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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 建築物の耐震化の進捗状況

 

1.はじめに

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,それまでの想定をはるかに超えた巨大な地震や津波により,住家の被害は,全壊12万1,996戸,半壊28万2,941戸,一部破損74万8,461戸に上り,一度の災害で戦後最大の人命が奪われるなど,甚大な被害をもたらしました。
 
わが国は,巨大地震がいつどこで発生してもおかしくない状況にあるといわれており,切迫性が指摘されている首都直下地震や南海トラフ地震が最大クラスで発生した場合には,東日本大震災を超える人的・経済的被害が予想されています。
これらの災害に備えるため,建築物の耐震化は喫緊の課題となっています。
 
国は,平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を受けて制定された耐震改修促進法に基づき,倒壊などのおそれのある建築物などに対し,耐震診断・耐震改修に係る努力義務を課し,所管行政庁が指導および助言を行うことにより,建築物の耐震化の促進を図ってきました。
平成25年には東日本大震災の教訓等を踏まえてその一部を改正し,一定の建築物に対する耐震診断の義務付けなどの規制強化や,耐震改修計画の認定制度など,耐震化を円滑に行うための措置を創設し,より一層の促進を図っています。
 
 

2.耐震化の進捗状況

平成30年の統計調査に基づき,わが国の住宅については,総数約5,360万戸のうち,約700万戸が耐震性が不十分であり,耐震化率は約87%と推計されています。
また,多数の者が利用する建築物については,総数約42万棟のうち,約5万棟が耐震性が不十分であり,耐震化率は約89%と推計されています(図-1,2)。
 
耐震化率は平成15年から5年ごとに推計を行っており,平成15年から平成30年までの15年間で,住宅は約450万戸,多数の者が利用する建築物については約4万棟がそれぞれ耐震化されていますが,耐震性が不十分な建築物をおおむね解消とするためには,さらなる耐震化の促進が必要です。
 
耐震診断が義務付けられた建築物の耐震化率については,令和2年4月現在で公表されているもので,約74%となっています。
義務付けの対象の中には,災害時に防災拠点として利用が想定される建築物や,避難路や緊急輸送道路等の沿道に建ち,倒壊した場合に通行に支障が出る建築物が含まれており,これらの建築物については,令和5年までに耐震診断の結果の報告を受け公表ができるよう,所管行政庁と連携して働きかけを強化していくこととしています。
 

  • 住宅の耐震化の進捗状況
  • 住宅の耐震化の進捗状況
    図-1 住宅の耐震化の進捗状況】

  • 建築物の耐震化の進捗状況
  • 建築物の耐震化の進捗状況
    図-2 建築物の耐震化の進捗状況】

  • 3.耐震改修促進法の概要

    耐震改修促進法では,まず国が基本方針を示し,それに基づき各都道府県・市町村が「耐震改修促進計画」を作成することを定めています。
    建築物の耐震化を促進するための規制措置として平成25年の法改正により,一定規模以上の大規模建築物等については耐震診断を行い,その結果を所管行政庁に報告することが義務付けられました。
    また,耐震診断・耐震改修の努力義務については,一定の用途・規模の建築物だけでなく,マンションを含む住宅や小規模な建築物についても対象となりました。
     
    こうした規制的な措置に加えて,建築物の耐震化を円滑に促進するための措置として,認定による緩和的な措置や,耐震性に係る表示制度の創設に加え,耐震改修支援センターによる耐震診断・耐震改修に関する情報提供,補助制度等の実施があります。
     
     

    4.耐震化の促進のための規制措置

    主な規制措置として,耐震診断の義務付けがあります。
    建築物の耐震化を一層促進するために,地震に対する安全性が明らかでない建築物の耐震診断の実施を義務付け,所管行政庁においてその結果を公表することとしています。
     
    義務付けの対象となる建築物については,大きく分けて2つあり,1つは不特定多数の方が利用する大規模な建築物や,避難時に配慮が必要な方が利用する大規模な建築物等の,いわゆる「要緊急安全確認大規模建築物」となります(表-1)。
    これらの建築物については平成27年12月31日が報告期限となっており,耐震診断の結果が各所管行政庁のホームページ等で公表されています(一部所管行政庁については精査中)。
     
    耐震診断義務付けの対象となる建築物の2つ目が,都道府県,市町村が耐震改修促進計画において定めたものです。
    これを「要安全確認計画記載建築物」と呼んでいます。
     
