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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 構造物とりこわし・解体工法 > 道路床版のウォータージェットはつり工事における騒音対策について

 
道路補修におけるコンクリートはつり工事おいて昨今,ウォータージェット(以下,WJ)工法が盛んに採用されている。また,その適用部位も広がり,道路床版部からジョイント部,床版端部および壁高欄部などへ適用されてきている。その場所も事務所ビルの密集した近傍や他の構造物との高低差がほとんど無い条件での施工の需要も増えており,工事の時間帯も緊急の場合や夜間実施しなければならないケースも出てくることが考えられる。
 
そこでここでは,WJ工事における対策事例として「伸縮継手工事におけるWJの活用と低騒音化」と「道路床版端部でのWJ工事における騒音対策」の2件の事例を取り上げる。
 
 

伸縮継手補修工事におけるWJの活用と低騒音化

阪神高速道路株式会社 甲元 克明

 

コンクリートコーリング株式会社 藤永 大樹

 
 
 

はじめに

2010年,阪神高速技術(株)とコンクリートコーリング(株)は伸縮継手固定コンクリートを低騒音ではつりとるWJ工法を共同開発した。阪神高速道路は全長242kmのうち85%の206kmが橋梁である。伸縮継手は20,000レーンを超えており,将来的には大量の取り替えが発生すると予想されていた。橋梁は住宅街やオフィス街に建設された高架橋が大部分を占めており,沿道環境に配慮した騒音・振動を抑制した施工が必要であった。
 
従来工法として伸縮継手固定コンクリートはつり取りにはブレーカー工法が採用されていた。しかしこの工法は直接的な打撃破壊であり大騒音と振動を伴うものである。特に問題であったのはブレーカー振動が鋼桁に伝播し路下に広く拡散する騒音であった。高速道路上には遮音壁が設置されているため路上で発生する騒音については防音シートで囲うなどの追加対策により,ある程度低減できていたが,路下に広がっていく騒音については有効な低減手段が無かった。ブレーカーによる不快な高,低音域の騒音が響き渡ることが,沿道からの苦情の原因となっていた。そのため交通量の少ない夜間にブレーカー工法で伸縮継手取替工事を行うことは,事前に沿道住民の了解を得る事がほぼ不可能なためできなかった。またブレーカー工法にはマイクロクラック発生などの品質的問題に加え(写真-1),昨今の熟練工の減少という問題もあり集中工事時に人員確保に苦労することから,施工の省人化,ロボット化も求められていた。
 

写真-1 ブレーカーで傷んだ床版




 

1. WJを用いた伸縮継手補修工事の低騒音工法の開発

WJの施工では空気を切る音として100dB以上の大騒音が発生する。その音質はブレーカー音に比べ音圧レベルが小さいため,不快感はかなり少ない。また音の距離減衰率が大きいという特質があるため,音源から離れるとすぐに音が小さくなり,騒音が遠くまで響くことがない。さらに,振動がほとんどないので鋼桁を共鳴させることはなく,高架下に騒音が伝播しないなどの特性がある。
 
以上のことからWJ工法は既設躯体を傷めず,機械施工による省人化も可能なため伸縮継手補修工事において有効な手段になると考えた。また防音シートでもある程度の騒音低減効果が確認されていること,WJ自体に振動がないという特性を持つことから,適切な設備を設置すれば低騒音化は可能であると判断し,WJによる伸縮継手補修工法の開発を行った。
 
 

1-1 技術的課題

実施工は供用中の都市高速道路(高架橋)上で行われる。WJの施工実現には以下の技術的課題があった。
 
①WJ 作業の低騒音化
WJによる騒音を夜間施工時でも沿道住民から苦情がでないレベルまで低減する。
 
②はつり深さ制御
標準的な床版厚はt=300mm程度であるが,それに対して伸縮継手を設置するために必要なはつり深さはh=150mm(図-1参照)である。WJのはつり過ぎによる床版の脆弱化を防ぐとともに必要空間を確保するためには,高度なWJのはつり深さの制御が必要である。
 

図-1 伸縮継手WJばつり標準断面




 
③WJ排水の逸走防止
施工手順としてはまず伸縮継手を取り外す。その結果,遊間部が露出し,そのままWJ施工を行うと多量のWJ排水が橋脚を伝って高架下へ落下する。また一車線規制で施工する場合,その真横のレーンを高速で一般車両が走行している。以上の理由からWJ排水の逸走防止措置が必要である。
 
