建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 公共建築物における地中熱の利用について

 

1. はじめに

地球温暖化は地球全体の環境に深刻な影響を及ぼす人類共通の課題と認識されており,官庁施設に関係する地球温暖化対策については,「地球温暖化の対策の推進に関する法律」に基づき,「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の抑制等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」が平成28年5月に閣議決定されている。
 
政府実行計画では,2013年度を基準年として,庁舎等の施設のエネルギー使用・公用車の使用等に伴う温室効果ガスの2030年度における排出量を,政府全体で40%削減すること,また,中間目標として2020年度までに政府全体で10%削減することが目標として定められている。
 
このような状況を踏まえ,官庁施設において省エネルギー対策を推進するとともに,再生可能エネルギーを有効に利用することが今後必要とされている。再生可能エネルギーの一つとして地中熱を利用したヒートポンプが普及しつつあり,本稿では,官庁施設における地中熱利用に関する取り組みを紹介する。
 
 

2. 地中熱利用システムに関する技術基準

国土交通省大臣官房官庁営繕部では,公共建築物における地中熱の利用促進を図るうえで設計や仕様の標準化を図ることが重要との観点から,地中熱利用設備に関する標準仕様,設計基準,ガイドラインを定めてきた。
 
ここでは,地中熱利用システムに関する技術基準について,公表時期の時系列に沿って紹介する。
 

公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)

公共建築工事標準仕様書は,住宅を除く公共建築工事において使用する材料,工法等について標準的な仕様をとりまとめたものである。各府省庁が官庁営繕事業を実施するための「統一基準」として位置づけられており,その改定周期は3年となっている。
 
平成25年2月の改定時に,「さく井設備工事」のなかに「地中熱交換井設備」の項目を新たに追加し,空調及び融雪用のクローズド・ループ型の地中熱交換井を対象に,掘さく,地中熱交換器,けい砂等の充てん,試験等に関する規定を設けている。
 

官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)

「官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)」は,地中熱利用システムの設計手法,施工方法,効果の評価手法等についてとりまとめたガイドラインであり,平成25年10月から国土交通省のウエブサイトで公開している。(http://www.mlit.go.jp/common/001016159.pdf
 
このガイドラインは7章から構成されており,各章の概要は次のとおりである。
 
第1章「総則」では,ガイドライン策定の背景・目的及び用語の定義について記載している。
 
第2章「基本事項」では,垂直埋設型のボアホール方式によるクローズド・ループ型の地中熱利用システムが
   本ガイドラインの適用対象であることを記載している。
 
第3章「計画編」では,地中熱利用システムの導入検討手順を記載している。
 
第4章「設計編」では,地中熱交換井,必要熱量,熱交換器,循環ポンプ等の算定手順や熱応答試験(サーマルレスポンステスト)
   の実施方法について記載している。
 
第5章「施工編」では,掘さくや配管の施工の方法について記載している。
 
第6章「維持管理編」では,保守点検における留意事項について記載している。
 
第7編「評価編」では,地中熱利用システムの導入による省エネルギー効果の評価手法や計測・計量を行うべき項目について
   記載している。
 

建築設備設計基準

建築設備設計基準は,庁舎の建築設備の実施設計を行うに当たり,基本的性能の水準を満たすための標準的な手法を示したものである。
 
平成27年3月の改定時に,「空気調和設備」のなかに「地中熱利用システム」の項目を新たに追加し,ボアホール方式の地中熱利用システム及び取入外気の予冷予熱を行うアースチューブに関する規定を設けている。
 
 

3. ライフサイクルエネルギーマネジメント

国家機関の建築物の利用に伴い排出される温室効果ガスの排出量は,国の事務及び事業に伴い排出される温室効果ガスの過半を占めている。これを削減するためには,施設のライフサイクル(企画・計画, 設計, 施工,運用,改修)を通じて,省エネルギー性能の分析・評価を実施し,省エネルギー化を図っていくことが重要である。
 
官庁営繕部では,ライフサイクルを通じて一貫したエネルギーマネジメントを行うことを目的とし,設計者,施工者,施設管理者等,官庁施設のライフサイクルに携わるすべての主体にとって使いやすい「ライフサイクルエネルギーマネジメント手法(LCEM手法)」を推進しており,その一環として,空調システムの年間エネルギー消費量を簡易にシミュレーションすることができる『LCEMツール』を所管事業において活用しているところである。
 
このLCEMツールにおいて地中熱利用ヒートポンプシステムのエネルギー評価が行えるようツールの改良を行っており,平成26年2月にVer3.10として公開したところである。
 
 

4. 官庁施設における導入事例

官庁施設における地中熱利用ヒートポンプシステムの導入事例を紹介する。
 
石巻港湾合同庁舎(宮城県石巻市,RC造5階建,延べ面積2,044m2)は,東日本大震災に伴う津波により壊滅的な被害を受けた旧庁舎を取り壊し,現地建て替えを行った庁舎であり,平成26年5月に完成している。
 

石巻港湾合同庁舎




 
 
この庁舎では,深度100mの地中熱交換井を16本設置し,一般空調に地中熱利用ヒートポンプシステムを利用しており(図− 1),完成後に地中熱利用ヒートポンプシステムの運用状況について検証・分析を行っている。
 

図−1 石巻港湾合同庁舎の地中熱利用システム




 
 
地中熱交換井内の不凍液の温度を検証したところ,夏季は18℃前後,冬季は14℃前後で一定の温度を維持しており,外気よりも優位な熱源として地中熱を活用できていることが確認できた。また,1年を経て地中熱交換井の温度が元に戻っていることから,井戸の間隔は過密ではなく適正であったことが確認できた。(図− 2)
 



 
空調システムで消費される一次エネルギー量を分析したところ,夏季,冬季ともに良好な成績係数となっており,旧庁舎の空調システムと比較して一次エネルギー消費量を46%削減することができたことを確認している。
 
 

5. おわりに

地中熱は,太陽光や風力と異なり天候等に左右されず,日本中どこでも利用できる再生可能エネルギーである。
 
官庁施設においては,従前から取入外気の予冷予熱を行うアースチューブやヒートパイプ融雪の形で地中熱を利用してきているが,最近では地中熱利用ヒートポンプシステムの導入も行っているところである。
 
本稿で紹介した標準仕様書,設計基準,ガイドラインやLCEMツールは,官庁施設を対象として作成したものであるが,地方公共団体の建築物や民間建築物においても活用できるものであり,地中熱利用の促進に資することが期待される。
 
 

国土交通省大臣官房官庁営繕部設備・環境課 課長補佐 政近 圭介

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年04月号



 

 

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