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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > 災害発生時の経済産業省によるトイレ関連物資調達・供給支援について

 

はじめに

ここ数年,各地で豪雨,台風,地震といった自然災害が相次ぎ発生し,被害の大きさにもよりますが,政府による被災地への物資供給支援が行われるケースが続いています。
 
本稿の執筆を始めた9月にも,台風15号により千葉県で住居・建物の損壊や大規模停電といった被害がありました。本稿では,経済産業省のトイレ関連物資担当の立場から見た災害時のトイレ関連物資の調達・供給について,平成30(2018)年の災害時の対応事例を交えてご紹介します。
 
 

1. 災害時のトイレ整備における経済産業省の役割

通常,避難所の開設となれば,被災市町村が避難所の規模に応じて必要な数のトイレを整備します。排水処理設備に問題がないことが確認できれば,上水がなくても,プールの水を使って流すなどの工夫をして施設内の既設トイレを使います。その既設のトイレが使え無い状態であれば,備蓄している携帯トイレ・簡易トイレをトイレ個室に設置して使う,あるいは間仕切りで個室を作って簡易トイレを設置する,などします。避難所の規模によっては,こうしたトイレでは足りなかったり,避難生活が長期化したりするために,仮設トイレを設置することもあります。
 
仮設トイレといってもさまざまな種類がありますが,市町村が調達する場合には,地元のレンタル会社が保有する,平時は建設現場などで使用されている和式便器タイプの単体トイレが設置されることが多いようです。最近では,マンホールトイレを設置する防災公園や指定避難所も増えています。
 
このように,まずは,市町村が備蓄やレンタルなどのトイレを整備することが計画されているのですが,実際の災害では,備蓄だけでは足りない,レンタルの在庫がなく調達できない,もしくは人命救助などを優先するためトイレの整備に手が回らないといった事態になる場合もあります。例えば,平成28(2015)年の熊本地震では,車中泊する人が多く,駐車場など避難所以外でも仮設トイレが必要となりました。昨年7月の平成30年7月の豪雨では,小田川の氾濫により広い範囲で浸水被害が出た倉敷市で,主に自宅のトイレが使えない被災者への対応が必要となりました。これらの事態に市町村レベルで対応しきれない場合には,都道府県や被災していない自治体から支援を受けたり,政府の支援を受けたりすることになります。
 
経済産業省は,災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき策定された防災基本計画(中央防災会議 令和元(2019)年5月31日)において,①生活必需品(携帯トイレ・簡易トイレ,仮設トイレを含む。以下同様。)について,調達体制の整備に特段の配慮をすることとし,その調達可能量について調査すること,②必要に応じ,または非常本部等,もしくは被災した地方公共団体からの要請に基づき,生活必需品について,関係業界団体の協力等により,その供給の確保を図ること,とされています。同計画には,被災地方公共団体は,供給すべき物資が不足し,調達する必要があるときは,国に対し,または非常本部等に対し,物資の調達を要請するもの,となっています。また,被災都道府県と国は,その事態に照らし,市町村からの要求を待たずに物資を確保し輸送(いわゆるプッシュ型支援)することになっています。
 
熊本地震の例では,内閣府から仮設トイレのプッシュ型支援の要請があり,340棟を供給しました。昨年7月の豪雨の例では,倉敷市からの要請を受けて仮設トイレ200棟,広島県からの要請で38棟,愛媛県からの要請で49棟を供給しました。
 
仮設トイレは他の生活必需品にくらべて体積が大きいため,災害による道路の寸断や物流が混乱する中での輸送手配は簡単ではありません。また,輸送した後,現地に設置し使える状態にするには人手も必要です。使用し始めれば,トイレットペーパーなどの消耗品の補充,清掃,また,非水洗・簡易水洗式であればし尿汲取り,洗浄水タンクへの水の補充など,維持・管理も必要になります。携帯トイレ・簡易トイレの使用済みごみ置き場の確保,ごみ収集も考慮する必要があります。
 
災害時に使用されるトイレには,携帯トイレ,簡易トイレ,仮設トイレ,マンホールトイレ等がありますが,それぞれ特性や配慮しておくべき点が異なります。被災現場の状況に応じて使いわけることになります。現状では,準備する自治体や使用する住民にこれらのトイレが正しく認識されていないことも多いのですが,物資を供給する立場からすると,現場の状況・ニーズにあった物資をタイムリーに届けることが望ましいため,供給を受ける側にも災害用トイレの知識をもっておいてもらいたいと感じています。実際,昨年7月の豪雨災害でも,市の被災状況を踏まえて県から来た要請に対応して仮設トイレを設置しましたが,設置先の避難所の運営者への連絡調整が整わず,維持・管理の問題から結局使用されずに他の必要箇所に移設した仮設トイレもありました。給水・排水設備が機能しているか,維持・管理,し尿汲取りの体制がとれるかなど,供給する前に確認しておければ,プッシュ型支援によるミスマッチの可能性は低くなると考えられます。
 
