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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト

はじめに

わが国では、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風など、毎年のように全国各地で自然災害が頻発し、甚大な被害が発生している。
 
気候変動の影響等により、激甚化・頻発化する水災害や切迫する大規模地震から国民の命と暮らしを守るためには、これまでの教訓や検証を踏まえた対策が必要である。
 
国土交通省ではその総力を挙げて、抜本的かつ総合的な防災・減災対策の確立を目指すため、「国民目線」と「連携」をキーワードとして施策の検討を進め、令和2年7月に「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」として主要10施策をとりまとめた。
 
その後、令和3年6月にも、「住民避難」と「輸送確保」のための対策を中心にプロジェクトをとりまとめた。
 
これまで、プロジェクトのPDCAサイクルを回しながら、施策の実行に必要な予算要求や制度改正を行い、プロジェクトを着実に推進するとともに、災害対応等を踏まえプロジェクトの充実・強化を図るなど、継続的に取り組みを推進し、施策の進捗状況等を踏まえ、防災業務計画等への反映を図っている(図-1)。
 
令和4年6月に、令和3年7月の熱海市の土砂災害や令和4年3月の福島県沖を震源とする地震などの災害の教訓も踏まえ、プロジェクト全体の充実・強化を図った「令和4年度総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」(以下、「令和4年度プロジェクト」という)をとりまとめた。
 
本稿では、強化すべきテーマや近年の災害リスクへの対応等を中心に、令和4年度プロジェクトの概要を紹介する。
 

図-1 防災・減災プロジェクトのPDCAサイクル(イメージ)

図-1 防災・減災プロジェクトのPDCAサイクル(イメージ)


 
 

1.強化すべきテーマ

令和4年度プロジェクトでは、令和3年度の7・8月の大雨や10月の千葉北西部の地震、2月の札幌圏を中心とした大雪や3月の福島県沖を震源とする地震等、全国各地で甚大な災害が発生し(図-2)、そこで明らかになった課題に対し、施策の充実・強化を図るため、強化すべきテーマとして「再度災害の防止」と「初動対応の迅速化・適正化」の二つを設定した。
 
また、施策の充実・強化に当たっては、関係省庁や企業等も含めたさらなる連携促進、リスクコミュニケーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)の三つのツールを積極的に活用することとした。
 

図-2 令和3年度の主な災害

図-2 令和3年度の主な災害


 
 

1-1.再度災害の防止

激甚化・頻発化する災害等に対し、同様の被害を繰り返し発生させないために、「盛土による災害の防止」、「同地域で繰り返し発生する被害の防止・軽減」、「多発する同種の被災形態の被害の防止・軽減」の三つの観点に基づき、ハード・ソフト一体となった事前防災対策をより一層加速化し、持続可能な社会の実現を目指す。
 
以下に、「再度災害防止」のための課題や対応状況、今後の取り組みについて紹介する。
 
 

1)盛土による災害の防止

令和3年7月に静岡県熱海市で大雨に伴って盛土が崩落し土石流が発生したことにより、甚大な人的・物的被害が生じた。
宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律により、開発を規制していたが、各法律の目的の限界等から、盛土等の規制が必ずしも十分でないエリアが存在すること等を踏まえ、令和4年5月に「宅地造成等規制法の一部を改正する法律」を公布し、危険な盛土等を全国一律の基準により包括的に規制する法制度を構築した(図-3)。
法律の円滑な施行のため、都道府県等による基礎調査や区域指定などの実施に向けた運用ガイドラインの策定・周知や助言等を行う。
 

図-3 規制区域のイメージ

図-3 規制区域のイメージ


 
 

2)同地域で繰り返し発生する被害の防止・軽減

令和3年8月の大雨で、福岡県久留米市や佐賀県武雄市において内水被害が発生した。
当該地域では過去にも同様の被害が発生している。
排水機能の強化、土地利用規制、流出抑制対策、浸水状況の迅速な把握など、新技術も活用し、内水対策のより一層の強化を図る。
 
