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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 斜面防災 > モルタル・コンクリート吹付工の老朽化対策の現状

 

一般社団法人 全国特定法面保護協会
技術部長 相川 淑紀

 

1.モルタル・コンクリート吹付工の現状

モルタル・コンクリート吹付工は、岩盤の風化防止、雨水などの地山への浸透による浸食や
崩壊の防止・緩和、小落石防止などを目的とし、岩盤斜面・法面に表面保護工として用いられてきた。
擁壁工などのように崩壊への抑止効果は期待できないが、比較的簡易な設備で短期間に施工できること、
保護工の用地をさほど要しないことなどから、昭和30年代後半から適用され始め、
昭和40~50年には多くの斜面・法面の表面保護工として施工されてきた。
他の法面保護工との比較のために、「道路土工-切土工・斜面安定工指針」から抜粋した、
「法面保護工の主な工種と目的」(構造物工)を表-1に示す。
(以下、モルタル・コンクリート吹付工をコンクリート吹付工と記載する)。
 

表-1 法面保護工の主な工種と目的

表-1 法面保護工の主な工種と目的


 
当協会では昭和61年より協会員から工種別の完工高アンケートを取っており、
それによると、昭和63年度から平成3年度をピークに多少の増加はあるものの漸減しており、
平成25年度のアンケートではピーク時の40%弱である138億円(173社回答)となった。
正確な面積は把握できないものの、完工高からすると最近でもおおよそ年間250~300万㎡程の施工面積があると推測できる。
 
 

2.変状現象の例

2.1 変状現象の種類

斜面・法面におけるコンクリート吹付工は、施工され始めてから40年以上経過し、施工時から健全な状態を保っているものもあるが、
施工後十数年でコンクリートの剥離や地山風化進行による崩落などの変状現象をきたし、
枠工や鉄筋挿入工など他の工種によって補強ならびに更新されたものもある。
 
施工後数十年経過し老朽化したコンクリート吹付工には、主に次のような変状現象が見られる。
 
①吹付コンクリート自体の劣化(亀裂や剥離)(写真-1・2)
 

  • 写真-1 モルタル・コンクリートの亀裂の多発

    写真-1 モルタル・コンクリートの亀裂の多発

  • 写真-2 モルタル・コンクリートの凍害による劣化

    写真-2 モルタル・コンクリートの凍害による劣化
    (湧水跡も見受けられる)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
②コンクリート吹付工自体のスライド(写真-3・4)
 

  • 写真-3 コンクリート自体のスライド(はつり・補修作業中) 

    写真-3 コンクリート自体のスライド
    (はつり・補修作業中) 

  • 写真-4 地山表面の風化進行と空隙発生

    写真-4 地山表面の風化進行と空隙発生

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
③コンクリート吹付工のせり出しや地山表層からの剥落、崩壊(写真-5・6)

  • 写真-5 吹付コンクリート面のせり出し。

    写真-5 吹付コンクリート面のせり出し。
    地山風化層(土砂化)の小規模すべり

  • 写真-6 地山表層の剥落。

    写真-6 地山表層の剥落。
    地山風化進行による風化層と吹付の滑落

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2.2 変状現象の原因

こうした変状現象の原因としては、次のことが考えられる。
①吹付コンクリート自体の劣化
乾燥収縮や凍害による亀裂、剥離の発生と拡大、塩害、中性化などが考えられる。
 
また、湧水箇所において亀裂の発生が多い傾向であり、乾湿の差や凍結融解などの影響を受けていると考えられる。
 
中性化については、当協会で調査した吹付枠工のモルタルでの中性化速度係数Cは0.1であった。
また他機関で実施した調査ではC=3未満が91%を占めているとのことであり、係数に差はあるものの、
C=3とし中間にある金網深さ3.5cmまで(厚さ7cmの場合)中性化するに多くは100年以上要すると予想される。
このため中性化による劣化は少ないと考えられる。
 
また、海水の飛沫を多く受ける地域では、相当年数を経過すると、金網が錆びて消滅するほど塩害による劣化が進行することがある。
 
②コンクリート吹付工のスライド
コンクリート吹付工には、アンカーピンが設置されているが、吹付け直後の亀裂発生の抑制、
硬化後の亀裂の分散、剥離、剥落の防止のための金網を固定することが目的である。
このため、吹付コンクリートは地山が岩盤の場合は地山に密着(付着)しているが、
岩盤の風化が進行したり、表面が土砂系の地質では密着性が失われたりして、
空隙、空洞、開口亀裂(法肩、法尻や縦横方向など)などの発生から部分的なスライドや剥離、
および大きな面積のコンクリート吹付工のスライドへ進行することがある。
 
