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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 地盤改良工におけるICTを用いた 効率化・省力化の展望について

 

1. はじめに

国内おける軟弱地盤対策は,コスト縮減・工期短縮の面からセメントなどの固化材を用いた地盤改良技術が多く使用されている。固化材を用いた地盤改良技術の一つである深層混合処理工法は,改良体の強度を改善することで高強度化を実現し,改良率を低減することで施工時のコスト縮減を実現した。土木研究所では,さらなる地盤改良にかかるコスト縮減や工期短縮を図るため複合型地盤改良技術を提案している。複合型地盤改良技術は,深層混合処理工法の改良率をさらに低減する方法として,トラフィカビリティを確保するために利用されていた表層混合処理工法を組み合わせることで実現する。
 
また,国土交通省では,平成28年4月からICTを用いた効率化・省人化施策としてのi-Constructionを推進している。ICTの導入は,土工・舗装工での施工管理としての出来高管理・出来形管理・品質管理(締固め回数の管理)や建設機械(バックホウ・ブルドーザ・モータグレーダ)における施工の支援(マシンコントロ-ルやガイダンス)を推進してきた。今後は,土木施工におけるさらなる効率化・省人化を進めるために,地盤改良工においてもICTを導入・活用する取り組みが始まりつつある。
 
本文では,複合型地盤改良技術に対して,有効となる建設機械や施工方法を明らかにするため実施した文献調査から,日本国内で施工実績のある深層および表層混合処理を施工するときに必要となる計測項目や管理方法を調査した。また,調査結果から固化剤を用いた混合処理工法における施工管理方法とICTによる施工支援の事例を紹介し,今後の地盤改良工におけるICTを用いたさらなる効率化・省人化の方法について述べる。
 
 

2. 地盤改良技術

地盤改良技術の一つである深層混合処理工法は,軟弱地盤対策における全沈下量低減に加えて,すべり抵抗の増加や液状化発生を防止するためのせん断変形の抑制などの副次的な効果を期待し,採用されることが多い。複合型地盤改良技術では,深層混合処理工法に加えて,表層混合処理工法を組み合わせて盛土構造物の不同沈下量の抑制を考えている。図-1に複合型地盤技術の概念図を示す。文献調査は,現在使われている深層混合処理工法・表層混合処理工法とそれら2工法の中間施工深度で実施される中層混合処理工法について実施した。図-2にそれぞれの混合処理工法における施工深度の違いを示す。
 



 



 
深層混合処理工法は,原位置地盤と固化材を撹拌もしくは固化材を噴射することにより,改良体を構築する技術である。撹拌方法は,撹拌翼を用いた「機械式撹拌工法」と固化材を噴射する「噴射式撹拌工法」とそれらを組み合わせた「機械式・噴射式撹拌工法」の3種類に分類される。噴射式撹拌工法は,スラリー方式の固化材が基本となるが,機械式撹拌方式では粉体方式の固化材も使用することができる。施工深度は,おおむね50mまでとなっている。
 
表層混合処理工法は,トラフィカビリティを改善することを目的に実施される。撹拌方法は,原位置地盤を撹拌する「原位置混合処理方式」,原位置地盤の材料を搬出し撹拌した後,原位置に戻す「搬出混合処理」に分類される。固化材は,深層混合処理工法と同様にスラリー方式と粉体方式がある。
 
中層混合処理工法は,表層混合処理工法の施工深度をさらに深くするために攪拌機を支持する部分を長くすることで対応している。機械式撹拌に加えて,深層混合処理工法で実施されていた噴射式撹を組み合わせた工法もあり,浅層混合処理工法と深層混合処理工法のハイブリッド工法となっている技術もある。
 
現状の混合処理技術として使われている工法(深層・中層・表層)について,既存文献から120技術を抽出して,調査・分類を実施した。表-1に調査した技術数を示す。表-2に工法ごとに使用する建設機械と改良深度の一覧を示す。深層混合処理工法は,ボーリングマシンやパイルドライバによる専用機械が利用されている。表層混合処理工法および中層混合処理工法では,汎用建設機械のバックホウが多く利用されている。
 



 



 

3. 施工管理方法

地盤改良工における施工管理は,国土交通省より公表されている「土木工事施工管理基準(案)」2)の地盤改良工-固結工法(粉体噴射撹拌工,高圧噴射撹拌工,スラリー撹拌工,消石灰パイル工)における出来形管理基準および品質管理基準により実施されている。
 
出来形管理基準では,「基準高」・「位置・間隔」・「杭径」・「深度」が測定項目として設定されている。品質管理基準では,改良体における「強度」が一軸圧縮試験の結果として設定されている。また,品質管理基準において,「試験は,1本の改良体について,上・中・下それぞれ1回,計3回とする。」と定められており,改良体全体で強度が均一に確保される必要がある。そのため,改良体の「強度」のみならず,「均一性」を確保するために必要となる要素も合わせて施工管理する必要がある。施工品質に必要となる施工管理目は,「基準高」・「位置・間隔」・「杭径」・「深度」・「強度」・「均一性」の6項目が該当すると考えられる。
 
出来形管理基準の規格値を表-3に出来形管理の測定箇所を図-3に出来形管理項目の測定箇所を示す。また,品質管理基準の規格値を表-4に示す。
 



 



 



 

4. 施工管理項目

施工管理項目は,地盤改良技術で調査した120技術から類似工法などを除いた80技術を対象とし調査した。施工管理項目は,計測値となる速度(m/s)・圧力(Pa)・時間(s)・注入量(㎥)・角度(°)長さ(m)の物理量と施工位置・着底の確認(主に回転部分の電流値の変化を計測)とその他(回転数・撹拌回数・空気流量)に分類した。
 
