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1. オリンピック会場の環境変化

早いもので2020年の東京オリンピック開催まで半年を切りました。会場整備が順調に進み,いよいよ開催が迫ってきたと実感します。今回の都内での会場は2つのゾーンに分けられます。一つはヘリテッジゾーンと呼ばれる内陸部のゾーンで,いずれも1964年の会場を再び利用するものです。もう一つはベイエリアゾーンで,主に臨海部の水辺に立地するもので,多くの会場と選手村がベイエリアゾーンに設置されます。50年余前の前回開催時の都内の水環境は劣悪で河川は悪臭漂っていました。現在は下水道の普及と水処理技術の高度化による成果により蘇った水環境での開催となります。荒川河口の東京都下水道局の葛西水再生センターにはカヌー・スラローム競技場が設置されます(図−1,2020年オリンピック会場)。
 

図−1 2020年オリンピック会場(ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーン)




 

2. 1964年の東京オリンピックのレガシーは下水道

1964年と2020年におけるわが国と東京都の下水道の整備状況を比較すると表−1のとおりとなります。この半世紀での下水道事業の成果が如実に分かります。
 
戦後灰じんに帰したわが国は経済成長とともに急速に復興しました。1964年のオリンピックは復興した日本の姿を世界に示す絶好の機会として国を挙げて取り組まれたものです。しかし,下水道など都市インフラはまだ不完全だったため,オリンピックの開催は「海外からのお客さんに不潔な東京を見せたくない」,「都心からバキュームカーが走る姿をなくせ」,「死んだ川と呼ばれる隅田川を甦らせよう」,と必死で下水道の整備に取り組む契機ととなりました。戦後,下水道事業には本格的な投資が行われない時期が続きましたが,オリンピック開催を機に本格的な整備が進みました。
 
まず第一は整備方針の骨格作りとして長期下水道整備計画が策定されたことです。都においては昭和37年に,昭和48年度までに区部100%普及を目指す10年計画が策定されました。また国においても昭和38年に下水道緊急整備措置法が法制化され,昭和40年に,昭和38年度を初年度とする第一次下水道整備五箇年計画が閣議決定され,以降この計画がわが国の下水道普及の牽引役となりました。
 
計画と連動して財源の確保と拡充が進みます。特に建設のための財源として国費と起債の確保が進んだことにより下水道整備が大きく前進します。第一次下水道整備五箇年計画の総事業費は国で4400億円ですが,都区部には1370億円と都内への投資が多かったことを示しています。ちなみにオリンピック主会場と選手村を置いた渋谷区ではオリンピック招致決定の昭和34年の下水道普及率はわずか3%でしたが昭和39年の開催時には60%と急速に整備が進みました。
 
次の取り組みは執行体制の整備です。東京都では昭和34年には水道局の下水道課から下水道本部へ,そして37年には下水道局を発足させ水環境改善の主管局として3建設事務所,3管理事務所,職員数1680人の体制となりました。オリンピック開催時にはそれまでの3処理場に加え小台処理場(現みやぎ水再生センター),落合処理場(現落合水再生センター)などが稼働し始めました。
 
また東京の象徴的な河川である隅田川の浄化対策にも国,都を挙げて取り組みます。流域の下水道整備のための財源が拡充され,急速に下水道整備が進みます。特に隅田川の汚濁負荷の3割を占める新河岸川の浄化のため,その主たる原因の沿線工場排水の共同処理施設が急ピッチで建設されました。利根川からの導水なども含めた総合対策で急速に水質は改善し,昭和38年には水質の悪化などで中止となった隅田川の花火大会とボートレースが昭和53年には再開され,その後下水道高度処理の導入などにより支流の神田川にはアユの姿が見られるまでになります。(写真−1,2隅田川に見る水環境の変化)
 
昭和45年の公害国会を契機に下水道法が改正され,その後水質汚濁対策の切り札として下水道事業の推進が全国的に広がりますが,東京都の下水道整備も都民の強い要請を受けて進められ平成6年度末に区部下水道100%普及概成を達成します。
 
その基礎となる事業の仕組みが確立したのが1964年東京オリンピック開催とするならば,オリンピックの最大のレガシーは下水道と言えるのではないでしょうか。
 

表−1 下水道,1964年と2020年を比較して



写真−1,2 隅田川にみる水環境の変化



 

3. 下水道事業の進化と再構築事業

都では平成6年の区部下水道100%普及概成後の下水道事業の展開に向け,平成4年に「第二世代下水道マスタープラン」を策定し公表しました。これによって東京都のみならず,下水道事業に関連する多くの機関や企業などが技術開発,あるいは新たな事業に挑戦する機会を誘導し,多くの成果をみせているところです。(図−2,第二世代下水道マスタープラン)
 

図−2 第二世代下水道マスタープラン



①下水道事業の進化

下水道事業の進化は何といってもストックの増大に伴う事業ウェイトの変化です。事業は建設から維持管理,再構築へ,大量生産,大量消費から省エネ,省資源,循環へと移っています。また下水道が完備することで都市の快適性と安全性に大きな責任を担うことにもなります。
 
