建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 土木施工単価 > 下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)による技術開発と普及促進

 

1.はじめに(プロジェクトの背景と目的)

下水道,集落排水施設,浄化槽等による汚水処理人口普及率は,平成30年度末現在で全国平均91.4%に達した。農林水産省や環境省とともに概成に向けた施設整備を推進する一方で,下水道施設の老朽化が喫緊の課題となっている。全国で約2,200箇所ある下水処理場の内,機械・電気設備の一般的な標準耐用年数である15年を経過しているところは約1,800箇所に上る。全国に約47万km敷設されている下水道管渠においては,標準耐用年数は50年と比較的長いものの,50年を経過した管渠の延長は現在の1.7万kmから10年後には6.3万km,20年後には15万kmと加速度的に増加することが予想されている。
 
また,下水道に携わる職員数の減少も著しく,平成9年をピークに現在は約6割の水準にまで縮小している。さらに近年は,地方公務員の減少を上回るスピードで下水道担当職員が減ってきており,全国の約半数の市町村で下水道担当職員が5人以下という脆弱な執行体制は,今後の下水道経営の持続性を担保する上で大きな懸念材料となっている。
 
このほかにも,頻発している集中豪雨による浸水対策,経営改善に向けた広域化・共同化の推進,施設の省エネ化や資源・エネルギーの有効利用による循環型社会の構築と地球温暖化対策など,下水道管理者は様々な課題を抱えている。
 
このような課題解決に向けて,限られた人員や予算で今後ますます複雑化する下水道経営に対応するため,より一層の業務・作業の効率化が求められる。そのひとつの解決策として新技術の開発・普及が極めて重要であるが,社会インフラとして信頼性の高い下水道を維持するという観点から,下水道事業者は実績の少ない新技術の採用に対して慎重になるため,有効な新技術の普及が速やかに進まないことがある。そこで,国が主体となって技術的な検証とガイドライン作成を行い,新技術の全国展開を図っていくことを目的として,平成23年度より「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」を実施してきた。
 
 
 

2.  国土交通省による下水道革新的技術実証事業

B-DASHプロジェクトは,実規模レベルの施設を建設して実証試験を行う「実規模実証」と,実規模レベルの前段階にある技術を対象として,パイロット実験規模で導入効果を含めた普及可能性の検討や技術性能の確認等を行う「FS調査(平成29年度に「予備調査」から改称)」に分類される。
 
また,若手研究者に対して,研究段階にある技術の開発を支援する「GAIAプロジェクト」も平成26年度より実施しており,全国の大学等が有する先端技術や地域産業に貢献する多様な技術に対して支援してきた。平成30年度までに30件の技術研究開発を採択している。なお,令和元年度以降は新規採択を行っていない。
 
さらに平成29年度には,B-DASHプロジェクトとGAIAプロジェクトの中間に位置する技術開発支援として,開発段階にある技術を対象とした「下水道応用研究」を新たに立ち上げた。下水道応用研究では,大学等によるラボレベルの研究を終え,企業等による応用化に向けた開発段階にある研究に対し,技術の発展に向けた支援を実施することを目的としており,これまでに13件の研究を採択している。
 
これらの整備により,国土交通省の技術開発は,B-DASH(実規模,FS)を中心に応用研究やGAIAを活用し,研究段階から実証まで効果的かつ戦略的に実施している(図−1,2)。
 

図−1  下水道革新的技術実証事業
    (B-DASH プロジェクト)の概要


 

図−2 下水道技術開発支援の全体像




 

3. 実証技術と導入実績

国土交通省では,「新下水道ビジョン(平成26年7月)」で示された長期ビジョンや中期目標の達成に向け,これに必要な技術開発の方向性や目標を設定した「下水道技術ビジョン」を平成27年12月に取りまとめ,公表している。下水道技術ビジョンには,技術目標の達成に至るまでのロードマップが示されており,この中でも特に重点化して実施すべき課題を,「ロードマップ重点課題」として平成28年7月に選定・公表した。ロードマップ重点課題は地方公共団体のニーズや社会情勢を踏まえて定期的にフォローアップされ,B-DASH等の各プロジェクトはこれに沿ったテーマ設定と技術公募を行っている。
 
B-DASHの実規模実証では,これまでに48技術を採択し,平成30年度までに採択した技術についておおむね実証を完了した。ガイドラインは,合計30技術28件を策定・公表しており,その内訳は水処理10技術,汚泥処理5技術,管路管理4技術(うち3技術はひとつに統合してガイドライン化),浸水対策2技術,バイオガス・固形燃料化8技術,下水熱1技術となっている(図−3)。
 

