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はじめに

仮設トイレの多くは建設現場用として開発され,またマンホールトイレは災害用トイレとして開発されています。これらのトイレに共通する点は2つあります。1つ目は屋外で使用するトイレであること,2つ目は一時的にトイレが必要になった場所にトイレ機能を確保することができることです。つまり,仮設トイレは必要なときに調達して設置し,マンホールトイレは必要なときにトイレとして組み立てることができるという意味です。
 
私たちの生活は,社会の変化に対応する必要があります。現代のような変化の激しい時代には,インフラも状況に応じて変化することが求められます。トイレに関していえば,必要なときに必要な場所へ必要な量を届けることです。しかも,安心して利用できる品質が求められます。これまで,公共のトイレといえば常設が基本でしたが,これからの屋外トイレは「移動・臨時」という価値が重視される可能性があります。本稿では仮設トイレとマンホールトイレのこれからの役割について考えます。
 
 
 

1. 建設現場で仮設トイレの改善が必要だった理由

建設現場のトイレの改善は,労働環境の改善を目的としてスタートしました。なぜなら従来の建設現場のトイレは「ほとんどが和式である」「男女別でない」「臭い」「狭い」「虫がいる」「物を置く場所がない」「鍵をかけても空いてしまう」などの課題を抱えていたからです。その理由として,仮設トイレは,泥や埃に強く,揺れや衝撃に強いこと,また工事作業の邪魔にならないように省スペースであることが重視されていたため,使い勝手や快適性は後回しになっていたのではないかと考えられます。
 
しかし,トイレの使い勝手が悪く,安心して排泄できないようでは,そのトイレを使わざるを得ない人の健康を害することが危惧され,安全に働くことにも支障をきたします。また,トイレの状態が悪い職場では働きたくないため,新たな入職者を期待することができません。このような状況を改善するために,国土交通省は平成26年度より試行的に,トイレを従来型の和式トイレから,洋式でにおいを抑えるトイレを導入するモデル工事を実施しました。
 
一方で,日本トイレ研究所は,建設現場のトイレを改善することは労働環境を改善するだけでなく,災害時の被災者の命を守ることにつながると考えていたため,国土交通省大臣官房技術調査課と連携して「どこでもトイレプロジェクト」をスタートしました。「どこでもトイレプロジェクト」とは,建設現場のトイレを改善することが,河川敷や公園,イベント,避難所等のトイレ環境の改善に波及することを目指した取組みです。
 
関係者との意見交換を重ね,平成28年に国土交通省は建設現場に設置する「快適トイレ」の標準仕様を決定し,これまでに3度にわたって「快適トイレ」の事例集を発表しました。仮設トイレの分野において標準仕様が発表されたことは,おそらく初めてのことです。これを機に仮設トイレは,排泄できれば良いという位置づけから,「快適」なプライベート空間へと大きく舵を切ることになりました。
 
 
 

2. 快適トイレの標準仕様

快適トイレの標準仕様は,令和2年8月に一部見直されました。基本的な内容については変わっていませんが,快適トイレに求める機能の考え方を,より分かりやすく記述しているところが変更ポイントです。快適トイレを現場に導入する際,標準仕様の一覧をチェックする場合が多いと思いますが,よりよいトイレ環境を構築するためには,機能の考え方を理解することも重要であるため,次頁に全文を記載します(図−1)。①〜⑪の項目は,快適トイレに必ず必要な機能と付属品であり,⑫〜⑰は快適トイレの質を向上するために推奨されている仕様や付属品です。
 
なお,日本トイレ研究所は,快適トイレの普及を推進すると同時に,仮設トイレのさらなる質的向上を目的として,国土交通省が定める快適トイレの標準仕様に則った仮設トイレに「快適トイレ」認定を行うとともに,「快適トイレ認定マーク」を付与しています(図−2)。
 

図−1 快適トイレの標準仕様イメージ



図−2 「快適トイレ認定マーク」見本




 

3. 快適トイレの普及状況

国土交通省のデータによると,平成29年度契約工事件数は8,583件で,このうち快適トイレを導入したのは3,346件となり,設置率は約39%です(図−3)。地域別にみると,沖縄や北陸は50%に達していますが,北海道や東北,近畿は40%に満たない状況です。快適トイレが思うように普及していない要因としては,快適トイレの存在や設置をサポートする国の制度が現場に十分に周知されていないことも考えられますが,一方で理解はされていたとしても快適トイレ自体が市場で不足していることが考えられます。
 
