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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 北陸新幹線(金沢-敦賀間)の完成・開業
はじめに

北陸新幹線は、東京都を起点とし、高崎・長野・上越・富山・金沢等を経由して大阪市に至る日本海ルートの延長約690kmの路線である。
このうち、東京-高崎間は上越新幹線と共用、高崎-長野間は1997(平成9)年10月に、長野-金沢間は2015(平成27)年3月に開業している。
 
金沢-敦賀間は、2012(平成24)年6月に工事実施計画(その1)の認可を受け工事に着手し、10年強の月日を経て、2024(令和6)年3月16日に完成・開業を迎えた。
 
 

1. 金沢-敦賀間の計画概要

金沢-敦賀間は、石川県の金沢駅を起点とし、小松駅、加賀温泉駅、福井県の芦原温泉駅、福井駅、越前たけふ駅を経由して終点敦賀駅に至る線路延長約125kmの路線である(図-1)。
 
車両基地は敦賀駅の南側約500mの位置に設置され、日常行われる仕業検査を行う設備を有している。
建設時は敦賀車両基地と称していたが、営業主体となるJR西日本では「白山総合車両所敦賀支所」としている。
なお、交番検査、台車検収および車体の塗装などは、長野-金沢間開業時から稼働している白山市内の白山総合車両所で行われる計画である。
 

【図-1 北陸新幹線(金沢-敦賀間)概略図】
 
 

2. 開業の効果

金沢-敦賀間の完成・開業により、東京-福井間の鉄道所要時間は現行の3時間14分(東海道新幹線経由)から2時間51分となり、23分短縮された。
また、大阪-金沢間は2時間31分から2時間9分となり、22分短縮された。
 
新幹線の特徴である速達性、大量輸送性による効果がもたらされ、沿線地域の豊富で多彩な観光資源の魅力が高まり、人々の余暇活動の拡充や広域的な活動に寄与することが期待される。
 
また、新幹線の特徴として、輸送安定性が高いことがあげられ、2018(平成30)年の北陸地方での豪雪時も北陸新幹線(長野-金沢間)の運休は2本のみであった。
これは、北陸新幹線において各種雪害対策が採用されているためである。
金沢-敦賀間においても、次章に述べる各種の雪害対策が採用されている。
 
これ以外にも、旅客が他の交通機関から新幹線へ転移することによるCO₂ 排出量の削減効果や、踏切事故解消の効果等も期待される。
 
 

3. 金沢-敦賀間の特徴

金沢-敦賀間は、工事区間約115kmのうちトンネルが約38.4km(約34%)、トンネル以外の路盤・高架橋・橋りょう(以下「明かり区間」という)が約76.2km(約66%)と他の整備新幹線区間に比較して明かり区間が多いのが特徴である。
30年確率で2.5mを超えるような積雪が確認される区間があるなど、積雪の多い地域であるため、明かり区間の雪害対策が課題となる。
 
そこで、雪の多さや連続する明かり区間の延長に応じて、図-2のように複数の対策の中から適切な雪害対策を採用している。
積雪の多い地区や分岐部では散水方式を採用し、冬季にも安定して運行できるよう配慮している。
福井県越前市・南越前町や敦賀駅の分岐部、敦賀車両基地の散水に使用する水は、新北陸トンネルからの湧水を循環して使用することで、安定した水の確保を図った。
 

【図-2 採用した雪害対策】
 
また、分岐部は列車に付着した雪塊が通過時に落下して挟まると不転換が生じ、運行に影響を及ぼす。
そこで温水を高圧で噴射し雪塊を吹き飛ばす「温水ジェット」と呼ぶ設備を採用して対応している(写真-1)。


【写真-1 分岐器の温水ジェット】

 
福井駅周辺では、えちぜん鉄道高架化事業と連携した取り組みも実施された。
北陸新幹線福井駅部は金沢-敦賀間の2012(平成24)年の認可より約7年前の2005(平成17)年4月に認可され、先行して着手・完成した。
地平を走っていたえちぜん鉄道は、完成した北陸新幹線の高架橋を一時的に利用し、従前地平を走っていたスペースを生み出して高架化工事を行った。
2018(平成30)年6月最終的に新しく構築したえちぜん鉄道の高架橋に切替えられた(写真-2)。

①北陸新幹線福井駅高架橋完成・
えちぜん鉄道地上駅供用中(H25.8)
①北陸新幹線福井駅高架橋完成・
えちぜん鉄道地上駅供用中(H25.8)
②えちぜん鉄道新幹線橋上仮駅舎開業(H27.9)
②えちぜん鉄道新幹線橋上仮駅舎開業(H27.9)