④WJによる湯気の飛散防止
高速道路上でWJによる湯気が立ち上っていると,すぐに高速道路利用客から道路管理者へ苦情が寄せられる。そのため湯気飛散防止措置が必要である。
 
⑤規制時間内での施工完了
限られた規制時間内で機械の搬入,設置,伸縮継手の撤去,WJ,ガラ吸引,清掃,片づけを行わなければならない。しかもWJではつり取るのは実強度が50N/㎟以上の超速硬コンクリートか40N/㎟程度の普通コンクリートである。はつり量が約0.4㎥~0.5㎥とすると,はつり速度は最低でもv =0.2㎥/h必要である。
 
⑥施工のロボット化による省力化
WJ工法を採用する目的の一つが熟練工減少に対応した省人化施工であった。施工の自動化を目指す必要がある。
 
 

1-2 技術的課題に対する解決策

技術的課題を解決する上で実施工の作業性,仮設備の規模,コストも考慮して図-2に示すWJ装置を製作した。
 
①WJ作業の低騒音化
WJ現場で一般的に使用されているのは,防音シートで音源を多重に囲うという方法である。これはWJ騒音の音漏れを防ぐことで騒音を低減するものであり,簡易的,経済的な方法であるが,はつりガラの飛散によって防音材が傷みやすく,また,騒音低減効果にも限界がある。今回の開発では騒音自体を吸引,消失させる発想に立ち,防音シートを高性能吸音パネルに変更して低騒音化した(図-2)。高性能吸音パネルは内部にグラスウールが入ったアルミ製パネル枠を採用し,現場での作業性も考慮して1枚30kg以下に加工した。
 

図-2 伸縮継手WJはつり装置図




 
はつりガラ,WJ水,湯気で高性能吸音パネルが劣化するのを防ぐため,内側にはポリカーボネートを設置した。ポリカーボネートは鉄製の板と違いWJ衝撃波で共振しにくく,それ自体に防音効果があることを実験で確認した。また高圧ホース,エアホース,電線を通すための開口部にはゴム板を取り付け,音漏れを防いだ。
 
②はつり深さ制御
はつり深さ制御を実現するためコリジョンジェットノズルを採用した。コリジョンジェットノズルは衝突噴流型のノズルであり,高度なはつり深さ制御能力を持つ。また,はつり面の平坦性を高くする能力や,鉄筋背面除去能力も併せ持つ。既に多くの試験実績,現場実績があり,信頼性の高いノズルである。
 
③ WJ排水の逸走防止
遊間部に止水鉄板,発泡ウレタン,バックアップ材で止水措置したうえで,遊間周りにはつり残りを形成し止水堰とした。止水堰厚は5cm以下とし,最終的に油圧ハンドクラッシャーを用いて静的に圧砕撤去した。走行車線への排水逸走防止は高性能吸音パネル枠およびWJはつり装置枠下面に止水ゴム板とタックシーラーを取り付けて止水した。
 
④ WJによる湯気の飛散防止
高性能吸音パネルに配管孔を設け,バキュームホースまたはミストコレクタホースを接続し湯気を直接吸引した。
 
⑤限られた規制時間内での施工完了
WJはつり速度を向上するためにパラメーター(噴射の運動方向,運動速度,流量,圧力,スタンドオフ),ノズルチップ材質,圧損防止対策を検討した。最終的に試験施工で確認し,現時点で最良の組み合わせを選定した。
 
⑥施工のロボット化による省力化
専用のXY移動装置を製作した。パラメーターを設定すれば全自動施工できるものとした。
 
 

2. 施工結果

2010年に開発した低騒音WJでの施工実例を報告する。
 
 

2-1 工事概要

施工日  2010年9月16日
施工場所 阪神高速3号神戸線P137
 

写真-2 施工箇所着工前




 

2-2 騒音測定結果

騒音測定は,騒音規制法により,計量法七十一条の条件に合格した騒音計を使用しておこなった(表-1)。測定時間は0.2秒ごとに瞬時値を記録し,これらのデータを用いて10分ごとの演算値(Leq,L5,L50,L95,Lmax)を算出した。
 

