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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > 「徳島県避難所・快適トイレ実践マニュアル」の策定について

はじめに

東日本大震災や熊本地震などの過去の大規模災害時には、避難所のトイレが劣悪な衛生状態になったといわれています。
トイレの使用を敬遠した避難者が、水分の摂取や食事を控えるようになり、エコノミークラス症候群を発症するなど、トイレ問題が災害関連死を招く一因といわれています。
 
このような災害時におけるトイレ問題は、被災者の生命や健康を守るために、最優先で解決すべき事項であり、迅速で適切な対応が求められます。
 
そこで、本県では、平成29年に全県的な規模による体系的、計画的なトイレ対策が必要であると考え、災害時のトイレ確保や環境改善の取組みを、自助・共助・公助が一体となって力強く推進し、避難者が、安心して快適に過ごせる環境の実現を目指す「徳島県災害時快適トイレ計画」(以下、「快適トイレ計画」という)を策定するとともに、本計画を実効性のあるものとするため、「アクションプラン」を策定し、避難所におけるトイレ対策を進めてきました。
 
さらに、コロナ禍を踏まえ、避難所の衛生対策、とりわけトイレ対策については、引き続き強力に推進する必要があると考え、アドバイザーとして特定非営利活動法人日本トイレ研究所にご協力をいただき、令和4年3月19日に避難所におけるトイレ対策をより実効性あるものにするため、徳島市と連携した検証訓練を実施し、その結果を踏まえ、令和4年6月に「徳島県避難所・快適トイレ実践マニュアル」(以下、「マニュアル」という)を策定・公表しました。
 
本マニュアルは、時系列に沿って構成・整理しており、「事前対策」、「初動期(災害発生〜24時間)」、「展開期(災害発生後2日目〜約3週間)」、「安定期(災害発生後3週間目以降)」といった災害発生からの時間の経過に応じた災害用トイレの設置場所や設置方法の確認事項や注意・配慮すべき点をまとめています。
 
また、マニュアルは今後も訓練や実際の災害対応においてその内容を検証し、必要に応じて見直しを行うものとしています。
トイレ単独の問題を解決するだけに留まらず、避難所全体の環境改善につなげていくことが、災害関連死を防ぐことにつながると考えています。
 
 

1.計画の概要

マニュアルは、避難所の設置・運営を担う方々(以下、「避難所設置運営者」という)が実施するトイレの確保や環境改善のための取組みについてまとめており、時系列に沿って構成・整理することで、具体的にどのようにすればよいのかを説明しています。
 

(1)事前対策
  • 避難所ごとの被害状況の想定を踏まえた災害用トイレ必要数の確保
  • 衛生管理やトイレの快適性の視点を含む訓練等の実施
  • トイレットペーパーや衛生・消毒用品を含めた必要な物資の備蓄

 

(2)初動期(災害発生〜24時間)
  1. 既設トイレの安全確認
  2. 携帯・簡易トイレ等の設置場所の選定や設置方法の確認
  3. 衛生管理の徹底や快適環境の維持についての注意事項

 

(3)展開期(災害発生後2日目〜約3週間)
  1. 仮設トイレやマンホールトイレの設置場所の選定や設置方法、し尿処理についての確認
  2. 高齢者や障がいがある人等、要配慮者や、女性等が使いやすい環境の整備
  3. オストメイトトイレの設置

 

(4)安定期(災害発生後3週間目以降)
  1. 高齢者や障がいのある人等、要配慮者のニーズに応じた専用のトイレへの改善

 

(5)参考資料

参考資料として、災害時快適トイレの標準仕様、被災状況下でのトイレの個数の目安、避難所において快適トイレを運営するための情報共有シート(例)、徳島市と連携して実施した「トイレ対策検証訓練」の結果を示しています。
 
 

2.事前対策

2-1 避難所における事前対策

マニュアルでは、避難所におけるトイレ対策において、事前対策の重要性を記載しています。
特に避難所設置運営者と市町村災害対策本部が速やかに意思疎通を図ることが、円滑な避難所運営に必要となるため、「トイレに関する情報共有シート」の作成について記載しています(マニュアルでは、参考資料として、情報共有シートの例を示しています)。
 
大規模災害時には、情報の収集・伝達・共有が難しくなることから、人員や物資が不足して初期対応に大きな支障が生じるだけでなく、情報不足から、避難所において必要とする物資が必要分届かないことが考えられます。そのため、情報共有シートを有効に活用し、災害時に混乱することなく情報の共有を行い、限りある資源の有効活用を図り、よりよいトイレ環境を保つための運営を行うことが重要です。
 

(1)訓練の実施について

災害時に迅速に災害用トイレを設置し、避難所が円滑に運営できるよう、避難所設置運営者等が連携し訓練を行うことが重要です。訓練は、災害用トイレの組み立て方、利用方法について確認するだけでなく、課題を見つけて事前に対策し、改善するための機会となります。
 
また、災害の時系列に応じて起きる問題を把握し、事前に検討しておくことも重要です。そのため、訓練で行ったことや、感想、意見等を共有する場として、振り返りの時間を設けることで、訓練参加者それぞれの視点から問題の対応策を議論しておきます。
 