一方,事業体側には人口減少下の中で下水道使用料の減少などによる経営悪化や,それらに付随しての職員の減少による体制の弱体化などが見られます。
 
その結果,民間の役割が増加するなど事業の担い手と事業形態,契約形態などの多様化が進もうとしており,官民連携や広域化,またITの導入など多くのビジネスの機会が開けていると言えます。
 
 

②東京都における管路再構築事業

これからの東京都の下水道事業の最大の課題は老朽化した施設の再構築,維持・更新です。ここでは特に管路に注目して述べます。
 
図−3はこれまでの都における下水道施設の年次別整備を示したものです。あわせて汚水量の変遷,雨水の流出係数の変遷が分かります。これにより建設当時の生活水準,あるいは都市形態で整備されたものは,今日能力不足をきたしている状況が分かります。再構築事業はただ古いものを作り替えるのではなく,施設を老朽化対策の機会に今様に機能をアップし,あわせて維持管理しやすいものに作り替えていくことを計画的・効率的に進めるという概念です。そのためさまざまな技術開発が行われています。管路調査診断技術の開発,診断情報とマッピングを併せ持つ台帳データベースの整備,再構築計画手法のマニュアル化,多くの埋設管があるなかスムーズに事業を進めるため非開削での改築更新・技術の開発,しかも下水道のサービスを止めなくて済むよう下水を流しながら施工できる工法の開発が求められ,その結果SPR工法等が普及するなど,多くの新たな技術や手法が提案されています。
 
策定された計画マニュアルはそれまでにない仕事の進め方を必要とすることから都の職員は勿論,コンサルタントの皆さんにも平成5年から東京都下水道サービスによる研修を続けています。さまざまな整備手法の活用によって,効率的に再構築を進めていく,そのための技術開発と人材育成の取り組み,これは後々アセットマネジメントとして体系化し,事業計画が組み進められています。なお全国的には人口減少など必ずしも右肩上がりではないケースも増えていますので,さまざまな環境変化に対応して新しい下水道施設の再構築を進めていくべきと考えます。
 
都でも流域下水道で多摩川を挟んでそれぞれ運転していた処理場を地下トンネルで結んで二つの処理場を一つの処理場のように運営できる仕組みをつくることや古くから運転している単独公共の処理場の老朽化に合わせて流域下水道に編入してスケールメリットを高めるなどの取り組みが進められています。
 

図−3 年次別施設建設と都市化による生活水準の向上




 

4. 伸びてゆく管路更生事業

下水道管の再構築に際して,地中には水道,ガス,電気など多くの管が埋設されており,また地上には人や車が行き交っている中,再度地面を掘り返すことはきわめて困難です。このため掘り返すことなく既設の管路の内面に樹脂(更生材)を挿入成形し管路を再び機能させる技術が「管路更生工法」です。
 
管路更生工法による改築・再構築のメリットは大きく2つあります。
 
1つは非開削による施工上のメリットです。これには
 掘削を伴わないことで既存の埋設管への影響がないため工期が短縮できる。
 残土や建設廃材の発生の大幅な減少が出来る。
 工事による交通への影響を大幅に低減できる。
 騒音振動など環境への影響を低減できる。
 コストの縮減が図れる。
などがあります。
 
そしてもう1つのメリットは,これによって戦略的な維持・更新が可能となり安全・安心な社会づくりに貢献できることです。
 
表−2はわが国における管路更生工法の施工延長を示すものです。一時期公共事業抑制の動きとともに実績が減少した時期がありましたが,改築更新のニーズの増加や長寿命化に向けた取り組みとともに施工延長は右肩上がりを示しています。また近年は管路の耐震化に向けて管路更生工法を採用するケースも増えており,2018年度には581kmが建設されこれまでの施工延長は9,114kmになっています。
 
今後,下水道管路の老朽化はますます進むため,管路更生事業は年々増加するものと思われます。
 

(日本管路更生工法品質確保協会調べ,農業用水路など下水道事業以外も含む)。
表−2 管路更生工法の年次別施工延長




 

5. 下水道見えない仕事に金メダル

平成27年度の下水道に関する都民意識調査では若い人たちの下水道事業への関心度は低く,10%程度でした。しかし現在,きれいになった河川に占める下水処理水の割合は大きくなっています。たとえば多摩川の水量に占める下水処理水量の割合の推移をみると中流域と呼ばれる多摩川原橋下流では50%を占めています。都市排水施設としての下水道機能も大きく拡充されています。その結果,低地帯を抱える都内東部低地帯では今年の台風でも昔のような浸水は見られませんでした。
 
下水道が快適な都市生活と都民の安心を確保していることを考えると金メダルをあげたい気持ちになりますし,今後も継続した事業運営努力が必要と考えます。
 
 

写真−3 完成間近の新国立競技場




 
 

日本大学客員教授(元東京都下水道局長) 前田 正博

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年2月号



 
 

 

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