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1.はじめに

地震時の地盤の液状化が耐震設計に考慮されるようになってから既に40年程度経ってきている。
したがって、全ての構造物で液状化を考慮して設計されているかというと、その逆である。
2011年東日本大震災では多くの戸建て住宅や河川堤防などが甚大な被害を受けたが、
これらは液状化を考慮した設計は行われてきていなかった。
新設構造物に比べて既設の構造物に液状化対策を施すのは一般に困難を伴う。
それでも地盤改良技術が進歩し、
新しい考えの対策方法も出されて既設構造物の対策も最近積極的に行われるようになってきたので、以下に現状を述べてみたい。
ただし、構造物の種類によって対策の考え方などが異なるので、ここでは戸建て住宅、河川堤防、道路に対象を絞る。
 
 

2.既設構造物の液状化が必要になっているケース

まず、既設構造物において新たに液状化対策工事が必要になっているケースを挙げると、
①液状化を考慮せずに造られていたため、
②液状化を考慮して設計されていたが設計時に比べて設計地震動が最近大きくなったため、
などがあるであろう。
戸建て住宅や河川堤防、道路盛土は最近まで液状化を考慮せずに造られてきているため①に該当する。
他にも小規模な構造物では①に該当するものが多くあると考えられる。
②のように設計地震動が大きくなった例としては、1995年阪神・淡路大震災を受けて考慮し始めたレベル2地震動や、
最近大きく取り上げられるようになってきた南海トラフの巨大地震による震動が挙げられる。
南海トラフの巨大地震の影響に関しては九州から四国、近畿、東海にかけての太平洋沿岸だけでなく、
関西から中国、九州の瀬戸内海沿岸にまで及ぶ可能性もあり、広い範囲で液状化対策が必要となっている。
 
 

3.液状化対策技術の種類

液状化による被害が広く認識される契機となった1964年以降、
液状化の発生や液状化による構造物の被害を防ぐ技術は数多く開発されてきた。
まず開発されたのは地盤を締め固める方法(密度増大方法)で、その後、地盤にセメントを混ぜて固める方法(固化方法)など、
液状化の発生を防ぐ工法が表-1に示すように続々と開発されてきた。
ただし、これらは主に新設の大型構造物を対象にしており、更地の地盤を大型の機械で改良した後、構造物を建設する方法であった。
一方、地盤が液状化しても構造物が被害を受けないようにする方法として、杭基礎で支える工法なども開発されてきた。
 

表-1 液状化の発生を防ぐ方法の種類と代表的な工法

表-1 液状化の発生を防ぐ方法の種類と代表的な工法


 
ところが、これらの方法は既設の構造物直下の地盤には適用しにくい。
また、新設の場合でも狭隘地では大型の機械は使えない。
そこで、これらの場合にでも適用できる特殊な技術として表-2に示すような技術が開発されてきた。
 
表-2 構造物直下や狭隘な場所にも適用できる特殊な技術

表-2 構造物直下や狭隘な場所にも適用できる特殊な技術


 
圧入締固め工法ではモルタルや流動性を良くした砂を高い圧力で押し込みそろばん玉状に膨れさせ、
その圧力で周囲の地盤を締め固める。
高圧噴射撹拌工法ではセメント系改良材を高い圧力で地盤内に噴射して土と混合して部分的に固結させる。
浸透固化処理工法では逆に低い圧力で薬液を水平方向にゆっくり浸透させ固結させる。
いずれも小型の機械で小口径の孔を掘り、その中から地盤を改良する方法であり、狭い所で施工ができるし、
また、構造物の床から孔を開けて構造物の直下に施工することもできる。
さらに、構造物の外側から斜めに施工したり、構造物の下に向けて曲がった孔を掘ったりして施工することもできる。
これらの工法は東日本大震災前からタンク、中層建物、滑走路、岸壁などの既設構造物で用いられてきていた。
このように既設構造物に適用できる技術も開発されているが、
表-1の大型の機械で施工する締固めや固化の工法に比べて費用が高くつく。
 
 

4.既設の戸建て住宅に対する対策方法

東日本大震災では液状化により約27,000の戸建て住宅が被害を受けたため、地震後に対策方法の開発が急遽行われてきた。
ある地区全体を対策する「市街地液状化対策事業」も国土交通省により創設され、実際に対策工事が進められている。
また、液状化によって戸建て住宅が受ける被害は震動によって受ける被害と異なり、
地盤内へのめり込み沈下と傾斜であることもこの地震で広く認識されるようになった。
傾いた家の中で住んでいると健康障害が発生するため傾斜角が特に大切なことが認識され、
沈下量と傾斜角で被災度が判定されるようになった。
したがって、対策を行う場合にもめり込み沈下量と傾斜角を許容値内に収める性能設計が行われるようになってきた。
 
