建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 阪神高速道路の本線橋RC床版取替工事への新技術の開発・適用

 

はじめに

阪神高速道路は,営業を開始した1964年(昭和39年)から50年以上が経過し,2020年4月時点で総延長258.1kmのうち約4割にあたる111.8kmが開通から40年を超えている。
また,1日70万台以上に及ぶ膨大な交通量を抱え,大型車は一般道路に比べて約6倍と,過酷な使用状況であることは否めず,構造物の老朽化対策は急務である。
そのため,当社は「高速道路リニューアルプロジェクト〜大規模更新・修繕事業〜」として,高速道路の健全性を永続的に確保し,高速道路のネットワーク機能を将来にわたり維持していくための,橋の架け替えを含めた大規模な工事を実施していく計画を進めている。
 
「高速道路リニューアルプロジェクト」は大きく「大規模更新事業」と「大規模修繕事業」とに分かれており,「大規模修繕事業」(図−1)とは,損傷が顕在化した構造物に対して,繰り返し補修を行った場合でも改善が期待できないものの,構造物の全体的な取り替え(大規模更新)までは必要としない箇所に関して,主要構造の全体的な補修を行う事で,健全性の大幅な引き上げを図るための事業である。
本稿では「大規模修繕事業」のうち,昭和48年より前の道路橋示方書(以下,「道示」という)で設計され鋼板接着補強された鉄筋コンクリート床版(以下,「RC床版」という)で疲労耐久性の著しい低下がみられる箇所の取り替えについて,2020年に行った本線部の上下線一体構造での鋼合成鈑桁橋における設計・施工事例について報告する。
 

  • 東品川区間 床版撤去状況
    図−1 大規模修繕事業の6工種

  • 1.RC床版更新

    昭和48年より前の道示で設計されたRC床版は,現行基準に比べ床版厚が薄く,鉄筋量も少なく,疲労耐久性が低いため,これまで阪神高速道路(株)では床版下面からの鋼板接着補強を実施してきた。
    しかしながら,一部の鋼板接着補強済RC床版では補強後に劣化が見られ,疲労耐久性の低下が懸念されるため,その程度に応じて床版の取り替えをはじめとした対策を行うこととしている。
     
    これまでの床版取替の実績として,2018年度には15号堺線玉出入口において日本初の平板型UFC(超高強度繊維補強コンクリート(以下,「UFC;Ultra-highstrengthFiberreinforcedConcrete」という))床版への取り替えを実施し,2019年度には1号環状線信濃橋入口更新でワッフル型UFC床版を採用した。
    今回,2020年に行った1号環状線(図−2)南行きと12号守口線の一部区間のリニューアル工事において,平板型UFC床版を本線部でのRC床版取替として初めて採用した。
     

  • 阪神高速1号環状線
    図−2 阪神高速1号環状線

  • 1.1 対象橋梁の概要

    床版を取り替える対象橋梁は12号守口線の守S20で,橋長65mの上下線一体型の2径間連続鋼合成鈑桁橋である。
    1967年の建設時は,単純合成鈑桁2連の構造であったが,その後に主桁連結により連続化した経緯がある。
    今回はその北側の径間35mのRC床版を取り替える工事である。
    同橋は6主桁で幅員は17.6m,床版の支持間隔は3.08mだが,当初の床版厚は170mmと薄く,1980年に床版下面への鋼板接着補強を施している。
     

    1.2 対象橋梁におけるRC床版取替の経緯

    点検結果から,内部のひび割れや上面の土砂化などが判明し,床版を一部切り出して,輪荷重走行試験を行った結果,健全な床版に比べ大幅に疲労耐久性が低下していたことが分かった。
    また,接着した鋼板とコンクリート面との間の浮きはごく一部を除いて見られなかったが,貫通ひび割れが生じており,鋼板の一部で腐食も見られため,約600m2の床版を取り替えることとなった。
     

  • 床版取替対象橋梁(12号守口線守S20)
    図−3床版取替対象橋梁(12号守口線守S20)

  • 2.WJを用いた既設床版急速撤去技術

    合成桁における鋼桁と床版の接合部には,ずれ止め(スタッド)が密に配置されているため,床版取替時においては,鋼桁と床版の分離作業に多大な時間を要することが工程上の課題となる。
    そこで阪神高速道路(株)と飛島建設(株)と第一カッター興業(株)は,高速道路を供用しながら,合成桁の鋼桁と床版の接合部(以下,「ハンチ部」という)コンクリートをウォータージェット(以下,「WJ」という)で撤去し,スタッドを露出させ,その後,簡単に設置・撤去が可能な仮補強を施すことで,通行止め後の作業を削減し,通行止め期間を短縮する技術Hydro-JetRD工法(図−4)を開発した。
    本技術は,既に玉出入口での床版取替工事で適用した実績があるが,今回は本線構造物に適用するために,大幅な改良改善を実施した。
     

