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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 加速化する国土強靱化と、その効果の発現

はじめに

日本は、その国土の地理的・地形的・気象的な特性により、これまで地震、台風、高潮、津波、火山の噴火といった数多くの自然災害を被ってきました。
そして、その都度、大規模災害の教訓を踏まえ、例えば建築物の耐震基準を強化するといった対応を進めてきたところです。
しかし、その対応の多くは、発災後の事後的な対応でした。
その一方、近年の分析では、生じた被害額や復旧に要した費用に対し、事前に約5分の1の費用で防災対策を実施できていれば、甚大な被害を未然に回避することができていたという事例があります。
 
このように、事前に対策を講じて、できる限り被害を軽減させるという「事前防災」が非常に重要です。
本稿では、「3か年緊急対策」や「5か年加速化対策」を通じて取組を強化してきた国土強靱化について、その取組の効果等、最近の動向を紹介します。
 
 

1.3か年緊急対策と5か年加速化対策

2013年(平成25年)の国土強靱化基本法の制定を受け、政府は関係する府省庁や地方自治体、民間企業等と連携の下、さまざまな施策を実施してきたところです。
しかし、その間においても、災害は毎年のように発生しています。
特に、2018年(平成30年)は、西日本豪雨、台風第21号、北海道胆振東部地震といった災害が連続して発生し、多くの尊い命が犠牲となりました。
また、高潮・高波による浸水で空港機能が麻痺したり、地震によりブラックアウトが発生したりする等、重要インフラが機能を喪失し、市民生活や社会経済活動に大きな影響を及ぼす事態が立て続けに発生しました。
 
このため政府は、重要インフラの緊急点検を実施し、その結果等を踏まえて同年12月に「3か年緊急対策」を策定しました。
これは、概ね7兆円程度の事業規模をもって、特に緊急に実施すべき対策を2018年度(平成30年度)から3年間で集中的に実施し、国土強靱化に関する取組を強化しようとするものです。
ほぼ当初の予定通りの事業規模となる約6.9兆円を確保し、全160項目の緊急対策のうち153項目は、期間内に概ね目標を達成しました。
 
しかし、その間も2019年(令和元年)、2020年(令和2年)と、全国各地で台風や豪雨による被害が発生しました。
特に2019年(令和元年)は、房総半島台風(台風15号)、東日本台風(台風19号)等により、水害被害額が統計開始以来最大となりました。
激甚化する風水害や、南海トラフの巨大地震をはじめとした切迫する大規模地震等に求められる対策は相当の規模となり、その完了には長期間が必要となります。
加えて、日々老朽化するインフラへの対策も、今後ますます重要となる課題です。
 
このような状況を受け、2020年(令和2年)12月に「5か年加速化対策」が閣議決定されました。
5か年加速化対策は、
 
1)激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
2)予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策
3)国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進
 
の3分野について取組のさらなる加速化・深化を図るものです。
2021年度(令和3年度)から2025年度(令和7年度)までの5年間で、追加的事業規模としておおむね15兆円程度(国費ベースでは7兆円台半ば)で、合計123の対策に重点的かつ集中的に取り組むこととしました(図-1参照)。
 
これらの対策は、ハード面だけではなく、ソフト面の取組も多いことが特徴です。
一例としては、2022年(令和4年)6月より、気象庁が線状降水帯に関する予測情報の発表を開始していますが、これは、5か年加速化対策の一環である観測体制の強化やスーパーコンピュータによる計算能力の強化の成果です。
また、i-Constructionの推進等、デジタル技術を活用して取組の効率化を図ることとしています。
 
3か年緊急対策と5か年加速化対策の違いは、3か年緊急対策は、3年間で対策を完了できる取組に対して集中的に対策を実施したものである一方、5か年加速化対策は、123対策の一つひとつに「中長期の目標」を設定し、5年間でそれらの対策を重点的・集中的に実施することで、できる限り早期に目標を達成しようとするものであることです(図-2参照)。
その具体的な対策事例である流域治水対策は、河川の流域のさまざまな関係者が協働して、堤防の強化、ダム・遊水地の整備の他、利水ダムやため池・水田等の治水利用、街中における貯留施設の整備、住居の移転等の施策を総合的に実施するもので、一級河川における戦後最大洪水に対応した河川の整備率を、現状の65%から2050年(令和32年)頃までに100%にすることを中長期の目標のひとつとして設定しています。
それを5か年加速化対策により2045年度頃(令和27年度頃)まで目標の達成時期を前倒しすることとしています。
 
