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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 【E19】長野自動車道─全線開通30年の整備効果─

はじめに

長野自動車道(以下「長野道」という)(岡谷JCT~更埴JCT間)は、長野県岡谷市を起点とし、複数の自治体を経由して長野県千曲市へ至る全長75.8kmの長野県中央部を縦断する高速道路である。
1986年3月の岡谷JCT~岡谷ICの開通を皮切りに、1988年3月に岡谷IC~松本IC間、1988年8月に松本IC~豊科IC(現:安曇野IC)間が開通、1993年3月には終点となる更埴JCTまでの全線開通を迎えた。
当時は日本道路公団が建設・管理を担っていたが、2005年10月の道路関係四公団民営化以降、安曇野ICを境に北側をNEXCO東日本、南側をNEXCO中日本が管理している(図-1)。
長野道は2023年3月で全線開通から30周年を迎えたため、全線開通に伴う整備効果や今後の事業についてNEXCO東日本とNEXCO中日本が紹介する。
 
【図- 1 開通区間の路線図と高速道路のネットワーク】
【図- 1 開通区間の路線図と高速道路のネットワーク】
 
 

1.長野道の利用状況

長野道の全線開通により、長野県南部の中央自動車道と、北部の上信越自動車道の連絡機能が発揮され、首都圏、中京圏、北陸圏のそれぞれ地域間をつなぐ高速道路ネットワークが形成された。
通行台数は、1986年当初の部分開通時点と比較して大幅に増え、コロナ前(令和元年度)の時点では、1日あたり約4.6万台、2019年度までの累計で約4.6億台と多くの方々にご利用いただいている(図-2)。
 
【図- 2 長野道の通行台数の推移】
【図- 2 長野道の通行台数の推移】
 
 

2.長野道の整備効果

(1)経済波及効果と県内総生産(実質GDP)

長野道全線開通による高速道路ネットワークの整備がもたらした効果を定量的に評価するため、全線開通後30年間の経済価値の算出を試みた。
具体的には、道路整備による地域間の所要時間短縮と、企業の生産性向上などの経済活動との関係をモデル化し、道路整備あり・なしの場合の生産額変化額を算出したもので(図-3)、今回山梨大学大学院の武藤慎一教授監修のもと、地域間の道路整備が交易を活性化させることで生じるマクロ経済的効果の計測を目的に開発された、空間的応用一般均衡(Spatial Computable General Equilibrium)モデルを使用し算出した。
 
【図- 3 道路整備と経済活動のイメージ図】
【図- 3 道路整備と経済活動のイメージ図】
 
分析結果としては、1993年の全線開通から30年間の累積の経済波及効果(生産額変化額)が約3.3兆円となり、長野道沿線の地域経済発展への寄与が確認された(図-4)。
また、長野県内総生産(実質GDP)の推移としては、通行台数の増加傾向に比例し、全線開通前1988年度時点の541億円と比較すると、2018年度時点において862億円となり、約1.6倍に成長している(図-5)。
 

【図- 4 長野道全線開通後30 年間の生産額変化額の推移】
【図- 4 長野道全線開通後30 年間の生産額変化額の推移】
【図- 5 長野道の通行台数と長野県内総生産(実質GDP)の推移】
【図- 5 長野道の通行台数と長野県内総生産(実質GDP)の推移】

 

(2)地域間の交通活性化と一般道との機能分担

長野道の全線開通前は、松本市(松本市役所)と長野市(長野県庁)の移動で約2時間15分かかっていたが、長野道の全線開通により約1時間25分で移動が可能となり、所要時間が約50分短縮された。
北信と中信のアクセスが向上され、通勤可能な地域が大幅に拡大している(図-6)。
 
【図-6 ( 左)所要時間変化(松本市役所~長野県庁)(右)増加した沿線市町村の通勤流動量】
 
また、両市を繋ぐ道路の1日平均交通量が約2.7倍に増加し、大型車の約9割が長野道を利用するなど、並行する国道19号および国道403号との機能分担が図られ、一般利用者からも安心して運転できるようになったとの声をいただいている(図-7)。
 
【図- 7 断面交通量と大型車断面分担率】
 

(3)沿線地域の製造業の発展

長野県が全国1位を誇る「情報通信機械器具製造業」については、古くから産業の土壌が形成されていたものの、長野道の全線開通により、首都圏や中京圏への輸送時間が短縮され、消費地への輸送コストや輸送時間の点で有利となった。
結果として、長野道沿線の松本地域(松本市・塩尻市・安曇野市他4自治体)の製造品出荷額が開通前の約3倍に増加している(図-8)。
県内シェアとしては、この松本地域が約8割を占めており、長野県全体の製造業の発展に寄与している(図-9)。
 