そこで,快適トイレを製造している企業に対してアンケート調査を実施したところ,快適トイレの標準仕様が発表された平成28年の生産台数は3,233 台であったのに対して,平成29 年は9,072台,平成30年は9,133台という結果になりました(図−4)。3年間で約3倍に増えてはいるものの,国直轄の工事が年間約1万件,地方自治体の工事が年間約2万件とすると,計3万件となるため,快適トイレはまだまだ足りていないと考えられます。
 
さらに,国土交通省の建築着工統計調査報告によると,令和元年度の新設住宅着工数は,883,687戸となり,国や地方自治体の工事件数をはるかに上回る数の工事が行われています。職場環境の改善は,公共工事だけに求められているのではなく住宅工事においても同様です。住宅メーカーや専門工事業者等で構成される全国低層住宅労務安全協議会は,快適トイレを推進するための取組みを行っています。行政と民間が連携しながら,仮設トイレを快適トイレに置き換えていくことが必要です。
 

図−3 地域別快適トイレ設置工事件数・設置率(国土交通省)



図−4 快適トイレの生産台数及び販売台数の推移




 

4. マンホールトイレの開発経緯と普及状況

マンホールトイレの開発は,阪神・淡路大震災での劣悪なトイレ環境の改善がきっかけだったと聞きます。断水・停電,給排水設備等の損傷により水洗トイレが使えなくなり,被災者はトイレ難民となりました。その時に,マンホールの蓋を開け,板を渡すなどして排泄したという経験がマンホールトイレの開発につながったのです。
 
現在の製品としてのマンホールトイレは,どこのマンホールにも設置できるわけではありません。基本的にはマンホールトイレとして整備されたマンホールに限ります。マンホールの下部には汚水管が敷設されており,そこを通じて下水道に流れていく,もしくは,下部に便槽があり,そこに貯留した後はくみ取りが必要となります。
 
マンホールトイレが実際の災害時に活用されたのは東日本大震災で,東松島市の避難所です。このときの経験等を参考にしながら,平成28年に国土交通省水管理・国土保全局下水道部は「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」を作成しました。国土交通省の調査(平成29年度末現在)では,下水道に接続しているマンホールトイレを管理している地方公共団体は455団体,管理基数は3万基を超えていますが,中小規模の地方公共団体ではいまだ普及が進んでいないと報告されています。
 
ここで南海トラフ地震を想定して考えてもらいたいことがあります。令和2年5月29日に中央防災会議幹事会から発表された「南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画」には,物資調達に係る計画の趣旨として以下のように記載されています。
 
 

(1)南海トラフ地震では,被災地方公共団体および家庭等で備蓄している物資が数日で枯渇する一方,発災当初は,被災地方公共団体において正確な情報把握に時間を要すること,民間供給能力が低下すること等から,被災地方公共団体のみでは,必要な物資量を迅速に調達することは困難と想定される。
 
(2)このため,国は,被災府県からの具体的な要請を待たないで,避難所避難者への支援を中心に必要不可欠と見込まれる物資を調達し,被災地に物資を緊急輸送するものとする(これをプッシュ型支援と呼ぶ)。

ここに示されていることを大まかに整理すると,発災から3日間は家庭等の備蓄と被災地方公共団体における備蓄で対応し,発災後4日目から7日目までに必要となる量を国がプッシュ型支援するということです。災害用トイレの必要量は,発災後4日目から7日目の4日間で9,700万回(出典:南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画の概要(内閣府(防災担当))となっています。しかし,仮に民間業者からの調達および自治体の公的備蓄により南海トラフ地域以外の地方公共団体から調達したものをすべて投入できたとしても,約7,000万回分が不足すると言われています。南海トラフ地域以外のすべての地方公共団体から調達すること自体,現実的ではありませんが,それができたとしても,圧倒的に不足するということです。新型コロナウイルス感染症が流行した時に,マスクやアルコール消毒液などが不足したことからも分かるように,外部からの物資調達に依存することはとてもリスクの高い選択です。だからこそ,地域の備蓄力を高める必要があり,有力なメニューの一つがマンホールトイレだと考えています。
 
 
 