③えちぜん鉄道高架駅構築中(H29.3)
③えちぜん鉄道高架駅構築中(H29.3)

④えちぜん鉄道高架駅開業後(2018(H30).9)
④えちぜん鉄道高架駅開業後(2018(H30).9)

                               ※福井県HPより
                               https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/tokei/tetudou-echizen.html
 【写真-2 北陸新幹線福井駅建設とえちぜん鉄道高架化の経緯】
 
 

4. 金沢-敦賀間で採用した技術

① 鉄道・道路一体橋りょう

九頭竜川橋りょう(延長414m)は、新幹線で初めてとなる鉄道・道路一体橋を採用した。
橋脚を鉄道と道路で共用し、上部工は鉄道と道路で別に桁を架設している。
これにより、それぞれ単独で橋脚をたてる場合に比べ約7%の工事費を縮減した(写真-3)。
道路橋では凍結防止剤が散布されるため、一般的な鉄道橋では考慮しない塩害対策も考慮して設計している。


【写真-3 九頭竜川橋りょう】

 
② 斜杭基礎

金沢-敦賀間は、日本海沿いの平野部で一部軟弱な地盤を通過する。
従来軟弱地盤で用いられてきた場所打ち杭や鋼管ソイルセメント杭を鉛直に施工する基礎では、水平剛性を確保することが難しく、新幹線の本線構造物としては初めて斜杭基礎構造を採用した(図-3)。
採用にあたっては、模型振動実験、耐震設計手法の提案、杭頭接合構造の開発などを行った。
 
「地震時の列車走行安全性」を有する構造物を完成させた点が評価され、2022(令和4)年度土木学会技術賞を受賞した。


【図-3 斜杭基礎の制振効果メカニズム】

 
③ プレキャストラーメン高架橋

福井駅の北側に位置する福井開発(かいほつ)高架橋では、JR北陸本線と、えちぜん鉄道に挟まれた狭隘な箇所であることに加え、新幹線工事の前にえちぜん鉄道の高架化工事が実施されたことから、新幹線工事期間が限定されるという厳しい条件の工事であった。
 
そのため、新幹線として初めてプレキャストラーメン高架橋(LRV工法)を採用した。
基礎杭、地中梁および柱下端は従来工法で構築し、柱、梁は工場で製作した部材を運搬して現地で組み立てるフルプレキャスト、床版部は工場製作した部材と現場打ちコンクリートを組み合わせたハーフプレキャストとして施工環境に合う工法を採用した(図-4、写真-4)。
これにより、大幅な工程短縮が図られた。
 
国内初となるフルプレキャスト工法の採用、難易度の高い施工条件の中でコンクリートの品質を確保しつつ省力化と工期短縮を実現したこと等が評価され、2021(令和3)年度土木学会技術賞を受賞した。

【図-4 プレキャストイメージ】
【図-4 プレキャストイメージ】
【写真- 4 プレキャストスラブ組立状況】
【写真- 4 プレキャストスラブ組立状況】

 
 

5. 金沢-敦賀間の駅

金沢-敦賀間の各駅では、駅の所在地となる自治体に作成していただいたデザインコンセプトをもとに駅舎のデザイン案を作成し、地域の皆様に親しまれる駅となる取り組みを行っている。
 
駅の内装は、各駅のデザインコンセプト等に基づき、地域の特色を表現するため、可能な範囲で県産材等を取り入れたデザインとしている。
 
また、主要案内は4ヵ国語表記としていること、授乳などにも利用しやすい多目的室を設けるなど、ユニバーサルデザイン(UD)を考慮した設備を積極的に採用している。
 
① 小松駅

「ふるさとの伝統を未来へつなぐ『ターミナル』」をデザインコンセプトとし、雪をまとった霊峰白山の山並みを表現して立体的・多面的に構成したデザインで、小松の歴史と未来を融合するイメージである。
 
コンコースには小松の伝統工芸品や、県産木材・日華石といった地場産材を取り入れ、「小松らしさ」を感じられる空間としている(写真-5)。


【写真-5 小松駅 ガラス面に市松模様で配置した日華石】

 
② 加賀温泉駅

「加賀の自然と歴史、文化を見せる駅」をデザインコンセプトとし、温泉郷や城下町に見られる伝統的な和の様式をモチーフとして風情と歴史を感じさせるデザインとなっている。
 
コンコースでは加賀特有の赤瓦を待合室に採用し、柱には県産木材を使用することで加賀らしさを演出した。
また、山中漆器の挽きのイメージを壁上部に施したデザインとしている(写真-6)。


