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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 海水を用いたコンクリートの性質と今後の展望

 

はじめに

「水の惑星」と呼ばれる地球には,約14億㎦もの膨大な量の水が存在する。そのうち,海水は97.5%を占め,最も豊富にある天然資源といえよう。一方,淡水は2.5%程度であり,そのまま利用可能な水は全水量の0.8%に過ぎないといわれている1)。言うまでもなく,水はコンクリートの製造において不可欠であるが,現行の基準類では,鉄筋コンクリート構造物への海水の使用は許容されておらず,世界中で毎年数十億m3もの貴重な淡水がコンクリートに使用されていると推定される。
 
わが国において,練混ぜ水として海水を使用した構造物の事例は,海岸堤防建設におけるプレパックドコンクリート工法の注入モルタルや,沖ノ鳥島の護岸工事における水中不分離性コンクリートなどの記録がある。また,昭和30年代に建設された離島の灯台では,真水の入手が困難なために,練混ぜ水として海水を使用したとする記録があり,60年経過した現在も供用されている2)。海水を使用したコンクリート構造物の事例は多数あるが,昭和50年代に除塩不足の海砂の使用による鋼材腐食による早期劣化が問題となり,構造物の耐久性確保の観点から,コンクリート中への塩化物の混入は厳しく制限されるようになった。
 
また,海水や海砂を用いたコンクリートの研究は,これまで,国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所などをはじめとして多くの機関で行われてきた3),4)。水資源の有効利用の他にも,災害時の緊急工事,離島の工事などにおいて,海水や未洗浄の海砂を使用することができれば,工期,コスト,地球環境の観点から大きな利点となると考えられることから,海水や海砂を用いたコンクリートに関する技術開発が2010年頃より再度進めれている5),6)。また,公益社団法人日本コンクリート工学会の「コンクリート分野における海水の有効利用に関する研究委員会」において学術的な検討がなされ,2014年に委員会報告書が出されている7)。
 
 
 

1. 海水を用いたコンクリートの性質

1-1 配合の特徴

海水を用いたコンクリートの配合の例を表-1に示す。練混ぜ水には天然の海水を使用し,結合材として,普通ポルトランドセメントの他に産業副産物である高炉スラグ微粉末やシリカフュームなどの混和材を使用している。石炭火力発電の副産物であるフライアッシュを結合材として使用することも可能である。混和剤には,AE減水剤あるいは高性能AE減水剤の他に,特殊混和剤(主成分:亜硝酸カルシウム)を使用している。また,細骨材には未洗浄の海砂を使用することも可能である。この場合,海水から約3kg/㎥の塩化物イオンが混入し,未洗浄の海砂を用いた場合は,さらに約1.5kg/㎥塩化物イオンが混入し,両者を用いた場合には,コンクリート中の総塩化物イオン量は4.5kg/㎥程度となる。
 

表-1 海水を使用したコンクリートの配合例



1-2 圧縮強度の増加

図-1に練混ぜ水として海水を用い,未洗浄の海砂に含まれる相当のNaClを添加し,総塩化物イオン量を4.5kg/㎥としたコンクリートの圧縮強度の推移を示す。海水を使用した場合は,水道水を使用した場合に比べて,材齢7日において約60%,材齢28日において約30%の強度が増加するが,材齢91日では大きな差異はなくなる。海水を用い特殊混和剤とシリカフュームを添加したものは,初期強度はさらに増加し,水道水を用いた場合に比べて,材齢7日では約2倍,材齢28日で約60%,材齢91日においても約20%の強度増加が認められた。また,フライアッシュをセメントの20~30%置換した場合においても,海水とともに特殊混和剤やシリカフュームを使用することにより,初期および長期強度が高まることが確認されている。
 
以上より,海水を練混ぜ水として使用し,高炉スラグ微粉末,フライアッシュ,シリカフュームなどの混和材と特殊混和剤を併用することにより,初期強度のみならず,長期的な強度も大きく増進させることが可能である8)。
 

図-1 圧縮強度の推移(高炉スラグ微粉末50%置換)



1-3 水密性の向上

写真-1に透水試験(水圧5MPa,48時間作用)の結果を示す。海水を使用した場合の水の浸透深さは,水道水を用いた場合に比べて極めて小さくなり,透水係数は特殊混和剤とシリカフュームを併用した場合には,水道水を使用した場合の約1/70に減少し,著しく水密性が向上する9)。
 

写真-1 透水試験結果




海水を使用したセメントペーストを用いた場合における高炉スラグ微粉末の反応率を図-2に示す。海水を使用した場合,水道水に比べて高炉スラグ微粉末の反応率が高くなり,特殊混和材を併用した場合には,さらに反応率は高くなった。また,海水を用いた場合は,水道水に比べて細孔径分布が小さい径の方へシフトすることも確認されており,海水の使用により,内部組織が緻密化するものと考えられる10)。
 

図-2 高炉スラグ微粉末の反応率
(サリチル酸ーアセトンーメタノール選択溶解法)



1-4 鉄筋の防食

写真-2に, 海水を用いたコンクリート中に普通鉄筋,エポキシ樹脂塗装鉄筋,炭素繊維ロッドを設置し,腐食促進試験(高温高圧と常温常圧の繰り返し)を行った結果を示す。33サイクル(海洋環境100年相当)終了後においては,普通鉄筋は全面的に腐食が発生したが,エポキシ樹脂塗装鉄筋,炭素繊維ロッドには,腐食や変質は認められなかった5)。
 
したがって,エポキシ樹脂塗装鉄筋などの防食鉄筋や炭素繊維ロッドを補強材として使用することにより,鉄筋コンクリート構造物にも海水や未洗浄の海砂を使用したコンクリートを適用できる可能性があると考えられる。
 