5か年加速化対策の123対策のうち、約半数は目標達成時期が2026年度(令和8年度)以降となる中長期の目標を掲げています。
防災・減災、国土強靱化に関する取組が所期の目的を達成するためには、10年、20年、30年といった長い期間が必要となることから、明確な目標を示し、その達成状況を逐次確認しながら進めることが重要です。
 

図-1 防災・減災,国土強靱化のための5か年加速化対策概要(2020年(令和2年)12月閣議決定)

図-1 防災・減災,国土強靱化のための5か年加速化対策概要(2020年(令和2年)12月閣議決定)


図-2 5か年加速化対策による事業の加速化(イメージ)

図-2 5か年加速化対策による事業の加速化(イメージ)


 
 

2.国土強靱化による取組の成果

これまでの国土強靱化に係る取組の実施により、未然に災害を防止することができた事例も、着実に増加しています。
 
宮崎県にある五ヶ瀬川水系の五ヶ瀬川や大瀬川では、2005年(平成17年)台風第14号により大規模な浸水被害(浸水戸数1,176戸)が発生しました。
しかし、昨年(2022年(令和4年))の台風第14号では、県内26箇所のダムで事前放流(全国では過去最多となる129箇所のダムで実施)を実施するとともに、3か年緊急対策等により堤防整備や河道掘削等の事前防災対策を進めてきた効果が発揮され、前述の台風と同規模の降雨があったにもかかわらず、堤防の決壊等による大規模な浸水被害の発生を防止(浸水戸数49戸(約96%減)することができました。
昨年の台風第14号は、九州・中国地方を中心に広い範囲に被害を及ぼしました。
しかし、道路の法面・盛土対策を完了した箇所では、土砂の流入等による通行止めに至るような被害が発生せず、交通機能を維持することができました。
各所でこのような取組の効果が発揮されています(図-3参照)。
 
2022年(令和4年)3月に発生した福島県沖を震源とする地震では、最大震度6強を観測し、東北新幹線の一部区間が運行停止になる等、さまざまな被害を及ぼしました。
福島県桑折町でも震度6弱を観測し、町内全域で約3時間の停電が発生しました。
しかし、国土強靱化に係る取組により、役場庁舎に太陽光発電設備と蓄電池を整備していたため、役場における災害対策本部機能を維持するとともに、避難者の受入れにも対応することができました(図-4参照)。
 
ため池の機能強化、老朽化した小学校の長寿命化、ブロック塀の耐震化、避難所での非常用電源設備の整備等、国土強靱化に係る取組は全国各地で進められています。
そして、その効果が発現するのは、規模の大きい地震や豪雨等に遭遇したときとなります。
そのため、平時にその効果を実感することは難しいのですが、国土強靱化の取組は、着実に地域の安全・安心な暮らしの確保に貢献しています。
 

図-3 2022年(令和4年)台風14号等に関する国土強靱化の効果

図-3 2022年(令和4年)台風14号等に関する国土強靱化の効果


図-4 桑折町新庁舎整備に係る太陽光発電・蓄電システムの導入事業とその効果の概要

図-4 桑折町新庁舎整備に係る太陽光発電・蓄電システムの導入事業とその効果の概要


 
 

3.必要・十分な予算の確保に向けて

国土強靱化の着実な推進を図るためには、相応の予算が必要となります。
 
2013年度(平成25年度)の当初予算では、国土強靱化関係予算は3兆円に満たない規模でしたが、2023年度(令和5年度)の当初予算案では、約4.7兆円に増加しています。
国土強靱化に関する取組の重要性を望む声の高まりを受け、増加しているものと言えます。
近年は、3か年緊急対策や、5か年加速化対策のための予算措置も加わり、毎年度6兆円を上回る規模となっています(図-5参照)。
 