  • Hydro-Jet RD工法による既設RC床版撤去技術
    図−4 Hydro-Jet RD工法による既設RC床版撤去技術

  • 2.1 Hydro-JetRD工法の概要

    本工法は,まず供用中の高速道路の床版下面からWJを使用しハンチ部コンクリートを所定の高さで除去して,スタッドを露出させる。
    この工程を一定区間ごとに行い,ハンチ部を鋼製補強材と特殊モルタルによる仮補強材に置き換える。
    通行止め後に仮補強材を取り除き,1パネルごとにスタッドを切断して床版を撤去する。
    供用中に仮補強までの作業を実施することで,通行止め後の作業を大幅に削減させることができる。
    仮補強材の設置位置や個数は,FEM解析によって算出し,せん断や押し抜きに対する抵抗により決定している。
    スタッドと仮補強材の間には,可塑性を有し,15時間で40N/mm2の強度を発現する速硬モルタルを注入し,鋼製補強材とスタッドおよび床版を一体化させ,ハンチ部コンクリート除去後も合成桁としての機能を確保した。
     

    2.2 本線床版撤去の適用に向けての改良事項

    広幅員の本線床版の撤去に対応するための課題を抽出し,以下の通り技術改良を行い,実施工に適用した。
     

    ①鋼製補強材の薄型・小型化(オーバーハングの廃止)
     ●従来型鋼製補強材:7420g
     ●改良型鋼製補強材:1780g(体積比約76%削減)
     
    今回の対象橋梁ではハンチ部にWJで除去できないハンチ筋が存在し,従来型の仮補強材が干渉するため,薄型化を図った。
    また,従来型の鋼製補強材は主桁上フランジを挟み込む形状(オーバーハング)であり,主桁上フランジの端部から外側スタッドまでの距離が変化すると同じ形状の鋼製補強材が設置できず,汎用性が低かった。
    このため,オーバーハングのない形状で必要な耐荷力を確保できるよう改良を行った。
    これらの改良によって,上記のように大幅な薄型化・小型化につながった。
     

    ②ウォータージェットの切削高の縮小,精度向上
     ●従来型出来形管理:50mm±5mm
     ●改良型出来形管理:30mm±5mm(切削高約40%削減)
     
    小型・薄型化する補強材に合わせ,これまで管理してきたWJの切削高さをより縮小するため,WJに使うロッド・ノズルをφ40mm程度からφ20mm程度に細径化し,さらに各部品の小型化と耐久性を向上することにより,ハンチ部のコンクリート切削高さを縮小できるWJ装置を開発した。
    これにより,スタッドの露出長が短くなり,スタッドに生ずる曲げ応力などを低減できた結果,要求される仮補強材の耐荷性能が低減し,上述した鋼製補強材のオーバーハングの省略が可能となった。
     

    ③小型化に伴い補強材の製造コストダウン
     ● 従来型:金属ブロックからの削り出し
     ● 改良型:精密鋳物鋳造(ロストワックス鋳造)
     
    従来型が金属ブロックから削り出しによる高価で個別生産であった仮補強材であったことに対して,製造のコスト縮減と大量生産が可能な改良型を開発した。
     

  • 新旧ウォータージェット装置
    写真−1 新旧ウォータージェット装置
  • 仮補強材の新旧比較
    図−5 仮補強材の新旧比較

  • 3.高耐久性・超軽量化・薄肉化を実現したUFC床版への取り替え

    疲労耐久性の向上についても床版取替を実施する目的の一つであることから,更新後の新設床版は現行の設計活荷重を用いて設計を行うこととした。
    この場合,既設床版と同じRC構造として設計すると,床版厚を大きくする必要があり,路面の高さへの影響や床版自重が増えることによる鋼桁の補強,下部工への影響が懸念される。
    このような課題に対応するため,阪神高速道路(株)と鹿島建設(株)が共同で開発したUFCを用いた軽量かつ耐久性の高い平板型UFC床版を適用した。
    UFCは,非常に緻密なセメント硬化体であり,しかも高強度の鋼繊維で補強された材料で,一般のコンクリートの100倍以上の物質浸透抵抗性を示し,経年劣化が殆ど進行しないため,このような材料特性を活かしたUFC床版のオールプレキャスト化により,更なる床版の耐久性向上と工期短縮の実現が期待された。
     

  • UFC=超高強度繊維補強コンクリート
    図−6
    UFC =超高強度繊維補強
         コンクリート
  • UFC=超高強度繊維補強コンクリート

