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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > アムステルダムの都市洪水を減らす「賢いブルー・グリーン屋上緑化」

世界気象機関(WMO)によれば、ヨーロッパの都市の気温は過去30 年間の世界平均の2 倍以上と世界中のどの大陸よりも暑くなっている2)
それと同時に、ヨーロッパ北部の冬の気象は一層極端な降雨量と洪水を起こす傾向にある。
アムステルダム市は今後30 年以内に地所の4 分の1 以上が洪水による深刻な影響を受けるリスクに晒されている3)

そこで、市はRESILIO プロジェクト注) を立ち上げ、2018 から2022 年に、水害の起きやすい市内4 地区に「賢いブルー・グリーン屋上緑化」(SMART BLUE-GREEN ROOFS、 以下BG 屋上緑化)を14 か所導入した(写真- 1、表- 1)。

【写真- 1 BG 屋上緑化の事例(⑥ DE ALLIANTIE),出所5)】
【写真- 1 
BG 屋上緑化の事例(⑥ DE ALLIANTIE),出所5)】
【表- 1 BG 屋上緑化の地区別施工実績】
【表- 1 BG 屋上緑化の地区別施工実績】

 
 

BG 屋上緑化は雨水の貯排水を巧みに制御する

BG 屋上緑化は、図- 1 に示すように、植栽層の下に雨水を貯留するいくつかの構造を設けて、雨水が短時間に一挙に排水路へ流れ込みオーバーフローすることを防ぐ。
“賢い”と言われる訳は、何層にもわたる構造と雨水の貯留と排水を制御するバルブの働きにある。
 
バルブは意志決定支援システム(Decision Support System:DSS) と呼ばれる、 精巧なコンピュータシステムで管理される。
アムステルダム自由大学環境学研究所の説明によれば、バルブが閉じられていると屋上に貯えられている雨水は植物の生育を維持するために使われる。
バルブはリアルタイムでヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の降雨予報に接続され、一定量の降水量が予測される時に開き、ゆっくりと市の下水道に水を流す。
これによって、市の排水システムのオーバーフローを防ぎ、氾濫に起因するインフラへの損害を回避する。
BG 屋上緑化の貯留層は空になり、次の豪雨を受け入れる準備をする。
 
DSS は導入する地区の特性、季節による降雨量の違いなどの要因も考慮に入れている。
例えば、病院の近くでは、道路が水浸しにならないことを最重要事項とする。
それ故、バルブは降雨予報に一層敏感に、頻繁に開くよう設定することで、流入する豪雨を貯えるために、常に十分な収容能力を発揮できるようにする。
研究結果によれば、従来型の屋上緑化では極端な降雨量の通常約12%捕捉するのに対し、70 ~ 97%を捕捉できることを明らかにした4)
 
このシステムは、60 ~ 70mmの雨水貯留を可能とするように設計されている。
この雨量は非常に強い豪雨を想定したものであり、オランダでは 50 年かそれ以上に一度発生する規模である。
 

【図- 1 BG 屋上緑化の模式図】
【図- 1 BG 屋上緑化の模式図】

植物 コケ、セダム、ハーブ、イネ科植物、シダ、灌木、混植などが生育できる。
広い面積に向くセダム類と集約的に灌木を植える場合で屋上緑化は異なる。
植栽基盤 植物は土と同じように基盤層に根を伸ばす。
この層は植物を支持し栄養を与える。
ろ過層 植栽基盤の粒子が水貯留層に運ばれ、詰まらせるのを防ぐ。
また、植物に吸収される水の配送も担う。
水貯留層 必要以上の水を排水する。
この層はファイバー素材が組み込まれた軽量の木枠の付いた箱に雨水が貯留される。
そこから植物が利用できるように水を供給する。
耐水・根系層 この層は耐水性があり、植物の根が下側の屋上構造へ入り込むのを防ぐ。
根系耐性の瀝青材(アスファルトなど) 鳥散布の種子が育ち、根が屋上に根付かないようにする。
耐水性の瀝青材 水が屋上に溜まらないようにする。
セメント この層は細粒でできた小さなセメントブロックから成り、防護層として機能する。
既存の瀝青材 屋上にある既存の瀝青材層。
賢いフロー制御 バルブを使い、溜まっている雨水を排水管へ流す。
この賢いバルブは気象の変化に反応し、適切な時に自動的に開閉する。
既存建物外縁と排水管
出所:5)
 
 

水の広い用途は資産価値を高める

暑く乾燥が続く時期に、屋上で集められた水は多目的に供給される。
緑地を灌水し、余分な水の層がもたらす断熱性は建物の冷房を維持する。
また、このシステムは街路において気温を下げる可能性があり、都市ヒートアイランド効果を減らすことに役立つことが期待できる。
アムステルダム応用科学大学(Amsterdam University of Applied Sciences)の水管理・都市気候の研究者は、もっと植物の蒸発散を活用することで全体として都市を涼しくできると言う。
従来型の屋上緑化が30%蒸発散量であるのに対し、BG 屋上緑化はおよそ70%を示し、都市の熱ストレスを減らす効果があると指摘する4)
 
さらに、BG 屋上緑化は従来型の屋上緑化より広範な種類の植物の生育に適する。
従来型では耐乾性の植物種を必要とするものの、BG 屋上緑化では水利用の可能性が大きく、生き残れる植物の範囲を拡げている(表- 2)。
在来の植物は最長4週間渇水に持ちこたえられると言う。

