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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2020年 建設産業の動向 建設業の働き方や現場の在り方が一変

 

建設業を取り巻く概況

2020年は,世界中で猛威を奮う新型コロナウイルスの出現により建設業界にとっても異例ずくめの1年となった。感染拡大が続く中,安倍晋三前首相は4月7日に緊急事態宣言を発出。国民に不要・不急の外出の自粛や休業などを要請し,事態の収束を図った。緊急事態宣言下であっても,河川や道路などの公物管理や公共工事といった安全・安心に必要な社会基盤に関する事業者は,最低限の事業継続を求められる「エッセンシャルワーカー」に位置付けられた。国民の生活や経済を支える建設業の重要性が改めて浮き彫りとなった。
 
新型コロナの影響で,テレワークなどの新しい働き方が広がり,建設業の働き方や現場のあり方も一変した。3密(密閉・密集・密接)回避対策やICT(情報通信技術)を活用し,提出書類や立会検査の削減,監督検査時の遠隔臨場などが一気に進んだ。政策面でも,国土交通省がインフラ分野でデータやデジタル化技術の活用を加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた検討を本格化させている。
 
建設業界の持続的発展の鍵を握る担い手の確保・育成も取り組みが前進。働き方改革や生産性向上などに関する新制度を盛り込んだ改正建設業法が10月に施行。昨年4月にスタートした建設キャリアアップシステム(以下,CCUS)は,システムを維持・浸透させるため,同月から新料金で仕切り直した。外国人材に即戦力として活躍してもらう「特定技能外国人」制度は新型コロナの影響による入国制限のあおりを受けたものの,今夏に国内で初の試験を実施したほか,年度内に現地試験を開催する予定だ。
 
近年,大規模な自然災害の発生は枚挙にいとまがない。今年も7月に豪雨が発生し,球磨川(熊本県球磨村)の決壊による浸水被害など,九州地方などに大きな爪痕を残した。急激に進む気候変動の影響で自然災害が激甚・頻発化する中で,災害に強い国土づくりは大命題となる。ただ,18年(平成30年)7月豪雨を契機に打ち出された「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」(18~20年度)は本年度が最終年で,今後の予算措置の行方が注目されている。
 
 

建設業の働き方改革や現場の生産性向上を加速

建設業の働き方改革や生産性向上を柱とする改正建設業法が10月1日に施行された。「工期」の概念を導入するなど,公共工事入札で経営事項審査(経審)を義務化した94年以来の大幅改正となった。71年に採用した許可制度の許可要件も初めて見直された。改正建設業法では,①許可基準の見直し,②許可を受けた地位の継承,③著しく短い工期の禁止,④下請代金の支払い方法,⑤監理技術者の専任義務の緩和,⑥主任技術者の配置義務の見直し,⑦建設資材製造者などに対する勧告や命令─を規定した。
 
このうち,著しく短い工期を判断する重要な要素の一つとなるのが,中央建設業審議会(中建審,柳正憲会長)が作成・実施勧告した「工期に関する基準」だ。発注者,受注者,元請負人,下請負人を問わず,基準を踏まえ適正な工期による請負契約の締結を促進。違反した場合,国土交通大臣などが工事発注者に対しても勧告を行うことができると明記された。改正労働基準法に基づく罰則付きの時間外労働の上限規制が,24年4月1日から建設業に適用される。上限規制を上回る違法な時間外労働時間を前提として設定される工期が,元請負人(発注者)と下請負人(受注者)の間で合意している場合でも著しく短い工期と判断する(図-1)。
 
このほか,改正建設業法では「元請の監理技術者を補佐する制度」を創設した。補佐する者を専任で置いた場合,監理技術者(特例監理技術者)に2現場の兼務を認める。また,建設業者の社会保険加入が建設業許可・更新の要件となった。企業単位での社会保険加入の確認が厳格化。法改正で施工体制台帳に社会保険の加入状況などを記載することが必要となり,実質的に作業員名簿の作成を義務化。技能者単位での加入確認が徹底されることになった。
 
このように,改正建設業法の施行により建設工事や建設業に関するルールが大きく変わった。業界を挙げて,働き方改革,生産性向上,処遇改善を一体で進め,担い手を確保し持続可能な産業への変革を実現していく。
 

図-1 2024年度からは,受発注者双方が上限規制を上回る違法な時間外労働時間を前提とする工期設定を合意していても,著し短い工期と判断する】




 

業界共通の制度インフラ実現へ仕切り直し

昨年4月に始動した建設技能者一人一人の就業履歴や保有資格などを業界統一ルールで蓄積するCCUSは,10月に料金を改定し運営方法も変更。「業界共通の制度インフラ」として定着させるため,持続可能なシステム構築への再スタートを切った。
 