  • 3.1 新設床版の構造概要

    今回採用する平板型UFC床版は,床版下面に凹凸やハンチの無いフラットな形状のプレキャスト版で,内部には鉄筋を配置しないため,構成が簡素である。
    また,橋軸直角方向にはプレテンション方式,橋軸方向にはポストテンション方式によって,プレストレスが導入される(図−8)床版同士の接合部は橋軸方向のポストテンション方式によるPC構造である。
    ポストテンションPC鋼材を支間中央で交差して定着部を設け,緊張することによって,伸縮装置部の端部床版まで全ての床版を,プレキャスト床版としたうえで,プレストレスを導入した構造とすることができる。
     
    今回施工で使用する平板型UFC床版の厚さは140mmであり,既設RC床版より薄いため,一般的なプレキャスト床版取替えで必要となる道路縦断線形の変更が不要である。
    また,UFC床版の適用により,既設のRC床版から床版自重が約20%軽減されるため,架設時の一時的な補強を除き,建設当時の設計活荷重よりも大きな現在の設計活荷重を考慮しても鋼桁の補強が不要で,橋脚や基礎への負担も軽減が可能となった。
     

  • 平板型UFC床版
    図−7 平板型UFC床版
  • 平板型UFC床版縦締め緊張概要図
    図−8 平板型UFC床版縦締め緊張概要図
  • 平板型UFC床版スタッド配置図(今回改良型)
    図−9 平板型UFC床版スタッド配置図(今回改良型)

  • 3.2 平板型UFC床版の架設

    床版の架設,取替工事では,一般に移動式クレーンを使用するが,今回の施工ではプレキャスト部材の運搬・設置に使用される機械をベースに,幅員内で架設可能な床版専用架設機を使用した(写真−2)。
    UFC床版が軽量であるうえに,軽量な床版専用架設機を使用したため,床版架設時の鋼桁補強も軽微な補強にとどめることが可能となった。
     

  • 平板型UFC床版縦締め緊張概要図
    写真−2 専用架設機によるUFC床版の架設

  • 3.3 本線床版更新へのUFC床版採用のための課題検討

    本線橋の床版更新にUFC床版を適用するための課題を抽出し,以下の技術開発により課題解決及び工程短縮により,実橋での施工に平板型UFC床版を採用した。
     

  • 平板型UFC床版(今回製品)と施工状況及び施工フロー
    図−10 平板型UFC床版(今回製品)と施工状況及び施工フロー


  • ①貫通孔不要のスタッド構造による作業の効率化および耐久性向上
    床版と鋼桁を一体化させるためにずれ止めスタッドを使用するが,床版に設けた貫通孔にスタッドを配置して間詰めする構造が一般的である。
    本工事では,あらかじめ床版側にインサートアンカーにボルトを,鋼桁に短いスタッドを設置し,高強度なUHPFRC(UltraHighPerformanceFiberReinforcedcement-basedComposites:場所打ちで施工し,水結合材比が15%程度で極めて緻密な繊維補強セメント系材料)を間詰として用いることによって,貫通孔が不要なずれ止め構造を採用した。
    また,プレキャスト床版と鋼桁の間にUHPFRCを充填するために貫通孔が必要なため一般的なスタッドも併用したが,貫通孔を半分程度に減らすことができ,床版を架設する前にスタッドを設置することによって工程を短縮するとともに,水の侵入経路を減らすことによって耐久性向上を実現した。
     
    ②橋軸方向の目地にUHPFRCを適用して幅員を確保
    本工事では,幅員が広いため中央分離帯の位置で床版を分割し,床版同士の接合部となる橋軸方向の目地にUHPFRCを充填する鉄筋継手を用いた。
    通常のコンクリートを用いた鉄筋継手に比較して継手長を短くできるため,目地の幅を低減することができた。
    今後,部分的に交通を開放しながら幅員方向に分割して施工する床版取替工事(上下線逐次取替)において,車両が通行する幅員を確保できる継手構造である。
     
     

    おわりに

    Hydro-JetRD工法による既設RC床版撤去技術と平板型UFC床版設置技術を適用し,さらにランプ橋での床版取替実績での技術をバージョンアップさせることにより,都市内で初の高速道路本線でのRC床版取替を17日間の通行止め期間で実現した。
    阪神高速道路のリニューアルプロジェクトでは,取替対象の可能性のあるRC床版が数多く残されており,今後とも更なる技術革新に取り組み,RC床版のリニューアルを進めていく予定である。

     
     
     

    阪神高速道路株式会社 管理本部管理企画部保全技術課
    山名宗之・鈴木英之・越野まやか

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年4月号


     
     

     

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