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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > サイクルツーリズムの推進~ナショナルサイクルルート(NCR)~

1.はじめに

近年、健康志向や環境意識の高まりを背景として、自転車によるツーリングや観光を楽しむ人が増えています。
 
サイクルツーリズムは、地域の魅力を自転車で巡りながら世代を問わず誰でも楽しむことができることから、インバウンドも視野に入れた周遊・滞在型観光の取組として注目が高まっており、全国各地でサイクルルートを観光振興の資源として活用する地域が増えています。
 
平成30年6月8日に閣議決定された第1次自転車活用推進計画では、目標の一つとして「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」が謳われており、改定後の第2次自転車活用推進計画
(令和3年5月28日閣議決定)においても、引き続き同じ目標を掲げているところです。
 
 

2.サイクルツーリズムについて

サイクルツーリズムは、徒歩よりも速く、かつクルマと異なり地域の魅力を直接五感で感じられる自転車を利用して、気候、自然、食、文化などの豊かな地域資源に触れ、非日常への没入やその土地固有のストーリーを「体験」できる、優れた観光のスタイルです。
 
サイクルツーリズムというツールによって、例えば、地域の「自然」を単純にそのまま体験するのではなく、自転車の速度や乗り物としての特性を活かし「歴史」や「食」などその土地ならではの「ストーリー」と結びつけ、さらに深く地域資源の本質に触れられる、希少性や付加価値の高いサービスの提供が可能になるものと考えられます。
 
このように、地域資源に根ざした、真に価値のある(サイクル)ツーリズムによる観光立国を実現するためには、自転車の走行環境(自転車通行空間の整備、案内表示など)や受入環境(休憩・宿泊施設整備、地域のガイド育成、公共交通機関との連携など)を整備し、そのような優良なルートのブランディングにより、更なる環境整備の促進や国内外への情報発信を充実させる必要があります。
 
 

3.ナショナルサイクルルート制度の概要

「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」に向け、自転車活用推進本部(国土交通省に設置された関係府省庁で構成された組織)では、国内外からの誘客を図るため、走行環境整備やサイクリストの受入環境整備の推進に加え、日本を代表し、世界に誇りうるサイクルルートのブランド化を図る目的で、令和元年に「ナショナルサイクルルート」(以下、NCR)制度を創設しました。
 
NCR制度は、日本を代表し、世界に誇りうるサイクリング環境を備えたルートを指定するものであり、走行環境やサイクリストの受入環境などについて、一定の水準を満たすことを要件としています。
 
上記の要件については、大きく分けて以下の5つの観点から審査されます。
 

  • ルート設定
  • 走行環境
  • 受入環境
  • 情報発信
  • 取組体制

 
NCRは、上記の観点に基づき、具体の整備状況が指定要件(以下の表を参照)を満たしているか等について、有識者から構成される「ナショナルサイクルルート審査委員会」において審査の上、自転車活用推進本部長(国土交通大臣)により指定がなされます。
 
【表-1 ナショナルサイクルルートの指定要件】
【表-1 ナショナルサイクルルートの指定要件】
 
また、NCRにはロゴマークが設定されています(図-1)。
このロゴマークは、自転車を漢字の「和」で表現したものであり、「平和」・「調和」、「日本文化」のイメージに加え、「ワ」の発音から自転車を連想させることから、「和やかに心地よいサイクリング、サイクルツーリズムによるモノやコトのつながり」をコンセプトとするものです。
 
【図-1 ロゴマーク】
【図-1 ロゴマーク】
※本ロゴマークの使用については、各ルートを所管する地方整備局にお問合せください。
 
 

4.指定ルートの紹介

このNCRについては、令和元年11月に第1次指定、令和3年5月に第2次指定がなされました。
 
第1次については、茨城県の「つくば霞ヶ浦りんりんロード」、滋賀県の「ビワイチ」、広島県から愛媛県に渡る「しまなみ海道サイクリングロード」の3ルートが指定され、第2次では北海道の「トカプチ400」、千葉県から和歌山県にかけての「太平洋岸自転車道」、富山県の「富山湾岸サイクリングコース」が指定されています。
 
指定のメリットとして、JNTO(日本政府観光局)や自転車活用推進本部のHPにおける紹介をはじめ、国内外におけるサイクルイベント等での一体的なPRによる、観光客の増加等の地域活性化が考えられます。
例えば、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」では、令和2年度の来訪者は、新型コロナウィルス感染症による影響にもかかわらず、令和元年度と比較して1,31倍の来訪者(茨城県調べ)となっています。
また、「ビワイチ」においては、平成27年及びNCR指定の令和元年を比べると、体験者数が約5万2,000人から約10万9,000人、経済波及効果は約6億円から約14.7億円となっています(滋賀県調べ)。
 