CCUSは,技能者の能力を適切に評価し,処遇改善につなげていく試みだ。19年4月に本運用が始まり,20年9月末時点で技能者登録数36万6,653人,事業者登録数6万8,566社に達した。
 
CCUS運営主体の(一財)建設業振興基金(振興基金)は10月1日に料金を改定(技能者登録料は据え置き)した。事業者登録料は現行の2倍,現場利用料は3円を10円に増額。IDの年間利用料は2,400円を1万1,400円に値上げした。料金改定と併せて運営方法も変更。コスト削減に向け申請と問い合わせをインターネットに一元化した。
 
CCUSを活用して,建設技能者の賃金上昇の好循環や生産性向上などにつなげる「官民施策パッケージ」に基づき,国・地方自治体,業界団体,建設会社で普及に向けた取り組みを推進している。同パッケージでは,23年度から全ての工事でCCUSの登録を義務付けるため,①建設業退職金共済(建退共)のCCUS活用への完全移行,②社会保険加入確認のCCUS活用の原則化,③国直轄での義務化モデル工事実施等,公共工事等での先行活用を柱に据えている。
 
国直轄のモデル工事も着実に数を伸ばしているほか,地方自治体でも国の要請を受け,CCUSの活用を公共発注の企業評価に加えるなどインセンティブ措置を講じる動きが進む。ただ,すでに導入している自治体からは,元請が小規模な建設会社の場合,メリットが見えにくいため導入が困難との懸念もある。民間工事での普及促進には,こうした利点を根気強くアピールしていく必要がある(写真-1)。
 

写真-1 入退場時にカードリーダーでカードを読み取り就業履歴を蓄積する】 写真提供:一般財団法人建設業振興基金




 

特定技能外国人

今年で2年目に入った改正出入国管理法(入管法)に基づく新在留資格「特定技能外国人」制度は,建設分野で着実に裾野を広げている。オンライン申請の導入や対象職種の拡大などで受け入れ計画の認定数が増加。今夏に国内初の技能試験も実施した。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の影響で延期していた海外現地試験も20年度内の実施を目指し準備している。
 
19年4月の制度創設以来,建設分野で518社・1,189人(8月末時点)が認定された。全員が試験を免除される技能実習と建設就労からの移行者だ。うち20年度(4~8月)の認定数は286社・685人。5カ月だけで19年度の認定数(232社・504人)をすでに上回っている。認定が増えた主因は申請手続きの簡便化と受け皿の拡大だ。手続き面では,4月にオンライン申請をスタートし,申請先や審査主体も国土交通省の本省から各地方整備局に変更した。これにより,書類作成の簡素化や審査の効率化につながった。もう一つの要因は対象職種の拡大。20年に,①とび,②建築大工,③建築板金,④配管,⑤保温保冷,⑥吹付ウレタン断熱,⑦海洋土木工─の職種を追加し,対象職種が全18職種となった。
 
19年度に実施予定であったベトナムとフィリピンでの現地試験が,現地の準備不足や新型コロナによる都市封鎖などで延期となった。この代替措置として,(一社)建設技能人材機構(JAC,才賀清二郎理事長)は8月に「鉄筋継ぎ手」,9月に「土工」を対象に国内初の特定技能1号評価試験を実施した。鉄筋継ぎ手で32人,土工は19人が合格。現地試験もようやく道筋がついた。費用などのガイドラインや現地の送り出し機関との契約など準備が整いつつあり,年度内にも技能試験を実施する見込みだ(写真-2)。
 

写真-2 国内で実施した鉄筋継ぎ手の技能試験では鉄筋加工などの実技を披露した(8月28日,静岡県富士宮市・富士教育訓練センター)】




 

今年も激甚な水災害が発生

20年(令和2年)7月豪雨は,記録的な降雨により各地に大きな被害をもたらした。特に熊本県南部では球磨川流域を中心に河川の氾濫や土砂崩れが発生。大規模な浸水に加え,橋の流失や道路の崩壊といったインフラ関連の甚大な被害も出た。球磨村ではJR肥薩線の渡駅周辺で浸水被害が発生。駅舎内は天井が剥がれ落ち,線路は路盤が流出しレールが宙に浮き大きく湾曲した(写真-3)。橋桁などの一部が流出した主要地方道である人吉水俣線の「西瀬橋」(人吉市相良町)では九州地方整備局が権限代行で災害復旧事業を進め,9月には仮橋の設置が完了し通行を再開した(写真-4)。6月に閉会した通常国会で成立した改正道路法による権限代行制度の初弾案件となった。
 