    要安全確認計画記載建築物には,「緊急輸送道路等の避難路沿道建築物」(図-3)と「防災拠点建築物」があり,緊急輸送道路等の避難路については都道府県,市町村が指定することができます。
    指定された道路の沿道の建築物で,一定の高さ以上のものが対象となり,平成31年1月1日の政令改正により,ブロック塀等の組積造の塀も義務付けの対象とすることができるようになりました(図-4)。
     
    「防災拠点建築物」は,都道府県のみが指定することができ,病院や官公署,避難所として利用する旅館・ホテルなどの公益上必要な建築物が対象となります。
    これらの建築物については,要緊急安全確認大規模建築物とは異なり,指定する地方公共団体が定める日までに耐震診断結果を報告することとなっています。
     

  • 要緊急安全確認大規模建築物の規模用件
    表-1 要緊急安全確認大規模建築物の規模用件】
  • 耐震診断義務付け対象の避難路沿道建築物
    表-3 耐震診断義務付け対象の避難路沿道建築物】
  • 耐震診断義務付け対象の避難路沿道の組積造の塀
    表-4 耐震診断義務付け対象の避難路沿道の組積造の塀】

  • 5.耐震化の円滑な促進のための措置

    耐震化の円滑な促進のための措置は主に3つあり,1つ目は耐震改修計画の認定制度です。
    これにより,建築基準法の特例を受けることができます。
    建築基準法においては,既存不適格建築物を増改築する際には現行基準に適合させることが必要となりますが,耐震改修促進法に基づく耐震改修計画の認定を受けた場合は,地震に対する安全性を確保すれば,当該増改築に係る工事後も引き続き既存不適格建築物として取り扱うことができます。
     
    耐火建築物の場合には,耐震性向上のために壁や柱を設けた結果,耐火建築物に係る規定に適合しなくなる場合に,一定の条件を満たすことができれば,その規定の適用が緩和されます。
     
    さらには,外付けアウトフレーム工法などを採用する場合,床面積が増加するケースがあることから,耐震性を向上させるためのやむを得ない範囲で,容積率や建ぺい率の緩和が受けられる特例措置が設けられています(図-5)。
    また,耐震改修計画の認定をもって建築確認とみなされるため,手続きも簡素化されます。
     
    2つ目は区分所有建築物に対し,大規模な耐震改修を行う際の決議要件の緩和です。
    区分所有建築物は,大規模な耐震改修工事を行う場合,一般的に合意形成を図る必要があることから,耐震改修等の実施が滞ることが多いとされています。
     
    こうしたことから,耐震改修の必要性に係る認定を受けた場合,大規模な耐震改修を行う際の決議要件を「3/4」から「過半数」に緩和する特例措置を設けています。
     
    3つ目は,耐震性に関する表示制度です。
    耐震性が確保されている旨の認定を受けた建築物について,「基準適合認定建築物」である旨のマークを表示できる制度となっています(図-6)。
    この表示制度については,現行の耐震基準により建てられた建築物を含め,全ての建築物が対象となっています。
    なお,この制度は任意の表示制度であるため,表示がない建築物は耐震性がないということではありません。
     

  • 耐震診断義務付け対象の避難路沿道の組積造の塀
    表-5 耐震診断義務付け対象の避難路沿道の組積造の塀】
  • 「基準適合認定建築物」マーク
    表-6 「基準適合認定建築物」マーク】

  • 6.おわりに

    東日本大震災から10年が経ち,住宅・建築物の耐震化が進んできてはいますが,まだまだ耐震性の不足するものが残っているのが現状です。
    建築物の耐震化の促進のためには,まず,その所有者等が,防災対策を自らの問題,地域の問題として意識して取り組むことが不可欠です。
     
    こうした所有者等の取り組みをできる限り支援するという観点から,国土交通省では耐震診断や耐震改修を行いやすい環境の整備や,負担軽減のための制度の構築などの必要な施策を講じ,今後も地方公共団体などと連携しながら,耐震改修の実施の阻害要因となっている課題を解決すべく努めてまいります。
     
     
    ●住宅・建築物の耐震化について(国土交通省HP)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html
    ●耐震支援ポータルサイト((一財)日本建築防災協会HP)
    https://www.kenchiku-bosai.or.jp/seismic/



     
     
     

    国土交通省 住宅局 建築指導課 建築物防災対策室

     
     
     
    【出典】


    建築施工単価2021春号



     
     
     

    最終更新日:2023-08-03

     

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