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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > 火災に負けない木材の利活用を考える

はじめに

2010年施行の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、2021年10月改正施行の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に引き継がれた。
毎年10月8日を「木材利用促進の日(木の日=十と八で木)」、10月を「木材利用促進月間」と定めて、さらなる木材利用の促進が望まれている。
 
日本は、国土の約67%が森林に覆われた、先進国の中でも珍しい森林率の高い国である。
その森林の約6割が人工林と呼ばれる人の手で植林された森林である。
米や野菜のように植えたものは収穫時期が来たら刈り取って、有効活用し、その場所にまた植えることが持続可能性を保つ手段のひとつであり、戦後植林した莫大な森林を持つ日本はちょうどその時期にさしかかっている。
 
木材利用促進の一つの手段として、建築物の木造化(構造躯体)や木質化(仕上げや家具等)が挙げられるため、さまざまな取組みが全国各地で行われている。
庁舎、学校等の公共建築物から、事務所、保育園、老人福祉施設等の民間建築物まで木造化・木質化が進められており、従来にはなかった木造建築物や木質化空間が登場している。
 
一方、木材は可燃物であるため、建物発注者や利用者からは、「火災対策は大丈夫ですか?」と筆者もよく質問をされる。
火災統計が詳しくまとまっている総務省消防庁の消防白書を見ると、令和2年度に全国で発生した建物火災は19,365件約53件/日)であり、そのうち、約6割が木造、約4割が木造以外(主にRC造や鉄骨造)であった。
「木造だと火災になる。だから、RC造や鉄骨造のほうがよい」と言われることがあるが、消防白書の結果だけみると、RC造や鉄骨造の火災事例も少なくなく、「木造だから火災になるわけではなさそう」である。
ただ、消防白書を読み解くと「木造が火災になった際にはRC造や鉄骨造と比較してたくさんの面積を焼損する」ことが見えてくる。
すなわち、木造化・木質化してもあまりたくさんの面積を焼損しない、設計的な工夫がされていれば、火災に対する心配事も少し減ると考えられる。
 
そこで、本稿では、木造の防耐火性能について、 RC造や鉄骨造と同等の性能を持たすための手法や事例を紹介して、「火災に負けない木造建築物」とはどのようなものであるかを、多くの方々と共有をしてみたい。
 
 

1. 3つの防耐火建築物

木造建築物を設計する際には、建築基準法第21条(大規模木造の周辺建物への火災危害抑制のための建物倒壊抑制の規定)、同法第27条(避難安全性確保のための建物倒壊抑制の規定)、同法第61条(市街地火災抑制のための建物倒壊抑制・延焼抑制の規定)を読み込むことから始める。
これら法令では、建物の規模(面積・階数等)や用途に応じて、建物の倒壊や延焼を抑制するための主要構造部への要求をしており、防耐火建築物として「耐火建築物」、「準耐火建築物」、「耐火・準耐火以外の建築物(以後、その他建築物と呼ぶ)」に分けている。
 
表-1のように、「耐火建築物」は、火災中・火災後もずっと倒壊しないことを要求性能とした建物、「準耐火建築物」は、火災中は倒壊しないことを要求性能とした建物である。
例えば、RC造では、あまり防耐火のことを意識しなくても、普通につくると「耐火建築物」になり(もちろん、防火区画や内装制限など他の措置も規模や用途により必要)、鉄骨造では、裸鉄骨でつくると「準耐火建築物(ロ準耐2号)」、鉄骨に所定の耐火被覆をすると「耐火建築物」になるのに対して、木造はそのままでは「その他建築物」、厚さ12.5~25mmの強化せっこうボード等で柱や梁等を耐火被覆するか、燃えしろ設計にすると「準耐火建築物(イ準耐火建築物)」、厚さ42mm以上の強化せっこうボード等で耐火被覆すると「耐火建築物」となる。
 

表-1_3つの防耐火建築物
表-1 3つの防耐火建築物[/caption]