写真-3 路盤が流出した肥薩線の線路(熊本県球磨村渡)】

写真-4 橋桁の一部が流失した西瀬橋(熊本県人吉市相良町)】


政府はこの7月豪雨の被害に対応するため,被災者の生活再建や応急復旧などを支援する対策パッケージを8月に決定した。河川や道路の復旧,中小・小規模事業者支援などを緊急性の高い施策に位置付け,20年度予算の予備費から1,017億円を充てた。さらなる財源確保に向け9月に予備費315億円の追加支出を決めた。
 
決壊により,甚大な浸水被害を引き起こした球磨川。過去をさかのぼると,球磨川水系では川辺川ダムの建設計画があったが蒲島郁夫・熊本県知事が08年にこれを白紙撤回し,09年に建設中止が決定。今回の豪雨被害を受けて「川辺川ダムがあれば被害を軽減できたかもしれない」との声も少なくない。そのため,九州地方整備局と熊本県,球磨川流域12市町村は「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」を発足。豪雨の被害状況やこれまで検討・実施してきた治水対策,仮に川辺川ダムがあった場合の効果などの検証を8月に開始した(写真-5)。蒲島知事は,同委員会で示された川辺川ダムによる被害軽減効果の想定などを踏まえ,同水系の治水対策検討時にダム整備も選択肢に入れる考えを表明した。
 

写真-5 令和2年7月球磨川豪雨検証委員会の初会合(8月25日,熊本市内)】




国土交通省は7月,赤羽一嘉・国土交通大臣主導の「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」を決定した。防災・減災が主流となる社会の実現を目指し,あらゆる関係者が連携して取り組む「流域治水」への転換など10の主要施策を確立。部局や分野に横串を刺し,事前防災から復旧復興まで全ての時間軸を網羅する総合的で抜本的な対策を立案した。このプロジェクトの下,年々,被害規模が大きくなっている自然災害に総力戦で対応する。「流域治水」への転換では,これまで河川管理者が講じてきた治水対策を,管理者だけでなく自治体や企業,住民など関係者が一体となり主体的に取り組む社会の構築を目指す。具体化に向け,河川関連法制の改正など必要な措置を速やかに実施する。
 
 

20年度の建設投資見通しは6年ぶり減少

国土交通省は,20年度の建設投資が前年度を3.4%下回る63兆1,600億円になるとの見通しを発表した。内訳は政府建設投資が25兆6,200億円(前年度比3.1%増),民間建設投資が37 兆5,400億円(同7.3%減)。民間建設投資の落ち込みが響き6年ぶりに減少へ転じた。建築補修(改装・改修)投資額を計上するようになった15 年度以降で3番目の水準となる(図-2)。
 

図-2 建設投資額(名目値)の推移】




では,21年度の建設投資は一体どうなるのか。国土交通省の同年度予算概算要求をみると,一般会計の国費総額は前年度と比べ0.5%増の5兆9,617億円。うち公共事業関係費は0.01%増の5兆2,579億円を要求した。財務相が7月に示した方針で,要求額は基本的に20年度当初予算(臨時・特別の措置を除く通常分)と同額とし,緊要な経費を別途要望(事項要求)するとした。そのため,国土交通省は現時点で積算できた緊要な経費として,非公共事業に523億円を計上。要求額が確定していない緊要な経費は①「防災・減災,国土強靱化3か年緊急対策」(18~20年度)後の激甚化・頻発化する自然災害への対応,②新型コロナウイルス感染症やその影響への対応として行う公共事業,③今後の経済情勢を踏まえた住宅対策,④整備新幹線の着実な整備─などの事項を要求した。
 
インフラ分野は防災・減災対策や老朽化対策を含めた強靱な国土づくり,高速道路網の拡充など喫緊に対応が必要な事業が目白押しだ。新型コロナの影響で経済が冷え込み,民間の建設投資が落ち込むことは確実で,公共投資による下支えが不可欠となる。21年度予算概算要求のうち,事項要求の計上額は予算編成の過程で固まるため現時点では不透明だ。しかし,建設業が今後も持続的に発展し,災害時の応急復旧などで「地域の守り手」として活躍し続けるためには,安定的・継続的な公共事業費の確保が重要であるのは言うまでもない。3か年緊急対策の初年度(18年度)は年度途中にスタートしたため補正予算で手当てしたが,19,20年度は当初予算に強靱化対策を含む「臨時・特別の措置」として7,000~8,000億円台を計上した。臨時・特別の措置が当初予算の公共事業費を積み増し,計画的な事業執行にもつながった。今後も公共事業量を安定的に確保し,事業を円滑に執行していくためには,21年度以降の防災・減災対策や国土強靱化対策の事業費も当初予算での措置が不可欠だろう。
 
 


編注:「令和2年度建設投資見通し」は,前文16〜21に掲載。
 
 
 

株式会社 日刊建設工業新聞社  沖田 茉央(おきた まお)

 
 
【出典】


積算資料2020年12月号



 
 

最終更新日:2021-03-29

 

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