はじめに
学校施設は、児童生徒等が一日の大半を過ごす学習・生活の場であるとともに、災害時の避難所としての役割も果たすことから、日常の安全性の確保は極めて重要である。
一方で、公立小中学校の校舎は昭和40年代後半から50年代に建設された施設が多く、経年別保有面積の割合でみると、令和5年時点で築25年以上を経過しているものが全体の約8割※1を占めている。
そのため、近年、学校施設の老朽化に起因する不具合が増加し、学校施設の外壁等の落下等による重大な事故が断続的に発生している(表-1、写真-1~3)。
こうした中で、文部科学省では、学校施設における安全確保に万全を期すため、全国の学校設置者に対して、学校施設における適切な維持管理の徹底について、繰り返し要請を行ってきたところである。
※1 「公立学校施設実態調査 令和5年度」(文部科学省)による
※2外壁落下事故等の防止について、近年、文部科学省から発出した主な通知等は以下のものがある
・「学校施設の維持管理の徹底(外壁落下事故等の防止)について」(令和5年12月5日)
・「学校施設の維持管理の徹底について」(令和5年5月2日)
1. 学校施設における外壁落下事故等の特徴と防止に向けた留意点
近年、老朽化した学校施設において、外壁等が落下する事故が相次いで発生しており、今後、重大な事故につながるおそれも否定できない状況であることから、文部科学省では、「学校施設の維持管理の徹底(外壁落下事故等の防止)について」(令和5年12月5日付け通知5施施企第51号)を発出している。
本通知では、以下のとおり、学校施設における外壁落下事故等の特徴と防止に向けた留意点をまとめている。
学校設置者においては、学校施設について法令等に基づく専門家による点検を適切に実施するとともに、学校施設の日常的な点検等において少しでも異常を発見した場合には専門家と相談する等、学校施設の維持管理の徹底を図ることが重要である。
1-1 過去の外壁落下事故等の特徴
平成27年度以降に文部科学省に情報提供された学校施設に関する事故等(令和5年11月1日時点)のうち、屋外で発生した外壁落下事故等の事故発生箇所や事故発生時の築年数等は、表- 2・3の通りであった。
過去の外壁落下事故等においては、
①概ね築40年を超える鉄筋コンクリート造の校舎で多く発生(気候条件等により劣化の進行が異なる)
②雨掛かりとなる屋上パラペット付近や開口隅部、コーナー部からの仕上げモルタルの剥落が顕著
③その他、庇や外壁等の出隅部からのコンクリートの落下も多い
といった特徴がみられる。
1-2 学校施設における外壁落下事故等の防止に向けた留意点
こうした点を踏まえ、各学校設置者においては、以下の点に留意しつつ適切に維持管理を実施することが重要である。
①高所からの外壁等の落下は重大な事故につながるおそれがあることから、モルタルの浮きやひび割れ等の異常が見つかった場合には、速やかに打診調査等を実施するとともに、周辺の立入禁止措置等の安全対策を講じること。
特に、図- 1に示す開口隅部、コーナー部、パラペット部、出隅部等は落下の可能性が大きいことから十分に注意すること
②今後実施する法定点検時には、①に示した剥落の危険の大きい箇所と併せて、図- 2に示す外壁等の落下により人に危害を加えるおそれのある範囲に留意しつつ、目視による点検を十分に行うとともに、鉄筋露出、剥落、著しい白華、ひび割れ、欠損、浮きなどの異常が認められた場合には、全面打診等を確実に実施すること
③ 目視や打診等による調査だけで安全を確保することは限界があることから、計画的に外壁等の改修を実施するとともに、特に老朽化が進んでいる外壁等については可能な限り早期に対策工事を実施すること
2. 学校設置者の役割、および文部科学省の適切な維持管理の推進に係る取組み
2-1 各学校設置者に求められる役割
第3次学校安全の推進に関する計画(令和4年3月25日閣議決定)では、学校における安全管理の取組みに関して、学校設置者による点検・対策の実施について示された。
本計画では、「近年、学校施設の老朽化が進む中、老朽化に起因する安全面の不具合が増加し、重大な事故が断続的に発生しているが、施設・設備の点検については、校長・教職員による日常的な点検では専門的な視点からの判断は困難である。
(中略)このため、学校設置者は、専門家との連携など施設・設備の点検に関する実施体制の構築を検討することが重要であるとともに、具体的には、学校の施設・設備の設置状況や児童生徒等の多様な行動を考慮の上、専門的な点検を実施して不具合を早期に発見し、適切な維持管理を実施することにより、事故を未然に防いでいくため、技術職員が在籍する首長部局との連携や民間委託等により安全点検の実施体制の強化に努めるとともに、校長からの申し出や専門的な点検により把握した不具合をできる限り早期に解決するよう努める」としており、関係部局等との連携を含め、学校設置者による点検・対策の強化が重要である。
2-2 文部科学省の取組み
こうした背景を踏まえ、文部科学省では、学校施設における安全確保に万全を期すため、首長部局との連携による体制強化、民間のノウハウの活用(包括的民間委託等)、点検体制の強化といった対応事例を掲載した参考資料を作成し、通知および各種会議や研修会等を通じて学校設置者に周知する等の技術的支援を行っている。
①「学校施設の維持管理の徹底に向けて- 子供たちを守るために-」(令和2年5月)
…学校施設の維持管理に関する設置者の役割、課題等を紹介。
②「文教施設における多様なPPP/PFI事業等の事例集 維持管理等のみを行う先導的なPPP/PFI事業編」(令和2年3月)
…包括的民間管理委託等のPPP/PFI手法の活用によって、維持管理等を効率的に行う事例を紹介。
おわりに
未来を担う子供たちが日々学び、生活するとともに、地域のコミュニティの拠点となる学校において、生命が失われたり、健康が損なわれたりすることはあってはならない。
各学校施設において、建築基準法をはじめとする関係法令等に基づき常時適法な状態が維持されるとともに、定期的に検査・点検が実施されることが重要である。
文部科学省の作成する手引き等が活用され、学校設置者による適切な維持管理のもとに、安全・安心な教育環境が全国で形成されていくことを期待したい。
【出典】
積算資料公表価格版2024年11月号

最終更新日:2024-10-21
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