また、法肩や開口亀裂から背面へ表流水が浸入することで、風化の進行や空洞化を助長する。
 
③吹付コンクリートのせり出し、地山表層の剥落や崩壊
地山表層の風化がより進むと、②の現象が顕著となるとともに、地山表層や吹付コンクリートの剥落や崩落が発生する。
 
以上のようなことから、風化しやすい岩質や湧水箇所が多い斜面や法面ではコンクリート吹付工の適用をできるだけ避けるのがよく、
枠工や鉄筋挿入工など風化層が形成されても一定の抑止効果のある工種や、緩勾配化と植生工の適用を検討するのがよい。
 
風化しやすい地質として、新第三紀堆積岩、花崗岩などが挙げられる。
 
 

3.調査方法

近年、変状が発生した老朽化コンクリート吹付工の補修、補強あるいは更新工事が増えつつある。
 
変状の主な原因は、①吹付コンクリート自体の劣化と地山の劣化(風化)、②地すべりなど深いすべりに大きく分かれる。
対策工を実施するにあたっては、事前に状況や原因を把握する必要があり、
表-2にあるような調査方法などが提案され、適宜選定し実施されている。
 

表-2 調査方法例と目的

表-2 調査方法例と目的


 
 

4.調査方法

4.1 対策工の概要

対策工は、修復箇所の重要性、変状原因や状態、期待する修復レベルによって更新(取替え)、
補強、補修などに分かれると考えられる。
現在、調査された変状原因や状態と評価、回復する健全度、維持管理の計画、ライフサイクルなどを考慮して、
表-3にあるような対策工の中から適切な工種を選定し実施されることが多い。
また、中には対策工を組み合わせて実施されることもある。
 

表-3 対策工の例

表-3 対策工の例


 
なお、更新の工種は既設吹付コンクリートを剥ぎ取るためコンクリートの廃棄物が多くなるが、
適用工種によっては新設以上の効果(ライフサイクル)が確保できる。
補強の各工種は、基本的に既設吹付コンクリートをそのままの状態で補強するため廃棄物は少量となり、
現在のライフサイクルの長期化は可能であるが、新設と同等のライフサイクルまでは至らないと考えられる。
 
また、地山の風化がほとんど進行していない法面では、
修景向上を期待し補強・補修後に連続長繊維や植生基材吹付工によって緑化を行うことがある(写真-7・8)
 

  • 写真-7 補修前の既設コンクリート吹付工

    写真-7 補修前の既設コンクリート吹付工

  • 写真-8 緑化された法面(牧草類)

    写真-8 緑化された法面(牧草類)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4.2 補強、補修の対策工種要

以下、補強、補修の対策工種について、概要を紹介する。
 
①増厚工
既設の老朽化吹付コンクリートを撤去せずに、表面に短繊維混入モルタルを吹付けし、
遮水性や耐荷性の向上、吹付コンクリートの剥離防止を主な目的とする。
既設と増厚工を一体化するためのボルトを打設する。
 
また、増厚工のモルタルに短繊維を混入することで、剥離・剥落防止の抑制効果やモルタルの曲げ靭性を高めている。
 
②地盤注入工
地山風化域の亀裂へセメント系固化材の充填を行うことで、強風化層を強化することを目的としている。
 
③空隙・空洞充填工
既設吹付コンクリート背面に空隙や空洞が存在する場合は、背面を侵入水や湧水が流下することで風化がより進行すると考えられる。
また、既設吹付コンクリートが地山表面から浮いた状態であるため、放置するとスライドや崩落につながる危険性がある。
このため、セメント系固化材を充填し、
地山風化の進行を抑制する効果と既設吹付コンクリートと地山の付着性を向上させる目的で充填工を行う。
セメント固化材を充填するには充填孔を使用するが、
特殊パッカー、中空ボルト(せん断補強と充填管を兼ねる)といった部材が使われる場合もある。
 
④鋼材による補強
増厚工、老朽化吹付コンクリートおよび風化層の剥離、剥落などへのより確実な補強には鋼材が用いられており、
 
a) 増厚工と既設コンクリートの一体化を目的としたもの
b) 既設コンクリートと地山風化層・未風化層の一体化を目的としたもの
 
がある。
a)については長さ100mm以下のボルトを1~2本/㎡程度設置して一体化を図る。
b)については、風化層の厚さによるが、径19mmほどの長さ0.5~1.0mのボルトを2.0~4.5㎡に1本設置して
未風化層、風化層、既設吹付コンクリートの一体化を図る。
 
