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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 河川護岸工事におけるICT地盤改良の適用事例

はじめに

近年,建設業全体で抱える問題の一つとして,少子高齢化による労働人口の減少,労働基準法の改正による時間外労働の上限規制等が挙げられる。
いずれの問題に対しても省人化・省力化による生産性の向上が求められている。
地盤改良工事においても,その解決策の一つとして,ICT技術の活用が期待されている。
 
本稿では,表- 1に示すような地盤改良分野でのICT 技術の概要を述べるとともに,ICT 技術を積極的に活用した施工事例について紹介する。
 
当社ICT技術(Pictureシリーズ)の一覧

表-1当社ICT技術(Pictureシリーズ)の一覧

 
 

1. 地盤改良分野におけるICT管理技術の概要

1-1 施工位置誘導システム:Picture Navi

施工位置誘導システム:Picture Naviにおける施工機誘導画像を図-1に示す。
本システムはGNSSでの誘導に加え,都市部・狭隘部等のGNSS測量に支障が生じる環境である場合は,トータルステーションとの連動も可能である。
誘導を行う際は,施工管理用のCAD図面を取り込んだ画像内に施工機械を図示することで,画像上で杭芯との誤差の確認ができ,確実な誘導を行うことが可能である。
また,図面上に造成完了を示すスタンプを施すことで,一目で打設位置の判定が可能であり,打設位置の間違いや打ち忘れを防止することができる。
このシステムにより,陸上・水上,都市部・地方を問わず全ての現場で迅速な位置誘導が可能である。
 
Picture Navi 施工機誘導画像

図-1 Picture Navi 施工機誘導画像

 

1-2 3 次元モデル化システム:3D Picture View

3 次元モデル化システム:3D Picture Viewにおける施工管理画像を図-2に示す。本システムはPicture Naviで作成した2次元図面に,施工管理装置からの施工情報を加え,3次元モデルとして施工の見える化を可能としたシステムである。
土質柱状図や地層図とのリンクにより, 改良体の着底深度や着底層の変化点を目視で管理することが可能である。
 
3D Picture View 施工管理画像

図-2 3D Picture View 施工管理画像

 

1-3 自動判定施工管理システム:Picture Watch

自動判定施工管理システム:Picture Watch における施工管理画像を図- 3に示す。本システムは従来の施工管理システムに,改良体の品質に関わるスラリー流量,圧力,軸回転数の数値を監視する機能を加えることで,不具合発生時に警告が表示される。
あらかじめ設定した管理値を一定時間逸脱した場合,プラント管理室および施工機の管理画像上に警告が通知され,当該区間の再施工を促す。
 
Picture Watch 施工管理画像

図-3 Picture Watch 施工管理画像

 

1-4 遠隔画面表示システム:Picture Eye

従来,施工管理に使用する画像は,施工機械の運転席内,もしくはプラント管理室などに配備されていた。
そこでそれらの画像を,施工管理者が直接確認できる箇所まで転送することを目的とした遠隔画面表示システム:Picture Eyeを開発した。
システムの導入により,事務所内に設置したモニタにはPicture NaviおよびPicture Watchの画像が表示され,各施工箇所とのリアルタイムでの情報の共有が可能となった。
 

1-5 ICT 施工に必要なデータ出力

前述したシステムを使用することで,国土交通省が定めた「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」第8編固結工(スラリー撹拌工)編で求められている出来形管理資料を作成することが可能である。
 
 

2. 適用事例

2-1 現場概要

東京都東部を流れる荒川と中川の背割堤である既設護岸では,老朽化と地盤沈下により変形が生じている。
このため,護岸の補強および耐震化を目的として,堤防の改修工事が進められている。
本事例は新設の自立式鋼管矢板を打設するとともに,護岸前面の地盤を改良することで地震時の液状化の防止および受働土圧増加を目的とした工事である。
本工事は事業規模が延長7.5kmと大規模であり,生産性が良く経済性に優れる地盤改良工法が求められた。
高い施工能力と新設鋼管矢板との密着施工が可能な機械撹拌工法と高圧噴射撹拌工法の特徴を併せ持つハイブリッドな工法として,WHJ-In工法が選定された。
 
しかし,内部河川の水上での施工では①水上に目杭を設置できないため打設位置への誘導が困難,②掘り起こしての出来形の確認が不可能,③施工情報が施工機を搭載した台船上でしか見られないという課題がある。
このような現場条件の中,定められた管理項目を満足するためICT技術を導入し,生産性の向上を図った施工事例を以下に紹介する。
 