【表- 2 アムステルダム市によるRESILIO 屋上緑化植栽用の提案種】
【表- 2 アムステルダム市によるRESILIO 屋上緑化植栽用の提案種】

このことは、昆虫など生きものの多様性を高め、屋上に創出された緑の空間は野生生物(マルハナバチ、チョウ類、クモ類、鳥類、コウモリなど)に休息や食餌の場所を提供する。
また、人間の活動や構造物によって分断された野生生物の個体群にとって生態的回廊としての役割も果たす。
Resilio プロジェクトは公的資金を導入することができた。
民間にとっては、導入コストが一つの障害となる。
しかし、過密な都市景観の中で、あらゆる屋外空間は十分に高い価値があり、非常に希少である。
眺望やレクリエーションエリアの得られる、アクセスし易い庭園を備えるBG 屋上緑化は最大で21%資産価値を高めると推定される5)
まさに、BG 屋上緑化が民間の建物に投資するインセンティブとなる可能性がある。
 
BG 屋上緑化と同様のコンセプトにもとづく取組がニューヨークなどの諸都市、ヨーロッパ、南アジア、カナダの多くの地域で規模を拡大している。
自然に根ざした解決策(NbS)にもとづく雨水を賢く貯留する仕組みは、今後新たな標準となるべく成長しつつあるコンセプトといえる。
 
(注)RESILIOプロジェクト
アムステルダム市が水関連の民間企業など8 事業体と提携してBG屋上緑化を推進するもの。
RESILIOとは「賢く革新的な気候適応屋上の弾力性ネットワーク(Resilience nEtwork of Smart Innovative cLImate-adapative rOoftops)の頭字語である。
アムステルダム市は2018 ~ 2022 年の5 年間に屋上緑化面積1 万m² 以上を実現している。
本件はEUの都市革新行動イニシアティブ(Urban Innovative Actions Initiative)に基づき、地域開発基金(European Regional Development Fund)から480 万ユーロ(約7 億2 千円)、パートナー事業体から120 万ユーロ(約1 億8 千円)の資金拠出をもとに実施された。
Resilio プロジェクト
https://resilio.amsterdam/en/smart-blue-green-roofs/
 
参考文献
1)Katherine Latham(2023) Amsterdam’s‘Smart’Blue- Green Roofs Reduce Urban Flooding、 https://reasonstobecheerful.world/amsterdam-blue-green- roofs-smart-flooding/
2)World Meteorological Organization(2022) Temperatures in Europe increase more than twice global average、 https://public.wmo.int/en/media/press-release/ temperatures-europe-increase-more-twice-global-average
3)RISK FACTOR Flood Risk Overview Does Amsterdam have risk?、
https://riskfactor.com/city/amsterdam- newyork/3602066_fsid/flood
4)Tim Busker & others(2022) Blue-green roofs with forecast-based operation to reduce the impact of weather extremes、 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/ S0301479721018120
5)RESILIO(2022) RESILIO Final report A roof journey
https://resilio.amsterdam/wp-content/uploads/2022/03/ Final-Report-RESILIO.pdf
 
 

写真でみる緑化樹木等の一例(1) ~オージープランツ~

〔緑化樹木調達難易度判定会議〕写真解説 ①樹種名 ②撮影地 ③提供社園


①ギンヨウアカシア ②東京都 ③小岩井農牧

①グレビレア(ココナッツアイス) ②埼玉県 ③ワイズプランツ

①バンクシア ②埼玉県 ③ワイズプランツ

①ブラシノキ ②兵庫県 ③若生商店

 

写真でみる緑化樹木等の一例(2) ~ GCP ~

〔緑化樹木調達難易度判定会議〕写真解説 ①樹種名 ②撮影地 ③提供社園


①ブルーカーペット ②秋田県 ③田村山林緑化農園

①イヌツゲ(ゴールデンジェム) ②三重県③ NURSERY YAMADA

①センリョウ(千両) ②神奈川県 ③飯田園芸

①スティバ ②高知県 ③岡宗農園

①ノシラン(ビッタータス) ②高知県 ③岡宗農園

①フイリアマドコロ ②秋田県 ③田村山林緑化農園

①ヤブコウジ(十両) ②神奈川県 ③飯田園芸

①ハゴロモジャスミン ②埼玉県 ③グリーファーム・アンドウ

 

写真でみる緑化樹木等の一例(3) 令和 4 年度「特別庭園樹木(名木)」

〔緑化樹木調達難易度判定会議〕写真解説 ①樹種名 ②規格 ③推定樹齢
※詳細は、(一社)日本植木協会ホームページ(https://www.ueki.or.jp/)を参照。


①ゴヨウマツ 大阪(杉田園)
②樹高2.5m 幹周1.45m 枝張3.0m ③ 120 年

①アカマツ 大阪(杉田園)
②樹高3.0m 幹周1.5m 枝張4.0m ③ 150 年

①クロマツ 兵庫(甚平植木)
②樹高3.8m 幹周1.45m 枝張3.0m ③ 70 年

①アカマツ 兵庫(甚平植木)
②樹高2.5m 幹周0.7m 枝張2.1m ③ 100 年

 
 

一般財団法人 日本緑化センター、一般社団法人 日本植木協会 

 
 
【出典】


積算資料2023年8月号

最終更新日:2024-03-25

 

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