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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 雪寒対策資機材 > 非塩化物系凍結防止剤の散布効果について~寒地試験道路における事前散布試験~

 

はじめに

北海道などの積雪寒冷地域においては,降雪や路面凍結により路面摩擦係数が低下するため,スリップ事故などの冬期特有の交通事故や車両速度の低下による交通渋滞が発生する。
このため,道路管理者は安心・円滑な冬期道路交通を確保するために,凍結防止剤散布などの凍結路面対策を実施している。
凍結防止剤には,価格,融水性能,取り扱いやすさおよび入手性などが総合的に優れている塩化ナトリウム(以下,塩ナト)が主に使用されている。
一方,塩ナトをはじめとした塩化物系凍結防止剤は,土壌,植物,道路構造物および走行車両などの沿道環境への負荷が懸念されており,沿道環境への負荷が小さい新たな凍結防止剤が求められている。
 
当研究所では,沿道環境への負荷が少ない新たな凍結防止剤を提案するため,さまざまな化学物質の凝固点,金属腐食,融水性能,安全性,植物への影響,臭い,価格などを調査し,凍結防止剤として優れた性質を持つ物質を探索した結果,総合的に優れていた,プロピオン酸ナトリウム(以下,プロナト)とコハク酸二ナトリウム・六水和物(以下,コハク)を対象として,凍結防止剤としての利用可能性を調べてきた。
 
これまでの研究では,当研究所が所有する苫小牧寒地試験道路にて,これら非塩化物系凍結防止剤のプロナトおよびコハクの湿式剤を使用し,塩ナトと混合して,路面凍結後の事後散布による散布試験を実施した。
その結果,プロナトおよびコハクは,塩ナト単体での散布と同程度のすべり抵抗値改善がみられ,散布効果の持続性も塩ナト単体と同程度に認められたが,事前散布(予防散布)による凍結防止効果については不明のままであった(※1)
本研究では,路面凍結前の事前散布による散布効果試験を実施したので,試験概要とその結果について紹介する。

 
 

1. 非塩化物系凍結防止剤

1-1 プロピオン酸ナトリウムについて

プロナト(写真-1)は,細菌や真菌の増殖を抑制する効果があるため,食品保存料として使用されている。
食品以外にも化粧品,飼料,塗料,接着剤としての用途もあり,日本国内での年間流通量は約40tと見積もられている。
外観は白色であり,形状は一般的に粉状であるが,粒状への加工も可能である。
プロナトの凝固点2)は,20%濃度の水溶液で-16.4℃となり,塩ナトの-19.7℃と比べて高いが,塩ナトとプロナトを混合することで凝固点の差はわずかとなる。
塩ナトとプロナトの重量比8:2混合物の凝固点は-18.9℃である。
金属腐食性については,プロナト単体ではほぼ腐食は発生しておらず,塩ナトとの重量比で1割のプロナトを混合させた場合,塩ナト単体に比べ約65%の金属腐食量となることを確認(※2)している。

  • プロピオン酸ナトリウム(粉状)
    写真-1 プロピオン酸ナトリウム(粉状)

  • 1-2 コハク酸二ナトリウム・六水和物について

    コハク(写真-2)は,国内で主に食品添加物やメッキ剤の原料として流通しており,国内の年間流通量は約3,000tである。
    外観はプロナトと同様に白色である。
    コハクの凝固点(※3)は,20%濃度の水溶液で-5.9℃となり,塩ナトの-19.7℃と比べて高いが,塩ナトとプロナトを混合することで塩ナトの凝固点に近づくため,積雪寒冷地域で適用可能と考える。
    塩ナトとコハクの重量比19:1混合物の凝固点は-17.8℃である。
    金属腐食性に関しては,塩ナト・コハク混合物の重量比19:1の金属腐食量は,塩ナト単体の約68%の金属腐食量となっており,プロナトと同様に金属腐食の進行を抑えられることが確認(※3)されている。

  • コハク酸二ナトリウム・六水和物(粉末)
    写真-2 コハク酸二ナトリウム・六水和物(粉末)

  • 2. 散布試験

    2-1 試験概要

    プロナトおよびコハクの散布効果を確認するため,2020年1月14日,16日,20日,22日の計4日間,苫小牧寒地試験道路(写真-3)において散布試験を実施した。
    なお,試験走路は1周L=2,700m(直線部L=1,200m,曲線部L=160m)である。
    散布時の気象条件を表-1に示す。
    散布試験では試験道路に作製した湿潤路面に,薬剤の種類が異なる凍結防止剤を散布し,一般の道路交通を再現するため交通模擬車両(ダミー車)を走行させ,一定台数通過ごとに路面のすべり抵抗値を測定することで散布効果を検証した。