 
防火地域では耐火建築物でつくることになるが、それ以外では面積が大きかったり用途によっては例外はあるものの、概ね2階建て以下は「その他建築物」、3階建て以下は「準耐火建築物」、 4階建て以上は「耐火建築物」で設計可能と考えて大きな間違いはないだろう。
階数が高く、面積が大きくなると、火災時に建物が倒壊すると避難安全や周辺加害、市街地火災の上から被害が大きくなるので、柱・梁等の耐火被覆を厚くして対応している。
この考え方は鉄骨造に近いといえる。
 
木造の「耐火建築物」は、2000年の改正建築基準法施行により設計可能となり、それからすぐに大臣認定を取得した(一社)日本木造住宅産業協会、(一社)日本ツーバイフォー建築協会らの統計から推測すると、現在までに8,000棟以上(1~2棟以上/日)が建設されている。
また、木造の「準耐火建築物」は、1992年の改正建築基準法施行により設計可能となり、当初は準防火地域の3階建て住宅や防火地域以外の3階建て共同住宅が中心であったが、近年は学校、庁舎、商業施設など幅広く建築されており、現在までに500,000棟以上(約40~50棟以上/日)が建設されていると予想される。
「その他建築物」は2階建ての住宅を中心に、他にも2階建て以下・延べ面積1000m2以下の幼児施設、老人福祉施設、学校、事務所、倉庫など、数え切れないほど建設されている。
 
なお、2019年の改正建築基準法施行により、「耐火建築物」と同等の火災安全性を有する「高度な準耐火構造+追加の火災安全上の措置をした建築物」や、「準耐火建築物」と同等の火災安全性を有する「準延焼防止建築物(従来の準防木三戸が住宅以外の用途でも設計可能となった)」が登場しており、表-2のように、設計自由度が増した。
 

表‐2耐火建築物と耐火建築物と同等性能の建築物
表‐2 耐火建築物と耐火建築物と同等性能の建築物

 
法令施行から数年しか経過していないこともあり、「高度な準耐火構造+追加の火災安全上の措置をした建築物」の実例は、筆者が把握している範囲では2棟(例えば写真-1)である。
 

写真-1 KAZAGURUMA CAMPUS(澤田建設・延焼防止建築物)
写真-1 KAZAGURUMA CAMPUS(澤田建設・延焼防止建築物)

 
 

2. 「耐火建築物」の事例と技術

2000年の改正建築基準法施行により、木造による「耐火建築物」が認められた際に、木造による耐火構造の仕様は告示化されなかった。
そのため、表-3の3手法を中心に木造関連の業界団体や個別企業が独自の国土交通大臣認定を取得して建築を進めてきた。
その後、2014~2016年に表-3の方策1(被覆型)について、1時間耐火構造の仕様が平成12年建設省告示第1399号(以下、H12建告第1399号)に位置付けられた。
現在では、2時間耐火構造、3時間耐火構造の部材も個別企業や団体により大臣認定が取得されているため、防耐火上は木造でも階数制限無く建築可能となっている。
もっとも一般的、すなわちコスト的にリーズナブルな手法は、表-3の方策1であろう。
具体的な耐火被覆厚さは、30分耐火構造の場合は強化せっこうボード総厚21~27mm、 1時間耐火構造の場合は強化せっこうボード総厚36~46mm、2時間耐火構造の場合は強化せっこうボード総厚63~67mmであり、それぞれ、告示(30分、1時間耐火構造のみ)が例示されるとともに、大臣認定が取得されている。
強化せっこうボードは、厚さ12.5mmと15mmは、標準サイズが3×6版(910×1820mm)、厚さ21mmと25mmは2×6版(606×1820mm)であり、厚さが増すと張る枚数が増えて、重量だけでなく手間も増える。
告示仕様に比べて個別の企業・団体の大臣認定のほうが耐火被覆の厚さは薄いので、うまく使い分けていきたい。
 

