はじめに
「落石対策便覧」が約17年振りに改訂されました。改訂内容としては,
①性能設計の枠組みの導入
②従来型構造物の慣用設計法の適用範囲の明確化
③落石防護施設の性能照査としての実験的検証法の記述
④新しい知見等を踏まえた設計法の導入
⑤維持管理の記述の充実が反映されています。
ここでは,主に②と③について,具体的に変更された一部を紹介し,その違いと留意点などを述べていきます。
落石予防工にロープ伏せ工と覆式落石防護網が追加
落石予防工にロープ伏せ工が加わりました。これで予防工は全部で16種類になります。旧便覧では,落石防護網工(+ロックボルト工)として表現されていましたが,今回は覆式落石防護網工のみ抽出されました。この工法は昔から防護工なのか予防工なのかとよく議題として挙がっておりましたが,今回の改訂で,落石予防工となりました。なお,ロープ伏せ工については,次のように述べています。
『斜面に散在する浮石や転石が滑動や転動しないようワイヤロープを格子状に組むなどしてネット状にしたもので,浮石や転石を覆い,ワイヤロープの交点にアンカーを打設し斜面上に固定させるものである。ワイヤロープの間隔を狭めることで,比較的小規模な浮石,転石を固定することも可能となる。』(図-1)

図-1 ロープ伏せ工のイメージ
なお,いさぼうネットに掲載している工法で以下の工法がロープ伏せ工に該当します。

表-1 主なロープ伏せ工
落石防護土堤工に補強土壁工法が追加
落石防護補強土壁工が落石防護土堤工に分類されました。いさぼうネットでは,ジオロックウォール工法やRockGeoBank(ロックジオバンク)工法が該当します(表-2)。設置スペースの確保が課題になりますが,他の工法よりも高い吸収性能を有しています。

表-2 落石防護土堤工の主な工法
性能設計の枠組みを導入
落石対策においても要求性能が導入されました。落石が作用した場合は重要度に関係なく,性能2を想定した設計を行うことになります。

表-3 重要度と要求性能
●性能2 の概要および限界状態
予防施設と防護施設では,方法が少し異なります(表-4)。予防施設(予防工)の場合,定量的な性能評価が難しいため,従来の手法から大きく変わった点はありません。図-2に,防護工に対する要求性能および限界状態を示しています。

表-4 予防施設と防護施設の限界状態
(落石対策便覧より抜粋)

図-2 損傷イメージ
(落石対策便覧より抜粋)
慣用設計法の変更点
従来型構造物については,計算方法が一部掲載されています。掲載されている構造物(ロックシェッドは除く)は次表のとおりです。

表-5 従来型構造物の主な変更点一覧
●横ロープに作用する荷重の計算式が変更(覆式落石防護網)
旧便覧でのTは,新便覧ではHA,HBになりました(方向が異なる)。w=5.0,l=4.0mで計算した結果,旧便覧の値は25.000(kN)ですが,新便覧では,26.926(kN)と僅かに大きな値となります(図-3)。そのため,新便覧で計算すると安定度を下回る可能性がありますので注意が必要です。

図-3 横ワイヤロープの新旧モデル
●従来型ポケット式落石防護網の適用範囲
公益社団法人日本道路協会では,以前よりポケット式落石防護網に関する適用範囲を述べています。その中で,可能吸収エネルギーが150kJ,防護網の質量を求める有効範囲は12m×12m(144㎡)以下となっています。
●落石エネルギーEWの計算式が変更(従来型ポケット式落石防護網)
今回の改訂では,ポケット式落石防護網に衝突した際,落石エネルギーの算出式にネット傾斜角を考慮しない計算式となりました。例えば,傾斜角が70°の場合,旧便覧では0.883の角度補正がありましたが,新便覧では,角度補正されないため,落石エネルギーは従来に比べ大きくなります(図-4)。これは,原則として構造物にとって最も不利な条件で作用させるようにしたものです。
●余裕高に関する記述の追加(従来型ポケット式落石防護網)
「阻止面上端は落石の最大跳躍高(落石衝突高)に落石半径以上,かつ少なくとも0.5m程度の余裕高を確保した位置とするのがよい」との記述が追加されました。設置角度にもよりますが,横ロープのたわみや余裕高の設定により支柱延長が伸びる傾向になります。
●落石荷重の作用高さを求める方法に変更(従来型落石防護柵)
従来の柵高の2/3といった作用位置から,新便覧では実際に衝突する位置で検討するようになりました。また,落石が最大跳躍高において防護柵に直角方向に衝突するものとして計算を行います。防護柵に2.2mの位置で衝突する際の計算を例として示します。
衝突位置h2が2.2mであるため,h2/2=1.1mを余裕高として設けると柵高はh2+余裕高=3.3mとなります。3.3mの防護柵は製品が無いため,3.5mの防護柵が採用されます。どちらも3.5mの防護柵が採用されますが,15°塑性ヒンジを形成するのに要する力Fyの値が異なってきます(表-6)。
表-6 Fyの計算結果

