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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 橋梁土木 > 関東道路メンテナンスセンターによる 修繕代行とその効果~修繕代行を起点に拡がる地方公共団体への技術支援~

はじめに

関東地方整備局 関東道路メンテナンスセンター(以下,「関東MC」という)では,平成31年4月の設置以来,直轄国道における橋梁等の健全性の診断,蓄積されたメンテナンスデータの管理や分析による劣化予測や新技術の活用など,アセットマネジメントによる道路メンテナンスの高度化を推進している。
その一方で,地方公共団体への技術支援にも注力しており,その一つに地方公共団体が管理する道路構造物への直轄診断と修繕代行がある。
 
本稿では,現在,関東MCが取り組んでいる写真-1に示す秩父橋(埼玉県秩父市管理)における修繕代行事業の進捗を直轄診断の技術的助言を交えた報告とともに,修繕代行事業の本格着手にあたり生じた課題やその対応,それらを通じた地方の技術支援体制における考察を加えて報告する。
 
なお,令和4年6月現在では,全国五つの地方整備局(関東,中部,近畿,中国,九州)に道路メンテナンスセンター(以下「MC」という)が設置されているが,直轄診断から修繕代行事業(工事の発注,監督)までの一連を担当しているのは関東MCのみである。
 

秩父橋

写真-1 秩父橋
 

 
 

1. 修繕代行事業

 

1-1 直轄診断および修繕代行事業の概要

国土交通省では,平成25年の道路法の改正により「都道府県または市町村からの要請があり,かつ,高度な技術力を要する等の修繕工事等を当該地方公共団体に代わって国土交通大臣が実施できる」制度を設けている。
これまでに実施した修繕代行事業等を表- 1に示す。そのうち,関東地方整備局では2橋の修繕代行事業を実施している。
 

1-2 秩父橋の修繕代行事業に至った経緯

直轄診断は修繕代行事業と同時期に道路法の改正により設けられた制度である。
「橋梁,トンネル等の道路施設については,各道路管理者が責任を持って管理する」という原則のもと,それでもなお,地方公共団体の技術力等を鑑みて支援が必要なものに限り,国が地方整備局,国土技術政策総合研究所,国立研究開発法人土木研究所の職員で構成する「道路メンテナンス技術集団」を派遣し,技術的な助言を行うこととしている。
平成26年度から令和3年度まで表-1に示す道路構造物への直轄診断を実施している。
そのうち,関東地方整備局管内では3橋を実施している。
 
秩父橋の現在の状態や今後の維持管理において不安を持っていた秩父市が,平成30年度に直轄診断へ応募したことを契機として,令和元年度に直轄診断が実施された。その際に伝えた技術的助言を踏まえて,秩父市からの修繕代行事業の要望を受けて事業の実施に至っている。
 
国土交通省の技術支援策として診断から修繕までの一連をメンテナンスに特化した国の機関が技術支援することに先鞭をつけるために,事業の主体を関東MCが担当することとしている。
 

直轄診断の実施一覧
表-1 直轄診断の実施一覧

 

1-3 秩父橋の修繕代行事業の概要

秩父橋の橋梁諸元を表-2に示す。
秩父橋の修繕代行事業において実施する修繕の内容は,直轄診断による技術的助言の内容を踏まえて,以下のとおりとした。
 

橋梁諸元
表-2 橋梁諸元

 

(1)基礎の浸食および洗掘対策

「基礎地盤の侵食,橋脚基礎の洗掘は,最も重要なアーチ部材を支えるところの変状であるため,早期に措置を講ずるとよい。」という構造安全性の確保への技術的助言に対して,写真-2 に示す斜面に位置するP4アーチアバットの浸食および写真-3に示す河川内橋脚基礎の洗掘への対策を施すこととした。
 

P4アーチアバットの浸食
写真-2 P4アーチアバットの浸食
橋脚基礎の洗掘
写真-3 橋脚基礎の洗掘

 

(2)役割を終えた補強鋼板の撤去

「橋面からの浸水を防止するのがよく,調査の結果によると既に役割を果たしたと思われる補強鋼板は撤去することも可能である。」という今後の秩父橋の維持管理を見据えた技術的助言に対して,写真-4に示す補強鋼板を撤去することとした。
 

腐食した補強鋼板
写真-4 腐食した補強鋼板

 
個別の部材への技術的助言のみならず,今後の供用を継続するにあたって,次の技術的助言もなされていることを申し添えておく。
「基礎地盤の侵食,橋脚基礎の洗掘の状態を考慮しても,大規模な出水や地震等がない場合には,下部構造は安定した状態にあると考えられ,適切な維持修繕を行うこと,橋梁としての継続的な利用に支障はないと言える。」
 