さて、地盤工学会関東支部ではこの地震を受けて研究委員会を立ち上げ、戸建て住宅に可能な対策の検討を行ってきた1)
そこで検討されたうち、既設の戸建て住宅に適用でき、実績も出てきた方法を図-1に示す。
 

図-1 既設の戸建て住宅に適用できる対策方法例

図-1 既設の戸建て住宅に適用できる対策方法例


 
既設といえども基礎の下に穴を掘り短い杭を継ぎ足しながら圧入していく方法は以前から沈下した家の修正に使われており、
東日本大震災後の復旧にも使われた。
杭が支持層まで打設されていると液状化しても沈下しない。
ただし、周囲地盤が液状化して沈下すると段差ができるのでライフラインが被害を受けないようにする必要がある。
同様のメカニズムのものとして、高圧噴射撹拌によって杭状のものを基礎の下に設けることも行われた。
これに対し、建物の下を盤状にある厚さだけ締め固めたり固化したりすると、
その下部の層が液状化してもめり込み沈下量は軽減できる。
沈下量を許容値に収めるために必要な改良厚さに関して遠心載荷実験や解析が行われた結果、
3〜4mの厚さがあればよいことが分かってきている。
ただし、盤状に均一に改良することが条件である。
 
この他、建物の基礎周囲に矢板を打設し基礎と接合する矢板締切り工法も適用され始めた。
液状化層が厚い場合には、安価に留めるために液状化層の中間で止めることが検討されている2)
この効果を液状化によるせん断剛性低下を考慮した残留変形解析で検討してみた例が図-2である。
 
図-2 矢板締切り工法における地盤内の土の動きの解析例

図-2 矢板締切り工法における地盤内の土の動きの解析例


 
この変形図に見られるように、矢板で囲まれた中の土は液状化しても外側に押し出されず、
その下部の土だけ押し出されて家屋が沈下するだけなので、沈下量が軽減できるメカニズムとなっている。
このモデルでは、めり込み沈下量が無対策の場合に12.2cmであるのに対し、
図-2のように矢板を設けると1.7cmに軽減される解析結果となっている。
 
一方、多くの建物が建ったままで地区全体を液状化対策する市街地液状化対策事業では、図-3に示すように、
道路や下水道の公共施設は公的資金で、宅地内は住民で負担し、一体化して液状化対策をとる方式になっている3)
 
図-3 地区全体の対策をとる市街地液状化対策事業での考え方

図-3 地区全体の対策をとる市街地液状化対策事業での考え方


 
具体的な工法としては地下水位低下工法と格子状改良工法が挙げられ、
東日本大震災で被災した12の都市で可能性の検討が行われてきた。
地下水位低下工法に対しては、実証実験や解析を基に以下のようないくつか新しい知見が出てきた。
 
①深さ3m程度まで地下水位を下げておくと戸建て住宅の被害は生じないようである。
②地下水位を下げる方法として排水溝を設置する方法と浅井戸を設置する方法が可能であり、
 排水溝の場合40m程度の間隔の道路に設置するだけでその間の宅地の水位も下がる。
③液状化しやすい砂層の下部に軟弱な粘土層が堆積していても、
 深さ3m程度まで地下水位を下げただけでは圧密による地盤沈下はあまり生じない。
④地下水が降雨によって供給される場合には、水位低下を保持するために必要な排水量は降雨量の半分程度と多くない。
 
このような検討結果をもとに、現在、潮来市と神栖市で写真-1に示すように地下水位低下の工事が始まり、
他の数都市でも地下水位低下によって工事が始められる予定となっている。
 
写真-1 市街地液状化対策事業として神栖市で実施されている地下水位低下工事

写真-1 市街地液状化対策事業として神栖市で実施されている地下水位低下工事


 
なお、この事業は東日本大震災の復興事業として行われているが、予防として全国に適用できる仕組みもつくられている。
住宅地だけでなくコンビナートに適用していくと敷地内の多くの小規模構造物に一気に液状化対策を施せるようになるので、
積極的に取り入れていくと良いと考えられる。
 
 

5.既設の河川堤防に対する対策方法

河川堤防はほとんど耐震性の検討を行わずに造られてきているので大地震のたびに被害を生じてきている。
東日本大震災でも東北地方と関東地方で直轄区間だけで約2,100カ所で被災した。
関東地方では大規模に被災した55箇所のうち51カ所は液状化による被害であった。
その中には基礎地盤が液状化したケースの他に、堤体が液状化したケース、基礎地盤と堤体の両方が液状化したケースがあった。
 
