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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 物流の2024年問題におけるトラック業界の取り組み

1.トラック運送業界の現状

1990年12月に施行された物流二法(貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法)により、貨物自動車運送事業への新規算入は免許制から許可制へと規制緩和されたことで、参入事業者が急増し、1990年に40,072社であった事業者数は、2021年には63,122社にまで増加しました。
そのうち半数以上が保有車両台数10両以下の小規模事業者で構成されています。
 
当協会で毎年発行している経営分析報告書では、直近の2021(令和3)年度までの十数年にわたり赤字企業が多いことが明らかになっています。
特に、下請けとして輸送を行うことが多く、交渉力の弱い中小事業者においてはその比率が高く、燃料価格の高騰、賃上げなどさまざまなコストアップ要因があるにも関わらず、価格転嫁が進んでいないことが赤字事業者の多い要因の1つです(図- 1)。

【図- 1 トラック運送事業者の実状】
【図- 1 トラック運送事業者の実状】

 
このような厳しい状況下において、2018年6月に働き方改革関連法が成立し、時間外労働年960時間の上限規制が設けられたことは、トラック業界にとっては大きな転換期であり、他産業と比較して労働時間の長いトラック運送業界にあっては、多くの事業者がその対応を迫られています。
さらに将来的には一般労働者と同じ時間外労働年720時間の上限規制が適用されることも念頭に置かなければなりません。
 
 

2.物流の2024年問題の解消に向けて

物流の2024年問題の解消に向けて、荷主企業とともに取り組むべき事例を紹介します。

(1) 労働環境の改善の事例

ドライバーの長時間労働は、発・着荷主における長い荷待ち時間や手荷役作業に起因することが多く「早い時間に荷下ろしをする順番をとるために何時間も前に到着をする」、「指定時間に到着しても荷待ち台数が多く何時間も待たされる」などの声がよく聞かれます。
待機時間を削減するために、倉庫や配送センターを中心に「トラック予約システム」を導入する企業も出てきました。
トラック事業者は到着時間を見越した運行計画を策定でき、また荷主側は到着時間に合わせ作業等の準備が可能となることから、荷待ち時間の大幅な削減につながる効果的な運用を行うことが望まれます(図- 2)。

【図- 2 トラック予約システムのイメージ】
【図- 2 トラック予約システムのイメージ】

 
また、発荷主の出荷時刻が不規則なことによる「十分なリードタイムの確保」ができていないケースも多く見受けられます。
出荷時刻の定時性を遵守し、必要のない着時間指定などをなくすことができれば、余裕を持った配車ができ、積載率の向上と適正な労働時間、休息期間の確保につながります。
 
業種によっては、商慣行で「積み込み、荷下ろしはドライバーが“手荷役”で行う」ことが常態化し、パレット化が進んでいない現場もありますが、「パレット等の導入」は必須です。
しかしながら①費用負担の問題、②パレットの回収・管理体制の問題、③積載量の低下、④パレットサイズの統一化など課題も多く、普及には至っていません。
労働環境改善の観点からも関係者の理解・協力を得ながらパレットの標準化を進め、パレットによる共同輸送や一貫パレチゼーションによる輸送形態が当たり前の社会にしていかなければなりません(図- 3)。

【図- 3 バラ積みとパレット積み】
【図- 3 バラ積みとパレット積み】

 

(2) 輸送効率化・生産性向上の事例

東北や九州から大都市圏へ農産品を輸送する際、複数産地で積み込みを行い、複数の市場等へ少量ずつ下ろす場合が多く、各市場においても全国からのトラックが集中し、荷下ろし待ち時間が発生しています。
「複数の産地で手荷役による積み込みを行い、移動時間も含めると出発まで7時間以上かかることがある」と話す事業者がいますが、翌日の販売に間に合わせるために、十分な休息もとらずに運行することもあり、法令違反はもちろんのこと安全面でも大きな問題があります。
複数の産地の農産物を1カ所に集約する「集荷 と幹線輸送の分離」の取り組みも一部で始まっていますが、出荷場所の集約だけでなく、大都市への車両流入抑制の観点から、大都市近郊にまとめてパレットで荷下ろしできる施設(ストックポイント)の本格的な整備が望まれるところです(図- 4)。

【図- 4 集荷と幹線輸送の分離のイメージ】
【図- 4 集荷と幹線輸送の分離のイメージ】

 
 

3.あるべきトラック運送事業

トラック運送事業が発展していくためには、トラック事業者自身も、何のため、誰のための働き方改革なのかを十分に理解をし、積極的に取り組むことが必要となります。
そのためにトラック事業者は、荷主に対して荷待ち時間の削減等、労働環境の改善だけではなく、働き方改革を進めるために必要な水準として国土交通省が定めた「標準的な運賃」の活用を求めていく交渉をしていかなければなりません。
当然のことながらトラック事業者自らも安全対策や法令遵守を徹底し、安心・安全な輸送力の確保に努めて荷主のニーズに応えていく必要があります。
荷主企業と良好なパートナーシップを築き、ドライバー不足を解消することで業界の健全な存続を実現し、トラック輸送産業の最大の使命である地域の暮らしと経済を守ることにつながっていきます(図- 5 - 1、2)。
 
また一般消費者には、引き続き「送料無料」ではなく、ドライバーの大きな苦労のもとに物流が維持され、一定のコストがかかっていることの理解を強く訴えてまいります。

【図- 5 - 1 事業者が取り組むこと】
【図- 5 - 1 事業者が取り組むこと】
【図- 5 - 2 荷主に協力をお願いしたいこと】
【図- 5 - 2 荷主に協力をお願いしたいこと】

 
 
 

公益社団法人 全日本トラック協会 役員待遇企画部長
星野 治彦

 
 
【出典】


積算資料2024年1月号
積算資料2024年1月号

最終更新日:2024-03-25

 

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