表-3 耐火構造の3方策
表-3 耐火構造の3方策

 
木造の耐火建築物では、建物全体を木造とする事例(写真-2、3)や、最上階から数えて4層以内(=1時間耐火構造が求められる階)を木造化する事例(写真-4、5)が比較的多い。
その際、前述の強化せっこうボードで耐火被覆する手法が採用されることが多いが、近年、(一社)全国LVL協会、秋田県立大学を中心とするチーム、集成材製造メーカーの(株)中東らがそれぞれ、不燃薬剤処理した木材を耐火被覆に使った1時間耐火構造、2時間耐火構造の柱・梁・床の大臣認定を取得した(図-1)。
従来は、設計や施工を業とする個別の企業が大臣認定を取得することが多かったが、これらは、LVLや集成材の製造メーカー・団体、大学が取得した大臣認定であり、設計者が誰でも使える仕様となっている。
写真-3の事例では、(一社)全国LVL協会の木材だけでできた1時間耐火構造の柱・梁 1)と、従来のH12建告第1399号の強化せっこうボードによる耐火被覆が適材適所に使い分けられている。
 

写真-2 Port Plus (大林組・耐火建築物)
写真-2 Port Plus (大林組・耐火建築物)
写真-3 アキュラホーム 川崎展示場(耐火建築物)

写真-3 アキュラホーム 川崎展示場(耐火建築物)

写真-4 ザ ロイヤルパーク キャンバス
札幌大通公園(三菱地所設計・耐火建築物)
写真-4 ザ ロイヤルパーク キャンバス
札幌大通公園(三菱地所設計・耐火建築物)
写真-5 アーブル自由が丘(内海彩建築設計事務所・耐火建築物)

写真-5 アーブル自由が丘
(内海彩建築設計事務所・耐火建築物)

 

図-1 木でできた耐火構造の一例

図-1 木でできた耐火構造の一例

 

 
木造の「耐火建築物」は、柱・梁を耐火被覆したものが多く、「木材が見えないので木造らしくない」と言われることも少なくないが、木造特有の床の柔らかさや適度に音が伝わる遮音性能により、老人福祉施設等においては、介助者や利用者から「膝が疲れない、隣室の音が適度に聞こえて寂しくない」など、RC造・鉄骨造とは異なったメリットもあるようだ。
木の特性をよく知った設計手法により、木材の長所が活かされ、短所があまり気にならない建築物ができあがるのであろう。
 
 

3. 「準耐火建築物」の事例と技術

 
1992年の改正建築基準法施行により、木造の準耐火建築物が設計可能となった際に、①柱・梁等を耐火被覆する仕様、②柱・梁等を太く厚くして燃えしろ設計する仕様が、H12建告第1399号に例示された。
そのため、準耐火構造の大臣認定の取得は、耐火構造ほどは行われておらず、主に外壁(有機系断熱材の場合や木材仕上げの場合等)について行われている。
②の燃えしろ設計は、当初、大断面集成材による設計に限られていたが、2004年に製材(無垢材)とLVLが、2016年にCLTが加わり、現在は表-4のように、柱・梁・壁・床・屋根と多様な設計が可能となっている。
さらに、軒裏や階段も、木材の厚板で構成される仕様が同告示に例示されているため、準耐火建築物は、太く厚い木材だけでつくることができる。
木材だけで防火上問題ないのかと思われるが、太く厚い木材は、早くても1mm/分程度しか部材内部へ燃え進まないので、例えば、厚さ90mmのCLTが裏面に燃え抜けるまでには、約1.5時間かかる。
この燃え抜ける時間や部材が壊れる時間を遅延することで、建物の防耐火性能を確保しているのが準耐火建築物である。
 

表-4 燃えしろ寸法一覧
表-4 燃えしろ寸法一覧

 
1992年の制定当初は、準防火地域の3階建て住宅のみ(45分準耐火構造:H12建告第1399号)であったが、その後、防火地域以外の3階建て共同住宅や学校等(1時間準耐火構造:令和元年国土交通省告示第195号)が建築できるようになった。
近年では、「その他建築物」で設計可能な2階建て庁舎や道の駅等の商業施設について、延べ面積1000m2以内ごとに必要となる防火壁(建築基準法第26条)を回避するために、「準耐火建築物」にひとつ性能を上げた設計が行われている(写真-6~8)。
 

写真-6 京丹波庁舎(香山建築研究所・イ準耐火建築物(45分))

写真-6 京丹波庁舎
(香山建築研究所・イ準耐火建築物(45分))

写真-7 魚津市立星の杜小学校(東畑建築事務所他・イ準耐火建築物(1時間)