【図- 8 長野道沿線地域の製造品出荷額の推移】
【図- 8 長野道沿線地域の製造品出荷額の推移】
【図- 9 情報通信機械器具製造業の市町村別県内シェア】
【図- 9 情報通信機械器具製造業の市町村別県内シェア】

 

(4)長野道を利用した周遊観光ルートの形成

長野道の全線開通により、主要観光地がつながり、中京圏・首都圏からの周遊観光ルート(図-10)の形成が可能となった。
旅行会社からは、提供できる信州周遊コースのバリエーションが格段に増えたといった声をいただいている。
また、2006年には姨捨スマートICが供用開始され、主要観光地である善光寺や田毎の月への観光入込客数の増加が見られており、長野県の観光振興に貢献している(図-11)。
インバウンド向けの広域周遊観光ルートも形成され、同じ2006年を基準とした場合の2019年時点における周辺観光地の外国人宿泊者数は、最大約24倍増加している。
 

【図- 10 長野道を利用した周遊観光ルート(例)
【図- 10 長野道を利用した周遊観光ルート(例)
【図- 11 観光入込客数の推移】
【図- 11 観光入込客数の推移】

 

(5)長寿県・長野の救急医療の下支え

厚生労働省で公表している都道府県別生命表、いわゆる平均寿命ランキングによると、長野県は昔から上位に位置している。
そのため、長野県の年間救急搬送人員数(2020年)の内、高齢者(満65歳以上)の急病による搬送が全体の約46%を占めている。
また、長野県の土地柄的に山間部に住居を有する高齢者が多く、重篤な救急患者を速やかに三次救急医療機関に搬送することが大きな課題であった。
長野道の全線開通前は、山間部に位置する麻績村役場から長野赤十字病院や信州大学医学部付属病院までの搬送時間は、それぞれ60分、52分であったが、全線開通後はそれぞれ34分、39分に改善され、それぞれ26分、13分の時間短縮が図られている。
特に2010年に供用開始した松本IC~安曇野IC間に位置する梓川スマートICや、安曇野IC~麻績IC間に位置する本城バスストップや四賀バスストップの緊急車両入口の活用により、病院収容時間の短縮に相乗効果が得られていると消防隊員の方も実感している。
(図-12)。
 
【図- 12 山間部を通行する救急搬送時間の短縮】
 

(6)災害時の迅速な救援活動を支援

2019年の令和元年東日本台風の豪雨では、千曲川流域に大きな浸水被害が生じたことは記憶として新しい。
全国からTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)が派遣され、陸上自衛隊によるダンプカー等の自衛隊車両が被災地へと向かい、迅速な救援活動・復旧活動が行われた。
その支援ルートとして、長野道が多く利用され、それらの活動を下支え、災害時の支援活動等にも寄与している(図-13)。
 
【図- 13 令和元年東日本台風の豪雨災害 長野道を利用した支援ルート】
【図- 13 令和元年東日本台風の豪雨災害 長野道を利用した支援ルート】
 
 

おわりに

長野道の全線開通により、地域間をつなぐ新たな高速道路ネットワークが形成され、上記に示す様々な整備効果を確認した。
この他にも紹介しきれなかった高速バスの運行拡大や、沿線地域の工場立地の推進、農産物のシェア拡大、大型商業施設の伸展による利便性向上等の効果も発現しており、長野道沿線地域の発展に寄与している。
 
長野道は、全線開通から30年を経過した今、大型車交通量の増加や凍結防止剤の影響で道路構造物の劣化が進行している。
今後も安全・安心な高速道路を次世代につなげるべく、渋滞対策や安全対策に努めるなど、お客さまへの影響を最小限に留め、迅速なリニューアル工事(更新工事、修繕工事)(写真-1)を進める。
また、今後も新たなICやJCTの整備を推進し、高速道路の機能強化を推進していく(図-14)。
 

【写真- 1 高速道路リニューアル工事(例)】1
【写真- 1 高速道路リニューアル工事(例)】2

【写真- 1 高速道路リニューアル工事(例)】
 
【図- 14 現在実施中の工事や事業】
【図- 14 現在実施中の工事や事業】
 
 
 


東日本高速道路株式会社 関東支社
中日本高速道路株式会社 八王子支社

 
 
【出典】


積算資料2023年6月号

積算資料2023年6月号

最終更新日:2024-03-25

 

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