【写真-6 加賀温泉駅 コンコース】

 
③ 芦原温泉駅

「あわらの大地に湧き出(いで)る贅(ぜい)の駅」をデザインコンセプトとし、全体を落ち着いた色と木調で仕上げ、趣のある和を強調したイメージとしてあわら温泉の癒しと旅情を表現した。
 
コンコースでは温泉街らしい和の趣ある空間とし、中央部に柔らかな間接照明を施した折り上げ天井をデザインすることにより、暖かみのある室内空間を演出している(写真-7)。


【写真-7 芦原温泉駅 コンコース】

 
④ 福井駅

「太古から未来へ~悠久の歴史と自然がみえる駅~」をデザインコンセプトとし、唐門をモチーフとした木調のルーバーと明るく開放的なガラス面の組み合わせにより、福井の歴史を感じさせるデザインとしている。
 
ホームは、トップライトからの木漏れ日のような光とともに天井のルーバーと床の木調タイルにより、ゆっくりとくつろげる空間となるよう配慮されている(写真-8)。


【写真-8 福井駅 ホーム階】

 
⑤ 越前たけふ駅

「伝統・文化を未来につなぐシンボルとしての駅」をデザインコンセプトとし、越前市に飛来するコウノトリをモチーフとして越前市の美しい自然環境を未来へつないでいくシンボルとなる駅をイメージしている。
 
コンコース中央部の天井には越前和紙の技法である「流し漉(す)きの動きをダイナミックに表現した和紙照明を設置し、全体を落ち着いた色調でデザインしている(写真-9)。


【写真-9 越前たけふ駅 コンコース】

 
⑥ 敦賀駅

「空にうかぶ~自然に囲まれ、港を望む駅~」をデザインコンセプトとし、敦賀湾の波の煌めきを表現して豊かな自然を感じられる駅をイメージしている。
 
ホームは島式2面4線で幅が広く、ホーム空間が暗くならないよう天井からの光を採り入れる窓(トップライト)を設置している。
トップライトは敦賀市の鳥であるユリカモメの羽をモチーフに、未来に飛翔するイメージとしている(写真-10)。
 
また、終着駅となることから、大阪・名古屋方面の在来線特急電車との乗り継ぎを考慮し、1階に在来線が乗り入れる構造となっている。
新幹線ホームがある3階の屋根までの高さは約37mあり、整備新幹線では最大規模の駅である。
円滑な乗り換えにあたり、新幹線ホームは上下線各7台のエスカレーターを設置、乗り換え用自動改札機は19通路あり、新幹線と在来線の乗り換え通路数として整備新幹線最多である(写真-11)。

【写真-10 敦賀駅 外観】
【写真-10 敦賀駅 外観】
【写真-11 敦賀駅 乗換改札】
【写真-11 敦賀駅 乗換改札】

 

6. 開業に向けた機運醸成・情報発信

北陸新幹線(金沢-敦賀間)では、開業に向けた機運醸成の取り組みを行ってきた。
 
2023(令和5)年度実施した取り組みとしては、5月27日芦原温泉駅においてレール締結式が盛大に執り行われ、金沢-敦賀間のレールが1本につながった(写真-12)。
 
9月22日から12月8日まで実際に新幹線車両を用いた走行試験を行う総合監査・検査を実施し、10月1日には、各駅にてW7系電車の入線セレモニーが開催された。
敦賀駅の入線セレモニーでは、全駅最多の約700 名が参加しお出迎えするなど、非常に盛況で開業に向けた機運の高まりを感じさせるものとなった(写真-13)。

【写真-12 芦原温泉駅 レール締結式】
【写真-12 芦原温泉駅 レール締結式】
【写真-13 敦賀駅 W7 系入線セレモニー】
【写真-13 敦賀駅 W7 系入線セレモニー】

 
2月には延べ8日間試乗会を開催したところである(写真-14)。
 
これらのイベントは、YouTube、Xなどを通じて情報発信しており、より一層の機運醸成の取り組みを行っている。


【写真-14 敦賀駅 試乗会】

 

おわりに

金沢-敦賀間の建設にあたっては、沿線地域をはじめとした皆様のご期待に応えるべく、機構の技術力を結集して工事を進めてきた。
新たな技術の採用や関係各所のご協力をいただくことで、完成・開業を迎えることができた。
 
これまでの関係各所のご支援、ご協力に心より感謝申し上げるとともに北陸新幹線が地域の皆様に親しまれ、北陸地方のさらなる発展に寄与することを期待したい。
 
 
 

独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
新幹線部北陸新幹線課 総括課長補佐
永利 将太郎

 
 
【出典】


積算資料2024年4月号

最終更新日:2024-06-24

 

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