調査いた混合処理技術の多くは,固化材の注入量・添加量と貫入深度および撹拌翼の回転数を計測している。また,これら3つの施工管理項目は,施工時の確認に使われるだけではなく,施工記録として保存されている。さらに,施工管理項目については,施工管理基準にて必要となる6項目との因果関係について整理した。表-5に整理した各施工管理項目と施工品質の因果関係を示す。改良体の品質である「強度」,「均一性」に関連する計測データ項目が比較的多く,出来形である「基準高」,「位置・間隔」,「杭径」,「深度」に関連する項目が少ない結果となった。
 



 

5. ICTによる施工管理方法

建設機械に搭載されている施工管理装置は,現行の出来形管理および品質管理項目である「深度」,「強度」,「均一性」について,計測される施工管理項目を活用して確認することができる。
 
「深度」以外の「基準高」,「位置・間隔」,「杭径」については,建設機械に搭載された施工管理装置で計測される施工管理項目では確認されていない。そのため現状では,あらためて測量することにより確認が必要となっている。また深度は,ロッドの貫入状態を施工管理装置や写真などにより管理することにより計測および証明を実施している。今後は,建設機械に測量機器を搭載することで施工位置および出来形管理が可能となることが考えられる。
 
品質管理基準では,強度試験を改良体500本に対して3本しか実施しない。そのため,施工全数の状態を把握することは困難となっている。今後は,強度試験結果と「強度」と関連性のある施工管理項目を比較することで,強度試験を実施しなかった改良体の強度を推定することができると考える。
 
現在,地盤改良工におけるICTによる施工管理手法は,新技術情報提供システム(NETIS)において,3件が登録されている。
 
一つ目の技術は,深層混合処理工法の地盤改良機械を改良体の中心位置に誘導するシステムである。GNSSアンテナを建設機械に搭載し,施工するべき杭心の位置を運転席のオペレータにモニターで指示・誘導する技術である。図-4に,誘導システムの画面例を示す。この技術は,ガイダンス機能しかないが,施工位置の計測および杭心の位置関係を計算することで,出来形管理項目「基準高」・「位置・間隔」について計測することが可能である。そのため,「杭径」・「深度」を計測する方法を追加すれば,出来形計測の自動化を実現できると考えられる。
 

図-4 誘導システムの画面例 3)




 
二つ目の技術は,深層・中層混合処理の計画から施工結果まで一連の情報を3次元にて可視化するシステムである。図-5に,3次元にて可視化した事例を示す。このシステムは,計測した施工位置に加えて,施工管理装置にて計測・収集されていた添加量や回転回数・支持層への定着(電流値)を従来は紙に転記していたものを3次元化した画面に表示している。そのため,施工状況をリアルタイムにて可視化が可能となり,出来形項目や「均一性」を容易に確認することができる。ただし,このシステムは,特定の地盤改良技術にしか適応ができないので,同様な手法を他の地盤改良技術でも実現できることが望まれる。
 

図-5 3次元にて可視化した事例 4)




 
三つ目の技術は,一つ目の改良体の中心位置を誘導する機能に施工情報を可視化・記録する機能を追加したシステムである。施工管理情報は,施工位置・深度・スラリー量・地盤形状を取得することができる。このシステムは,ネットワークを通じて施工管理情報を施工現場外でも共有することが可能となっている。図-6に施工管理の画面状況例を示す。
 

図-6 施工管理の画面状況 例5)




 

6. おわりに

i-Constructionについて議論する「ICT導入協議会」では,平成30年7月にICTを活用した施工管理・出来形管理・出来形管理の効率化として,施工履歴データをICT地盤改良工やICT舗装工(修繕工)で活用することが宣言された。ICT地盤改良工では,地盤改良機械の位置や施工状況の施工履歴データによる出来高・出来形管理を実現するため,出来形管理要領案の作成を平成30年度に実施する。ICT地盤改良工による省力化・効率化は,バックホウに搭載されている情報化施工機器やNETISに登録されている技術を活用することで実現が可能であると考える。効率化を実現するためには,建設機械から得られる位置情報を活用し,改良体の「位置・間隔」「基準高」「深度」を計測できるシステムの機能要求を定義する必要がある。さらに,監督・検査の作業を効率化するためには,施工履歴データを交換する方法が必要となる。建設機械にて計測される施工履歴データを交換する方法は,データ交換標準を定義することで取得可能な環境を整備したいと土木研究所では考えている。
 
今後,施工現場で取得された施工履歴データは,計画時や施工前に調査される地盤データ(ボーリングデータ)や施工後の一軸圧縮試験による「強度」データとの関連を整理することでビッグデータとして取り扱うことが可能となる。地盤改良工におけるビックデータは,原位置地盤のN値推定方法の確立などの理論解析や固化剤の注入量および貫入速度の最適化による運転支援・制御への活用が期待される。土木研究所では,集められた施工管理データを分析することで,地盤改良工におけるさらなる施工管理の効率化・省力化に役立てていきたいと考えている。
 
 


 
参考文献
1)道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版)
2)土木施工管理基準(案)平成28年3月国土交通省
3)新技術情報システム 登録番号CG-120020-VE
4)新技術情報システム 登録番号TH-160004-A
5)新技術情報システム 登録番号KT-170030-A
 


 

国立研究開発法人 土木研究所 技術推進本部 先端技術チーム 田中 洋一

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年10月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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