1-4 秩父橋の修繕工事の概要

修繕工事は,工種とその内容や施工に要する期間から上部補修工事と下部補修工事に分割することとした。
各工事の施工範囲と主な工種を図-1に示す。
 

修繕工事の区分

図-1 修繕工事の区分

 

(1)上部補修工事

上部補修工事は,補強鋼板の撤去を実施するとともに,その維持管理において,床版や主桁内部への雨水の浸入を防ぐための防水層の敷設を令和5年2月下旬の竣工を目指して施工を進めている。上部補修工事は,株式会社IHIインフラ建設が担当している。
 

(2)下部補修工事

下部補修工事は,P4アーチアバットへの浸食対策およびP2橋脚基礎への洗掘対策を実施し,令和4年3月31日に無事竣工している。下部補修工事は,当該地域の工事経験が豊富であり,かつ昭和6年当時に秩父橋を築造した株式会社斎藤組が施工を担当した。
 

(3)工事の不調不落対策

注目を集める修繕代行事業での工事とはいえ,昨今,工事の不調不落が頻発していることに加えて,秩父地方は,直轄国道の工事受注実績を有する企業が少ない地域であった。
そのため,秩父地区の建設業協会への意見交換やPRを重ねるとともに,次に示す国土交通省の効果的な不調不落対策を取り入れて工事の発注手続きを進めて,好結果を得ることができた。
 
1)地域外からの労働者確保に要する間接費の設計変更
2)余裕期間制度(フレックス)
3)見積活用方式(上部補修工事のみ)
 

1-5 事業進捗における課題とその対応策

まず,事業の本格的な着手にあたって洗い出した課題を以下に示す。
● 遠距離における工事の監督
● 国が秩父市の工事を代行することへの市民や秩父橋の利用者の理解
 

(1)遠距離における工事監督の対応

監督官署である関東MC(埼玉県さいたま市)から秩父橋(埼玉県秩父市)までは,図-2に示すとおり同一県内だが距離が約100 kmあり,交通渋滞がない場合でも移動時間は高速道路等を利用して約2時間を要する。

関東MCと秩父橋との位置関係

図-2 関東MCと秩父橋との位置関係

 
1)建設現場における遠隔臨場の試行監督職員および現場代理人の相互の遠距離移動の負担軽減や,効率的な工事監督に取り組むため,二つの工事は「建設現場の遠隔臨場(以下,「遠隔臨場」という)の試行工事(発注者指定型)」に取り組むこととした。
特に下部補修工事は規模が「遠隔臨場」の要件を満たさなかったが,前述の理由から積極的に試行した。
実施の状況を写真-5に示す。
 

遠隔臨場の実施状況
写真-5 遠隔臨場の実施状況

 
2)遠隔臨場とオンライン会議システムの利活用
「遠隔臨場」では,施工時の立会以外の場面(例えば,荒天時)でも状況を確認できるため,施工管理のみならず安全管理でも活用できる。
また,定期的な工程会議のみならず,さまざまな打合せにオンライン会議システムを最大限活用して効率化を図っており,さまざまな場面で情報伝達の効率化を図ることの効果を確認できた。
 
3)情報通信技術の利用促進として各種ウェブシステム導入の効果
遠隔臨場とオンライン会議システムの積極的な導入により,地域の建設会社がICT機器を活用している好事例を示すことができた。
また,遠隔臨場の修繕工事への積極的な導入により,遠方の地方公共団体が管理する橋への支援を具体的に示すことができた。このことにより「技術支援における距離の問題」という困難な課題の解消に貢献できたと言える。
 

(2)国が秩父市の工事を代行することへの市民や橋の利用者の理解の促進

秩父橋は秩父市が管理している橋であることと,国が乗り込み,工事することを市民や橋の利用者に理解してもらう必要があるため,さまざまな手段を活用して,その促進に努めている。
1)理解の促進に向けたさまざまな手段
秩父橋を日常的に利用している市民に対し事業への理解促進に向けて実施した主な取り組みを以下に示す。
 
ア 修繕代行事業の主体的な広報
● 事業案内看板の設置(図-3)
● 関東MCウェブサイトへ専用コーナーの設置
 

図−3 事業案内看板

 
イ 秩父市と協同による広報
● 市報「広報ちちぶ」への掲載(図-4)
● 市イメージキャラクター,秩父ゆかりの人気アニメーションとのコラボレーション(図-3)
● 市観光向けTwitterの相互フォロー
特に市観光向けTwitterは,多くのアニメファンがフォローしており,相互フォローにより多くの目に留まることから高い周知効果が見込まれた。
 