地震や大雨等で一度被災し、復旧した施設等が再度被災を受けた事例が発生した(図-4)。
被災した施設について、将来、同規模の地震や大雨等が発生しても、その施設が繰り返し被災しないための対策等を検討する。
 

図-4 昭和大橋 橋脚支承が被災(令和4年3月)

図-4 昭和大橋 橋脚支承が被災(令和4年3月)


 
 

3)多発する同種の被災形態の被害の防止・軽減

近年、激甚化・頻発化する豪雨災害により、河川に架かる鉄道橋梁の傾斜や流出、河川に隣接する区間の道路の流出などの被害が発生している。
令和3年8月の大雨では、JR東海の橋脚傾斜や国道41号の道路流出などの被害が発生した(図-5)。
 
河川に架かる鉄道橋梁に対しては、令和3年9月に、JR河川橋梁対策検討会を開催し、「鉄道河川橋梁における基礎・抗土圧構造物の維持管理の手引き」に基づき、被災時に影響の大きい橋梁を対象とした総点検を実施している。
今後、点検結果に基づき、橋脚根固め工等の必要な対策を実施する予定としている。
 
河川に架かる道路橋、河川に隣接する道路構造物に対しては、渡河部の橋梁や河川に隣接する道路構造物の流失防止対策を実施している。
道路土工構造物点検要領に河川隣接区間の盛土および擁壁を点検対象として追加する。
 

図-5 令和3年8月の大雨の被災状況

図-5 令和3年8月の大雨の被災状況


 
 

1-2.初動対応の迅速化・適正化

一刻も早く、被災地域の状況を把握し、通常の平穏な暮らしを取り戻すことができるよう、「被災状況の早期把握」、「交通インフラ等の早期利用再開」の二つの観点に基づき、災害発生時の初動対応をより一層強化し、災害対応力の高い社会の実現を目指す。
 
以下に、「初動対応の迅速化・適正化」のための課題や対応状況、今後の取り組みについて紹介する。
 
 

1)被災状況の早期把握(厳しい状況下での被災全容把握)

下北半島北部や熱海市域での大雨災害や千葉県北西部地震に関して、
 
 ●本州最北端での発災かつ道路被災による通行止めなどアクセス困難
 ●防災ヘリによる調査が不可能な荒天
 ●発災地域の地整防災ヘリが点検整備中
 ●夜間発生のため防災ヘリからの目視調査が不可能
 
など悪条件の影響により、早期に被害の全容把握が容易ではなかった。
そのため、点検サイクル最適化等による防災ヘリの広域運用体制の強化、他機関ヘリ(民間含む)との連携推進等により、防災ヘリの即応体制を強化する。
また、天候や時間帯等によらず調査可能な最新の技術手法(衛星、ドローン等)の活用について検討を推進する(図-6)。
 

図-6 最新技術手法の例

図-6 最新技術手法の例


 
 

2)交通インフラ等の早期利用再開

①鉄道の運転再開の早期化
令和3年10月7日に発生した千葉県北西部を震源とする地震(以下、「千葉北西部地震」という)においては、揺れの小さい地域の鉄道は順次運転再開した一方、揺れの大きい地域では施設点検に時間を要した。
地震発生後の鉄道運転再開の早期化のため、地震計の増設等により、揺れの大きい範囲をできるだけ絞り込んで点検を行うなどの取り組みをさらに推進する(図-7)。
 

図-7 地震計の増設(イメージ)

図-7 地震計の増設(イメージ)


 
②鉄道の運転再開情報の適切な情報発信
千葉北西部地震では、首都圏の多くの鉄道が運転を一時的に見合わせた。
特に揺れの大きかった一部路線においては、点検等により運行再開が深夜・明朝となった。
列車運行再開等により滞留者は解消したものの、一部路線において明朝の運行に減便が生じ、一部駅で通勤通学者の行列が発生した。
令和3年10月27日に鉄道事業者と開催した会議において、運休情報、減便情報に関し適切な情報提供の検証を指示、国土交通省として、発災時の適切な情報発信について都度状況把握・フォローを実施している。
現在、内閣府や鉄道事業者とともに、自治体や経済界等とも連携して適切な情報発信を含む帰宅困難者対策について検討している。
 