5か年加速化対策については、2022年度(令和4年度)第2次補正予算により、実質3年目の予算措置がなされ、これまでの累積額(国費)が約5兆円となりました。
5年間の単純平均を上回るペースで予算措置されており、さらなる取組の加速化が図られています。
これまでのところ、すべて補正予算での措置となっていますが、補正予算からスタート・支出する国庫債務負担行為(事業加速円滑化国債)の活用等により、大規模な事業も円滑に進めることができるようになっています。
 

図-5 国土強靱化関係予算の推移

図-5 国土強靱化関係予算の推移


 
 

4.地方自治体や民間企業による国土強靱化の取組

国土強靱化の実効性を高めるためには、国だけではなく、地方自治体や民間事業者、さらには地域に暮らす一人ひとりに至るまで、関係者が総力を挙げて取り組むことが重要です。
 
このため政府では、地方自治体による国土強靱化地域計画の策定や、それに基づく取組の支援を実施しています。
地域計画とは、国が定める基本計画と調和し、管轄する地域内において、国土強靱化の取組について、「誰が」「どこで」「いつまでに」「何を」するのかを具体的に位置付けることで、計画的な取組を促進しようとするものです。
法令上、策定が義務付けられているものではありませんが、2022年(令和4年)12月1日現在、全ての都道府県と、全1、741市区町村のうち1、701市区町村(約98%)で地域計画が策定され、40市区町村において策定中もしくは策定予定となっています。
政府は地方自治体に対し、実効性の高い地域計画の策定に関する説明会の開催や、地域計画に位置付けられた取組に対する関係府省庁所管の交付金・補助金による支援の重点化、あるいはその追加検討等、さまざまな支援を行うことを通じて、地域計画の内容の充実を図り、地域の強靱化を進めることとしています。
 
民間事業者の取組促進については、国土強靱化に関する優れた取組を紹介する「民間の取組事例集」を毎年作成し、HPやSNSで情報発信するとともに、事業継続に積極的に取り組んでいる企業等を第三者機関が「国土強靱化貢献団体」として認証する仕組み(レジリエンス認証)の運用を行っています。
また、税制措置を通じて取組の促進を後押ししており、2023年度(令和5年度)の税制改正事項としては、建築物の大規模倒壊の防止や、サプライチェーンの確保等に資する13項目が挙げられています。
 
地域にお住まいの方々に対しては、国土強靱化への理解・関心を深めるため、地域で防災・減災等の活動に取り組んでいる方々を交えた「国土強靱化ワークショップ」を開催しています。
また、2022年(令和4年)1月に作成した国土強靱化パンフレット(図-6参照)を活用し、国土強靱化の必要性や効果、取り組むべき事項について、学校や家庭において意見交換をしていただくことで、事前に備えることの大切さを周知しています。
 

図-6 国土強靱化パンフレット「進めよう災害に強い国づくり(抜粋)」

図-6 国土強靱化パンフレット「進めよう災害に強い国づくり(抜粋)」


 
 

おわりに

災害を未然に防止するためには、引き続き、国土強靱化に関する取組を強化していく必要があります。
5か年加速化対策も3年目を迎えるにあたり、その後の取組のあり方についても関心が高まってきています。
 
こうした状況を踏まえ、岸田総理は、昨年(2022年(令和4年)10月に、「5か年加速化対策後も中長期的かつ明確な見通しの下、継続的・安定的に防災・減災、国土強靱化の取組を進めていくことが重要であるとの認識に立ち、災害に強い国づくりを強力に推進するため、国土強靱化基本計画について2023年(令和5年)夏を目途に改定すべく取組を開始する」よう指示しました。
また、与党(自民党・公明党)においても、2022年(令和4年)11月より、5か年加速化対策後を見据えた取組のあり方について、新たにプロジェクトチームを立ち上げて議論が進められています。
 
地域の安全・安心を確保するための事前防災・先行投資として、国土強靱化に関する取組を継続的・安定的に進めることができるよう、建設関連産業に従事する方々をはじめとした、多くの関係者としっかり連携して取り組んでまいります。
 
 
※国土強靱化に関する最新の動向は、以下のサイトで入手可能です。
 
QR
 
 
 

内閣官房 国土強靱化推進室 次長 
村山 一弥

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年3月号

公表価格版3月号

最終更新日:2023-06-23

 

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