ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM&i-Construction > 地方発! 建設DXチャレンジ事例「DXは難しくない!」若手による意識変革で建設DXが次々に実現

生産性の向上に向けてi-Constructionへ

和歌山県有田市にある木下建設株式会社は、1956年の創立で70年近い歴史を刻むが、下請けによる重機土木工事を長らく行ってきており、元請工事の経験は10年ほどと言う。
築き上げた信頼の力で、現在では、約60億の売上高の半分を元請け工事が占めるようになった。
社員数は70名弱を数え、その内で重機土工のオペレーターが半数の35名程度在籍している。
 
同社がICT施工の導入を開始したのは8年前、社長より生産性の向上が経営課題に挙げられてからだ。
8年間の取り組みの成果は、一人当たりの生産性が2倍近くに上がった実績が証明している。
それを可能にした改革を中心となってけん引してきた山田裕明専務取締役本部長に伺った。
 
「生産性向上に向けた施策を始める前は、ICTに全く関心のない会社だったのです。
国土交通省が『i-Construction』を提唱したのが2016年ですので、ほとんど同時期にスタートしました。
自社のみで全てを進めるのは容易ではないので、まずはパートナーシップを結んでくれる会社を探しました。
時の企業動向から、コマツが『i-Construction』を主導していくのでは、という読みでコマツに相談し、今では、コマツの子会社であるEARTHBRAINとの協業にまでつながっています」
 
 

若手社員を対象にしたICT施工の講習会を開始

木下建設では、同じく民間企業とのパートナーシップにより、建設業3Dプリンターの活用や現場のイメージアップ施策も実施していったが、そうした積極的な姿勢が実を結んだのが令和2年度「i-Construction大賞」優秀賞受賞だ。
こうした事績を上げる原動力になったのがICTへの積極的なチャレンジだ。
当初はICTの取り組みは社内でも一部の社員に限られていたが、やがて、コマツ・EARTHBRAINの両社による講習会へと発展していった。
山田専務は、開始時の状況を次のように語る。
 
「当初は、EARTHBRAINの各種ICTソリューションを用いた講習会を社歴上位のベテラン社員を対象に行っていきました。
しかし参加者が不在で講習会自体が開かれないこともあるなど、取り組みの効果がなかなか広がっていかなかったのです。
そこで2023年11月から若手中心の講習会に方針転換し、19歳~27歳の7人の社員を対象に、各現場の実際の課題をテーマにした習得機会を設けました。
1年間で10回開催しましたが、それまで多数を占めていた「難しい」という感想が、若手に替えてから「意外に簡単」という感想に変わったのです。
それぞれが興味をもって臨んでいて、現場で使ってみて分からない点を講習会の場で質問するなどして習熟度を上げています」

座学でソフトウエアの操作を学ぶ
座学でソフトウエアの操作を学ぶ
現場ヤードでドローン実習
現場ヤードでドローン実習

 
 

現場をケーススタディーに。新技術にチャレンジ!

若手中心の講習会の効果は既に現場で成果を上げている。
山間部で遠隔臨場・ICT施工に必要な通信電波が微弱な「有田川河川災害復旧外合併工事」の現場もその一つだ。
ここではStarlink Wi-FiにEARTHBRAINの通信不感地対策Wi-Fiパックを組み合わせて不感地を解消し、遠隔臨場・ICT施工に加え電話連絡やLINE・Skypeなどの通話アプリも使える環境を整備。
さらに、EARTHBRAINの「Smart Construction Edge 」などで現状を点群化しデジタルツインの施工現場を作成、並行して発注者である和歌山県と情報共有の場を設けながら、災害復旧に求められる短時間で効率的な仮設計画をわずか4日間で完了した。
本工事は2023年12月に着工しており、参加した若手社員は、前述の講習会を2度受講しただけで、現場からの要請に学んだ内容を生かしつつ対応し実地でさらに経験を重ねた。
山田専務は「講習会はただ受け身で聞くのではなく、自分の現場の課題を頭に置きながら自分事として主体的に取り組んでもらうようにしています。講習会で学んだ内容を元に、実際に運搬計画を立てる際に『Smart Construction Simulation 』で適正なダンプトラック台数を算出したり、『Smart Construction Fleet 』の位置情報発信デバイスをダンプトラックに後付けで搭載し、運搬上の問題や滞留の解消を解決していきました。それぞれの現場の課題に合わせて異なるICT施工手法を用いています。あたかも現場を講習会のケーススタディーの場のように使いながら十分な対応ができています。若手が操作する時にベテランが経験に基づいた意見を言う場面もあって、相乗効果も出ていますね」と期待以上の成果について説く。
 
講習会で学んだ内容を現場でそのまま試せるため、学ぶ際も自ずと真剣さが増し、
「この課題は、このソリューションを使って解決できる」と、現場さながらに意見を交わしながら講習会自体も熱気を帯びていると言う。

低軌道周回衛星(Starlink)を活用したICT建機による施工
低軌道周回衛星(Starlink)を活用したICT建機による施工
Smart Constructionの各ソリューションを使用し施工計画を効率化
Smart Constructionの各ソリューションを使用し施工計画を効率化

 
 

協業パートナーとともに新たな建設DXに挑む

現場と直結した講習会が人材の質的向上につながり、経営課題である生産性向上に結実するサイクルが確立しつつある木下建設。
次年度の講習内容が重要になるが、山田専務はこう考えている。
 
「次は、中堅社員にICTソリューションの活用を広げる講習会を考えています。
内容的には、ICTソリューションを習得した若手社員を中心において社内横展開の仕組みづくりをしていくつもりです」
現在、講習はコマツとEARTHBRAINによるチームワークで、クラウドを活用しながら実施。
測量など対面によるレクチャーが必要な場合は現地で行う。
 
また、前述しているICT活用について、同社は土工以外での活用にも積極的に挑戦している。
その大きな取り組みの一部が在来工法に比べて格段の工期短縮になる3Dプリンターへの取り組みだ。
 
株式会社Polyuse(東京都港区)は建設用3Dプリンターを開発しているベンチャー企業であり、従来は現場打ちコンクリート工で対応していた構造物を、3Dデータを用いて現地にて自動で積層造形できる技術を持っている。
数年前からパートナーシップを結んでおり、交流を深めてきた(NETIS登録番号:KT-230174-A「建設用3Dプリンティング」)。
 
直近の国土交通省直轄工事においても、通常は現場で作成・設置すると1カ月ほどかかる歩道階段を、3Dプリンターの活用により4日間で仕上げたことで大幅な工期短縮につながった。
現状の公共工事においては採用ハードルが高いため、付帯構造物に限られているが、今後は対象範囲を広げて、さまざまな構造物を現場で活用できるように挑戦するつもりだ。
 
ICT施工の幅をますます広げる木下建設。
一人当たりのさらなる生産性向上とともに、2社による協業パートナーシップが同社のDX戦略をより高みに導くに違いない。

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025

最終更新日:2025-07-16

 

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