2-2 備蓄について

備蓄物資について、避難所の規模や地域、時期等に応じて必要な量や内容が変わるため、必要となる物資例の一覧を示しています。要配慮者(高齢者、障がい者など)が、安心して避難生活ができるよう、必要な物資等については事前の準備が重要です。
 
南海トラフ巨大地震が発生した場合は、地震の被害地域以外からの調達も行っていきますが、地震の被害が大きいほど物資が不足することが予想されるため、地域での備蓄力についても引き続き高めておく必要があると考えます。
 
災害用トイレの備蓄について、本マニュアルでは「携帯トイレ」、「簡易トイレ」、「仮設トイレ」、「マンホールトイレ」、「オストメイトトイレ」を記載しています。これらの災害用トイレの特徴等を踏まえ、時間経過や被災状況、避難者の人数等に合わせて複数の種類の災害用トイレを組み合わせて使うことで、トイレを切れ目なく確保することが必要です。そのために、避難所設置運営者は、事前に対策として、使用するトイレについて整理しておくことが求められます。
 
 

3.初動期(災害発生〜24時間)

3-1 既設トイレの一旦使用禁止

発災直後の避難所では、まず既設のトイレを空間的な安全確認ができるまで一旦使用禁止にします。
 
避難所の安全性が確認出来た場合は、避難所全体のレイアウトも考慮し、避難者がよく使用するトイレから安全確認を行い、災害用トイレを設置するなど優先順位を決めておく必要があります。
 
なお、無秩序にトイレを使用してしまうと、断水状況下では掃除をすることもままならないため、ルールの徹底が避難者に求められます。
発災直後に使用する災害用トイレは、携帯トイレや簡易トイレを設置することが考えられます。
 
災害用トイレの設置が完了した後は、トイレの使用再開について、避難者へ周知します。
 

3-2 災害用トイレの設置

災害時は、不特定多数の人が避難所に避難します。
多様な避難者のニーズに対応できるよう災害用トイレを準備し、トイレ環境を整えることが大切です。
 

(1)携帯トイレの設置(既設トイレの活用)

既設のトイレ空間が使用出来る場合は、既設のトイレの個室を活用します。
普段から使用している個室をそのまま使うことは「我慢をさせない避難所運営」を行う上で重要です。
既設の個室は、用を足すだけでなく、安心して過ごすことができる空間でもあるため、有効活用します。既設のトイレを有効活用するうえで必要となるのは、携帯トイレです。
携帯トイレは、便器の底に溜まっている水が付かないよう、便座を上げて、便器そのものにポリ袋を被せ、便座を下ろしてから取り付けます。
 

(2)簡易トイレの設置

トイレの個室空間が使用できない場合や、既設のトイレ空間はレイアウトが固定されているため、臨機応変な対応がとりにくい場合は、簡易テント等を使用し、簡易トイレを設置します。
 
簡易トイレのなかには、便座と汚物の処理が一体となったラッピング式トイレも存在します。
ラッピング式トイレは熱処理を行い、自動で蓄便袋を圧着することができます。
発電機の使用や圧着までに一定の時間を要すること、専用の蓄便袋の交換作業が必要であることなど注意すべき点はありますが、衛生的に極めて優れていることから、感染症対策として使用することができます。
 

写真-1 令和4年3月19日訓練 携帯トイレ設置の様子
写真-1 令和4年3月19日訓練 携帯トイレ設置の様子
写真-2 令和4年3月19日訓練 簡易トイレ用テント設置の様子
写真-2 令和4年3月19日訓練 簡易トイレ用テント設置の様子

 
 

(3)訓練の必要性

避難所では災害用トイレ等の備蓄が進められていますが、その使用方法について十分に把握しているのは、市町村職員や防災訓練で災害用トイレ設置の訓練をした方や、個人で災害用トイレを備蓄している方等になると予想されます。
災害用トイレは日常生活で使わないため、使用については、ルールを定めて衛生的に利用するように注意が必要です。ルールや使用方法が守られなければトイレは劣悪な衛生環境となります。
 
そのため、災害用トイレ使用の訓練実施が必要不可欠です。訓練で使用していれば、避難者のみの場合でも衛生的なトイレの運用が可能となります。
また、小さな子どもや高齢者にも見やすい、使用方法を記した注意喚起の「張り紙」を整備することも重要です。
 
 

写真-3 令和4年9月1日 徳島県総合防災訓練
(快適トイレ設置運用訓練)の様子

写真-3 令和4年9月1日 徳島県総合防災訓練(快適トイレ設置運用訓練)の様子

 

3-3 災害用トイレの設置におけるその他配慮事項

避難生活では長期間、避難者に負担が強いられるため、女性、子ども、お年寄りや障がい者等要配慮者に意見を求め、トイレの安全性や快適性を高めることに努めます。
トイレの設置数は女性用を男性用に比べて多くすることや、防犯ブザーを設置すること、トイレ内に生理用品やサニタリーボックスを設置するなど快適な環境になるように避難所の状況に合わせて整備を行います。
 
