建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 開業 東京国際クルーズターミナル〜世界に誇る新たな首都の玄関口〜

 

1. はじめに

東京都では,港湾機能と都市機能が有機的に統合した「世界に誇る都市型総合港湾・東京港」の創造を目指し,第8次改訂港湾計画(平成26年策定)に基づく港湾施設の整備に取り組んできました。
 
本稿では,臨海副都心地域で進めてきた「東京国際クルーズターミナル」の整備のうち,ターミナルビル(建築物)および関連付帯設備の整備概要について紹介します。
 
 
 

2. 東京港におけるクルーズ客船への対応

現在,東京港では,レインボーブリッジの内側に位置した晴海客船ふ頭でクルーズ客船を受け入れています。一方で,近年の客船の大型化により,レインボーブリッジの桁下(海面より52m)を通過できない大型クルーズ客船が増加しているため,レインボーブリッジの外側の臨海副都心地域に,世界最大級のクルーズ客船が利用できるよう,新たな客船ふ頭である東京国際クルーズターミナルを整備することとしました(写真−1)。
 

【写真−1 臨海副都心地域】




 

3. ターミナルビルの整備概要

3-1 建築工事

ターミナルビルの整備概要を以下に示します。
 建設地  東京都江東区
 構造規模 鉄骨造 4階建て
 延べ面積 19,114.52㎡
 
「首都の玄関口」として位置付けた新たな客船ふ頭の主要施設であるターミナルビルは,都道482号線から歩車道を明確に分離した連絡通路よりアクセスできます。建物回りには,一般車や大型バスの駐車場,タクシー乗場を配置しています(写真−2)。ターミナルビルの外観は,「海の波」「船の帆」,日本の伝統的な「屋根のそり」をイメージした大屋根が特徴で(写真−3),東京港の新たなランドマークとなっています。
 

【写真−2 東京国際クルーズターミナルへのアクセス】

【写真−3 「屋根のそり」をイメージした大屋根が特徴の外観】




プランでは,1階にエントランスとバス乗降場等,2・3階にCIQ(税関(Customs),出入国管理(Immigration),検疫(Quarantine)の略)の検査場とロビー,4階に送迎エリアを配置しています。ターミナルビル内観は,2階から4階につながる吹抜けがあり,3階は高い天井により開放的な大空間を実現しています(写真−4)。
 

【写真−4 開放的な高い天井の空間】




ターミナルビルは,機能上,構造上の課題に対応した計画で進めてきました。
 
機能上の課題として,さまざまな大きさの客船への対応と多目的利用が挙げられます。定員が数十人のものから5,000人を超えるさまざまな大きさの客船に対応するためには,屋内スペースを自由度の高い設えとしておくことが必要となります。そのため,2・3階は間仕切りのない大空間とし,可動式のパーティションを採用,あらゆるレイアウトに対応できるようにしました。また,客船の接岸がない場合でも施設の有効活用のため,3階の大空間を利用しイベント等が行えるよう,特殊建築物(興業場等)として計画しました。
 
構造上の課題として,土木構造物と一体化した建築物の計画が挙げられます。ターミナルビルは,海上に構築した土木構造物(桟橋形式)の人工地盤の上に建設されています。構造検討手法が異なる両者の整合を図り,施工上問題のないように,大きく3つの特徴的な設計手法を用いました(図−1
 

【図−1 建築- 土木一体の構造物】




第一に,特殊な振動特性を評価する解析手法です。支持地盤等に直接建設される一般の建築物と異なり,地震時の挙動は下部の土木構造物と一体の振動性状によって決まるため,土木設計用の地震波も包含した8つの地震波を用いました。土木・建築一体振動モデルによる時刻歴応答解析を行い,振動性状を評価して国土交通大臣の認定を取得する手法を採用しました。
 
第二に,難解な接合工法の検討です。下部の土木鋼管杭と上部の建築鋼管柱の接合部は,鉛直力,地震時水平力のスムーズな伝達が行われることに加え,建築工事に比べて大きな土木構造物側の施工誤差を吸収する必要があります。そこで,土木構造物の鋼管杭内部に軸力を受けるリング状のプレートを設置し,その中に建築柱を差し込み,鉛直・水平方向の位置を調整した上でコンクリートを充填するという「ソケット型接合部」工法(特許出願済み)を採用し,力のスムーズな伝達と施工誤差の吸収を両立しています(図−2)。
 

【図−2 ソケット型接合部】




第三に,構造的なバランスの確保です。建築物と比較すると土木構造物は剛性が高く,単純に接合しただけでは剛性のアンバランスが生じるため,地震時に1階部分が大きく変位します。それに対応するため,建物1階部分に集中的に制振ダンパーを設置し,効率よく地震エネルギーを吸収しています。
 

3-2 電気設備工事

受変電設備については,津波や高潮による浸水,塩害を考慮し,4階に設置しました。信頼性に優れる屋内キュービクル形式を採用し,省エネのため,変圧器はトップランナー基準値を満足するものとしました。引込みは3相3線・6600Vの1回線受電とし,停電時等における電源確保のため,発電機を設置しています(写真−5
 