市報「広報ちちぶ」への掲載

図-4 市報「広報ちちぶ」への掲載

 
2)取り組みの効果
その効果の一例として,図-5の関東MCが運営するウェブサイト,Twitter の閲覧数を示すグラフのうち,Twitter の閲覧数が2022年2月に約66,000件と飛躍的に増えている。
これは,工事の本格的着手や事業案内看板の設置についてTwitter への積極的な投稿と,市観光向けTwitter の相互フォローによる相乗効果と推察している。
その翌月の閲覧数の急落は事業の案内が広く周知され,アニメファンの注目と関心も一段落したことによるものと推察している。
今回の修繕代行事業における市民および橋の利用者へ向けた広報では,アニメファンなどのこれまでPRが届かなかった世代にもメンテナンスの重要性を知らしめることができ,数は少ないがレスポンスもあったことから,さまざまな世代への理解促進について一定の成果を得ることができたと言える。
関東MCでは,更なる理解の促進を図るべく,現在の取り組みを継続していく。
 

SNS等のアクセス数

図-5 SNS等のアクセス数

 
 

2. 関東MCが修繕代行を担当することの効果

 

2-1 修繕代行を起点とした技術支援の拡がり

関東MCが直轄診断から修繕代行事業までを一貫して担当したことの効果を「技術支援の拡がり」という観点から考察する。
 

(1)秩父市との関係性

今回の秩父橋における直轄診断から修繕代行事業へ至る過程や現在の修繕工事に関わる協議や施工の準備,調整等を顧みると,直轄診断の採択時から現在に至るまでの3年間にわたり国側の主体が一貫して関東MCであったため,組織が入れ替わらない安心感から,各年度の担当者の異動後も大きな手戻りや混乱はなかった。故に懸案事項の相談においても組織的および心理的な障壁を感じ
ることがほぼなく,良好な関係を保ちつつ協同しながら事業を進めることができている。
 

(2)拡がる技術支援と相互の協力体制

秩父橋とは別の写真-6,7に示す橋への技術的な相談がなされており,現地調査の結果や今後の維持管理について技術的な助言をレポートにまとめて渡している。
これらは,直轄診断と修繕代行事業の進捗により築いた信頼関係による成果であると言える。
 

他の橋の技術相談の例⑴

写真-6 他の橋の技術相談の例⑴

他の橋の技術相談の例⑵

写真-7 他の橋の技術相談の例⑵

 
一方で,地方公共団体支援をテーマにしたフォーラムへの登壇と支援制度の活用例の紹介について,関東MCから依頼(図-6)したり,関東MCの事業概要についての秩父市長とメンテナンスセンター長との対談(図-7)掲載への協力など,お互いの事業を進めるにあたって協力しあえる関係性を築くことができている。
 

インフラメンテナンス国民会議関東地方フォーラム プログラム

図-6 インフラメンテナンス
国民会議関東地方フォーラムプログラム

関東MC事業概要への対談掲載

図-7 関東MC事業概要への対談掲載

 

(3)直轄診断から修繕代行事業を一貫して担当することの効果

前述のとおり,直轄診断から修繕代行事業を一貫して担当することにより,秩父市とは密接かつ良好な関係を築くことができており,事業の遂行により本来の目的を果たすことのみならず,MCの設置目的の一つである地方公共団体支援を遂行するにあたり,欠かせない地方公共団体との良好な関係の構築を確実に実現する方策の一つと言える。
 

2-2 次の直轄診断,修繕代行に向けて

秩父橋の修繕代行事業は,本稿を執筆している令和4年6月現在では,下部補修工事が完了(写真-8)しており,上部補修工事は令和5年2月の竣工に向けて鋭意施工を進めている。
 
関東地方整備局管内における直轄診断および修繕代行事業は,今後も関東MCが継続して担当する予定である。
秩父橋の次の直轄診断においても修繕代行事業につなぐこと,また,それらを糸口として更なる地方公共団体支援につなげていくため,現在の秩父橋の修繕代行事業の取り組みを,今後も各都県の道路メンテナンス会議等を活用して広く周知し,技術支援制度の活用の促進に努めてまいりたい。
 

下部補修工事(浸食対策工)の成果(R4.3)
写真-8下部補修工事(浸食対策工)の成果(R4.3)

 
 

おわりに

関東MCは平成31年4月の設置から,秩父市の他にも多くの都県,市町村からお問い合わせいただき,微力ながら技術的支援をさせていただいている。
 
編集部のご厚意により関東MCへの問い合わせフォームのQR コードを図-8に掲載させていただいたので,道路メンテナンスの悩みごとを,気軽にご相談いただければ幸甚である。
 
最後に,秩父橋の修繕代行事業が完了した後に,関東MCが直轄診断から修繕代行事業を一貫して担当したことの効果が検証され,他のMCの更なる事業展開につながることを祈念して今回の報告の結びとさせていただく。
 

問い合わせフォーム

図-8 問い合わせフォーム

 
 
 

関東道路メンテナンスセンター 技術第一課長
松藤 洋照

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年10月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-26

 

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