さて、河川堤防では阪神・淡路大震災の後から耐震点検が行われるようになってきた。
この場合、地震時の堤防の沈下量をまず推定し、堤防高が照査用外水位より低い場合には越水する危険性があると判断される。
そこで、対策としては堤防の沈下量を減らすような方法をとる必要がある。
既設の堤防に対する具体的な方法としては図-4に示すような方法が挙げられ、実際に対策工事も始められている。
基礎地盤が液状化すると堤防は外側に流れ出すように拡がりそれに伴って堤防が沈下するので、
その動きをくい止めるように法尻付近を地盤改良したり矢板を打ったりすると良い。
 

図-4 既設の河川堤防に適用できる液状化対策方法

図-4 既設の河川堤防に適用できる液状化対策方法


 
一方、堤体が液状化する場合には法尻付近が外に膨れ出しそれに伴って天端が陥没する。
これに対しては法尻付近の地盤を改良しても意味なく、ドレーン工で地下水位を下げるといった対策の方が有効となる。
これらの対策工の設計にあたっては地盤改良の位置や幅・深さ、矢板の位置・根入れ長、
ドレーン工の長さなどを適切に評価する必要がある。
図-5(1)に示す基礎地盤が液状化するモデル断面に対し図-5(2)〜(4)のように締固め位置と幅を変えて、
残留変形解析で堤防の沈下量を試算してみた結果4)図-5(5)に示す。
 
図-5 地盤改良範囲が堤防の沈下量に与える影響の解析例

図-5 地盤改良範囲が堤防の沈下量に与える影響の解析例


 
同じ幅を改良しても法尻付近の下を改良するよりは堤防直下を改良した方が、沈下量が小さくなる結果となっている。
ただし、既設の河川堤防の場合、堤体を傷つけて浸透しやすくすることがないようにする必要がある。
 
 

6.既設の河川堤防に対する対策方法

道路構造物のうち橋梁に関しては1972年から液状化を考慮した設計が行われてきている。
それでも液状化に対して補強をしないといけない橋脚に対しては図-6(1)〜(3)に示すように、
増し杭やマイクロパイル、杭周辺の地盤改良などで対策が施されてきた5)
 

図-6 既設の道路橋に対する液状化対策実施例の模式図

図-6 既設の道路橋に対する液状化対策実施例の模式図


 
液状化すると鉛直支持力と水平支持力が同時に低下するが、
先端支持杭の場合は一般に水平方向の支持力しか問題にならないので、これを増すような対策が施されてきた。
さらに、護岸の近傍の橋脚では護岸倒壊にともなう背後地盤の流動によって橋脚が押されるため、
図-7に示すように護岸と橋脚の間に鋼管矢板を打設して橋脚の杭基礎の変形を小さくする対策も行われている。
 
図-7 護岸背後地盤の流動に対する対策実施例の模式図

図-7 護岸背後地盤の流動に対する対策実施例の模式図


 
道路盛土に関しては従来耐震設計を行ってこなかった。
液状化による被害はあまり目立たないが、1983年日本海中部地震では液状化によって能代で国道が被災した。
一方、平面道路は地震のたびに液状化によって被害を受けてきている。
東日本大震災では多量の噴砂、波うち、段差、陥没による交通障害に加え、
写真-2に示すような突き上げによる特異な交通障害も多く発生した。
 
写真-2 東日本大震災時に発生した道路の特異な突き上げ被害(浦安市内)

写真-2 東日本大震災時に発生した道路の特異な突き上げ被害(浦安市内)


 
東日本大震災の復旧にあたって幹線道路に関しては3m程度の深さまで固化する対策を施すことも行われたが、
生活道路では前述した地区全体で対策を施す以外には対策されてきていない。
 
 

7.あとがき

戸建て住宅、河川堤防、道路を対象にし、既設構造物の液状化対策の現状を述べてみた。
液状化させないようにするだけでなく、液状化しても重大な被害が発生しないようにすれば良いので、
ここに示した例だけでなく種々の方法の可能性がある。
今後新しい方法が開発されることが望まれる。
 
 
 

参考文献

1)地盤工学会関東支部:造成宅地の耐震対策に関する研究委員会報告書−液状化から戸建て住宅を守るための手引きー、209p.,2013.
2)安田進・金子雅文・石川敬祐・小泉卓也:薄鋼矢板による小規模構造物の液状化対策に与える設置位置の影響、第12回地盤工学会関東支部発表会、2015.(投稿中)
3)安田進:東日本大震災における住宅地の液状化対策工法の開発、地盤工学会誌、Vol.62、No.6、pp.1-5、2014.
4)原田健二・安田進・金丸功希:盛土を対象とした締固め工法による改良位置に関する液状化解析、第46回地盤工学研究発表会、pp.1773-1774、2011.
5)安田進:既設構造物のための液状化対策の考え方、基礎工、Vol.34、No.4、pp.5-7、2006.
 
 
 

筆者

東京電機大学理工学部教授 安田 進
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年11月号
特集 軟弱地盤対策
月刊 積算資料公表価格版2015年11月号
 
 

 

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