表-1 使用騒音計測器




 
騒音測定位置は図-3の通りである。高速道路上で2箇所,高架下で2箇所の計4箇所を測定した。高速道路上ではWJマシン直近の測点1と20m離れた超高圧ポンプ直近の測点2で計測した。両測点とも騒音計のセンサであるマイクロフォンを路面から約3.6mの高さの防音壁上に設置して,防音壁を越えて周辺に拡散する騒音を計測した。高架下ではWJマシン直下の測点3と7m離れた雨だれ線下(官民境界付近)の測点4で計測した。両測点ともマイクロフォンを地面から約1.2mの高さに設置して計測しており,全計測点において風雑音の影響を軽減するために防風スクリーンを装着した。
 

図-3 機械配置および騒音測定位置図




 
①高速道路上暗騒音測定結果
8:30~9:00の間で測定し,騒音レベル(L5)は80.6~81.0dB,(Leq)は66.9~67.5dBの間で推移した。暗騒音としては非常に高く,これは走行車線を一般車両が高速で走行していたためである。
 
 
②高架下暗騒音測定結果
8:30~9:00の間で測定し,騒音レベル(L5)は70.6~72.0dB,(Leq)は66.2~67.0dBの間で推移した。暗騒音としては非常に高く,これは高速道路上および周辺道路を走行する一般車両や隣接する阪神電鉄の列車が常時通過していたためである。
 
 
③測点1(WJマシン直近)騒音測定結果
表-2に示す3回の時間帯データを対象とした。暗騒音と騒音レベル(L5)を比較しても大差ない結果となった。
 
それぞれの時間帯に瞬時値(Lmax)で85dBを超える事があったが,騒音レベル(L5)では特定建設業の規制基準値(L5:85dB)を満たす結果となった。
 

表-2 測点1 騒音測定結果




 
④測点2(超高圧ポンプ直近)騒音測定結果
表-3に示す3回の時間帯データを対象とした。暗騒音と騒音レベル(L5)を比較すると,施工時の方がやや小さい結果であった。これは超高圧ポンプの作動音より走行車両の通過音の方が大きいもしくは同等であったためである。施工時の瞬時値の最大(Lmax)は85.4dBであったが,騒音レベル(L5)では特定建設業の規制基準値(L5:85dB)を満たす結果となった。
 

表-3 測点2 騒音測定結果




 
⑤測点3(WJマシン直下)騒音測定結果
表-4に示す3回の時間帯データを対象とした。暗騒音と騒音レベル(L5)を比較しても大差ない結果となった。これは高速道路や周辺道路を走行する一般車両や阪神電鉄列車の通過音が工事騒音を上回り,主要騒音源となっている事が多いためである。12:40~12:50 の騒音レべル(L5)が他より大きいのは,測点近くで発電機が作動していたためである。施工時の瞬時値の最大(Lmax)は82.9dB であり,特定建設業の規制基準値(L5:85dB)を満たす結果となった。
 

表-4 測点3 騒音測定結果




 
⑥測点4(雨だれ線下:官民境界付近)騒音測定結果
表-5に示す3回の時間帯データを対象とした。測点4の騒音レベル(L5)は,測点3の騒音レベルおよび交通量が比較的多かった朝方の暗騒音より小さいという結果となった。瞬時値の最大(Lmax)は80.4dBであった。特定建設業の規制基準値(L5:85dB)を満たす結果となった。ブレーカー工法で施工した場合は特定建設業の基準値に近い騒音が発生する事と比較すると,WJ工法による騒音低減効果は非常に大きい。
 

表-5 測点4 騒音測定結果




 

2-3 はつり深さ制御結果

コリジョンジェットノズルを用いたWJにより精度の高いはつり深さ制御を実現した。はつり面は不陸が無く,鉄筋背面もきれいに除去した(写真-3)。
 

写真-3 WJはつり出来形




 

2-4 WJ排水の逸走,湯気飛散防止結果

前述止水対策により走行車線側,高架下へのWJ水の逸走はなかった。湯気の飛散も問題なかった。
 

写真-4 WJ排水止水状況




 

2-5 WJはつり速度結果

超高圧ポンプ2台を合流し実質235Mpaにて56㍑/min噴射した。噴射ノズルの動作パターンは横行速度3.55m/min。1横行毎にステップ幅10mmを繰り返して掃行した。その結果WJによるコンクリートの除去速度は,v=0.24㎥/hを達成し,最低目標値v=0.2㎥/hをクリアした。
 
