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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 災害時あんしんマンホールトイレ ~マンホールトイレの普段使い~

 

はじめに

近年,地震の発生や台風等による豪雨等大規模な自然災害が発生しており,避難所等が開設され,多くの住民が長期的な避難生活を余儀なくされております。また,災害発生とほぼ同時にライフラインが停止するため,不便な避難生活が報道されています。しかし,ライフラインの1つであるトイレ問題は深刻ですが,あまり報道されていません。
 
人が生きていくうえで排泄行為は重要であり,避難所等における仮設トイレ等の設置は急務です。また,単に設置するのではなく,快適で安全に使用できる環境の整備が重要と考えます。
 
 

1. マンホールトイレの整備

東松島市(以下,本市)で,マンホールトイレの整備を始めたのは,平成7年阪神・淡路大震災(震度7),平成15年宮城県北部連続地震(6弱,6強,6弱),平成16年新潟県中越地震(7),平成19年新潟県中越沖地震(6強),平成19年能登半島地震(6強),平成20年岩手・宮城内陸地震(6強)等の大規模な地震が連続して発生したことがきっかけでした。
 
今後も大規模な地震が発生した場合,現状の下水道施設では防災減災対策が不十分なため,地震発生時に下水道施設が果たすべき機能のうち3つの機能は果たせないと考えました。防災対策となる,「①下水道を流す,処理する機能の確保」,「②道路等において救命・支援活動を損なわない二次災害の防止」,減災対策となる「③避難所のトイレ環境の改善確保」です。
 
このような対策に取り組むことは,地震に強い安全・安心なまちづくりになると考えました。さらに,大規模地震の被災地で,避難所の仮設トイレで高齢者や障害者がトイレの使用に困っている状況を目の当たりにし,トイレの重要性を再認識しました。
 
そこで,下水道施設の耐震対策として,マンホールの浮上防止対策工事約600基,避難所へのマンホールトイレ16カ所128基を整備計画としました。その後,東日本大震災により事業期間の変更や,設置場所の見直しを行いながら整備を進め,マンホールトイレは21カ所168基に計画変更しました。
 
マンホールトイレは,下水道管直結方式を採用しました。この方式は,トイレ用水として地下に耐震性貯水槽(1週間分)を設置し,トイレ利用者が手押しポンプによりトイレ用水供給槽(75ℓ)へ揚水し栓を抜くことで,汚物等が下水道本管へ流下する仕組みです(図-1)。トイレ用備品の建屋(組立テント),便座等,ランタン,トイレットペーパー等を備品庫に格納しました。また,使用説明用掲示板も設置しました。各避難所のトイレ基数は避難人員の半数とし,1基当たり100人として算出しました。
 

図-1 災害用マンホールトイレシステム(下水道管直結方式)




 

2. 東日本大震災

平成23年3月11日に発生した,震度6強の地震と津波により本市も甚大な被害を受けました。
 
死者行方不明者は1,113人(全住民の約2.4%)家屋被害が全壊,大規模半壊,半壊が11,077棟(全世帯の73%),津波により市街地の65%が浸水しました。ライフラインは電気,水道が2週間以上供給停止し,一般へのガソリン販売は3週間以上ありませんでした。
 
大震災発生後の救助や運搬等の緊急車両に使用する燃料確保に苦慮しました。大震災発災後を想定した訓練においては,調達等の確保についても今一度確認してみてください。
 
また,発災直後から学校等に多くの住民が避難しましたが,断水により多くのトイレ難民が発生し,悲惨な状況になりました。もちろん,仮設トイレを手配設置しましたが3~4日かかるため,これらの施設では,トイレの使用を禁止し施錠しました。しかし,トイレブースを乗り越えて使用され,小便器まで糞便で溢れる等最悪の状況だったようです。
 
東日本大震災時には,全5カ所のうち2カ所のマンホールトイレが活躍しました(写真-1,2)。矢本第一中学校の校庭7基と,大塩市民センター駐車場4基が発災翌日に自主防災会や教員によって設置運営されました。計画当初から自主防災会等で設置できるよう説明を行っており,スムーズな設置につながりました。
 
この2カ所の避難所への避難者数は,矢本第一中学校で約900人(計画避難者数の1.8倍),大塩市民センターは約600人(計画避難者数の1.2倍)で,後に仮設トイレも併設されました。
 
使用者に感想を聞いたところ,段差が無く,洋式で臭いもなく,早い段階から設置されたと好評でしたが,テント式は風に弱いことや,使用中が分かりづらい,夜間は懐中電灯の使用で影が映ることや,男女別になっていないことやプライバシーが保てないこと等,初めての使用だったこともあり2週間の長期使用で多くの課題が浮かび上がりました。
 

写真-1 矢本第一中学校校庭

写真-2 大塩市民センター駐車場



 

3. 検証と改善

実際に使用した経験を生かし,安心・安全なトイレを目指して課題の改善に取り組みました。有識者や女子中高生徒の提案等を参考にこれまで行った改善内容は,以下の通りです。
 
まずトイレ建屋はパネル式としました(風対策錘付)。内部には人感式LEDライト,鍵,荷物棚と荷物フックを付け,女性専用に,擬音装置と防犯ブザー,サニタリーボックス,鏡を設置しました。また,外部にはソーラー型照明設備,(1カ所当たり2基)を設置し夜間の使用に備えました(写真-3)。
 
また一部では,建屋パネルの色を男女分けしました。男女比率を3:7とし,入口位置を男女別方向としました。トイレの使用方法を内部に掲示し,さらに快適に利用できるよう心がけました(図-2
 
