- 2025-07-22
- 特集 公園・緑化・体育施設 | 積算資料公表価格版
1. はじめに
川崎市は神奈川県の北東部に位置し、多摩川に沿って東京都と接しながら、東西に細長い形をしており、市域の北西部の多摩丘陵に広がる起伏の多い丘陵部、多摩川沿いに広がる低地部、東京湾に面した臨海部という3つの地形に大きく分かれている。
東京都に隣接した立地と高い開発需要から広範囲にわたり市街地の形成が進む一方、臨海部の埋立地の多くは工業・流通施設などの用地として利用されている(図- 1)。
本市は令和6(2024)年に市制100周年を迎え、その象徴的な事業として「全国都市緑化かわさきフェア」を開催した(図- 2)。
メインスローガン「みどりで、つなげる。みんなが、つながる。」を掲げ、富士見公園・等々力緑地・生田緑地のコア会場を中心に市域全体をひとつの会場として、緑化活動を推進した。
市民参加型のワークショップやイベント、市内小中学校と連携した花苗作りなどのほか、各地域の特性に応じて駅周辺や商業施設などでも多彩なみどりを感じる取組みを展開した。
次の100年に向け、みどりを通じた持続可能なよりよい社会の実現と、誰もが暮らしやすく住み続けたいまちへとつなげていくため、本市は新たなステージに向けて歩み始めたところである。
2. 川崎市のPark-PFI制度の導入実績
本市は、市内に1,200カ所を超える都市公園を有しているが、これまでの維持管理における行政負担の増大、協働の担い手の高齢化や後継者不足といった課題に対応すべく、令和3(2021)年3月に、公園緑地の柔軟かつ多様な利活用の推進と持続可能な管理運営の仕組みの構築に取り組むために「パークマネジメント推進方針」を策定し、3つの取組みの視点と9つの取組みの方向性のもと、市民や企業との協働による公園緑地の持続可能な管理運営と多様な利活用を推進している。
平成29(2017)年の都市公園法改正によりPark-PFI制度が創設されて以来、全国で200件を超える事例が報告されているが、本市においては図- 3に示すとおり、令和5(2023)年7月に開業した池上新町南緑道の地域課題解決型の事例をはじめ、4つの公園で実績がある。
全国都市緑化かわさきフェアの会場となった富士見公園を除くと、橘公園、登戸つくりと公園といった比較的小規模な公園では、地域課題解決や地域コミュニティ形成、賑わい創出に向け、地元に根を下ろした企業が参入するケースが多いのが特徴である。
次章では、これらの住区基幹レベルの比較的小規模な導入事例について、その経緯、事業スキーム、導入後の運用状況などについて紹介する。
3. 池上新町南緑道におけるPark- PFI事業
3-1 導入の経緯
池上新町南緑道(川崎市川崎区池上新町3丁目4、管理面積4,175㎡)は、昭和46(1971)年の高度経済成長期に開設された緑道である。
市内臨海部と居住部の境界エリアに位置し、立地上利用者が少なく、長年にわたり草の繁茂やゴミ投棄など維持管理の課題を抱えていた。
一方、緑道に隣接する敷地にはコンビニエンスストアと駐車場があり、臨海部につながる皐橋水江町線の沿道に面していたことから、大型車をはじめ臨海部事業所に向かうドライバーへの飲食・物販の提供スポットとして地域の交通レスト機能を果たしていた。
しかし、駐車スペースの不足から沿道の路上駐停車が大きな課題となり、本市は早急な対応を求められていた。
こうした状況下、本市の臨海部国際戦略本部は、公園緑地の所管部署である建設緑政局に対してPark-PFI制度の活用を提案した。
皐橋水江町線沿道と池上新町南緑道とを一体的に利用することで、交通レスト機能の拡張と緑道の再生という地域課題の解決に、部局間連携で取り組んだ事例である。
3-2 事業スキーム
緑道内に公募対象公園施設(収益施設:飲食・売店など)を設置し、その収益を活用して特定公園施設の整備および維持管理を行うことで、市の財政負担を軽減するとともに、公園のアメニティ機能の向上と利便性の高い交通レスト機能の導入を目指すものである。
事業区域面積は、約7,665㎡(池上新町南緑道4,175㎡、駐車台数確保面積3,490㎡)である(図- 4)。