⑤吹付枠工、鉄筋挿入工、グラウンドアンカー工
調査の結果、地山の風化が深くまで進行し、①~④の対策では斜面・法面の崩落、崩壊が危ぶまれる場合は、
風化層厚さや勾配などから安定計算を行って必要な抵抗力を求め、その程度に応じて、①~④とともに適用する。
 
⑥ひび割れ補修工、表面被覆工
既設吹付コンクリートにひび割れなどの現象が多発しているが風化層は形成されていない場合や、
若干の空隙を伴うといった軽微な老朽化状態の場合、風化進行を抑制するための遮水性向上や、剥落防止に適用されている。
 
ひび割れ補修は、ひび割れ部分をU字またはV字カットし、接着剤塗布した後に充填材を充填して補修する。
接着剤には樹脂系材料が用いられることが多く、充填材には無収縮セメント系モルタルや、ウレタンプレポリマー、
エポキシ樹脂混入ポリマーモルタル、合成高分子エマルジョン系樹脂モルタルなど樹脂モルタルなどが用いられている。
 
表面被覆工は遮水性の向上や吹付コンクリート表面の劣化抑制、景観向上といったことなどを目的に、ひび割れ補修とともに行われる。
 
被覆材料には、樹脂系モルタルや短繊維混入モルタルなどがあり、
また、コンクリート表面を緻密化する目的でケイ酸系表面含浸剤を噴霧し、その上にポリマーセメント吹付けを行う場合がある。
さらに、背面空隙への充填工も併せて行われる。
 
⑦ひび割れ補修工、表面被覆工
湧水や背面流下水が、地山の風化進行や、吹付コンクリート凍害や凍上による破損に影響を及ぼしていると考えられる。
このため、老朽化の状態に応じて、
湧水箇所への排水孔などの湧水処理の増設や、法肩の巻き込みの増設といった対策がとられることがある。
 
補強作業の流れの一例を図-1に示す。
 

図-1 補強作業施工フロー例

図-1 補強作業施工フロー例


 
次に、老朽化が進行し、ひび割れ、剥離が多発していたコンクリート吹付工の補修、補強前後の写真を写真-9~14に示す。
 

  • 写真-9  補修・補強前

    写真-9  補修・補強前

  • 写真-10 補修・補強後

    写真-10 補修・補強後

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  • 写真-11 補修・補強前

    写真-11 補修・補強前

  • 写真-12 補修・補強後

    写真-12 補修・補強後

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  • 写真-13  補修・補強前

    写真-13  補修・補強前

  • 写真-14 補修・補強後

    写真-14 補修・補強後

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

5.おわりに

最後に、モルタル・コンクリート吹付工は、斜面・法面を吹付モルタル・コンクリートで覆い、
雨水などが地山に直接浸透することで風化進行や浸食が発生するのを抑制することが目的である。
表層崩壊などを抑止する効果は期待できない。
土砂系や風化の進行が早い岩盤、湧水箇所の多い法面への適用はできるだけ避けることが望ましい。
また、老朽化の原因にはモルタル・コンクリート自体によるものや、地山風化の進行やすべり、気象に起因するものなどがあり、
原因に対応できるとともに、できるだけライフサイクルの長期化を視野に入れた工種を選定いただきたい。
 
紹介した対策工法は、下に記した研究会、各工法の技術資料、およびNETIS掲載の資料を参考とした。
工法の詳細については、引用・参考文献に記載の各社にお問い合わせください。
 

引用・参考文献

1.(公社)日本道路協会:「道路土工-切土工・斜面安定工指針」(平成21年度版)
2.(公社)土木学会:「吹付けコンクリート指針(案)-法面編」
3.法面診断・補修補強研究会:「吹付法面 診断・補修補強の手引き」
4.(一社)全国特定法面保護協会:「のり枠工の設計・施工指針」改訂版3版
5.ライト工業(株):「のリフレッシュ工法技術資料」
6.日特建設(株):「ニューレスプ工法技術資料」
7.東興ジオテック(株):「トーコンプラス工法技術資料」
8.技研興業(株):「ミラクルプロテクト(MP)工法技術資料」
9.(株)総合開発:「CSF工法技術資料」
10.バスク工法研究会:「バスク工法技術資料」
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年5月号
特集 地域を支える「斜面防災対策」
月刊 積算資料公表価格版2015年5月号
 
 

最終更新日:2023-07-11

 

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