図−3 下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)一覧




これらの技術については,各研究体の不断の努力により下水道事業の現場に順次導入され,令和2年5月時点で建設中を含めた採用実績は10技術113件となっている(表−1)。
 

表−1 B-DASH 実証技術の導入実績【10技術113件(令和2年5月時点)】



(1)超高効率固液分離技術を用いたエネルギーマネジメントシステムに関する実証事業(図−4)

図−4


・事業実施者:メタウォーター(株)・日本下水道事業団 共同研究体
 
・実施場所:大阪市中浜下水処理場
 
・概  要:超高効率固液分離,高効率高温消化,スマート発電システム等を組合わせたシステム技術


 

(2)神戸市東灘処理場再生可能エネルギー生産・革新的技術(バイオガスを活用した効果的な再生可能エネルギー生産システム)(図−5)

図−5


・事業実施者:(株)神鋼環境ソリューション・神戸市 共同研究体
 
・実施場所:神戸市東灘処理場
 
・概  要:地域バイオマス受け入れ,鋼板製消化槽,高効率ヒートポンプ,新型バイオガス精製装置を組み合わせたシステム技術


 

(3)管路内設置型熱回収技術を用いた下水熱利用技術実証事業(図−6)

図−6


・事業実施者:大阪市・積水化学工業(株)・東亜グラウト工業(株)共同研究体
 
・実施場所:大阪市海老江下水処理場
 
・概  要:管更生と熱交換器設置を同時施工して,未処理下水からの熱回収システムを構築し,回収熱をヒートポンプを介して建造物の空調(暖房・冷房)や給湯に利用するシステムを構築し,熱回収・利用技術のコスト縮減効果,省エネルギー効果,温室効果ガス排出量削減効果等の技術


 

(4)脱水・燃焼・発電を全体最適化した革新的下水汚泥エネルギー転換システム(図−7)
・事業実施者:メタウォーター(株)・池田市共同研究体
 
・実施場所:池田市下水処理場
 
・概  要:低含水脱水技術,低空気比省エネ燃焼技術,高効率排熱発電技術の3つの革新的技術を連携し,システム全体として最適化することで発電量を最大化するとともに,温室効果ガス排出量,維持管理費を低減する技術
 

図−7



(5)管口カメラ点検と展開広角カメラ調査及びプロファイリング技術を用いた効率的管渠マネジメントシステム(図−8)

図−8


・事業実施者:管清工業(株)・(株)日水コン・八王子市 共同研究体
 
・実施場所:東京都八王子市
 
・概  要:管口カメラを用いたスクリーニング調査技術の実証,展開広角カメラ+管路縦断調査システム及び管路形状プロファイリングシステムを用いた詳細調査


 

(6)広角カメラ調査と衝撃弾性波検査法による効率的な管渠マネジメントシステムの実証事業(図−9)

図−9


・事業実施者:積水化学工業(株)・(一財)都市技術センター・河内長野市・大阪狭山市 共同研究体
 
・実施場所:河内長野市,大阪狭山市
 
・概  要:高効率に管渠を把握する広角カメラ技術と,劣化度を定量評価する衝撃弾性波法を用いた,調査コスト・工期縮減効果及び調査精度の技術


 

(7)ICTを活用した効率的な硝化運転制御の実用化に関する技術実証事業(図−10)
・事業実施者:(株)日立製作所・茨城県 共同研究体
 
・実施場所:茨城県霞ヶ浦浄化センター
 
・概  要:水処理の省エネ化のために,アンモニア濃度と溶存酸素量からばっ気風量を制御し,実績値に基づく制御パラメータ自動更新などにより制御精度を向上させる技術であり,コスト縮減や省エネルギー効果等の技術
 

図−10




 

(8)ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理技術(図−11)

図−11


・事業実施者:(株)東芝・日本下水道事業団・福岡県・(公財)福岡県下水道管理センター 共同研究体
 
・実施場所:宝満川流域下水道宝満川浄化センター
 
・概  要:水処理の省エネ化のために,制御パラメータの自動調整とプロセスの異常兆候検出をリモートで行い,NH4-N センサーを活用したばっ気風量制御を効果的・効率的に実施する技術であり,コスト縮減や省エネルギー効果等の技術


 

(9)脱水乾燥システムにおける下水道の肥料化・燃料化技術(図−12)
・事業実施者:月島機械(株),サンエコサーマル(株),日本下水道事業団,鹿沼市農業公社,鹿沼市 共同研究体
 