5. マンホールトイレの普段使いと快適性の向上

マンホールトイレはその場にある設備であるため,設備的な損傷がなければ災害時にはすぐに活用できます。その一方で,災害用として開発されているがゆえに,活躍の場が災害時のみとなってしまうことが課題となっていました。この課題解決に向けて積極的に取り組んだのが東松島市です。避難所となる小中学校に整備されたマンホールトイレを地域のイベントや運動会で使用し始めたのです(写真−1)。そうすることで,2つの大きな効果が得られています。
 

写真−1 運動会で使用したマンホールトイレ(写真:東松島市)




1つ目は,児童はもちろんのこと,保護者も含め地域の多くの方の目に触れ,実際に使ってもらうことができることです。これは防災訓練以上の効果があると思います。一度使用したことがあるのとないのでは,災害時の運用に大きな差が出ます。東松島市が目標に掲げる住民主導型でのマンホールトイレの設置運営につながる取組みです。
 
2つ目は,日常の場で使用するため,児童から高齢者にいたるまで率直な改善要望を聞くことが出来ることです。本来改善すべきことがあったとしても,いざ災害時になってしまうと,要望を聞くことが難しくなります。その壁を突破できたことは利点だと思います。
 
東松島市は被災経験と運動会等での普段使いという経験を経て,マンホールトイレの改善を積み重ねています。具体的には,マンホールトイレの上屋をパネル式(鍵付)とし,内部には人感式LEDライト,棚,女性用には防犯ブザー,擬音装置,サニタリーボックス,トイレの外にはソーラー式照明設備を設置しました。また,男女の区別をするためのパネルの色分け,男女の入口位置の分離,男女の比率を変更,小便器の設置など,さまざまな工夫を行っています。このような改善は,他の地域にも広がってほしいと強く思います。
 
運動会での使用については,熊本市も実践しています。熊本市は,平成28年の熊本地震の際にマンホールトイレを有効活用しました。東松島市と熊本市,いずれも被災経験がある地域は,住民と一緒になって運用することの大切さを重視し,そのための取組みを積極的に実施しています。
 
 
 

6. マンホールトイレの性能項目

仮設トイレについては,前述のとおり国土交通省が標準仕様を発表することで質的改善が大きく前進しました。一方で,マンホールトイレに関しては,マンホールトイレ整備・運用のためのガイドラインや東松島市のような取組みはあるものの,標準的な仕様はありません。そこで,日本トイレ研究所は,マンホールトイレを開発・製造する企業と共同で,「マンホールトイレに求める機能と推奨する仕様・付属品」(表−1)を設定しました。「災害用トイレガイド(https://www.toilet.or.jp/toilet-guide/)」において各社の性能を公表していますので,ぜひ参考にしてください。
 

表−1 マンホールトイレに求める機能と推奨する仕様・付属品




 

7. 仮設トイレとマンホールトイレの可能性

自然災害が頻発する現代においては,必要なときに臨時で機能するトイレが必要です。新型コロナウイルス感染症の流行下においては,災害発生時は避難所だけでなく自宅や知人・親戚宅,ホテル・旅館,車中など,さまざまな場所に分散して避難することが求められます。どこに避難しようともトイレは必要であり,その時の状況に応じてトイレを確保しなければなりません。指定避難所だけでなく災害拠点病院や商業施設,道の駅などの拠点となる場所には,マンホールトイレの整備を検討する必要があります。これは被災者だけでなく,外部からの支援者のためのトイレとしても機能することが期待できます。
 
一方,まだまだ数は少ないのですが,平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震では,「快適トイレ」が支援される事例が確認できています(図−5)。災害時のトイレを快適にすることは,被災者の命と尊厳を守ることにつながります。決して贅沢ではありません。いざというときに快適なトイレが設置されるためには,建設現場だけでなく,地域のお祭りやスポーツ大会,河川などで積極的に採用し,街中で使用しながらストックすることが必要です。
 
このように仮設トイレとマンホールトイレは,必要なときにトイレ機能を確保できるフレキシブルなトイレとして普及しつつあります。この働きを推進するためには,今まで以上に積極的に日常で利用して,質的改善を図ることが求められますし,そのための予算確保も必要です。仮設トイレとマンホールトイレの快適性が常設トイレと同等かそれ以上になることで,新たなトイレシステムが確立することを期待しています。
 

図−5 災害時の快適トイレ活用例




 
 

特定非営利活動法人 日本トイレ研究所 代表理事  加藤 篤

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年12月号



 

 

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