- 2026-02-20
- 特集 防災減災・国土強靭化 | 積算資料公表価格版
はじめに
日本トイレ協会は、2019年(令和元年)11月に災害・仮設トイレ研究会(以下、「災害トイレ研」とする。)を設置し、災害時のトイレ環境をより良いものとするための研究と情報発信を行なっております。
本稿では、近年の災害における課題と仮設トイレをめぐる国際標準化の動き、さらに国内が抱える構造的問題を整理し、災害トイレ研として今後目指すべき方向性について考えます。
1. 災害時に露呈するトイレ環境の課題
国土交通省が推進した「快適トイレ」導入から今年で10年目となり、平常時の建設現場におけるトイレ環境は確実に改善、進展いたしました。
しかしながら、非常時や災害時におけるトイレ環境の整備は依然として十分とは言えない状況です。
2024年に発生した令和6年能登半島地震では、仮設トイレが避難所へ到着するまでの間、携帯トイレの使用経験が乏しい避難者が多く、使用方法が分からず苦慮する例が見られました。
また携帯トイレの備蓄がなく、発災直後には屋外での排泄を余儀なくされた避難所も確認されています。
そして仮設トイレが避難所敷地の屋外に設置される際には、照明の不足が夜間利用への大きな不安となります(図- 1,2)。
男女別トイレの 適切な距離や配置の確保も発災後からの慌ただしい状況下では容易ではなく、とりわけ発災後に雨や降雪のあった地域では、仮設トイレまでの動線の設計が不十分であったことは避難者に大きな負担を強いることとなりました。
利便性と安全性の観点から、これらの事例は災害発生前の段階から、トイレの設置場所や導線を含めた計画の必要性、今後の課題を改めて示すものと言えます。
2. 携帯トイレの課題と標準化への動き
携帯トイレはメーカーによって凝固剤の入れ方や形状、パッケージの構造などが大きく異なります。
能登半島地震では、「袋に切り込みがなくハサミも手元にないため開封ができなかった。」「製品によって使用方法が異なるため避難所に届いた複数種の携帯トイレの使用方法を避難所内で共有することが困難であった。」、といった声が挙がっています。
非常時に誰もが確実に使用できるよう、操作性や表示方法の統一など、標準化の重要性が高まっています。
3. 国内外の仮設トイレ仕様の差異と日本の特殊性
海外、特に欧州では大型キャビン型の仮設トイレが普及し、室内空間が広く体格の大きい作業者も利用しやすい設計となっています(図- 3)。
一方、日本では気候条件、設置環境、文化などが異なるため、独自の発展を遂げていますが、国内の仮設トイレにはJIS規格が存在せず、品質管理や運用基準を統一する工業会も整備されていないため、発災時に政府が仮設トイレを調達する際にも、標準化された基準に基づく選定が困難な現状となっています。
4. 国際標準化の動向と国内への影響
現在、国際標準化機構(ISO)において、下水道に接続されていない移動式トイレキャビンに関する国際標準化の議論が進められています。
この議論では、便槽容量、衛生状態、提供基数、汲取頻度、消毒方法など、製品およびサービスに関する包括的な要件が検討対象となっています。
一方で、国際的な議論の中で示される基準値や運用の想定は、欧州や北米を中心とした利用環境を前提とするものが多く、日本の仮設トイレの利用実態とは必ずしも一致しません。
例えば日本国内で使用されている仮設トイレは便槽容量が300〜500リットル程度と比較的大容量なものが多いのですが(図- 4)、国際標準 化の議論で進められている便槽の容量は87リットルであり、また欧米では仮設トイレの汲取の頻度についても設置場所や利用期間、利用人数、地域の体制に応じて柔軟に運用されています。
また日本は世界でも有数の地震頻度の高い国であり、大規模災害の発生時には停電・断水を前提とした環境下で、多くの仮設トイレを長期間使用するという特有の条件を抱えています。
このような背景を十分に考慮せず、海外の利 用実態を基にした国際的な基準がそのまま国内に適用された場合、今後の現場での仮設トイレの運用や災害時の行政対応に混乱が生じる可能性も否定できません。
そのため、国際標準化の動向を注視しつつ、日本国内の実情や災害対応の経験を踏まえた意見整理と情報発信を行うことが重要であり、国内における関係者間の共通認識づくりが今後ますます求められています。
5. 工業会不在がもたらす課題と標準化への期待
ISO審議では、各国のステークホルダーの意見集約が求められますが、日本には仮設トイレ分野を代表する工業会が存在しません。
そのため、国内メーカーやレンタル事業者、汲取事業者の意見を統一的に取りまとめて国際標準化に反映させる仕組みが十分に機能していない状況です。
このままでは、日本の産業構造や利用実態にそぐわない基準が採択されかねず、結果として市場や行政対応の混乱を招く恐れがあります。
2024年に内閣府(防災担当)が改定した「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」では、スフィア基準(人道憲章と人道支援における最低基準)を採用し、避難所におけるトイレ数の目標を「20人に1基」と定めるなど、国内でも基準の明確化が進んでいます(図-5)。
仮設トイレに関しても、国内外の基準整合性を図る上で、統一された国内基準の策定が求められています。
災害トイレ研としても、災害発生時の設置・維持管理に関する仮設トイレの流れの共通課題を整理し、必要な基準作りを支える役割を果たしていく必要を強く感じています。
6. 震災の知見を国際標準へ引き継ぐために
これまで日本では、民間が持つ災害に対する知見が国際標準化につながった例もあり、災害対応に関する視点や技術は世界的にも注目されています。
繰り返し大規模災害を経験してきた日本の実情と教訓を国際標準へ適切に反映させることは、国際社会への貢献であると同時に、国内の災害対応力向上にもつながります。
おわりに
日本は災害が多く、停電・断水を前提としたトイレ利用が避けられない国です。
大規模災害が発生した場合は、普段、建設現場で使用されている仮設トイレの余剰在庫が被災地に送られるケースがほとんどです。
現状の余剰在庫の内訳では、発災直後は避難所等に和式トイレが出荷される確率がどうしても高くなります。
今後も洋式快適トイレの流通を増やし、余剰在庫においてもその比率を増やしていくことが重要です。
建設現場のトイレの質を上げることは、発災時のトイレの質を上げることに繋がります。
そして国際標準化が進む現在、国内メーカーや関係機関が共通の認識を持ち、標準化や品質向上に向けて連携することが不可欠です。
災害トイレ研では、これまでの調査結果と知見を基に仮設トイレのさまざまな課題解決と未来に向けた取組みを先導する工業会設立も視野に入れつつ、自治体や関係機関との協働を一層強化し、より良いトイレ環境の実現に向けた取組みを続けて参ります。
【出典】
積算資料公表価格版2026年3月号

最終更新日:2026-02-20
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