公募対象公園施設は、一般の公園利用者の利便性の向上に資するよう、トイレの設置、緑道景観との調和、再生可能エネルギー活用などの環境配慮の取組みを求めた。
また、特定公園施設には、緑道内の園路、ベンチ、管理柵、植栽などの施設整備のほか、年間を通じて、日常的な維持管理として1日1回以上ごみ拾いなどの清掃と巡視を行うことに加え、必要に応じて緑道内の草刈や樹木剪定なども実施することを求め、美観維持にも努めるものとした。
さらに、交通レスト機能の用地(駐車場)については、大型自動車用の駐車ますを規定以上に確保するとともに、緑道と同様に日常的な維持管理を求めた。
なお、用地は複数の地権者からなるが、本市の臨海部国際戦略本部が各地権者と賃貸借契約を交わし、事業者(認定計画提出者)に一括して貸出す仕組みとした。
整備費の一部には社会資本整備総合交付金を活用し、市が負担することとした(図- 5)。
【事業者公募選定の流れ】
令和3(2021)年6月にサウンディング調査を実施し、同年10月に公募設置等指針の確認・評価基準等の審議を経て、事業者の募集を開始した。
翌年1月には公募設置等予定者から公募設置等計画の提出を受け、3月のヒアリング審査で山崎製パン株式会社を優先交渉権者に決定した。
3-3 事業成果および運用状況
緑道内にコンビニエンスストアと屋外テラスを設置し、駐車場利用者も休憩できるくつろぎスペースの創出と公園利用者も使用可能なトイレの確保を実現した(写真- 1)。
また、緑道にはベンチや花壇を設置するとともに、芝生などの自然を活かした散策路を整備したことで、地元住民の交流スペースが生まれた(写真- 2)。
除草清掃、樹木管理についても充実を図ることで快適な緑道空間が創出された結果、かつて課題であったゴミの不法投棄は発生していない。
また、交通レスト機能として、駐車可能台数が大型車・中型車13台(7台増)、普通車45台(15台増)と拡張整備でき、沿道の路上駐停車の削減につながった。
さらに、コンビニエンスストアの利用状況についても、導入前と比較して利用者数、日商ともに増加した。
本件は、臨海部の立地特性を活かした事業と収益性を考慮するとともに、その収益を施設全体の整備と一体的な維持管理に還元することで地域環境の改善を図る、課題解決型の好事例であると考える。
今後、さらに緑道を活かしたコンテンツなどを誘致し、地域の方々の関係構築につながるアイデアを公民連携で出し合いながら、事業を育てていきたい。
4. 橘公園におけるPark-PFI事業
4-1 導入の経緯
橘公園(川崎市高津区子母口565、管理面積17,877㎡)は、高津区南東部の住宅街に位置し、昭和50(1975)年に開設されて以来、地域住民の自然との触れ合いや交流拠点として重要な役割を果たしてきた近隣公園である。
園内には、旧西部公園管理事務所(鉄筋コンクリート造2階建て・建築面積約220㎡)が昭和55(1980)年に建築されたが、組織再編に伴って平成22(2010)年に事務所機能が廃止となった。
その後、1階の一部を貸しスペースとして地域に開放していたものの利用率は低く、住民から施設の有効利用を望む声が上がっていた(図- 6)。
こうした状況を踏まえて令和元(2019)年度にサウンディング調査を実施した結果、事務所に民間活用ニーズが見込まれたことから、民間企業のより柔軟な発想で地域の活性化や公園のさらなる魅力向上を目指す取組みが始まった。
4-2 事業スキーム
令和3・4(2021・2022)年度、事務所の有効活用の社会実験として、地域団体、民間企業と連携して地域交流イベント、マルシェの開催、キッチンカーの出店などを実施した。
利用者アンケート調査によるニーズの把握や民間企業との対話を通して、事務所と前面の広場を一体的に活用することで、地域交流拠点としてのさらなる魅力向上に向けた整備および管理運営を目指した。
公募対象公園施設では、事務所内に収益施設の整備と駐車場収入や広場でのイベント実施などの収益による管理運営を行うものとした。
必須実施業務は、特定公園施設のうち、老朽化により衛生上課題があった既存トイレの改修および維持管理を事項に盛り込んだ。
また、公園全体で、園内の日常的なごみ拾い・見回りの実施を求めた。