  • 苫小牧寒地試験道路
    写真-3 苫小牧寒地試験道路

  • 気象条件
    表-1 気象条件

  • 2-2 散布方法

    散布量は北海道開発局の「冬期路面管理マニュアル(案)(※4)」における凍結防止剤の散布基準のうち事前散布を想定して15g/m²とし,散布方法は湿式散布とした。
    湿式散布とは塩ナト等の固形剤を,水溶液状にした塩ナトや塩化カルシウム等の凍結防止剤溶液に混合して散布する方法で,路面への付着性がよく,風や通行車両による飛散を少なくし,即効性や持続性が優れた散布方法である。
    非塩化物のプロナトおよびコハクは,単体の使用だけではなく塩ナトと混合しても金属腐食の進行を抑えることができ,単体で使用した場合,従来の塩ナト単体の散布よりも散布コストがかさむことから,塩ナトと混合して散布することとした。
    また,プロナトおよびコハクは固形剤としての散布ではなく溶液状にした湿式剤として,固形剤の塩ナトに混合して散布を行った。
    混合比率については,凝固点測定結果や金属腐食性試験結果を考慮した結果,表-2に示すとおりとし,塩ナト(固形剤)にプロナト水溶液(濃度25%)を付加した湿式散布(以下,プロナト湿式剤),塩ナト(固形剤)にコハク水溶液(濃度15.3%)を付加した湿式散布(以下,コハク湿式剤)を実施した。
    また,これらとの比較のため,従来実施している塩ナト(固形剤)に塩ナト水溶液(濃度20%)を付加した湿式散布(以下,塩ナト湿式剤)を実施した。

  • 使用薬剤(凍結防止剤)
    表-2 使用薬剤(凍結防止剤)

  • 2-3 試験手順

    散布試験のレイアウトは図-1のとおりである。各凍結防止剤の散布区間は幅3.5m×延長100mである。
    散布区間同士の干渉を避けるために,各区間の間には100~200mの無散布区間を設けた。試験の手順を述べる。
     
     ⅰ)夕方,路温が0℃以下になる前に,試験道路の直線区間に散水車を利用して散水を行う。
     ⅱ)散布前の路面すべり抵抗値を測定する。
     ⅲ)路面凍結前に各凍結防止剤を散布し,散布直後の路面すべり抵抗値を測定する。
     ⅳ)車両の走行による路面状態の変化を観測するため,交通模擬車両50台を走行させる。
       交通模擬車両の速度は40km/hとし,普通乗用車を使用した。
     ⅴ)路面すべり抵抗値を計測する。
     ⅵ)手順ⅳ)~ⅴ)を通過台数が300台(50台×6セット)に達するまで繰り返す。

  • 散布試験のレイアウト
    図-1 散布試験のレイアウト

  • 2-4 計測装置

    散布効果の把握は,連続路面すべり抵抗値測定装置(※5)写真-4)を用いてすべり抵抗値を測定した。
    連続路面すべり抵抗値測定装置とは,車両後部に計測輪を設け,計測輪を車両進行方向に対して1度~2度程度の角度を与え,計測輪が回転する際に発生する横力を計測し,連続的に路面のすべり値を計測する装置である(図-2)。
    なお,すべり抵抗値とは,当該装置の開発者が独自に設定したHFN(HallidayFrictionNumber)と呼ばれる値である。
    図-3に示すとおり,通常HFN0~HFN100の範囲で変化し,すべりにくいほど高い値を示す。
    また,測定値が表す路面として,HFN0~HFN44は雪氷路面,HFN45~HFN59
    はシャーベット路面,HFN60~HFN100は良好な路面を示している。

  • 連続路面すべり抵抗値測定装置
    写真-4 連続路面すべり抵抗値測定装置

  • 計測概念図
    図-2 計測概念図
  • すべり抵抗値と横力
    図-3 すべり抵抗値と横力

  • 3. 試験結果

    試験4日間のうち1月14日,22日については散水作業後,散布前に路温が0℃以下となり,凍結防止剤事前散布の散布効果に関する比較可能なデータを得ることができなかったため,1月16日,20日の試験について比較を行った。
     
     

    3-1 1月16日の試験結果

    図-4に交通模擬車両通過台数の増加に伴う路面すべり抵抗値と外気温,路温の変化を示す。
    散布直後から試験終了までの外気温は,-0.3℃~-7.5℃,路面温度は1.1℃~-7.6℃で推移した。

