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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 住民への情報伝達手段の多重化・多様化に向けて

 

はじめに

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,地震動と津波により東北地方を中心に多くの死者・行方不明者を出すという甚大な被害をもたらした。また,昨今は突発的局地的豪雨に伴う土砂災害が頻発し,多数の被害者が発生している。津波・土砂災害から人的被害を最小限に抑えるには早期避難が重要であり,そのためには避難に関する情報等を早期に確実に住民に伝達することが不可欠である。
 
東日本大震災において,被災市町村では情報伝達にできる限りの努力をしたが,地震,津波によるハード的な障害により情報伝達に支障を来した事例も報告されている。また,発災後も余震情報,避難所情報,生活情報等の伝達が必要であるが,バッテリー切れ,発電機の燃料切れにより情報伝達に支障を来した例も報告されている。震災後には今後の減災・通信インフラ確保等々について各分野の委員会が開催され,住民への災害情報伝達手段についての今後の課題を各委員会の答申を踏まえてまとめると,以下の3つとなる。
 
● 防災行政無線に加えて多様な伝達手段を整備する(信頼性確保,住民への伝達率の向上)
● 非常電源の確保と耐震,対津波対策の推進(対災害性の向上)
● 非常時に自動で各種伝達手段を起動できるシステムの構築
 
 

1. 防災情報伝達の基本

市町村は,基礎的な地方公共団体として,当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命,身体および財産を災害から保護する責務を有する(災害対策基本法第5条)。また,市町村長には,法令の規定により災害に関する予警報の通知を受けた等の場合には,地域防災計画の定めるところにより,これらを住民等に伝達する義務が課されている(同法第56条)。さらに,市町村長には,災害が発生するおそれがある場合等において,特に必要があると認めるときは,必要と認める地域の居住者等に対し,避難勧告等を発令する権限が付与されている(同法第60条)。
 
このように,防災情報の伝達は市町村の重要な責務であり,住民等の生命,身体の安全確保に関する情報であることから,広く確実に伝達することが基本である。
 
 

2. 情報伝達の全体像の把握

限られた財源の中で情報伝達手段を整備するためには,各地域の実情に合った多様な伝達手段を組み合わせて,効率よく情報伝達を行えることが望ましい。各自治体から住民等へ災害情報伝達を行う場合においては,地域の実情(地勢,人口,土地利用状況,想定される災害の種類等)を的確に把握・分析し,情報伝達手段を整備することが必要である。
 
 

3. 主な災害情報伝達手段について

昨今のICTの発展から,現在多くの情報伝達手段が存在する。そして,自治体から住民に対して災害情報を伝達する場合,一つの手段で行うより,複数の手段で行った方がより確実に住民への情報伝達が可能となる。自治体で災害情報の伝達手段を整備するにあたり,どのような考え方で整備することが現実的なのかという視点から,主な災害情報伝達手段について以下にまとめた。
 

3-1 市町村防災行政無線(同報系)

市町村防災行政無線(同報系)は,市町村庁舎と地域住民とを結ぶ無線網である。市町村は,公園や学校等に設置されたスピーカー(屋外拡声子局)や各世帯に設置された戸別受信機を活用し,地域住民に情報を迅速かつ確実に一斉伝達している(図- 1)。
 

図-1 防災無線(同報系)システム概略図




 
災害時には,気象警報や避難勧告を伝達するほか,Jアラート(全国瞬時警報システム)を活用し人手を介さず防災行政無線を自動起動させて情報伝達することも可能である。
 
各市町村のJアラートの整備状況については,Jアラート受信機は平成25年度までに全ての市町村において整備が完了し,Jアラートによる自動起動装置を有する市町村の割合も100%(平成28年5月1日現在)となった。
 
また,災害時等における住民への情報伝達の方法については,MCA陸上移動通信システムや市町村デジタル移動通信システムを市町村防災行政無線(同報系)の代替設備として利用する方法もある(図- 2)。
 

図-2 防災無線(同報系)にMCAを活用した場合の概略図




 