また、避難所設置運営者は男女のペアで意見を聞くなど、トイレを利用する方が意見や相談を行いやすい体制を整えることが必要です。

 

3-4 災害用トイレの衛生管理・快適環境の維持

感染症予防の基本として、避難所内すべての人に「手洗い」を励行させます。
手洗い用の水の確保が難しい場合は、手指消毒用アルコールやウエットティッシュを用いるなど、感染防止対策を行うことが重要です。
なお、避難所用に備蓄していた非常用の飲料水の賞味期限が切れた場合は、処分せず手洗い用の水として活用します。
 
使用済みの携帯トイレ(蓄便袋)については、蓋付きのバケツやゴミ箱に保管し、各市町村の処分方法に従うことが必要です。
使用済み携帯トイレ等の保管場所については、発災前から想定しておくことが望ましく、ゴミ処理の際の動線や、ゴミが直接日光や雨に当たらないよう屋根のある場所を検討します。
避難所のスペースは限りがあるため、どこが保管に適した場所か、訓練等を行い確認しておくことが重要です。
 
また、快適環境の維持のために清掃は欠かすことができません。
避難者にとって、避難所は「自分たちの生活の場」であり、避難者自らがトイレの清潔保持の必要性を理解し、自主的に清掃することが大切です。
 
 

4.展開期(災害発生後2日目〜約3週間)

4-1 仮設トイレの設置

災害発生から時間の経過、避難者の事情、避難所の設備等の条件に応じて、災害用トイレを組み合わせて使用することが重要です。
本県では前述の「快適トイレ計画」に基づき、建設工事現場における仮設トイレの洋式化に取り組んでいます。
 
マニュアルでは、仮設トイレ設置の際の注意事項を記載していますが、設置場所には特に注意が必要です。
緊急車両の通行の妨げにならない、避難者が利用しやすいなど、設置に適した場所であるか確認し、避難所の規模によっては、設置出来るスペースに限りがあることも想定されます。
また、仮設トイレは屋外に設置するため、雨天の際は、足元が泥で汚れます。
多数の避難者が何回も使用することで、トイレ内に泥が入り込み、衛生的でなくなるため、こまめな清掃に加え、雨に濡れないよう簡易テントを設置するなど対策が必要です。
 
仮設トイレの設置と同時にし尿の汲み取りの手配も重要です。
設置した仮設トイレを使用し続けることができるようにするため、避難所の避難者数から汲み取りの頻度を想定し、市町村災害対策本部と情報共有することが必要となります。
また、在宅避難者がトイレを使用する可能性があるため、利用方法や清掃方法の周知も欠かすことはできません。
 

4-2 マンホールトイレの設置

屋外に設置するトイレには、マンホールトイレもあります。マンホールトイレの特徴はトイレの入り口に段差がなく、高齢者や車いす利用者のアクセスが容易である点がメリットです。
 
専用のマンホールに設置するため、発災前から設置の検討が必要となります。
マンホールトイレが整備されている避難所では、マンホールの周辺の地盤に異常がないか、市町村から下水道の使用の中止の連絡がないか等を確認した上で設置します。
 

4-3 オストメイトトイレの設置

さまざまな病気や障がいなどが原因で、手術によって便や尿を排泄するために腹壁に造設された排泄孔をストーマと呼び、ストーマが造設されている人のことをオストメイトと呼びます。
災害時、オストメイトは、「ストーマ装具の交換が定期的に必要」、「避難所内に交換場所が確保されているどうか」、「排泄物の処理に時間を要するため周りの人に迷惑をかけてしまう」、「仮設トイレはオストメイトにとって使いづらい」等といった点で、困ったり、不安になったりすることがあります。
 
そのため、災害時に配慮するべきことや支援が必要な場合に相談に乗れる体制が避難所では必要となります。
オストメイトトイレを設置することは、多様な避難者が快適に過ごすための対策の一つです。
 
 

5.安定期(災害発生後3週間目以降)

流通が復旧し始めると、さまざまな物資が避難所等に届くようになるため、高齢者や障がいのある人等、要配慮者のニーズに応じたトイレに改善を行います。
 
また上水道、下水道の復旧が完了し、汚水処理体制が確保されるようになれば、水洗トイレが使用できますが、水洗トイレが使用できるようになった場合でも、避難者や地域のニーズに応じて、設置済みの仮設トイレ等は引き続き使用します。
 
 

おわりに

徳島県は、「徳島県災害時快適トイレ計画」とその行動計画である「アクションプラン」を策定し、県民・地域・行政が一体となって災害時におけるトイレ対策に取り組んできました。
そして、より具体的な方策として「徳島県避難所快適トイレ・実践マニュアル」を策定することで、トイレ対策を強力に推進しています。
 
今後も引き続き市町村とも連携し、快適な避難所の運営により、「防ぎ得た死」をなくす「災害関連死ゼロ」の実現に取り組んで参ります。
 

「 徳島県避難所快適トイレ・実践マニュアル」の策定について(安心とくしまHP)QRコード


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徳島県危機管理環境部とくしまゼロ作戦課被災者支援担当主任主事
水関宏誓

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年12月号

積算資料公表価格版2022年12月号

最終更新日:2023-06-26

 

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