写真-2 補強材の腐食促進試験結果




 

2. 海水を用いたコンクリートの適用事例

東日本大震災で発生した大量のコンクリートがらの処理と有効利用を目的とした実証試験として,震災コンクリートがらと海水を使用した港湾用ブロックの製造が行われた(福島県相馬港の港湾復興工事)。コンクリートがらの処理コストを抑えるため,がらは極力破砕せずに使用することが望まれていることから,寸法300~500mmの大割りのがらを粗骨材として利用するプレパックドコンクリート工法を適用し,大型消波ブロック(25トン型)を作製した事例を紹介する。
 
写真-3に示すように,震災がらを鋼製型枠に
詰めた後,海水を用いた注入モルタルを充填する。注入モルタルには,寒冷地の冬期における早期強度発現の増大を目的として,練混ぜ水に海水を用いた。また,収縮ひび割れ抑止のために膨張材を使用してブリーディングを抑制し,震災がらと注入モルタルの界面の付着性向上のためにアルミニウム粉末を使用した。
 

写真-3 震災コンクリートがらと海水を使用した消波ブロック




脱型後の消波ブロックと同様な方法で作成した試験体より採取したコアの状態(写真-3(d))から,震災がらの間隙に空隙の発生は無く,密実なコンクリートが製造されていることを確認した。
 
また,図-3に示すように,海水を使用したプレパックドコンクリートから採取したコアの圧縮強度は,真水を使用した場合に比べて,材齢7日で1.4倍,材齢28日で1.2倍に増加することが認められた11)。
 
このように,注入モルタルの練混ぜ水に海水を使用することで,寒冷地での早期強度発現による脱型時期の短縮,長期的な強度増進など,さまざまな品質向上効果があり,工期短縮や耐久性の向上,コストダウンなどが期待できる。
 

図-3 プレパックドコンクリートから採取したコアの圧縮強度




 

3. 海水を用いたコンクリートの今後の展望

海水を使用したコンクリートの使用は,地球規模の水資源の有効利用の観点から,極めて有効な技術と考えられる。加えて,産業副産物である高炉スラグ微粉末,フライアッシュ,シリカフュームなどの混和材と亜硝酸カルシウムを主成分とする特殊混和剤とを併用することにより,内部組織が緻密化し,圧縮強度の増大や水密性の向上などの性能が向上する効果も期待できる。
 
鉄筋コンクリート構造物への適用については,樹脂被覆鉄筋やステンレス鉄筋などの防食鉄筋や非腐食性補強材を用いることにより,構造物としての耐久性を確保することができ,それらへの適用が可能と考えられる。
 
具体的な適用範囲としては,真水の入手が困難な遠隔離島での工事,地震や水害など災害時の工事など,災害復旧や国土保全に大いに貢献できると思われる。また,近年,中東や東南アジアなどの淡水が貴重な諸外国においても海水を用いたコンクリートは注目されており,日本発のインフラ建設技術としての展開も期待されている。
 
このようなことから,今後,海水を用いたコンクリートの適用を拡大できれば,貴重な水資源の有効利用,産業副産物の活用促進,構造物の長寿命化などの多数の側面から,持続可能な社会形成に寄与できる可能性があると思われる。
 
 
 

おわりに

海水を用いたコンクリートの工事適用の事例は未だ少ないが,普及を進めるためには,長期的な検証実験や小規模な構造物からの適用を図っていく必要があると思われる。また,今後,適用するための留意点などを記したガイドラインや設計施工指針などを整備する必要もあると思われる。
 
世界の水不足が懸念される中,近い将来,海水が水資源として有効に利用されることを大いに期待したい。
 
 
参考文献
1) I.A.Shiklomanovet al,“ World Water Resources at theBeginning of the 21st Century”,p.13,CambridgeUniversity Press,2003
 
2) 高炉セメント施工例(土木,接水構造物), 八幡化学株式会社技術資料, pp.81-85, 1963
 
3) 森好生・大即信明・下沢治:海洋環境における海水練りコンクリートの10年試験,セメント技術年報35,pp.341~344,1981.1
 
4) 福手勤・山本邦夫・濱田秀則:海水を練り混ぜ水とした海洋コンクリートの耐久性に関する研究,港湾技術研究所報告,第29巻,第3号,pp.57~89,1990.9
 
5) 竹田宣典,大即信明:海水・海砂を使用したコンクリートの開発-地球環境保全と品質向上を目指して,セメント・コンクリートNo.784,Jun,pp.24~30,2012.6
 
6) 酒井貴洋,山路徹,清宮理:海水および海砂を用いた自己充填型コンクリートの実用化に関する基礎的研究,土木学会論文集E2,vol.72,No.3,pp.196~213,2016
 
7) コンクリート分野における海水の有効利用に関する研究委員会報告書, 日本コンクリート工学会,2014.9
 
8) 竹田宣典,石関嘉一,青木茂,入矢桂史郎:海水および海砂を使用したコンクリート(人工岩塩層)の開発,コンクート工学,Vol.49,No.12,pp.17~22,2011.12
 
9) 青木茂,竹田宣典,石関嘉一:「人工岩塩層」の開発―海水練り・海砂コンクリート,建設物価,pp.16~20,2011.9
 
10) 片野啓三郎,竹田宣典,小林久美子,大即信明:海水を使用したセメント硬化体の強度および内部組織に関する研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.35,No.1,pp.2017-2021,2013
 
11) 竹田宣典,片野啓三郎,久田真,大即信明:震災で発生したコンクリートがらと海水を使用した港湾用ブロックの製造,コンクリート工学年次論文集,Vol.36,No.1,pp.1534-1539,2014

 
 
 

広島工業大学 大学院工学系研究科 教授  竹田 宣典

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年9月号


 

最終更新日:2023-07-07

 

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