3-2 緊急速報メール

緊急速報メールは,生命に関わる緊急性の高い情報を特定のエリアの対応端末に配信するもので,携帯電話各社が運用するサービスである。
 
通信が可能な状態で当該サービスに対応する各市町村内のすべての携帯電話・スマートフォンに即時優先的に配信することが可能であり,避難勧告等の重要情報を伝達する手段として非常に効果的である(図- 3)。
 

図-3 緊急速報メール概略図




 

3-3 コミュニティFM

コミュニティFMは,市町村の一部の区域において,その地域に密着した情報を提供することを目的とし平成4年1月に制度化されたシステムである。
 
一般のFM放送受信機で受信できるので,住民が簡便に防災情報を受け取る手段として活用されている。周波数はFM放送の周波数帯(76.1MHz〜89.9MHz)を使い,最大出力は20W以下である。
 
東日本大震災の発災後においても,種々の情報を住民に伝達するために活用された(図-4)。
 

図-4 コミュニティFM概略図




 

3-4 IP 告知システム

IP告知システムとは,IP技術を用いて災害情報提供を行うシステムである。IPネットワーク(CATV,WiMAX,光ファイバネットワーク等)に専用端末(IP告知端末)を接続し,家庭内あるいは小中学校等に設置することにより放送型式で情報伝達を行うことができる。専用端末には緊急放送を感知して自動的に電源が入る機能,録音機能などもあり,市町村防災無線戸別受信機と同様な使い方が可能である(図- 5)。
 

図-5 IP告知放送概略図




 

3-5 280MHz 帯デジタル同報無線

280MHz帯デジタル同報無線は,無線呼出し(ポケットベル)の技術を利用した情報伝達手段であり,本システムで利用されている280MHzという周波数帯の電波は,回り込み特性および浸透性に優れていることから,気密性の高い建物の屋内においても受信が可能である。送信局の出力は200Wであり,地勢によっては半径約20〜30kmに電波が届き,送信局1局で広大な範囲をカバーできるため整備に係る費用を比較的低廉にできる可能性がある。
 
情報伝達に際して,送信機の制御など通信に関わる運用は通信事業者が行うため,自治体側は無線局免許の取得が不要である。
 
伝達するデータはポケットベルと同様音声ではなく文字による情報であり,受信する端末側で文字から雑音のないクリアな音声に変換して再生する(図- 6)。
 

図-6 280MHz帯デジタル同報無線概略図




 

3-6 V-LOW マルチメディア放送(V-ALERT)

V-ALERTは,平成28年3月にサービスを開始した「V-Lowマルチメディア放送」を利用する災害情報伝達に特化したサービスである。地上波テレビ放送のデジタル化に伴い空き帯域となったVHF波の周波数帯(99〜108MHz帯)を使用し,音声,画像,テキストデータ等の情報伝達が可能である。また,エリアコード,グループコードを合わせて送信することで,指定されたエリアまたはグループの端末だけを自動起動させることが可能である(図- 7)。
 

図-7 V-LOWマルチメディア放送(V-ALERT)概略図




 
 

4. 住民への各種災害情報伝達手段の考え方

市町村から住民等に防災情報を伝達する方法としては,PULL型による方法とPUSH型による方法の2つがある(表- 1,表- 2)。
 

表-1 各種災害情報伝達手段の比較




 

表-2 時間経過からみた必要とされる情報について




 
PULL型とは,必要な情報をユーザが能動的に「引き出しにいく」タイプの技術やサービスのことであり,PULL型の伝達方法(テレビ,ラジオ,ホームページ,SNS等)については,情報の受け手側が必要に応じて能動的に情報を取得しにいく形態をとり,市町村が受け手や情報伝達範囲を特定して伝達するものではない。
 
一方,PUSH型とは,必要な情報をユーザの能動的な操作を伴わず,自動的に配信されるタイプの技術やサービスのことであり,PUSH型の伝達方法(防災行政無線(同報系),緊急速報メールなど)については,市町村が特定の受け手に対して情報を伝達するものであるが,受け手側の操作を伴うことなく強制的に情報が届けられるものである。
 