のちほど、各指定ルートの概要を簡単に紹介いたします。
詳細は自転車活用推進本部(GOOD CYCLE JAPAN)や各ルート協議会等のHP等をご覧いただき、実際に足(自転車)を運んでいただければ幸いです。
 
【図-2 NCR指定ルート来訪者の一例】
【図-2 NCR指定ルート来訪者の一例】
 
 

5.NCR以外の、自転車活用推進本部におけるサイクルツーリズムの推進

自転車活用推進本部では、NCR以外にも全国各地の優れたサイクルルートを「モデルルート」として設定しています。
モデルルートは、官民の関係者等で構成される協議会において複数の市町村に跨がる広域的なルート設定がなされ、走行環境や受入環境の整備、情報発信等を行うものが該当し、本部HPにおいてPRをしています。
 
また、サイクルルートの受入環境の整備に関して、自転車の解体・袋詰め(輪行)をせずに鉄道やバスの車両内への持ち込みができるサイクルトレインやサイクルバス等、自転車と公共交通機関の連携を促進しています。
 
具体的には、毎年度開催される自転車活用推進功績者表彰(自転車活用推進本部長(国交大臣)による表彰)において、サイクルトレインに関する優良な取組をしている事業者を表彰しているほか、事業者によるサイクルトレイン・サイクルバスなどの導入の手引きとなる事例集を作成しているところです。
 
【図-3 モデルルート】
【図-3 モデルルート】
 
 

おわりに

NCRについては、国を挙げてサイクルルートのブランディングを進めるという政策趣旨に鑑み、観光庁やJNTO主導の施策や活動としっかりと連携させ、情報発信等の支援を行っていきます。
 
また、各地域においても、NCRに指定されること自体をゴールとするものではありません。
そのルートの価値を高め続けるため、官民の関係者が連携してNCRとしてのブランド力を活かしながら、ルートの環境整備や実際に世界に通用する観光商品としていくための磨き上げを継続していくことが重要であり、そのような地域の取組が、さらなるNCRのブランド力向上にも資するものと考えています。
 
上記の国および各地域の取組により、NCRのブランド力向上の好循環(サイクル)を生み出すことを通じて、それぞれの地域社会の活性化、ひいては「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」の達成を目指してまいります。
 
 

【NCR第1次指定ルート】

 
つくば霞ヶ浦りんりんロード
 
旧筑波鉄道の廃線敷と霞ヶ浦を周回する、湖岸道路をあわせた全長約180kmのサイクリングコース。
霞ヶ浦などの水郷地域や筑波山周辺地域の豊かな自然風景、鹿島神宮に代表される歴史的・文化的資産などの様々な魅力が楽しめます。
 
ビワイチ
 
日本最大の湖である「琵琶湖」を一周する、約200kmに及ぶサイクリングコースであり、熟練者なら一日で一周も良し、2、3日かけてゆっくりと楽しむも良しのルートとなっており、船舶と組み合わせた観光も可能です。
また、NCRとしては唯一(令和5年4月19日寄稿時点)、トライアスロンの舞台としても活用されています。
 
しまなみ海道サイクリングロード
 
広島県尾道市及び愛媛県今治市を結び、瀬戸内海の島々とそれを結ぶ長大橋が織りなす絶景を望む、日本初の海峡を横断する自転車道として整備された、海外での知名度も高いサイクリングルートです。
また、2年に一度開催される「しまなみサイクリング」は国内外から多くの注目を集める一大イベントであり、2022年には自転車活用推進本部長(国土交通大臣)も実走しています。
 
 

【NCR第2次指定ルート】

 
トカプチ400
 
日本を代表する食料供給基地とも呼ばれ、海、山、平野の揃った十勝平野において、肥沃な大地に広がる農業・酪農の風景などを楽しめるサイクルツーリズムを、他にはない広大なスケールで楽しめるルートです。

 
大平洋岸自転車道
 
千葉県銚子市から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県の各太平洋岸沿いを走り、和歌山県和歌山市に至る延長1,487kmに及ぶ6ルート中最長のNCRとなっています。
本ルートは、沿線に富士山や伊勢神宮をはじめ、日本を代表する観光地、景勝地が多数存在するものとなっています。
 
富山湾岸サイクリングコース
 
「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟している富山湾の絶景や、富山湾で水揚げされた海の幸等の魅力を楽しみながらサイクリングが出来る、氷見市から朝日町までの延長102kmに及ぶサイクリングコースです。
 
 
 


自転車活用推進本部 事務局次長(国土交通省 道路局 参事官)
金籠 史彦

 
 
【出典】


積算資料2023年6月号

積算資料2023年6月号

最終更新日:2024-03-25

 

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