ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 「復興・創生」─ 常磐自動車道の取り組み 〜4車線化事業の完成〜

1 常磐自動車道の概要

常磐自動車道(以下,常磐道)は,東京都練馬区から宮城県仙台市に至る約320kmの高速自動車国道です。
2015年3月,常磐富岡IC〜浪江IC間14kmの開通(写真-1)により全線開通しました。
 
常磐道は,関東地方と東北地方南部の太平洋沿いの主要都市を結び,産業・経済・観光などの発展に重要な役割を担っています。
全線開通によって東京〜仙台間において東北自動車道(以下,東北道)とダブルネットワークを形成することにより,災害・事故・降雪等緊急時の代替・迂回路として機能する重要な道路となっています(図-1)。
 
2016年1月の大雪時には東北道が通行止めとなりましたが,代替路として常磐道が機能しました。
真夜中の時間帯ではあったものの,常磐道の交通量は平常時と比べて最大で3倍に増加しましたが,大きな渋滞もなく,ダブルネットワークとして役割を果たしました。
通常時の交通量は,東北道が約3万台/日(白河IC付近),常磐道は約1万台/日(浪江IC付近)と東北道が3倍多い状況です。

常磐道全線開通(2015.3)

【写真-1 常磐道全線開通(2015.3)】


ダブルネットワーク

【図-1 ダブルネットワーク】



 

2 暫定2車線区間の4車線化事業

全線開通時,いわき中央IC〜岩沼IC間(約129km)は暫定2車線での運用でした(図-2)。
 
開通後は,復興需要の高まりなどにより交通量が大幅に増加,混雑が見られるようになりました(写真-2図-3)。
そのため,全線開通から約1年後の2016年6月に混雑が著しい暫定2車線区間において4車線化が決定。
いわき中央IC〜広野IC間約27km,常磐道山元IC〜亘理IC間約12km,仙台東部道路亘理IC〜岩沼IC間約2kmにおいて4車線化工事を,広野IC〜山元IC間で計6カ所,14kmの付加車線を設置する事業を「第1期復興・創生期間」内のおおむね5年での完成を目指し事業がスタートしました。
 
高速道路の建設事業では,一般的に事業に着手してから10年程度の時間を要するものですが,地域の皆さまのご期待に応え,早期に復興・創生に寄与するため5年間での完成を目指しました。

位置図

【図-2 位置図】


暫定2車線区間の混雑状況

【写真-2 暫定2車線区間の混雑状況】


常磐道(暫定 2 車線区間)断面交通量

※東日本高速道路㈱調べ
【図-3 常磐道(暫定 2 車線区間)断面交通量】



 

3 復興・創生期間の完成を目指して

短期間での完成には,早期の工事着手が必要不可欠であり,用地買収がほとんどないとはいえ,複数の道路や河川,鉄道と交差するため,工事着手前に複数の関係機関との協議調整や手続きに時間を要することが想定されました。
 
また,4車線化工事は供用中の暫定2車線の高速道路脇での工事となるため,工事ヤードがほとんどなく,工事用進入路もない箇所が多い中,本体工事にも時間を要する懸念がありました。
 
そのため,手続き上の課題について,通常,高速道路の建設に先立ち,交差する道路や河川等の管理者と個別に協議を行いますが,今回は,協議関係機関の全ての組織の方に参加いただいて「連絡調整会議」を組織し,事業の目的等ご理解いただいた上で,各組織の担当部署等も事前に調整いただき,協議調整の時間短縮を図りました。
 
工事を進めるにあたり必要となる工事用ヤードや工事用道路については,地元の皆さまの多大なるご協力により,貴重な土地・農地を一時お借りし(写真-3,4),必要な敷地を確保することができました。
これにより事業化から通常2〜3年程度かかる工事着手が,1年で実行することができました。
 
また,工事に必要な調査・設計については,I期線工事の資料をもとに概略設計にて工事に必要な設計図などを準備,早期の工事発注を行いました。
 
福島県側のいわき中央IC〜広野IC間では,低土被りのトンネルが2本1.7km,橋梁が22橋6.1km,土工18.7kmと構造物延長は全体の約3割となり,構造物比率が高い区間となっています。
そのため,構造物の施工にかかる期間の短縮策を検討し,さまざまな工程短縮策を採用しました。
例えば,PC橋の施工では移動作業車が最大12基同時稼働や大型移動作業車による張出施工を採用し,日本最大級のブロック長6.4mにて施工を行いました(写真-5)。
また,高橋脚ではハーフプレキャスト部材で橋脚を構築,床版や用排水構造物等においてもプレキャスト製品を多数採用し工程短縮を図りました(写真-6)。
 
宮城県側の山元IC〜岩沼ICでは,橋梁6橋1.3km,土工12.4km,仙台平野を通過する区間で盛土が多い区間です。
そのため,事業化後,速やかに約70万m3の盛土材の確保にあたりました。
また,一級河川阿武隈川を横過する阿武隈大橋(橋長534m)の施工では,ピアケーソンの施工を1非出水期内で終える必要があったため,4基分の設備を設置し昼夜間施工により完成させました(写真-7)。
 
