- 2021-10-25
- 積算資料
1. はじめに
国土交通省では,建設現場を取り巻く環境の変化や最新の施工実態を踏まえ,直轄土木工事を対象とする積算基準を毎年度改定している。
令和3年度の改定では,「働き方改革を一層推進するための環境整備」,「建設現場の生産性向上を図るi-Constructionの更なる拡大」,「円滑な施工体制を確保するための取組」の3つの施策方針の中で基準を改定した。
本稿では,主な基準改定の概要を紹介する。
2. 働き方改革に取り組む環境整備
平成30年6月に,1日8時間,1週間で40時間の労働が原則とされる時間外労働規制が盛り込まれた改正労働基準法が成立した。
違反した場合は,雇用主が6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されることになり,建設業は5年間の猶予が設けられ,令和6年4月より適用されることになっている。
また,令和元年6月には,新・担い手3法が改正され,週休2日の確保をはじめとする適正な工期設定が発注者の責務として明確に位置付けられた。
このように,建設業における技術者・技能労働者の週休2日の確保が喫緊の課題となっている。
(1) 週休2日対象工事及び週休2日交替制モデル工事の間接工事費の補正
直轄土木工事では,現場閉所を伴って週休2日を確保する場合,必要経費として労務費,機械経費(賃料),共通仮設費,現場管理費を補正する措置を行っており,令和3年度においても措置を継続することとした(表-1)。
また,土木工事の中には通年の維持工事など,土日祝日も含めた作業が必要で現場閉所が困難な工事も存在している。
こうした現場閉所が困難な工事においても休日の確保は重要な課題であることから,令和元年度より技術者・技能労働者が交替しながら週休2日を確保する週休2日交替制モデル工事を試行している。
本試行では,工事に従事した全ての技能者・技能労働者の休日確保状況に応じて労務費を補正することとしていたが,令和3年度からは新たに現場管理費の補正措置を導入することとした(表-2)。
このほか,令和6年4月には全ての直轄土木工事で週休2日を実現するため,直轄土木工事における週休2日の取組方針を整理した(図-1)。
本取組方針に基づき,令和3年度より週休2日対象工事及び週休2日交替制モデル工事の適用を順次拡大していく予定としている。

表-1 週休2 日の補正係数

表-2 週休2 日交替制モデル工事の補正係数


図-1 週休2日工事及び週休2日交替制モデル工事の取組方針
(2) 市場単価方式における週休2日の補正係数の設定
市場単価は元請・下請間の取引価格の実態を調査し施工単位でとりまとめたものであり,直接工事費のうち労務費,機械経費,材料費の構成割合が明らかとなっていない。
そのため,週休2日の補正係数を導入できていなかったが,直轄土木工事全体で週休2日補正を導入できるよう,新たに補正係数を設定し,令和3年3月より適用を開始した(表-3)。

表-3 週休2 日工事における市場単価積算の補正係数の設定
3. i-Constructionの更なる拡大
直轄土木工事におけるICT施工は,平成28年度に土工から着手し対象工種を年々拡大して,令和元年度には5工種(土工,舗装工,浚渫工,浚渫工(河川),地盤改良工)で2,397件を公告し,1,890件でICT施工を実施(実施率79%)している。
今後は,地方公共団体が発注する比較的小規模な工事にもICT施工を導入していくことが課題となっている。
ICT施工のうち,3次元起工測量,3次元設計データ作成費用は原則として見積徴取することとしているが,地方公共団体を対象とするアンケート調査では,現場条件等により見積金額にバラつきが生じることがあり,妥当性の判断が困難であるとの声が上がった。
そこで,見積徴取を原則としつつ,直轄工事の実績を基にした算定式を見積参考資料として整理することとした(図-2)。

図-2 3次元起工測量及び3次元設計データ作成費用(参考見積資料)の策定
4. 円滑な施工体制の確保
円滑な施工体制を確保することは,公共事業予算の計画的な執行とともに,建設現場の魅力向上にも資するものであり,毎年度,建設現場の実態を踏まえて基準改定に反映してきたところである。
令和3年度は,以下に示す事項について改定を行った。
(1) 少雪時における除雪工の経常的経費の積算方法の検討
道路除雪は,道路形状を把握し,重機の操作に精通していないと適切に除雪できないといった,非常に専門性が高く経験が求められる作業であり,主に地域に根差した建設業者が担い手となっている。
一方で,建設業では就業者の高齢化が進んでおり,将来の担い手確保が大きな課題となっている。
道路除雪は降雪量に応じて毎年度の工事量が大きく変動する工事であり,工事を受注する除雪事業者にとっては安定した収入を確保しにくい傾向にある。
そのような中,令和元年度は全国的に記録的な少雪となり,一部の地域を除いて除雪の出来高が上がらず,除雪事業者において作業員の確保や重機の維持といった最低限必要となる経費をまかなうことが困難になるという課題が発生した。
これを受け,除雪事業者が道路除雪工事を受注する上で,降雪量の多寡によらず,必ず発生する経費を積算で計上する手法を検討(図-3)し,令和3年度の直轄工事で試行することとした。今後は,試行工事の結果を踏まえて基準化を検討する予定である。

図-3 道路除雪工の積算イメージ
(2) コンクリートダム工事における間接工事費の諸経費率の改定
近年のコンクリートダム工事における高速施工技術の進展により,品質管理や検査等の同時並行作業の増加に伴って,労務管理費等が増加している最新の現場実態を踏まえ,コンクリートダム工事の共通仮設費率,現場管理費率を改定した。
(3) 間接工事費の工種区分の見直し
下水道工事では,老朽化した下水道の更生工法による工事が増加していることを踏まえ,更生工法に特化した工種区分として「下水道(4)工事」を新設した。
(4) 大規模災害における復興係数・復興歩掛
東日本大震災の被災地域である東北3県(岩手県,宮城県,福島県)のほか,熊本県及び広島県の各地域では,施工確保策の一つとして復興係数・復興歩掛を導入している。
これらの措置について,地域の実態等を踏まえて,間接工事費の補正等について一部見直しを行った上で,令和3年度も継続することとした(表-4)。

表-4 大規模災害における復興係数・復興歩掛
5. おわりに
現在,建設業が直面している課題はどれも容易に解決できるものではない。
しかし,働き方改革や生産性向上,施工の円滑化などに先導的に取り組み,課題の解決に向けて,直轄土木工事の発注者としての責任を果たしてまいりたい。
【出典】
積算資料2021年5月号

最終更新日:2021-10-25
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