昨年9月の北海道胆振東部地震では,北海道庁が市町村のニーズをとりまとめて要請してきた物資の中に携帯トイレ2000個があり,供給しましたが,仮設トイレの要請はありませんでした。その理由は,北海道内に仮設トイレの在庫が多くあり,政府に調達を依頼する必要がなかったのではないか,と後日仮設トイレメーカー等から聞きました。また,被災自治体からの要請でトレーラー型や車載型の大型の仮設トイレを避難所まで届けたところもありました。
 

図-1 物資調達,供給活動の応急対応のイメージ
(出典:「市町村における災害対応「虎の巻」」平成27(2015)年8月内閣府)



2. 仮設トイレの仕様

避難所では高齢者や障害者などへの配慮が必要です。和式のトイレは要配慮者にとっては使いづらく,敬遠されがちです。トイレはあるのに,和式のため悪臭がするから使いたくない,となり,排泄を我慢し,摂取すべき水分を取らないといった事態になると災害関連死につながる可能性があります。そのような背景から,経済産業省で調達・供給する仮設トイレは,洋式を基本としています。
 
調達先の選定にあたっては,迅速性と現地までの搬入・設置の確実性を優先することになります。昨年7月の豪雨災害の被災地に向けて経済産業省が調達した仮設トイレには,和式便器にアタッチメントを付けることで洋式化したトイレ(図-2),和洋両用(図-3),洋式のトイレ(図-4)の3種がありました。
 
この時は,まず,被災地に近い地域に保管されていたレンタル在庫品の仮設トイレを活用しました。元は和式トイレなのでアタッチメントを付けて洋式化して使用できるようにしました。また,幸いにも岡山県内には仮設トイレ製造企業が立地しており,要請を受けた後すぐに,和式にも洋式にもできる和洋両用の仮設トイレを倉敷市や広島県,愛媛県に搬入することができました。更に,追加要請があった際には,近畿地方の仮設トイレ製造企業から洋式トイレを調達しました。
 
一方で,肌への接触がないため,衛生面で仮設トイレの洋式便器を敬遠し,和式便器が要望される場合もあると聞きますが,除菌用シートが常備される,こまめに掃除するなど,運用の工夫で解決できる面もあります。経済産業省が仮設トイレを調達し供給する際には,現地到着後すぐに使用できるよう,便槽用防臭防虫剤,電池式照明,トイレットペーパー,手指消毒剤,除菌シートなどを同梱するよう供給企業に依頼しています。特に,気温が高いと仮設トイレの臭いが強くなったり虫が発生したりするため,昨年7月の豪雨災害では便槽用防臭防虫剤を追加供給しました。
 

図-2 アタッチメントにより洋式化したトイレ(愛媛県宇和島市に
設置)


 

図-3 和洋両用トイレ(広島県三原市に設置)


 

図-4 洋式トイレ(愛媛県宇和島市に設置)



おわりに

災害時のトイレは,使えない状態が災害関連死につながり兼ねないことを考えると,とても重要なテーマです。被災現場で必要とされる支援は,規模,種類,被災した自治体や地域の状況等によって異なります。経済産業省のトイレ物資担当としては,より現場にあった対応ができるよう努めていくと共に,少しでも物資調達・供給がスムーズに進むよう,災害用トイレの種類・特性や備蓄に関する啓発活動を推進していきたいと考えています。
 
また,平時から災害時のトイレをどう整備し,管理,維持していくかを,市町村・県で計画しておくことはもちろんですが,トイレの質を向上していく必要もあります。
 
実際に被災地に行くと和式の仮設トイレも多いそうです。被災自治体が設置する場合,地域のレンタル会社から調達するケースが多く,その在庫の多くが平時のレンタルで採用頻度が高い,和式であるためと考えられます。建設現場や普段のイベントに使われる仮設トイレが,洋式トイレや国土交通省が基準を定めている「快適トイレ」レベルのものに変わっていけば,災害時にも使いやすい快適なトイレが整備される可能性が高まります。今や,洋式トイレでないと用を足せないという子供もいます。誰もが気持ち良く使えるトイレが,災害時にも使える状態になる社会になることを願っています。
 
 
 

経済産業省 製造産業局 生活製品課 住宅産業室 室長補佐 大木 教子

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年12月号


 

最終更新日:2023-07-10

 

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