WHJ-In施工全景

写真-1 WHJ-In施工全景

 

2-2 施工位置への誘導

従来の内部河川の工事では水面上に施工位置が明示できないため,打設箇所への誘導の際は施工延長に沿って配置された測点より巻き尺などを用いるという方法や,トータルステーション等の測量機器で計測する方法を行っていた。
しかし,いずれの方法でも打設箇所への誘導に時間を要し,また工事管理者が計測に立ち会うための待ち時間が生じるなど,生産性が低下する原因となっていた。
さらに,出来形確認のための掘り起こしが不可能であることから,打設位置の間違いがないように二重・三重の確認を行うという対応が取られていた。
 
このため,本現場では図-4に示すような機材構成で施工位置誘導システム:Picture Naviを導入した。
このシステムの導入により,操船オペレータによる操作のみで正確な打設位置への施工機誘導が可能となった他,打設位置の事後確認も容易となった。
 
Picture Navi 機材構成図

図-4 Picture Navi 機材構成図

 

2-3 施工情報の自動管理

WHJ-In工法は2軸の機械撹拌と翼先端から超高圧で噴射される固化材スラリーによる撹拌を併用することで,大口径の改良体を造成する工法であり,管理項目は,深度,回転,電流と,2軸2系統分のスラリー流量と圧力の7項目である。
施工管理者はこれらの項目を同時に管理しなければならない。
 
この際,オペレータの目視管理による人的ミスを減じるために,本現場では自動判定施工管理システム:Picture Watchを導入することで,品質の確保をより確実かつリアルタイムなものとし,再施工などの手戻り作業の防止へと繋がった。
 

2-4 潮位変化への対応

内部河川で台船施工を行う場合,常に変化する潮位への対応が必要である。
所定の深度で均一な改良体を造成するためには,施工開始時,撹拌翼貫入完了時,撹拌翼引抜完了時の度に深度を補正しつつ施工を進める必要がある。
従来の現場管理方法では,陸側に設置した水準測量器を用いてあらかじめ決められた位置に深度を合わせる作業が必要なため,上で行う地盤改良工事と比較し生産性が低下する。
加えて,刻々と変化する潮位を考慮しなくてはならないため,ヒューマンエラーによる計測ミスが発生するリスクを孕んでいる。
 
これらの問題を解決するため,本現場では,図-5に示すような潮位変化をPicture Watchへ取り込み,深度の補正を自動で行えるシステムを導入した。
本システムにより,センサーから得られた潮位情報を基に,潮位変化を考慮した施工が可能である。
施工開始時からの深度情報を管理装置画像へ表示させる機能や,潮位の変化量情報を施工機駆動装置と連動させる機構を備えており,改良体造成時に潮位の変化が生じた場合でも,品質を一定に保持することが可能となった。
 
 潮位連動施工システム 概要図

図-5 潮位連動施工システム 概要図

 

2-5 施工情報の共有

本現場は施工機械,プラント設備などが集約された2隻の台船による施工を行っており,施工管理者が常駐する事務所からはどちらも最大200m程度離れており,施工管理者がリアルタイムかつ同時に施工状況を把握することが困難であった。
また,Picture Watch 内の機能で不具合を検知した際,施工管理者が円滑に指示を行うためには現在の施工情報を共有する必要があった。
 
これらの問題を解決するため,本現場では施工台船2隻と事務所1箇所を繋ぐネットワークを現場内に構築し,遠隔画面表示システム:PictureEyeを導入した。
その使用状況を写真-2に示す。
このシステムの導入により,事務所内に設置したモニタにはPicture NaviおよびPicture Watchの画像が表示され,施工管理者は事務所にいながら,各台船の施工状況を把握することが可能となった。
 
Picture Eyeによる施工管理画面集約表示

写真-2 Picture Eyeによる施工管理画面集約表示

 

おわりに

今後,建設業界では生産性向上や,業務の省人化・省力化がより一層求められると予想される。
 
この課題に対しICT 技術を導入することで,直接的に施工効率を向上させるほか,品質の担保,現場内での情報共有を通して手戻りや再施工の防止を図ることで,間接的な生産性の向上にも寄与しているものと考える。
 
本稿に記載した施工事例はその足掛かりであり,品質不良が生じること無く工事を終えられたことで,一定の実績が得られたと考えている。
 
今後ICT技術の発展と拡充を行うことで,生産性の向上に加え,施工技術の信頼を得られることを目指した開発を進めていく所存である。
 
 
 

小野田ケミコ株式会社 開発本部 技術開発部 工法開発グループ 
梶原 裕太

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年10月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-26

 

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