さらに、社会実験の結果などを踏まえ、公園の魅力向上や地域貢献につながるイベントなどの実施、地元町会・公園愛護団体などとの連携も求めた。
【事業者公募選定の流れ】
社会実験後、令和4(2022)年7月に本市のPPPプラットフォーム意見交換会で公募条件の整理などを行った。
9月に公募設置等指針の確認・評価基準等の審議を行い、10月に事業者募集を開始した。
令和5年(2023)1月に3事業者から公募設置等計画の提出を受け、2月にヒアリング審査を行った結果、社会実験にも参画した地元企業である合同会社ピークスタジオ一級建築士事務所を優先交渉権者に決定した(図- 7)。
4-3 事業成果および運用状況
事業者と公園利用者の交流は、旧公園事務所の愛称決めからはじまった。
公園利用者のシール投票により「TACHIBANA HUT(たちばなハット)」という、さまざまな人が交流を深める山小屋をイメージした名称に決定した(図- 8)。
「TACHIBANA HUT」は、1階の大きな開口部を前面の広場と一体化させ、地域交流施設としてリニューアルした(写真- 3)。
1階屋内は、アート展示・イベント・ワークショップなどの利用向けのレンタルスペースのほか、シェアキッチン、ポップアップショップのスペースも設けた(写真- 4)。
2階には、「働く場所を通じたつながりづくり」をコンセプトにコワーキングスペースを設置した(写真- 5)。
「TACHIBANA HUT」のそばには、新たにカフェスタンドを併設し、地元JR南武線武蔵新城駅前の人気店「TALUTO DOT COFFEE」の2号店を誘致した(写真- 6)。
ここでは、自慢のタルトをはじめ、スペシャルコーヒーやカレーなどを提供している。
さらに、公募対象公園施設として園内の一角にコミュニティファームを設置し、「まちなか農のある暮らし」と題して、野菜作りや食育イベントを開催している(写真- 7)。
特定公園施設は、「TACHIBANA HUT」の前面にテラスを整備した。
園内の既存トイレは、和式便器を洋式便器に更新し、オストメイト対応トイレやおむつ替え台を設置してバリアフリートイレへと改修した。
令和7(2025)年6月1日に「TACHIBANA HUT」は、1周年を迎えた。
建物と広場の一体的な空間を活用し、地域交流拠点としてコミュニティ形成につなげるための多様な試みが進んでいる。
夏の交流イベント「たちばなフェス」や定期的なフリーマーケット「たちばな蚤の市」のほか、週末にはキッチンカーの出店、「T ACHIBANA HUT」内のキッチンを活用したお菓子工房イベント、地元町会と連携した防災キャンプ、古着を活用した生地再生による地産地消プロジェクト「ローカル・アップサイクル・プロジェクト」など、さまざまなイベントが開催されている(写真- 8)。
また、これまで公園の維持管理のボランティアは地元の愛護団体が主体であったが、「PARK AID」と題したイベントで、新たに「一緒に公園を豊かにしよう!」というキャッチフレーズを掲げ、清掃、花の水やり、イベントのフォローなどのボランティアの募集を行っている。
事業者が語るのは、建物を建てて終わるのではなく、「TACHIBANA HUT」が地域交流のプラットフォームとして、人と人、団体間がつながり、公園を中心に地域を育てていくという強い思いである(写真- 9)。
引き続き公民連携のもと、地域の魅力を高める取組みを進めたい。
5. 登戸つくりと公園におけるPark- PFI事業
5-1 導入の経緯
登戸つくりと公園(旧登戸2 号街区公園 川崎市多摩区登戸2205-1、管理面積2,500㎡)は、本市が施行する登戸土地区画整理事業における、住民のレクリエーション、憩いの場として新たに整備する3つの街区公園のうちの1つである(図-9)。
令和2(2020)年度に市民協働による公園づくりのワークショップを開催し、令和3年(2021)年に「登戸土地区画整理事業公園基本計画」を策定した。
この中で、登戸つくりと公園は「若者をはじめ、子どもからお年寄りまで多様に使える」、「地域の特徴を活かす」というコンセプトをより一層高めるため、カフェや集会所の設置などを求める住民の意見も取り入れた。
