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はじめに

東京メトロは,都心を中心に9路線,営業キロ195.1km,全駅数179駅で1日約724万人のお客様にご利用いただいている。このうち地下区間の営業キロ168.6km(総延長に占める割合は86.4%),地下駅数158駅(全駅に占める割合は88.2%)を保有しており全体を占める約9割が地下にあたる。
 
東京メトロの前身である営団地下鉄の時代から災害に強い鉄道を目指して整備を行ってきた。水害対策においては,小規模河川の氾濫に伴う浸水対策を講じてきたが,近年の気候変動によるゲリラ豪雨や,首都圏に大規模な被害が想定される荒川の大規模氾濫に対する検討も進めている。
 
これらの現状と取り組みについて紹介する。
 
 

1. 浸水被害

1-1 赤坂見附駅浸水

1993年8月27日,台風11号の豪雨により丸ノ内線赤坂見附駅で浸水が発生した。当時,銀座線赤坂見附駅から虎ノ門駅間において,トンネル改良工事が実施されており,その工事区間から水が流入し,軌条面より約158cmの高さまで浸水した(写真−1)。
 

写真−1 丸ノ内線 赤坂見附駅ホーム




 

1-2 溜池山王駅浸水

1999年8月29日,1時間に114mmの記録的な集中豪雨により,銀座線溜池山王駅で浸水被害が発生した。この駅周辺は,周囲に比べ土地が低く雨水が溜まりやすい地形のため,換気口から水が流入した(写真−2)。
 

写真−2 銀座線 溜池山王駅構内




 

1-3 麻布十番駅浸水

2004年10月9日,台風22号の集中豪雨により麻布十番駅付近を流れる古川が氾濫し,雨水が3番出入口から駅構内に流入した。これにより営業が困難となり,同駅を通過扱いとしたが,その後,レールが冠水したため,南北線は一時,全線で運転を見合わせた(写真−3)。
 

写真−3 南北線 麻布十番駅構内




 

2. 大規模浸水対策

2010年4月,中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」最終報告(図−1)により荒川の堤防決壊による大規模な水害が発生することが公表された。東京メトロでは従来から,出入口の嵩上げや止水板の設置等を行ってきたが,これまでを大幅に上回る浸水が想定された。これを受けて東京メトロでは,東京都が公表している洪水ハザードマップ(図−1)も合わせて考慮した取り組みを鋭意進めている(図−2)。
 

図−1 対策実施に用いる想定イメージ




 

図−2 東京メトロの浸水対策イメージ




 

2-1 駅出入口の対策

道路冠水等により雨水が浸入するおそれがあるため,様々な浸水防止対策を行っている。浸水想定地域内にある駅出入口は,当該地域の想定浸水深に応じて止水板,出入口の嵩上げ,あるいは出入口全体を密閉できる構造等の改良を進めており,同じ駅であっても,地形の条件等により複数の対策を組み合わせている。このほか,近隣のビル等に接続している出入口では,管理者と協議のうえ施工を進めている。東京メトロでは駅出入口・連絡通路の全1094箇所のうち対策が必要な509箇所に上記のいずれか又は複数の対策を推進しており,次に紹介する。
 
 

2-1-1 止水板

止水板はアルミ製高さ35cmの落とし込み式となっており,浸水の状況によりこれを一枚〜三枚重ねて使用する(写真−4)。
 

写真−4 止水板




 

2-1-2 出入口の嵩上げ

出入口部分を歩道面より一段〜数段高くしているもので,当該地域の地形や過去の水害経験を考慮して高さが決定されている(写真−5)。
 

写真−5 出入口の嵩上げ・防水扉(完全防水型)




 

2-1-3 防水扉

隅田川以東の土地が低い地域に位置する駅出入口では,防水扉を設置して出入口通路の断面全体を閉鎖できるようになっている。これによって出入口からの完全防水が可能になる(写真−5)。
 
 

2-1-4 完全防水型出入口

駅出入口のうち,想定浸水深の深い地域においては,周囲を強化ガラスで覆い,浸水時は前面の防水扉を閉扉することで出入口全体を密閉できる完全防水型出入口の整備を進めている(写真−6)。
 

写真−6 完全防水型出入口(左:通常時,右:閉扉時)




 

2-2 トンネルの対策

2-2-1 防水壁

土地の低い地域に位置する坑口(トンネルが地下から地上へ出る部分)では,両脇にコンクリートの高い壁を設けて浸水を防いでいる(写真−7)。
 

写真−7 防水壁




 