 

5. 耐災害性について

災害時において,これらの情報伝達手段が,十分に機能するためには,設備の耐震性の強化,浸水防止措置や非常用電源設備等を活用した停電対策措置等を実施することが重要である。
 

5-1 耐震性

防災行政無線の設備および設置場所の耐震性が確保されているかに留意するとともに,必要に応じ対策を実施すること,新たに設備を設置する場合には耐震性のある建物等に設置すること等の耐震対策に取り組む必要がある。
 
耐震対策にあたっては,非常通信確保のためのガイド・マニュアル(平成27年7月,非常通信協議会)が参考となる。
 

5-2 浸水防止措置

各自治体でのハザードマップで想定している津波,豪雨等への対策を講じておく必要がある。具体的には,各自治体でのハザードマップで想定している災害が起こっても,情報伝達手段は被害を受けない高さの場所に設置し,万が一の際の代替設備の整備等の対策を講じておく必要がある。
 

5-3 市町村防災行政無線(同報系)を構成する設備に係る停電対策の充実について

市町村防災行政無線(同報系)を構成する親局,中継局,屋外拡声子局について,非常用発電機およびバッテリーを配備していない場合には,そのいずれかを配備することによって早急に停電対策を講じること。また,非常用電源をすでに整備している場合にあっても,その非常用電源の使用可能時間を十分に確保すること。特に,その使用可能時間が48時間(都市部においては24時間)に満たない設備については,「非常通信確保のためのガイド・マニュアル」(平成27年7月 非常通信協議会)における「無線設備の停電・耐震対策のための指針」を参考に必要となる電源容量を確保すること。
 
ただし,東日本大震災のような広範囲に影響が及ぶ大規模な災害の場合は,非常電源の容量を48時間確保していても容量不足となることが想定される。
 
そのため,非常通信確保のためのガイド・マニュアルで求められている以上の非常電源の容量を確保するかどうかについては,各自治体において,最悪の事態を想定し,民間企業や近隣自治体との協定等も含め,どのように対応するかについて総合的に検討しておく必要がある。
 

5-4 保守点検体制の充実について

災害時に,市町村防災行政無線(同報系)が住民への情報伝達において,確実かつ十分な効果を発揮するためには,平時から保守点検を行い,適切に維持管理するとともに,訓練等により動作確認をしておくことが必要不可欠である。
 
このため,定期的に保守点検を行い,設備や機器の不調や故障に対して速やかに修繕を行うとともに,実際の保守点検においては,市町村防災行政無線(同報系)を構成する設備が,非常用電源により停電時も確実に動作することを再確認すること。また,全国瞬時警報システム(Jアラート)の全国一斉情報伝達訓練等の機会を通じて,屋外拡声子局が適切に鳴動することを確認すること。
 
 

6. 非常時に自動で各種伝達手段を起動できるシステムの構築について

市町村防災行政無線(同報系)等を自動起動させる手段として,J アラートがある。
 
J アラートとは,弾道ミサイル情報,津波警報,緊急地震速報等,対処に時間的余裕のない事態に関する情報を,人工衛星および地上回線を用いて国(内閣官房・気象庁から消防庁を経由)から送信し,市町村防災行政無線(同報系)等を自動起動することにより,国から住民まで緊急情報を瞬時に伝達するシステムである(図- 8)。
 

図-8 Jアラートの概要




 
 

おわりに

市町村においては,災害時にも確実な伝達が行えるよう,地域の実情に応じて情報伝達手段の多様化・多重化を図ることが基本であるが,通信回線の障害等により行政からの情報提供が途絶した場合であっても,住民が適切な避難行動できるよう,自ら危険性や避難の必要性を判断する方法や情報の入手方法についても平時から周知することが必要である。
 
 

総務省消防庁 国民保護・防災部防災課 防災情報室

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年03月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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