【写真−5 受変電設備】




発電設備は,長期停電時の初期対応を想定した保安用発電機として長時間型発電機(連続10時間程度運転可能)を設置しました。発電機は3相3線・6600V・500kVAのディーゼルタイプを採用しました。停電時は,重要性の高い設備(CIQ業務関連設備,監視制御設備,館内照明,火災報知設備等)を優先的に給電します。また,環境対策として,太陽光発電設備を導入しました(写真−6)。
 

【写真−6 太陽光発電設備】




中央監視設備については,中央監視室から空調換気設備,照明設備などの運転監視や遠隔制御が可能であり,受変電設備,発電機設備,太陽光発電設備,衛生設備の状態監視も行っています。
 
電灯設備については,間接光を主体とした落ち着きのある照明計画を採用しています。自然採光により,昼間はLED調光による省エネを図り,時間ごとに調光演出を行うことができます。夜間照明は景観に配慮し,建物内からの光が内照しているような見え方になるよう工夫し,屋内からガラス面への映り込みで夜景が損なわれないよう,照明器具の角度等に配慮しました(写真−7,8)。
 

【写真−7 間接光を主体とした照明計画】

【写真−8 景観に配慮した夜間照明】


3-3 機械設備工事

給排水衛生設備については,人と環境にやさしい施設づくりとして,各フロアにはユニバーサルデザインによる多機能トイレが設置され,多様な利用者に配慮しています。客船が接岸しない時には,展示会等イベントスペースとしての利用が想定されるため,便所の配置や便器の個数等を適切に設置しています。また,飲料水の受水槽は災害等非常時の備蓄を考慮し,感震器連動により配水配管を緊急遮断し,緊急避難時の飲料水タンクとして利用することが可能です(写真−9)。
 

【写真−9 災害等非常時の備蓄を考慮した飲料水の受水槽】




空調設備については,3・4階のロビー等の大空間にはゾーニング可能な空調,冷温水発生器にはモジュールチラー(写真−10),各居室には個別にヒートポンプ式空調機を採用することにより,余分なエネルギー消費を抑え,建物全体の省エネルギー性能の向上を図っています。
 

【写真−10 冷温水発生器 モジュールチラー】




消火設備については,3・4階の大空間の消火のために自動消火放水銃設備を設置しています。通常時は利用者の目につかない壁内等に消火用放水銃が格納され,火炎センサーが室内を常に監視していますが,火炎を発見した際には自動で放水銃が現れ,火炎に向けて確実に放水することができ,美観を損ねることなく施設の安全・安心を確保しています(写真−11,12)。
 

【写真−11 自動消火放水銃設備】

【写真−12 火炎センサーが室内を常に監視】



手荷物搬送設備については,手荷物カウンターや宅配便カウンターを配置し,手荷物搬送コンベアーで結ぶことで,宅配荷捌き室や岸壁等に安全で確実に配送されるシステムを構築しています(写真−13
 

【写真−13 手荷物搬送設備】



3-4 ボーディングブリッジ

船に乗降するための通路として,ボーディングブリッジを整備しました。利用者はターミナルから屋外に出ることなく(風雨,気温等天候の影響を受けずに),手荷物を持ったまま快適に短時間で船の乗降ができます(写真−14)。
 

【写真−14 ボーディングブリッジ】




バリアフリー対応として,段差がない通路をつづら折りにすることにより通路延長を確保し,通路全体の勾配が緩やかになるように設計しています。また,船舶は潮位の干満により,最大約2m程度の上下動があるため,客船側の接続通路が上下可動可能な構造になっています。ターミナルビル側の接続通路も客船の大きさにより,2階または3階フロアに接続するため上下可動可能な構造になっています。通路には大型窓ガラスを使用し,開放的な雰囲気を感じることが可能です。窓ガラスには遮熱性のある合わせガラスを使用し,通路内には合計4台の空調設備を設置し快適性を確保しています(写真−15)。
 

【写真−15 窓ガラスに遮熱性のある合わせガラスを使用】




 
 

4. おわりに

東京港は,羽田空港や東京駅など,交通の拠点に近接し,交通アクセスが充実しています。また,都心に近く,銀座,浅草,東京スカイツリーなど,都内の観光やショッピングに便利であるばかりでなく,都外の観光地にも日帰りが可能です。さらに,臨海部には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の会場も位置し,世界中からの集客が期待されています。
 
東京都ではこうした強みを背景とし,乗船客のみならず,多くの人々が集いにぎわう拠点として,新たな客船ふ頭である東京国際クルーズターミナルの整備を進めてきました。今後も,東京国際クルーズターミナルが,世界を代表するクルーズの拠点として成長するために事業を推進していきます。

 
 

 
 
 

東京都 港湾局 東京港建設事務所

 
 
 
【出典】


建築施工単価2021冬号



 
 
 

 

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