写真-7 魚津市立星の杜小学校
(東畑建築事務所他・イ準耐火建築物(1時間)

写真-8 道の駅ふくしま(小坂建築設計工房・イ準耐火建築物(45分))

写真-8 道の駅ふくしま
(小坂建築設計工房・イ準耐火建築物(45分))

 

写真-6の京丹波町庁舎では、地域のスギ・ヒノキ製材を用いた組立柱や合わせ梁を用いて、住宅用に大量に製造されてきた120mm幅の材料を240mm角の柱、240mm幅の梁として複合して、燃えしろ設計している。
燃えしろ設計は、昭和62年建設省告示1901号、1902号に部材と接合部の設計手法が例示されているが、その中に、燃えしろ設計の対象とする部位から、「木材等で防火上有効に被覆された部分は除く」と記載があり、図-2のように柱同士・梁同士がビス等でしっかりと引き寄せられていれば、木材が接触する面が燃えないことを利用して外周だけ燃えしろを確保する。
また、写真-8の道の駅ふくしまでは、 300mm角のスギ製材を減圧高周波乾燥機を用いて乾燥させた柱が用いられている。
燃えしろ設計可能な材料を記した昭和62年建設省告示第1898号には、製材・集成材・LVL・CLTともに、JAS材に限るとされている。
通常、製材ではJAS構造用製材として製造できるのは120mm幅までであることが多いが、福島県いわき市の(株)ダイテックでは、300×390mmまでを機械等級区分のJAS構造用製材として、含水率と強度を管理して出荷できる仕組みをつくっている。
戦後植林された木が、300mm角の柱を取れるほどにどんどん成長しており、図-2の合わせ柱(1本の丸太から平角柱を2丁取り)や、この大断面柱ともに、今後の木材利用の大きな課題とされている「大径材活用」の答えの一つになり得ると考えられる。 
 

図-2 合わせ柱の一例
図-2 合わせ柱の一例

 
太く厚い木材を用いて木造の防耐火性能を向上させる技術を使った準耐火建築物は、3階建て以下の建物に適用できることが多い。
大都市圏を除けば4階建て以上の建物は少なく、地域の木材を使った3階建て以下の木造建築物を今後増やしていくことで木材利用が促進されるだろう。
「3階建て以下はどんな建物でも木造でつくりやすい」と覚えておきたい。
 
 
 

おわりに

2025年に開催される予定の2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)の会場全体を囲む大屋根(リング)は、木造で計画 2)されている。
延べ面積約6万m2で世界最大級の木造建築物になるようで、その際の木材使用量は約2万m3と伝え聞く。
林野庁統計によると、令和2年度の集成材の製造量は174万m3、LVLの製造量は20.6万m3、CLTの製造量は1.3万m3であった。
約2万m3というと、1年間のこれら木質系材料の製造量の約1%にあたる。
少ないようであるが、短期間の建設となり、木材調達、製材、乾燥、加工、施工が集中するため、どのように進めて行くか検討が必要だろう。
 
一方で、このような巨大な木造建築物が一般の方の目に触れることで、木造でも安全な建物ができるということを多くの人に知ってもらう良い機会になればと思う。
数百、数千年前から、何でも木造でつくってきた日本人だが、戦後70~80年間は、大規模建築物はレンガ造、RC造、鉄骨造等に置き換わった。
それらでつくったほうがよい建物もたくさんある一方で、木造でも十分つくれる建物も置き換わってしまった気がする。
 
今後、材料と技術のある日本らしい木造を増やしていくためには、まずは、森と木と木造のファンを増やすことが重要であり、大阪・関西万博がその契機になることを祈りたい。

 
 
【参考HP】
1)(一社)全国LVL協会HP,LVL被覆1時間耐火構造柱・梁の設計資
http://lvl.ne.jp/data/pdf/2022_lvl_himakutaikakouzou.pdf
 
2)(公社)2025年日本国際博覧会協会HP,2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)基本計画
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/masterplan/expo2025_masterplan.pdf
 
 
 

桜設計集団一級建築士事務所 
代表 安井 昇

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年11月号
文書名積算資料公表価格版2022年11月号

最終更新日:2023-06-26

 

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