- 2022-08-01
- 特集 防災減災・国土強靭化 | 積算資料公表価格版
はじめに
災害時のトイレ事情の改善を目指して2020年4月に一般社団法人日本トイレ協会内に発足した災害・仮設トイレ研究会(略称:災害トイレ研,以下,当研究会とする)では,発足以来,活発に活動を行っている。
本稿では,建設現場の「快適トイレ」に関する直近の調査や取組みを通じて,災害時のトイレがどう変わりつつあるのかについて紹介する。
1. 「快適トイレ」 設置の原則化
まず,災害時のトイレと建設現場のトイレはどのような関係があるのかについて述べる。
実は,災害時に避難所に運ばれる仮設トイレは,普段は建設現場で使われている仮設トイレの余剰在庫である。
従って,建設現場のトイレが良くなれば,災害時のトイレも必然的に良くなるのである。
国土交通省では2016年10月1日以降に入札手続きを開始する直轄の土木工事から「快適トイレ」の導入を原則化した。
「快適トイレ」とは,建設現場を働きやすい環境とするための取組みの一環であり,男女ともに快適に使用できる仮設トイレを「快適トイレ」と名付けてその仕様(洋式便座,水洗および簡易水洗機能,容易に開かない施錠機能など)を定めている。
この取組みは,建設業における労働環境改善が主な目的ではあるが,副次的に災害時のトイレ環境が改善されることも視野に入れたものである。
2. 「快適トイレ」の普及状況
2-1「快適トイレ」の設置率
まず,現時点で「快適トイレ」はどの程度広まっているだろうか。
国土交通省の2018年度調査では設置率は全国平均でおよそ45%であり,まだ直轄現場の半分以上が未設置ではあるが,徐々に増えている。
設置が原則化された直後の2016年度の国土交通省の調査では設置率はおよそ25%であったが,設置率が低い理由として「取扱い会社が少ない」「レンタル会社の保有台数が少ない」と供給不足を原因とする回答も多かった。
2-2「快適トイレ」の出荷比率
次に,「快適トイレ」の出荷比率はどのように変化しただろうか。
当研究会には国内の主な仮設トイレメーカー,レンタル会社が多く在籍している。
2016年の導入の原則化を受け,各メーカーでは「快適トイレ」の製造を進めてきた。
メーカーが製造した「快適トイレ」をレンタル会社が保有することで初めて建設現場での使用が可能となる。
今回,当研究会では,レンタル会社が保有する全機種における「快適トイレ」の出荷比率,そしてメーカーが製造する全機種における「快適トイレ」の出荷比率の変化をヒアリング調査した(図-1)。
調査項目は,2010年10月,2015年10月,2020年10月の各時点での和式トイレ,洋式トイレ,「快適トイレ」(2020年10月のみ)の出荷比率である。
なお,それぞれ水洗式,簡易水洗式に分類して調査した(洗浄方式の定義については後述する)。
図-1を見ると,「快適トイレ」導入の原則化が始まった2016年の前と後では,「快適トイレ」を含む洋式トイレの出荷比率がおよそ2倍になっていることが分かる。
これはメーカー,レンタル会社の双方に共通する傾向であり,洋式トイレ,「快適トイレ」が多くの建設現場で使用されることを念頭に,各企業が出荷数を増加したことが読み取れる。
2-1で示したように,設置率もおよそ2倍になっていることを鑑みると,洋式トイレ,「快適トイレ」の出荷比率の増加は,設置率の向上に繋がっていると考えられる。
国土交通省だけではなく,全国の都道府県や地方公共団体でも「快適トイレ」導入の予算化が進んでいる現状を鑑みると,今後もこの傾向は続いていくものと考えられる。
3. 仮設トイレの用語の定義
この度,当研究会では,仮設トイレに関する用語の定義を取りまとめた。
これまでの仮設トイレは各メーカーともほぼ共通した大きさや仕様のものが多く,種類も決して多いものではなかったが,「快適トイレ」の原則化により製品の多様化が見られるようになった。
このため,発注の際に齟齬を来すことのないよう,特に「快適トイレ」に関連する用語を中心に定義を明確にした。
カテゴライズは,仮設トイレの「大きさ」「洗浄方式」「処理方式」そして「手洗器」について行った(表-1~4)。
定義を明確にしたことで,仮設トイレメーカーやレンタル会社等の関係者の間でしか通用しなかった言葉を発注者や一般の
方々と共有することが可能になった。
これにより,例えば「快適トイレ」の発注や災害時のトイレの手配時に,仮設トイレの大きさや汚物の処理方式についての間違いが起きにくくなる効果も期待できる。
これらの用語の定義は当研究会のホームページで公開しており,今後とも,周知を図っていく。
おわりに
「快適トイレ」導入の原則化から5年が経過し,建設業界ではその存在と仕様についての認識が広がりつつある。
しかし,まだ現時点では,国土交通省の直轄工事現場での設置率が50%には届いていないことから,当研究会ではさまざまな調査結果を「快適トイレ」の流通をスムーズにし,設置率を上げるための手段として活用していきたい。
このほか,災害時のトイレが良いものに変わっていくための取組みを今後とも行っていく所存である。
【出典】
積算資料公表価格版2022年3月号

最終更新日:2023-07-07
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