様な用途の公募対象公園施設(店舗)を配置する提案を行った。
本エリアは周辺に国立競技場を中心とした国内を代表するスポーツクラスターエリアになっており、日頃から多くの人がスポーツ観戦を楽しむエリアである。
観戦だけでなく、テニス場や軟式野球場、ランナーなども日頃から多く、自らスポーツをする人も多いエリアでもある。
そのような特性から、飲食店だけでなくスポーツ前後のリラクゼーションを提供する施設を園内に配置する計画とすることにより、公園機能の拡張を図った(写真- 6)。
また、子どもや大人が、園内の杜や広場を楽しむアクティビティを提供するアウトドアアクティビティショップも配置する計画とした(写真- 7)。
飲食店だけでなく、多様な店舗を配置することにより、園内での滞在時間が最大化され、結果的に利用者の愛着・記憶に残る体験が増え、将来のレガシー形成に寄与すると考えている(写真- 8)。
3) 地域連携やデータを活用したPDCAサイクルの構築
ランドスケープや建築などのハード整備だけでなく、持続的な進化・改善を行うためにソフト面の施策も提案に入れている。
まずは、地域社会との連携である。
周辺の 千駄ヶ谷エリアには、多くの居住者、就業者、商店経営者がいることに加え、隣接地には大規模集客施設(国立競技場、東京体育館、神宮球場、秩父宮ラグビー場、青年館ホール)があり、多くの来街者であふれる街である。
事業者としては、地元+来街者との連携を深めるべく、地域のまちづくり協議会に参加することを提案の中で行った。
また、来街者の連携については、施設の運営者で構成する大規模集客施設連絡協議会に参加することで、双方のイベント状況などを共有できる体制構築を行うことを提案として行った。
明治公園のPark-PFI事業対象地部分は新設の公園であり、地域の人も新たに知る公園である。
まずは顔見知りの関係性を構築することで、今後の持続的な運営が可能だと考えた。
具体的には、地域イベントを公園で実施したり、大規模イベント時に地域の回遊性を向上させる施策をすることにより、千駄ヶ谷・外苑エリアの中での存在感が高まると考えている(写真- 9)。
関係性の構築だけでなく、実際の回遊状況や愛着度を定量的に測定する仕組みも導入している。
具体的には、園内にスマートポールを5台設置し、来園者の状況をリアルタイムで測定を行っている(写真- 10)。
スマートポールにはビーコン+AIカメラにより、来園者数やリピーターのカウントなどが可能になっている。
一方で、データの情報管理も徹底しており、個人情報にあたるものはその場で削除され、個人情報に該当しないデータのみを可視化し管理・運営に生かせる体制としている。
今後は、データを活用し、前年度比較による来園者傾向の分析や、大規模集客イベント時の来園者の増加率などを活用し、園内の維持管理の質を向上していきたい。
公園の維持管理だけでなく、店舗への情報開示を通してフードロスの削減を図るなど、公園の5つのテーマにふさわしい運営の実現を精度の高いPDCAサイクルで実現したい。
2. 整備後の運営状況について
2023年の10月31日に開園し、1年以上が経過し、狙っていた風景が実現でき始めている。
最も力を入れていた緑化空間については、開発初期には土も目立ち、落葉樹が中心のためグリーンインフラと呼ぶには足らない状況であったが、1年を経過し、生育が進み、公園に緑化の景観をしっかりと形成することができてきている(写真- 11,12)。
前段でも説明した通り、人の手を加えながら作る杜を目指しており、開園初期には公募で集まった都民と一緒に植樹会を実施した(写真- 13)。
約80名が参加し、事業者だけではなく、多様な人が関与できる余白を大切に杜の維持管理を行っている。
今後も多くの人が関われる企画を杜の維持管理でも取り入れていきたい。
杜だけでなく3つの広場でもさまざまなシーンが生まれてきている。
開園時には芝生の色が藁のような色に変わるため、広場の真ん中に藁の遊具を設置し、自然と触れ合えるプレイグラウンドの企画を園内店舗と連携して実施した(写真- 14)。
従来の公園にある固定遊具のあそび場だけでなく、多様なステークホルダーと連携することにより、今までにはなかった子どもたちの遊び環境を形成することができた。
結果として、一日平均約1万人が来園する大型イベントとなり、地域の人々にも喜ばれる企画となった。
そのほかにも園内店舗との連携だけでなく、民間企業から協賛を募り、協業しながらイベントを実施することで、大規模なイベント開催も実現している(写真- 15)。
また、イベントだからこそ実現できる企画として、普段園内では使用を制限しているボール遊びについても安全対策を実施する形で、野球体験イベント等も実施した(写真- 16)。
禁止行為が多い公園の柔軟な活用として、ルールや安全施策を講じることで、制限を緩和し、公園の可能性を上げる活動などにもチャレンジをしている。
このように多種多様なイベントの効果もあり、多くのメディアにも取り上げられ、認知が拡大したことで、平日約5,000人、休日約9,000人の方が来園する結果となった。
累計では、開園から2025年3月31日時点で約243万人の来園者をカウントしている。
初年度としては順調な結果となっている。
将来の目標としている年間250万人の来園についても近いうちに達成可能な数値となっている。
初年度は公園の認知拡大を軸にさまざまな施策を実施してきたが、施策の実施がメインとなりPDCAサイクルを回すまでの取組みについてはまだ課題が多くある状況である。
次年度以降は、今年度実施した施策の反省や利用者の声を元に改善を図り、来園者数の増加、利用者の満足度、の最大化を目指していきたい。
3. 今後の取組について
PDCAサイクルの仕組みを活用したアクションが今後は重要だと考えている。
杜の生育環境については、杜の指南役である東京農業大学客員教授の濱野周泰氏の指導のもと、定期的に生育状況の確認を行い、毎年の状況に合わせた計画を立て、きめ細やかな維持管理を実施していく予定である。
維持管理についても市民参加型の取組みを増やしていきたい。
園内の店舗は、季節変動が大きいことがわかっており、集客が減少する夏場の対策を実施する予定である。
店舗と一体となって企画を考え、恒常的な賑わい創出を目指す。
広場でのイベントは、質・量ともに昨年以上を目標にしている。
そのためにも、事業者の力だけではなく、協賛企業や、地域の団体との連携が不可欠であり、さまざまなステークホルダーとの対話・協業が重要だと考える。
2025年は、世界陸上・デフリンピックなどの大規模な国際大会が開催される予定であり、外苑エリアにおいてもさらなる注目が集まる年になる。
エリアの価値最大化を目指す上では公園のみならず、ステークホルダーとの連携を加速させ、エリア全体での魅力向上を図っていきたい。
おわりに
来園者が求める都市公園への期待は常に変化している。
変化に柔軟に対応できる整備計画、また計画を作るだけでなく、運営・維持管理を通して公園の価値を最大化することが重要だと考える。
また、人の心に残るレガシー体験をつくるうえでは、公園の運営・改善プロセスに来園者や地域住民も巻き込み、自分事として愛着が持てる都市公園になることが求められる。
今後は、事業者として上記の取組みを行い、国内を代表する公園を目指したい。
Tokyo Legacy Parks株式会社 取締役
【出典】
積算資料公表価格版2025年8月号

最終更新日:2025-07-22
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