※σy=235(N/㎟),Z=181(㎤)として計算
●端末支柱の検討を追加(従来型落石防護柵)
端末支柱の検討を行うことが明記されました。「①落石を直接受け止める2本のワイヤロープに降伏張力(Ty)を作用させ,その他のワイヤロープには初期張力(一般的には5kN)を作用させる。②H形鋼を用いる場合は曲げ剛性が弱軸方向で検討する。」といった内容が記載されています。防護柵の端末支柱については,各メーカーによって仕様が異なります。端末支柱に斜め材を設置しているものがありますが,現在,流通している斜め材では,許容値を超えてしまう可能性があります。
実験による検証方法(ポケット式落石防護網・落石防護柵)
新便覧では,ポケット式落石防護網と落石防護柵の特殊製品について,できるだけ定量的な検証が行えるように定めています。平成29年3月に「高エネルギー吸収型落石防護工等の性能照査手法に関する研究 共同研究報告書 整理番号491号(以下,共同研究報告書)」が国立研究開発法人土木研究所より発表されています。この報告書は平成25年から平成28年に行われた特殊製品の実験で得られた知見などを専門家でとりまとめたものです。落石対策便覧で述べている内容は,この共同研究報告書を反映したものになっています。
●実験の方法と評価
ポケット式落石防護網,落石防護柵ともに以下のような内容が明記されています(表-7)。

表-7 実験方法に関する内容一覧
特殊製品検討時の留意事項
既に新しい実験施設を完備しているメーカーもありますが,ほとんどのメーカーは今年度になって,実験等の見直しを検討しています。一覧表でもあったように,細かな情報を計測しなければならず,実験を行うにも多額の費用を要するため,準備が必要だったと思われます。その間にも落石対策の設計は発注されますが,その際に気になる点を挙げます。
●NETIS(新技術情報提供システム)の情報
今回の改訂は,新技術にとっても影響があると思われます。NETISから製品を絞り込んでいる方も多いと思われますが,今後はNETISで情報を確認した後,新便覧に定める仕様への適用状況について,メーカー等へ確認することをお勧めします。
●衝突速度が25(m/s)を満たしていない製品を選定する場合
衝突速度が25(m/s)を満たしていなくても適用することができます。ただし,その場合は,実験に用いた速度が適用最大速度になります。近年,落石対策では不特定多数の落石予備物質に対して防護施設を設置し,その条件は落下高40mからの設定とすることが多いようです。そこで,衝突速度25(m/s)になる斜面勾配を計算した結果,等価摩擦係数μ=0.25の場合,斜面勾配が50.8°で衝突速度が25(m/s)に達します(図-5)。過去の実験による衝突速度がどの程度あるのかによりますが,不特定多数の落石予備物質に対する防護施設を選定する場合は,限定的になることが予想されます。

図-5 斜面勾配と速度との関係

表-8 等価摩擦係数の計算結果
おわりに
今回,変更点の一部を紹介しました。他にも変更した点や新しく取り入れた考え方があります。また,ここで述べた内容が後に正誤表などで修正される場合もあるため,最新情報を必ず確認してください。最新情報は,公益社団法人日本道路協会のHPより確認することができます。私共が運営している「いさぼうネット」においても会員からの情報を得て,随時公開していく予定です。最後になりますが,本文作成にあたり,資料等をご提供いただいた関係各位に厚く御礼申し上げます。
参考文献・資料
1)(公社)日本道路協会:道路土工 切土工・斜面安定工指針,2000.6
2)(公社)日本道路協会:落石対策便覧,2017.12
3)(公社)日本道路協会:落石対策便覧,2009.6
4)国立研究開発法人土木研究所他:高エネルギー吸収型落石防護工等の性能照査手法に関する研究共同研究報告書整理番号491号,2017.3
5)(公財)鉄道総合技術研究所:落石対策技術マニュアル,1999.3
6)(公社)地盤工学会:落石対策工の設計法と計算例,2014.12
7)(公社)地盤工学会四国支部:落石対策Q&A,2009.12
8)シビル安全心(株):落石対策便覧改訂の要旨,2018
9)土木情報サービスいさぼうネットHP
【出典】
積算資料公表価格版2018年06月号

最終更新日:2023-07-10
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