・実施場所: 鹿沼市黒川終末処理場
 
・概  要:中小規模の下水処理場を対象とした脱水乾燥システム(機内二液調質型遠心脱水機+円環式気流乾燥機)を用いて,乾燥汚泥を製造し,肥料化,燃料化などの多様な有効利用への適応性や,設備の性能,ライフサイクルコスト縮減等の技術
 

図−12




 

図−13


(10)下水道圧送管路における硫酸腐食箇所の効率的な調査技術(図−13)

・事業実施者:(株)クボタ
 
・概  要:点検調査が困難な圧送管路を対象に,硫化水素に起因する腐食箇所の絞り込み手法,及び腐食の有無を診断する技術


 
 

4.普及促進に向けた取り組み

令和元年度,財務省が実施した予算執行調査では,実証技術の普及展開について,「技術の認知状況の改善」や「導入の検討を要件化し,技術の導入を促すべき」との方向性も示された。
 
これを踏まえ,令和2年度より社会資本整備総合交付金等の交付にあたっては,「下水道施設における新設・増設・改築にあたっての新技術の導入検討」を要件化した。これは,新技術の採用に慎重な地方公共団体にも効果・費用を比較検討していただき,様々な課題を解決することで,可能な技術を導入していただくためのものである(対象地方公共団体:下水道事業を実施する全ての地方公共団体,対象事業:新設,増設及び改築であって,工事契約1件あたりの概算事業費が3億円以上と見込まれる事業。ただし,令和2年3月31日時点で詳細設計に着手しているものを除く)。
 
また,B-DASHの技術開発について,同一テーマに対して複数技術を採択できることとし(これまでは,同一テーマに対して原則1技術を採択),自治体の条件に合った実証技術の選択が可能となるなど,導入に向け幅を広げることとした。
 
また,全国約2,200の処理場ごとに適用可能な技術を丸付けにて早見可能なB-DASH技術適用表を作成し,各技術ごとに導入効果算定ツール,発注仕様書案を国土交通省下水道部のホームページで公開している。また,技術の導入実績事例も随時掲載していく予定としている(国土交通省下水道部ホームページ https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000450.html)。
 
 
 

5.新たな取り組み(下水道スタートアップチャレンジ)

図−14 令和2 年度 パネルディスカッションの様子
(動画ストリーミング形式配信し,リアルタイムチャットで視聴者からの質問へ対応)


 

国土交通省下水道部では,令和元年度より,異業種技術との連携によって,将来にわたって下水道の機能を維持し,発展させていくことができる新たな技術開発の推進を目的としたマッチングイベント「下水道スタートアップチャレンジ」を開催している。
 
これまで下水道と接点のなかった企業にとっては,下水道分野におけるビジネスチャンスへの気づきを得られるとともに,地方公共団体や下水道関連企業とのネットワーク形成,自社技術に関心のある自治体の紹介,国土交通省が実施予定の新技術実証事業「B-DASH プロジェクト」への案内といったメリットがある。下水道の現場ニーズと異業種の技術シーズを効果的にマッチングする場を提供する。令和元年度参加した異業種企業が令和2 年度の下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)に採択されるなど成果も出てきている。
 
〈参考〉これまでのテーマ一覧
(令和元年度)
・不明水対策及び悪条件での管路の点検・調査
・下水道システムのエネルギー拠点化
 
(令和2年度)
・下水道を通じたスマートシティの実現
・下水道を活用したサーキュラーエコノミー
 
 
 

6.おわりに(B-DASHプロジェクトの今後の展望)

人・モノ・カネという経営資源を取り巻く環境が厳しさを増している中,国土交通省としても様々な取り組みを推進し,財政的・技術的な支援を行っている。これらの施策を踏まえて,各地方公共団体が効率的な下水道事業を推進することになるが,その際に必要となる技術を整備しておくことも,国が実施すべき支援策のひとつと考えている。また,ガイドラインが公表された新技術の普及促進についても新技術の開発と同様に重要な支援である。
 
これらを踏まえ,国土交通省としては引き続き効果的かつ効率的なB-DASHプロジェクトを進めるため,特に中小市町村向けの技術,ICT・AI・ロボット・ビッグデータ等を活用した技術等に焦点を当て,異分野技術の掘り起こしを含めて重点的な開発を進める予定である。
 
 
 

国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道企画課 下水道国際・技術室
環境技術係長  溝上 洋介(みぞうえ ようすけ)

 
 
 
【出典】


土木施工単価2021冬号



 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品