 

おわりに

今回紹介した神戸線の施工事例においてWJ騒音が実用レベルまで低減されることが確認された。また同様な方法で阪神高速松原線でさらに1箇所施工を行い,WJ騒音が低減されることも確認された。WJによる沿道への騒音は定常ノイズのようなもので,ブレーカーのような打撃的な音の連続とは大きく異なる。定常ノイズが暗騒音より低い場合もあることを考えると,交通量が少ない夜間に施工するという選択ができる。ただし,はつり速度については神戸線でv=0.24㎥/hだったのが松原線ではv=0.21㎥/hに低下した。これは松原線のコンクリートが50N/㎟以上の超速硬コンクリートであり,40N/㎟程度の普通コンクリートであった神戸線より硬かったことが主因である。また今回紹介した吸音パネルとXYはつり装置は寸法的に大きく,狭い占用帯での施工の効率化に限界があった。そのため現在においては吸音パネルを装着したコンパクトな自走式WJはつり装置を開発し,2台を交互に連続して使うことで施工時間の短縮を実現し,実績を積んでいる(写真-6)。
 

写真-6 防音型自走式WJ斫り装置2 台施工




 

道路床版端部でのWJ工事における騒音対策

株式会社フタミ 奥村豊紀

 
 
 

はじめに

WJを使用したはつり工事について,問題となっているのは,騒音とはつりに使用した水の処理,1日当たりの施工量の増加と思われる。いずれの事柄についても各所で鋭意研究されている。今回取り上げるのは,騒音とそれらの低下対策について,問題点とそれらの対処方法について述べる。
 

図-4 騒音発生のメカニズム




 
WJ騒音は高速で噴出した流体が静止した空気との境界で発生する。その粘性のために乱れの一つ一つが音源になり,ノズルに近い部分は,乱流域の乱れが細かく高周波音を発生し,遠い部分の乱流域では,流速の減衰とともに次第に大きくなって低周波音を発生させる(図-4)。よって,ジェット流で発生する音は広帯域のランダム騒音と言われている。また騒音値のレベルは90〜130db程度であり,それらははつり深さにより変化する。
 
1例を下記に示す。
 
WJを使用してはつる場合は,CASE1が多いと思われる(図-5)。
 

図-5 簡単にわかるWJはつり工事での騒音比較(スタンドオフ距離別)




 

騒音対策の一例

①工事概要
目  的: 既設共用中の高速道路高架橋においてJCT 橋を新設接続するにあたり,新旧床版一体化のため,既設床版部の鉄筋をWJにてはつり出す。
数  量:施工延長 約400m
施工体積:約12㎥
 

図-6 工事断面図




 
②施工状況

図-7 床版はつり工 車両機材配置参考図




 
③騒音対策
現場での従来のはつり養生断面図(図-8左)
騒音低減を考慮した養生断面図(図-8右)
 

図-8 養生断面図




 
騒音の対策として下記の3つがあげられる。
 
● 防音
音の発生を防止すること
● 吸音
発生した音を吸収,減衰させること
グラスウール,パンチングメタル,吸音板など
● 遮音
壁材などを用いて反対側へ音の透過を防ぐこと防音シート,遮音壁など
 
 
④現場での騒音データ(養生別)騒音データ比較
従来の養生方法(左)
騒音低減を考慮した養生方法(右)
 

図-4 養生による騒音データの比較




 

おわりに

現場での騒音データと比較しても,防音対策作業の割には騒音は低下しづらい傾向がある。その対策として,吸音,防音,遮音のうちWJロボットの防音化を図る必要があるが,ロボットの機構上の特性により完全な防護カバーが作製しづらいのが現状である。しかし,表面処理のロボットとバキューム車の組み合わせによる同時吸い取りでは,ロボットの吸音カバーを工夫することにより,ほぼ無音状況を実現した。これらを参考にして,ロボットとバキューム吸い取りをうまく組み合わせることにより,低騒音化は実現できると思われるが,各機関,各社での鋭意努力は今後も必要である。
 
 
 

日本ウォータージェット施工協会 幹事長 時岡 誠剛

 

阪神高速道路株式会社 甲元 克明

 

コンクリートコーリング株式会社 藤永 大樹

 

株式会社フタミ 奥村 豊紀

 
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年11月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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