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DXの目的

西日本高速道路(以下、NEXCO西日本)では、働き方改革やカーボンニュートラルの推進など、様々な社会環境の変化に対応し、高速道路の安全・安心を最優先に、国民の皆さまの暮らしや経済活動を持続的に支えていくため、業務の在り方を見直し、進化をさせていくことが必要だと考えている。
 
この一環として、NEXCO西日本ではデジタル技術を活用することで、業務の効率化・生産性の向上を推進し高速道路事業を進化させることを目的として、“NEW ACE DXs”を定めている。
 
“NEW ACE DXs”とは、「NEXCO WEST」と“先進的な挑戦と進化がDX戦略を推進する”を意味する「Advanced Challenge and Evolution will drive DX strategy」から、組み合わせて定めており、NEXCO西日本グループの重点施策であるマインド醸成、基盤整備、人材育成、業務処理の効率化、業務・サービスの高度化について取り組むことで、図- 1に示す進化・変革につなげていく。
 
本稿ではこれまでにNEXCO西日本が取り組んできた“NEW ACE DXs”の主な事例について二つ紹介する。

【図- 1 NEXCO 西日本における高速道路マネジメントへの変革】
【図- 1 NEXCO 西日本における高速道路マネジメントへの変革】

 
 

〈事例1〉画像処理技術を活用した道路情報の収集・提供

1. 背景

道路管制センターでは、高速道路を利用されるお客さまからの通報や、高速道路を巡回する交通管理隊からの報告などを受け、CCTVカメラ映像を目視確認することで事故や落下物などの異常事象を認知し、道路情報板やハイウェイラジオなどを通してお客さまへ交通情報の提供を行っている。
 
道路管制センターにて道路状況の把握や処理対応を行う中で、昨今の豪雪による通行止めや逆走事例の増加などを背景に監視の重要性は高まっており、順次CCTVカメラの整備が進められている。
 
一方で、膨大な数のカメラを常時目視確認することは困難であり、カメラの増加に伴って交通管制業務の負担が増加していくことが予想される。
 

2. 異常事象検知システムの開発

上記の課題を解消すべく、事故や渋滞などの異常事象(以下、インシデント)について、画像処理技術を活用し、カメラ映像から自動的にインシデント検知を行い、道路管制センターのオペレーターへ通知を行うことで交通管制業務の負担軽減、並びにインシデントの早期検知と情報提供の迅速化を実現することを目指しシステム開発を行った。
 
システム概要と運用イメージを図- 2に示す。
取り扱うインシデントは、お客さまから情報提供のニーズが高い「渋滞」と、発生頻度が高く交通障害に繋がる「停止車両」および「落下物」とした。

【図- 2 システム概要と運用イメージ】
【図- 2 システム概要と運用イメージ】

 

3. システムの試行導入および展開に向けて

山陽自動車道の河内IC ~広島IC間を監視対象として試行検証を行った。
検証結果として、「渋滞」、「停止車両」、「落下物」について監視モニターに表示された事例を写真- 1に示す。
緑線の内側がシステムの検知領域であり、赤線が検知結果である。

【写真- 1 検知結果例(左:渋滞,中央:停止車両,右:落下物)】
【写真- 1 検知結果例(左:渋滞,中央:停止車両,右:落下物)】

 
「渋滞」については、左(下り)車線において発生した渋滞を検知したものである。
 
また、「停止車両」と「落下物」については、異常事象の対象物体が赤枠で強調表示され、それぞれ路肩停車中のワゴン車を検知したもの、本線上に落下しているポリバケツを検知したものである。
 
今後は、監視対象の路線拡大を視野に入れて、システムのさらなる精度向上に向けた仕様検討に努めていきたい。
 
 

〈事例2〉斜面防災技術の高度化、効率化

1. 背景

地球温暖化に伴う豪雨災害や台風被害は、激甚化・頻発化の一途をたどっている。
高速道路で発生する代表的な災害には、斜面の崩壊、地すべり、土石流、地震時の盛土の崩壊などがあり、近年の異常気象を考慮すると、これらに対する監視体制の強化がより一層重要になってきている。
 
従来の斜面監視では、現場に設置した伸縮計や雨量計などの計測データがデータロガー(データ格納機器)に蓄積され、送信装置から現場付近に設置した受信施設のパソコンへ無線で送信される。
現場計測データは、インターネットを介して道路管理者などが確認することができる。
 
これらのシステム構築には、計測機器とデータロガーの配線作業、受信施設の設置および受信施設までのインターネット接続工事などが必要となり、計測機器の設置開始からデータ監視を行うまでに一定の期間を要することが課題であった。
 

2. newronの開発

広範囲かつ同時多発的に発生する近年の降雨災害に対し、災害の早期予測および迅速な検知を行うために、無線センサを活用し、あらゆる構造物を常時監視するシステム「newron(NEXCO West Real-time Observation Network)」を、大阪大学と連携して共同開発を行った。
 
図- 3にnewronによる斜面監視システムのイメージ図を示す。

【図- 3 newron イメージ図】
【図- 3 newron イメージ図】

 
無線センサネットワークにより基地局に集約したデータは、自営の無線LANアクセスポイントから道路管制センターなどを結ぶ自営回線(光ケーブル)でサーバに送られ、各センサ機器の計測データは一つの画面で一元的に管理される。
このような計測システムを構築することにより、災害などの緊急時も通信回路が封鎖されることなく継続的な通信が可能となる。
 
本システムは設置・撤去・メンテナンスが容易な無線センサであり、斜面の変位や地下水位等の常時監視が可能となっている。
 

3. 観測事例および展開に向けて

西日本豪雨(平成30年7月)において、新名神高速道路 茨木千提寺ICの盛土においてRTK- GNSS(地表面変位計測)によって図- 4に示すとおり、約4.5㎜の変位を検知したことから緊急点検を実施し、写真- 2のような表層崩壊を確認したため応急復旧を実施した。

【図- 4 newron による変位観測結果】
【図- 4 newron による変位観測結果】
【写真- 2 変状発生状況】
【写真- 2 変状発生状況】

 
直接本線へ影響する事態ではなかったものの、異常の早期把握および応急復旧の迅速化により被害の拡大を最小限にとどめることができたと考えられる。
 
newronを用いることにより事務所で監視しているのり面の異常を早期に把握し、初期行動の迅速化に繋げることが可能となった。
また、異常がないことの確認も可能であり、現地点検の効率化・省略化にもつながると考えており、今後もモニタリングが必要な箇所への導入を検討していく。
 
 

おわりに

NEXCO西日本では、業務フローの大胆な刷新やAI技術などの新たなチャレンジに取り組むことで、創造的な高速道路マネジメントへの変革を遂げ、高速道路事業のさらなる安全安心の確保に繋げると同時に、お客さまサービスの向上などに寄与し、グループ全体の企業価値を最大化させていく。

 
 
 

西日本高速道路株式会社 経営企画本部 情報システム部
保全サービス事業本部 保全サービス事業部技術本部 施設部
写真提供:西日本高速道路株式会社

 
 
【出典】


 積算資料2025年8月号
積算資料2025年8月号

最終更新日:2025-10-20

 

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