サウンディング調査などで民間事業者との対話を行ったところ、事業者のニーズが見込まれたことから、地域要望を踏まえた公園の利便性向上やさらなる魅力向上に取り組むこととした。
5-2 事業スキーム
公募対象公園施設(飲食店、売店などの収益施設)の収益により公園施設の整備および維持管理を行うものとした。
必須実施業務には、公募対象公園施設内にトイレや地域交流スペースを導入するほか、特定公園施設として、ベンチ・テーブルを公募対象公園施設と一体的に整備し、公園利用者に対するサービスを向上させることを求めた。
また、当公園はかつて宿場町として栄えた津久井街道沿いにあることから、地域固有の歴史・文化を感じさせる展示パネルの設置も求めた。
さらに、公園愛護団体と連携し、日常における公園全体の見回りやゴミ拾いなどの清掃・美化活動も条件とした。
任意提案としては、地域主催イベント時のサポートや子育て支援の取組みなども盛り込んだ。
【事業者公募選定の流れ】
サウンディング調査後、公募条件の整理などを行い、令和6年(2024)年2月に公募設置等指針の確認・評価基準等の審議を実施、4月に事業者募集を開始した。
5月に公募設置等計画の提出を受け、7月のヒアリング審査を経て、8月に地元不動産会社の株式会社井出コーポレーションを優先交渉権者に選定した。
5-3 事業者提案内容および今後の展開
登戸つくりと公園の設置提案者の提案概要は以下のとおりで、公募対象公園施設の整備平面図(図- 10)およびイメージ図(図- 11)に示す。
〇コンセプト・機能
・「日常の暮らしがちょっとでも豊かになる公園」を目指し、地域の愛着を育む「みんなのまちに開かれた」カフェをつくる。
・地域住民の多様な活動を支えるため、カフェには地域コミュニティの集会や地域イベントなどに利用できるレンタルスペース機能を導入する。
・トイレは、ベビーチェアなどを備えた車いす対応の個室を整備する。
〇整備・運営内容
・カフェにウッドデッキと植栽帯を設置し、テラス周辺にベンチ・テーブルを配置することで、公園との一体感を出す。
・「まちのセレクトカフェ」をコンセプトに、登戸ならではのメニューを提供することで、地域の魅力を発進する。
・災害時には、カフェを地域の防災活動を支える場所とする。
公園の名称は「登戸つくりと公園」に決定した。
「つくりと」とは、かつて宿場町として栄えた「津久井道」と、「登戸」を掛け合わせ、登戸が職人のまちとして発展してきたことや、未来に向けて歴史をつくる場として、みんなで創り育てるという思いが込められている。
公募対象公園施設の整備に先立って、令和7(2025)年3月、公園の一部がオープンした(写真- 10)。
これからも、地域の賑わいや交流の場として地域の輪が広がっていくことを目指し、事業者、地域住民、行政の連携により快適な緑空間の創出に取り組みたい。
6. まとめ
ここまで、川崎市のPark-PFI制度を活用した公園緑地などの導入実績について紹介したが、いずれも地域課題の解決に向けて何とかしよう、と地元を愛する事業者と行政職員の強い意志が働いたことで、比較的小規模な公園でも導入につながったと考える。
事業者との対話(サウンディング調査など)を通して公募設置等指針を作成する上で重要だと感じるのは、ヒト・モノ・カネの全てを事業者に委ねるのではなく、公園使用料の配慮や整備費用の一部行政負担など、行政として対応可能な条件を丁寧に伝えることである。
また、公募条件を作成する際は、事業者の全体事業の収支バランスを考慮し、必須要素と選択要素を的確に使い分けて公募内容に盛り込む工夫が求められる。
事業者と行政の双方が歩み寄り、事業目標の達成に向けてベクトルを合わせることが大切である。
引き続きPark-PFI制度を活用し、公民連携でみどりを介したグリーンコミュニティを育て、まちの価値向上や地域のWell-Beingにつなげていく意識を大切にしながら、魅力ある公園づくりに取り組んでいきたい。
【出典】
積算資料公表価格版2025年8月号

最終更新日:2025-07-22
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