③記録的大雪による鉄道の長期運休の改善
令和4年2月、記録的な大雪により、札幌都市圏を含めJR北海道の複数の路線で長期にわたり運休が発生した。
通勤・通学などの地域の足としての機能に加え、観光・物流など社会経済活動にも影響を与えることからJR北海道は「令和4年2月札幌圏大雪による大規模輸送障害発生を踏まえた対策検討委員会」を設置し、改善策をとりまとめた。
 
《検証項目》
 ●降積雪状況の確認、早めの運転規制と運転計画策定
 ●災害級の大雪に対する除雪体制
 ●利用者への情報提供
 ●降積雪に対応する鉄道施設
 
《今後の取り組み》
 ●降雪カメラ等の新設、気象予報会社からの情報収集の強化
 ●災害級の大雪時における外部応援の要請
 ●情報提供の品質向上
 ●除雪機械および融雪設備の増強
 
 

2.近年の災害リスクへの対応

2-1.線状降水帯の予測精度向上

令和3年6月17日より、「顕著な大雨に関する気象情報」の発表を開始している(図-8)。
また、令和4年6月より、線状降水帯による大雨の可能性の半日程度前からの呼びかけを開始した。
引き続き、水蒸気観測等の強化、気象庁スーパーコンピュータの強化や「富岳」を活用した予測技術の開発等を早急に進めることで、段階的に防災気象情報を改善していく。
 
今後、これらの情報も含めた防災気象情報を受けたタイムライン作成に向け検討する。
 

図-8  顕著な大雨に関する気象情報の発表例(令和3年8月13日)

図-8  顕著な大雨に関する気象情報の発表例(令和3年8月13日)


 
 

2-2.火山噴火等に伴う潮位変化に対する情報発信

令和4年1月15日に発生した、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火による潮位変化に関する情報発信における課題を踏まえ、「遠地地震に関する情報」を活用した情報発信や(図-9)、有識者による潮位変化メカニズム等を分析するとともに、情報発信のあり方をさらに検討する。
 

図-9 「遠地地震に関する情報」を活用した情報発信

図-9 「遠地地震に関する情報」を活用した情報発信


 
 

2-3.切迫する大規模地震への対応

令和3年12月、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について公表された(図-10)。
日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法の一部改正を受け、対策計画の変更に向け検討を開始する。
 

図-10 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定

図-10 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定


 
 

3.主要10施策の取り組み状況

令和2年7月にとりまとめた国民の命と暮らしを守る以下の10の施策パッケージについて、施策の充実・強化を図り、防災・減災の取り組みを強力に推進していく。
 
①あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換
②気候変動の影響を反映した治水計画等への見直し
③防災減災のための住まい方や土地利用の推進
④災害発生時における人流・物流コントロール
⑤交通・物流の機能確保のための事前対策
⑥安心・安全な避難のための事前の備え
⑦インフラ老朽化対策や地域防災力の向上
⑧新技術の活用による防災・減災の高度化・迅速化
⑨わかりやすい情報発信の推進
⑩行政・事業者・国民の活動や取り組みへの防災・減災視点の定着
 
 

おわりに

今年度も全国各地で災害が発生し、甚大な被害が生じた。
 
引き続き、災害対応等を踏まえ、プロジェクトについて不断の見直しや改善を行い、国土交通省の防災・減災に関する取り組みのさらなる充実・強化を図ってまいりたい。
 
 
 

国土交通省水管理・国土保全局防災課 
神宮 正一

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年3月号

公表価格版3月号

最終更新日:2023-06-23

 

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