その他,大変苦労した点として,通常,工事前に実施する詳細な調査や設計を工事と同時並行で行ったことにより,現地の地盤状況が想定と違っている事象や用地幅内で施工ヤードが確保できない等,現地に入って初めて判明する事象が多数発生しました。
そのため,通常工事の倍以上の変更設計・工法変更が必要となりました。
これには,工事受注者,監督員ともに多大な労力を要しました。
 
このような苦労はありましたが,皆さまのご協力のもと4車線化および付加車線事業は,完成した箇所から順次供用を開始し,2021年6月事業化から5年という異例の期間で完成することができました(写真-8〜11)。

工事用道路の状況(宮城県側)

【写真-3 工事用道路の状況(宮城県側)】

工事ヤードの状況(福島県側)

【写真-4 工事ヤードの状況(福島県側)】


移動作業車(ワーゲン)の大型

【写真-5 移動作業車(ワーゲン)の大型】

工事ヤードの状況(福島県側)

【写真-6 橋脚のプレキャスト化】


ピアケーソンの4基同時施工

【写真-7 ピアケーソンの4基同時施工】


4車線化工事(いわき中央IC付近)

【写真-8 4車線化工事(いわき中央IC付近)】
上段:工事状況(2019.12)下段:完成(2021.3)

4車線化工事(亘理IC〜岩沼IC阿武隈大橋付近)

【写真-9 4車線化工事(亘理IC〜岩沼IC阿武隈大橋付近)】
上段:工事状況(2019.6)下段:完成(2021.3)


4車線化工事完成式典(宮城県側)

【写真-10 4車線化工事完成式典(宮城県側)】

4車線化工事完成式典(福島県側)

【写真-11 4車線化工事完成式典(福島県側)】



 

4 4車線化による効果

4車線化による整備効果は,「渋滞による速度低下の緩和」,「反対車線への突破による事故の削減」,「大規模災害時の交通の確保」,「大雪時の狭隘な道路空間と通行止めの解消」です。
 
開通後の山元IC〜岩沼ICの区間では,朝の通勤・通学,夕方の帰宅等の混雑時間帯において,速度が改善しています(図-4)。
また,常磐道の交通量が増加,並行する国道6号の交通量が減少し,混雑緩和に貢献しています(図-5)。
 
また,5年という早期で4車線化が完成したことにより,前述の整備効果の早期発現はもとより,福島県内各地で発生する除去土壌等の中間貯蔵施設への運搬がさらに加速し,福島県内の復興が期待されます。
東京電力福島第一原子力発電所の原発事故により,放出された放射性物質由来の除染で取り除いた土壌等は福島県内の各地から中間貯蔵施設に搬入されています。
中間貯蔵施設に搬入される除去土壌約1,270万m³のうち,約6割が常磐道を利用し運搬されています(2022年2月現在)。
 
2019年3月に開通した大熊ICや2020年3月に開通した常磐双葉ICと連携し4車線化後,更に効率的な運搬が実施されています(写真-12)。

旅行速度率(混雑時間帯)

※日平均旅行速度率(%)=混雑時間帯平均旅行速度/日平均旅行速度
※東日本高速道路㈱データ (亘理IC~岩沼ICトラカンデータ)
・暫定2車線時:令和2年3月~4月,4車線時:令和3年3月~4月
・通勤・通学時間帯(上り線):7~8時台の平均旅行速度
・帰宅時間帯(下り線):17~18時台の平均旅行速度
【図-4 旅行速度率(混雑時間帯)】


断面交通量(常磐道・国道6号)

※常磐道:亘理IC〜岩沼IC,国道6号:亘理郡亘理町逢隈下郡字ソリ町
※国土交通省東北地方整備局,東日本高速道路㈱データ
・暫定2車線時:令和3年2月
・4車線時:令和3年3月〜4月
【図-5 断面交通量(常磐道・国道6号)】



 

《整備前(左)と整備後(右)》広野IC付近 除去土壌を運搬するダンプトラック

【写真-12 《整備前(左)と整備後(右)》広野IC付近 除去土壌を運搬するダンプトラック】



 

5 常磐道のこれから

今回,4車線化事業で培った技術や手法は,今後の暫定2車線区間の4車線化事業に貢献するものであり,残る区間の4車線化事業についても着実に進めていきます。
 
また,東北道のリニューアル工事の際に代替路としての役割もある常磐道は,4車線化によって,より走りやすくなり,東北地域全体の復興と地域振興を担う役割も大きなものとなっていきます。

常磐道のこれから


 
 
 

東日本高速道路株式会社 東北支社 建設事業部

 
 
【出典】


積算資料2022年7月号
積算資料2022年07月号

最終更新日:2023-01-12

 

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