    散布直後の路面すべり抵抗値については,無散布区間はHFN64であり,塩ナト湿式剤区間はHFN106,プロナト湿式剤区間はHFN108,コハク湿式剤区間はHFN107の値を示した。
    交通模擬車両50台走行後から300台走行後までは,塩ナト湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN104~HFN111の間で推移,プロナト湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN108~HFN111,コハク湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN69~HFN105となり,各薬剤散布区間は,無散布区間の路面すべり抵抗値(HFN24~HFN37の間で推移)より高い値であった。
    交通模擬車両300台走行後までの全走行を通して,塩ナト湿式剤,プロナト湿式剤を散布した区間は,ほぼ同じ高い値のすべり抵抗値で推移した。コハク湿式剤を散布した区間は,50台走行後から150台走行後までは徐々に路面すべり抵抗値が低下し,200台走行後からは路面すべり抵抗値が上昇した。
    コハク湿式剤のすべり抵抗値が低下した要因としては,塩ナト・コハク混合物の凝固点は,塩ナト単体および塩ナト・プロナト混合物と比べて高いため,すべり抵抗値が低下した可能性があるが,路面すべり抵抗値はHFN68以上であり,無散布区間よりも良好な路面であった。

  • 路面すべり抵抗値の変化(1月16日)
    図-4 路面すべり抵抗値の変化(1月16日)

  • 3-2 1月20日の試験結果

    図-5に交通模擬車両通過台数の増加に伴う路面すべり抵抗値と外気温,路温の変化を示す。
    散布直後から試験終了までの外気温は,1.4℃~-0.1℃,路面温度は0.3℃~-2.9℃で推移した。
     
    散布直後の路面すべり抵抗値は,無散布区間はHFN42であり,塩ナト湿式剤区間はHFN114,プロナト湿式剤区間はHFN118,コハク湿式剤区間はHFN117の値を示した。
    交通模擬車両50台走行後から300台走行後までは,塩ナト湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN50~HFN113の間で推移,プロナト湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN67~HFN115の間,コハク湿式剤区間の路面すべり抵抗値はHFN110~HFN115の間となり,各薬剤散布区間は,無散布区間の路面すべり抵抗値(HFN27~HFN35の間で推移)より高い値であった。
    各散布区間ともに交通模擬車両250台走行後以降は,路面すべり抵抗値が徐々に低下した。
    特にプロナト湿式剤区間,塩ナト湿式剤区間の路面すべり抵抗値は250台走行後以降,低下した。
    交通模擬車両300台走行後までの全走行を通して,プロナト湿式剤区間およびコハク湿式剤区間の路面すべり抵抗値は,交通模擬車両100台走行後までは,塩ナト湿式剤区間とほぼ同じ値の路面すべり抵抗値であった。
    交通模擬車両150台走行後からは,プロナト湿式剤区間およびコハク湿式剤区間の路面すべり抵抗値は,塩ナト湿式剤区間より高い値の路面すべり抵抗値であったが,その理由については明らかにできなかった。
    そのため,今後,同様な試験を繰り返し行い,原因を究明したい。

  • 路面すべり抵抗値の変化(1月20日)
    図-5 路面すべり抵抗値の変化(1月20日)


  •  

    4. まとめ

    沿道環境への負荷が小さい非塩化物系凍結防止剤のプロナトおよびコハクについて,苫小牧寒地試験道路にて事前散布による散布効果試験を実施した結果,以下の知見が得られた。
     
     (ⅰ)非塩化物系のプロナトおよびコハクの湿式剤を混合した場合においても,塩ナト湿式剤を混合した場合と同様に高いすべり抵抗値を示した。
     特にプロナト湿式剤は,塩ナト湿式剤と同程度かそれ以上の高いすべり抵抗値を示した。
     
     (ⅱ)コハク湿式剤は,塩ナト湿式剤よりも低いすべり抵抗値となることもあった。
     この原因としては,塩ナト・コハク混合物の凝固点が,塩ナト単体と比べて高いためすべり抵抗値が低下した可能性が考えられるが,無散布区間のすべり抵抗値を下回ることはなかった。
     
    本研究で得られた結果は,限られた条件およびデータによるものであるため,今後も同様な散布試験を実施し,データを蓄積して散布効果の妥当性を確認したい。
    また,実道での散布効果についても調べる予定である。

     
     

    参考文献
    (※1)高田哲哉,徳永ロベルト,佐藤昌哉:塩化物系の凍結防止剤散布試験,令和2年2月,第63回北海道開発技術研究発表会.
    (※2)佐藤賢治,藤本明宏,切石亮,徳永ロベルト,高橋尚人:新しい非塩化物系凍結防止剤の環境性能と路面すべり抵抗改善効果について,寒地土木研究所月報,No.753,pp.34-38,2015.
    (※3)佐藤賢治,徳永ロベルト,高橋尚人,中島範行:コハク酸二ナトリウム・六水和物の凍結防止剤としての適用性に関する研究,寒地土木研究所月報,No.787,pp.2-11,2018.
    (※4)北海道開発局:冬期路面管理マニュアル(案),1997.
    (※5)徳永ロベルト,舟橋誠,高橋尚人,浅野基樹,中野雅充:連続路面すべり抵抗値による冬期路面管理の高度化に関する研究,寒地土木研究所月報,No.661,pp.11-18,2008.

     



     
     
     

    国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 寒地交通チーム 研究員
    村上 健志

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年7月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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