  
 
  
 
  
写真-3 安心・安全なトイレを目指した取組み

図-2 トイレの組み立て方法,使用方法




 

4. 災害用トイレの啓発活動

これまでの啓発方法は,ホームページや,毎年開催される総合防災訓練を行っていました(写真-4)。他には「下水道デー」の開催時に展示啓発を行ってきました。しかし,これまでの啓発活動だけでは,「発災時に使えるのだろうか。」と疑問に感じていました。そこで,「見て触る」から一歩踏み込んだ「使用する」という活動,普段使いを行うこととしました。実際に使用することは訓練になり啓発が増進され,防災意識が高まります。さらに,利用者からアンケートを取ることで施設の検証もできます。しかし,普段使いには,イベント主催者への理解と協力依頼,職員の配置,地元住民の手伝い,消耗品の購入,啓発ブースの設置場所について検討・準備しなければなりませんでした。場合によっては清掃費も必要となる場合があります。
 
初めは災害用と言うことで敬遠され,見るだけの状況が続きましたが職員が市民に使用してもらえるよう声掛けを行った結果,市民の理解を得ることができ利用者が増えました。
 

 

写真-4 総合防災訓練の様子


 

5. マンホールトイレの普段使い

マンホールトイレが整備されている各市民センター(避難所)において前記のような準備を行い普段使いが行うことができました。平成29年度に4回,30年度に3回実施しました。総計810人が使用し246人からアンケートを回収しました。結果は「思ったより良かった。」が77%と評価は上々だったと思います(写真-5
 

観光と物産のPR会および肉フェスティバル

観光と物産のPR会およびかき祭り

写真-5 イベントでの活用事例

5-1 アンケート意見[良い点]

「快適でした。」「男女で色分けされているのが良かった。」「思ったより使い心地が良かった。」「仮設トイレより衛生的で段差が無いのが良い。」「安心感があって使いやすい。」「女性用に音姫もついて配慮されている。」「設置片付けが簡単。」等でした。

5-2 アンケート意見[課題]

「和式は汚れやすい。」「男性用小便器があると良い。」「ペーパーがスリーブの途中に張付き次の人に悪いと思った。」「便座が冷たい。」「便座の大きさがもう少し大きいと良い。」「夏場はトイレ内が暑い。」「スリーブの取付けやしわが気になる。」等,課題も出てきましたが今後も快適なトイレを目指し,さらなる改善に取り組んでいます。
 
 

6. 運動会でマンホールトイレ

これまでイベントで普段使いをし,アンケートを回収してきましたが,トイレを使用する人はイベントを見に来た人や,出展者等のスタッフ等と一部の人に限られており,まだまだマンホールトイレを知らない住民が多いのではないかと感じていました。そんな時,「運動会」での使用が学校の協力により得られました。
 
学校(避難所)に整備されているトイレを運動会で使用することは,子供から大人まで多くの市民に使用してもらえる絶好の機会です。その機会は,昨年5月に実現しました。残念ながら小学校の運動会は,市内一斉開催であることから1校だけとなりましたが,外トイレはマンホールトイレのみの使用(年少は別)となったことから,当日は4年生以上と保護者のみの使用でしたが,述べ770人に利用していただきました。
 
トイレの設置数は,男性用は小便器3基,洋式1基。女性用は多目的トイレを含み洋式4基設置しました。今回はこれまでの経験から,小便器を2基増設したことであまり待たずに利用していただけましたが,女性用は時間帯により待ち時間が発生しました。アンケート結果は次の通りです(図-3)(写真-6)。
 
次に中学校の運動会は8月に開催されました。利用者は延べ156人で使用者の大半は保護者で中学生は7%でした(写真-7)。
 
このように,運動会の開催時間や学校の方針により利用者はばらつきましたが,初めての利用者が多く,「施設の充実ぶりが良かった。」との回答を沢山の人から頂きました。まだまだ課題もありますが,訓練を重ねることで自然災害発災時に,各施設単位で住民による設置運営ができることを目指していきます。
 

図-3 アンケート結果結果


 
 
写真-6 小学校での使用事例


 
写真-7 中学校での使用事例


 

おわりに

マンホールトイレを使用するためには,下水道本管が機能していることが重要ですが,マンホールトイレの形式等により違いがありますのでご確認をお願いします。
 
大災害を想定し,災害用トイレを含めたさまざまな物資や調達等の確認,人員配置,施設の被災状況の確認方法や応急対策等を想定した訓練等を行ってみてはどうでしょうか。
 
早急に必要と思われる物の例として,発電機,燃料,バキューム車,運搬用トラック(ユニック付き),排水ポンプ,排水ホース,安全柵等です。また,被災直後は施設の管理会社等は現地に入れない場合がありますので,自然災害発生直後の避難所の開放等についても話し合ってみてください。
 
マンホールトイレは,内容により高額な施設になりますが,各自治体の設置事例や民間の提案等を参考にし,早期に設置運営が可能な災害用トイレを検討されてはいかがでしょうか。災害時の防災減災対策としての整備を行いながら,普段使いを通して設置や使用方法の訓練を行うことで発災時に行政の手を借りることなく住民が設置し運営できることが必要だと感じています。そして,清潔で安全・安心なトイレ整備を目指してください。
 
当市は【災害時あんしんマンホールトイレ】を掲げて啓発活動を今後も行っていきます(図-4
 

図-4 東松島市の啓発ロゴ




 
 

東松島市 総務部 工事検査室 工事検査監兼危機対策専門員 小田島 毅

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年3月号


 

最終更新日:2023-07-10

 

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