2-2-2 防水ゲート

地下鉄建設時に,地下鉄が河川下を横断する箇所で川底が崩壊して水がトンネルに浸入した場合の対策を河川管理者から求められたことにより,トンネルの断面を閉鎖・密閉する防水ゲートを設置しているほか,丸ノ内線では神田川の増水によるトンネル浸水を防ぐための防水ゲートを坑口に設置している。また,浸水シミュレーションにおいて,これまでの想定を超える浸水箇所については,防水壁があっても,一部の坑口に新たに防水ゲート設置を進めている(写真−8)。
 

写真−8 防水ゲート




 

2-2-3 浸水防止機

トンネル内や駅構内の換気のため,歩道等に換気口が設置されている。換気口からトンネル内への浸水を防ぐため,駅事務室や工務区,変電所内の操作盤から遠隔で開閉を行うことができる浸水防止機を設置している(図−3)。しかし,浸水シミュレーションによると,最大で5m以上の浸水が想定される地域があることから,従来型の2m以上の浸水を想定して敷設した換気口の浸水防止機を,6mの浸水荷重に耐えられるものへ置き換えまたは新設を行った(写真−9)。このほか一部の換気塔も想定浸水深に応じて壁の嵩上げ等の対策を行っている。
 
写真−9 左:換気口(路面状況) 右:浸水防止機(閉扉時)



 
図−3 浸水防止機(左:開扉時 右:閉扉時)



 

2-3 大雨時の対応

総合指令所では気象庁が発令する警報等を受信し,全職場へその情報を伝達している。このほか東京メトロ・オンライン気象システム(気象情報会社から送られる風・雨・雪等の見通し予測を社員用PC端末で確認できる)を活用しており,状況により本社からも気象情報会社等へ直接問い合わせて情報収集を行っている。
 
大雨洪水警報等発令の際は,駅及び保守区に対して換気口浸水防止機の閉扉を指令する。また各駅においても降雨や道路冠水の状況をこまめに確認し,必要によって出入口に止水板や土のうを設置するほか,状況により防水扉を閉扉する。
 
 

2-4 荒川下流タイムライン検討会への参画

水害時の避難や浸水防止の活動には,各方面の関係機関との連携強化が必要である。行政では,荒川が大規模に決壊することを前提として関係者が災害時に行う防災行動を取りまとめた,いわゆるタイムライン(事前防災行動計画)の検討を行っており,当社も参画している。大規模水害時においても避難のための輸送を行うとともに,施設被害を最小に留めて首都機能を早期に復旧させる使命もあわせ持つ。したがって,まずは安全を確保しながら運行を行い,運行停止後は迅速な避難誘導と車両の退避,施設の止水処置等を行っている。
 
 

3. お客様へのはたらきかけ

3-1 安全ポケットガイドの配布

2011年の東日本大震災以降の社会的な安全・防災意識の高まりを背景に,2012年8月から「安全ポケットガイド」を作成。2014年9月からは英語,韓国語,中国語表記の多言語版も作成し,全駅の改札口で配布している。これは東京メトロの安全・防災の取組や,事故・災害発生時における対応について紹介しているほか,お客様に行動していただく留意点をイラスト入りで説明している(写真−10)。
 

写真−10 安全ポケットガイド




 

3-2 駅出入口の海抜表示

お客様に日ごろから防災への意識を高め,水害時の避難行動について考えていただくきっかけとなるよう,駅の出入口に海抜の表示を行っている。東京メトロ財産の出入口への設置が完了しているほか,他の事業者が管理する出入口へも当該管理者と協議しながら設置を進めている(写真−11)。
 

写真−11 海抜表示板




 

おわりに

東京メトロの自然災害対策の基本姿勢はお客様の生命を守り,あわせて首都機能の低下をできるだけ抑えることであり,これまで述べてきた対策の整備を着実に進め,体制の維持・強化を図っているところである。さらには設備等のハード面の整備だけでなく,お客様が安全に避難していただけるようにソフト面での取り組みも重要であることから,点検・動作確認を兼ねた防水ゲート閉扉の訓練及び止水版の設置訓練を駅ごとに年1回実施している。一方で非常時における安全性の向上にはお客様同士の共助も欠かせない。お客様には係員の誘導等に従って行動していただくことにより一層の安心につながると考えている。ハード・ソフト両面で鉄道会社間や地元自治体との連携や警察や消防をはじめ関係機関との協力を図りながら,より安心してご利用いただけるよう,今後も取り組んでいく。
 
当社では2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた取り組みを「東京メトロ魅力発信プロジェクト」として取りまとめた。これまで紹介した大規模浸水対策は,プロジェクトのキーワードの一つである「世界トップレベルの安心でお出迎え」における重要施策であり,今後も継続的な取り組みを行い,東京の魅力を伝える案内役として首都東京の都市機能を保持に努めていく所存である。
 
 

東京地下鉄株式会社 鉄道本部 安全・技術部 防災担当 課長補佐 熊木 則道

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年05月号



 

 

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