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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > 高知港における地震・津波対策について

 

高知県 土木部港湾・海岸課

 

1.はじめに

高知港は土佐湾の中央部に位置し,浦戸湾の内港と外洋に面した高知新港とで構成されています。背後の県都・高知市には県人口の約45%が集中しており,沿岸部には社会基盤・経済基盤が集積し,石油備蓄基地や造船,鉱産品等を取り扱う企業が立地しています。中でも石油備蓄基地では県内の90%の燃料を取り扱っており,県内の経済活動の拠点となっています(図-1)。
 

図-1 高知港位置図および航空写真




 
南海トラフを震源域とする地震は,過去において約90 〜150年ごとに発生しており,その度に高知市や周辺地域では地震・津波による甚大な被害を受けてきました(写真-1)。
 

写真-1 昭和南海地震直後の高知市と現在の高知市(高知市ホームページより引用)




 
また,昭和45年の台風10号では高潮・高波による被害も受けてきたことから,これらの対策として海岸堤防や排水機場の整備等を進めてきました。
 
しかし,平成23年に東北地方太平洋沖地震により甚大な被害が発生したことを受け,平成24年に内閣府において南海トラフを震源域とする地震および津波の被害想定が見直されたことに伴い,高知港においても新たな防災対策の策定に着手しました。
 
特に,南海トラフを震源とする地震(マグニチュード8 〜9クラス)の発生は今後30年以内に70%程度とその切迫度を増しており,地震・津波への対策は急務となっています。
 
 

2. 高知港の地震・津波による被害想定

南海トラフ地震の被害想定では,高知港周辺は,約2mの地盤沈降や液状化の発生,大規模な津波の襲来が予想されています。写真-1の上側の写真は,昭和21年の昭和南海地震のものですが,このように市街地が広範囲にわたり,浸水した状態となることが危惧されています。現状において,東南海・南海地震などの大規模な地震・津波が発生すると,高知新港にある第一線防波堤は倒壊し,津波は種崎地区や浦戸湾湾口を通過して浦戸湾内に浸入・北上し,浦戸湾内部の護岸等を超え,高知市中心部等へ津波が押し寄せ,広範囲にわたり浸水被害が発生すると想定されています。地震発生直後には,浦戸湾内部の護岸等は,液状化によって倒壊し,地震発生直後の地盤沈降とあいまって,その高さが満潮位よりも低くなる箇所が発生するため,背後地の浸水は長期化します。また,津波の襲来後も,第一線防波堤が倒壊しているため,高知新港は船舶による利用に必要な静穏度が足りず,港湾として使用できない状態が継続し,復旧・復興に大きな役割を担う港湾物流が機能しない状態となります。
 
さらに,平成24年に内閣府が公表した南海トラフの巨大地震モデルによる津波が発生した場合には,さらに甚大な被害が発生することも予想されます(図-2)。
 

図-2 発生頻度の高い地震・津波による浸水予測図(第1回高知港における地震津波防護対策検討会議資料を一部修正)




 

3. 高知港における地震・津波防護の対策方針

2.で述べたような被害が想定される中にあって,高知港では浸水被害の最小化や早期の社会経済活動の復旧・復興のために,下記に示す3つの目標を立て具体的な対策の検討を進めていくこととしました。
 
①発生頻度の高い津波に対しては,防波堤や防潮堤などの構造物により津波の浸入を防ぐ防災
②発生頻度の高い津波を超える津波に対しては,津波が施設を乗り越えた場合にも,粘り強く効果を発揮する構造上の工夫を行い,
 避難時間を稼ぐ減災
③地震後に高知新港が防災拠点機能を発揮できるよう,早期に港湾の静穏を確保
 
東日本大震災では,沿岸市町村は津波により壊滅的な被害を受けましたが,県の広域行政機能が健在であったことから,その後の復旧・復興に大きな力となったと考えています。
 
本県でも,県都・高知市の被害を最小化することで,県民の命と財産を守ることはもとより,県内全体の迅速な復旧・復興につながるものと考えています(図-3)。
 

図-3 地震津波対策概念図(第1回高知港における地震津波防護対策検討会議資料)




 

4. 三重防護の概念

3.で述べた目標を達成するために,平成25年に「高知港における地震津波防護の対策検討会議(座長:磯部雅彦高知工科大学学長)」を設置し対策を検討してきました。その中で,高知港での地震・津波対策は下記の3つのラインでの対策による「三重防護」の考え方が有効であるとして,対策のあり方について検討を進めています(図-4)。
 

図-4 三重防護の考え方(第2回高知港における地震津波防護対策検討会議資料を一部修正)




 
①高知新港の第一線防波堤の補強等による津波エネルギーの減衰と高知新港の港湾機能の保全
②浦戸湾外縁部・湾口部の防波堤および防潮堤の耐震補強等による津波の浸入・北上の抑制
③浦戸湾内部護岸等の耐震補強等による護岸倒壊・背後地浸水の防止等
 
これまでに「高知港における地震津波防護の対策検討会議」を4回実施し,高知港では下記の考え方による対策が河川環境,港内環境,航行船舶への影響が最も小さく,経済的な対策としてとりまとめています。
 
● 高知新港の第一線防波堤延伸,嵩上げ,改良
● 湾口部に固定式構造物を設置
● 外縁部の防潮堤の液状化対策,嵩上げ,改良
● 内部護岸等の液状化対策,嵩上げ,改良(図-5)
 

図-5 高知港における対策方針案(第4回高知港における地震津波防護対策検討会議資料)




 

5. 地震・津波対策による効果

三重防護による対策を講じることによって,発生頻度の高い津波(L1津波)に対しては,背後地への津波の浸入を防ぎ,多くの人命や社会経済の基盤となる財産が守られることはもとより,高知新港の港湾機能が維持できることで,防災拠点,石油備蓄基地,緊急輸送道路等の利用が可能となり,迅速な復旧・復興活動が行えることとなります。また,施設の粘り強い構造への改良により,津波が越流した場合でも防護効果が粘り強く発揮されることによって,最大クラスの津波(L2津波)に対しても,浸水面積や浸水深が低減するとともに,津波到達時刻を遅延させることで,避難時間を稼ぐことができます。
 
 

6. おわりに

高知港では今回述べたような「三重防護」による地震・津波対策を行っていくこととしていますが,これらのハード対策で決して十分というわけではありません。ハード対策とソフト対策とを組み合わせ,総合的に対策を講じていくことで多くの人命や財産を守り,被災後の速やかな復旧・復興につながるよう,高知港での地震・津波対策に取り組んでいくこととしています。
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年05月号_2

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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