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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > ドローンを活用した 外壁点検・調査と今後の展望

はじめに

国土交通省は、「航空法等の一部を改正する法律」を2022年12月に施行するとし、7月のパブリックコメントを通して具体的な案を示した。
新たな制度については、登録講習機関の教育内容の基準等を定める告示、無人航空機の機体の認証制度に関する通達の制定、無人航空機の操縦者技能証明制度に関する通達の制定等、多岐にわたる。
特に、レベル4(有人地帯・目視外飛行)の飛行に必要な一等無人航空機操縦士と、飛行ごとに必要な許認可手続きを簡略化できる二等無人航空機操縦士の2種類の資格を新設することが注目すべき点である。
これら制度は、2015年から首相官邸・小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会が検討してきた「空の産業革命に向けたロードマップ」の最終段階の達成目標と位置付けられている。
今後は有人地帯あるいは都市部でのドローン飛行の運航管理のあり方が重要な検討項目となり、複数機かつ多様なドローンの活用を踏まえた高いレベルでの安全技術や運用が求められることになる。
また、ドローンの各種サービス分野へと広く展開されるという第2段階に進むことを意味している。
 
これらドローン側の動向を踏まえて、建築分野においては2015年から産官学領域において同時並行で環境整備を行ってきた。
本稿では、ドローンによる建築物の点検・調査をキーワードに、
●定期報告制度における赤外線調査による外壁調査ガイドライン(ドローンを含む)
● (一社)日本建築ドローン協会(以降、 JADAと略す)が定義する建築ドローン飛行管理責任者の人材育成事業
●JADA/(一社)日本UAS産業振興協議会(以降、JUIDAと略す)が定義するドローン
建築物調査安全飛行技能者の人材育成事業について説明する。
そして、今後の展望として新たなドローン市場として期待されている建築狭所空間におけるマイクロドローンの活用とガイドラインの情報について提供する。
 
 

1.ドローンによる定期報告制度関連の外壁調査

定期報告制度におけるドローンによる外壁調査については、2022年3月の「建築基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(技術的助言)」の中でこれまでの主な検討事項が記載されている1)。
 
特に重要なポイントとして、打診と同等以上の精度の判定にあたっては、(一財)日本建築防災協会が設置した「赤外線装置を搭載したドローン等による外壁調査手法に係る体制整備検討委員会」において取りまとめられた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」)(以降、「外壁調査ガイドライン」とする) 2)を参考とするとされている。
この意味として、「外壁調査ガイドライン」の内容を遵守することで打診と同等以上であることに置き換えることができることを示唆している。
なお、JADAは協力組織として参画した。
 
 

1-1 「外壁調査ガイドライン」の概要

「外壁調査ガイドライン」は表-1に示すように1.総則、2.実施者、3.赤外線調査、4.ドローンによる赤外線調査、から構成され、ドローンを活用する場合は、1〜3.の内容を理解し、遵守することを原則としている。
 

表-1 定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む) による外壁調査 ガイドライン

表-1 定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む) による外壁調査 ガイドライン

 
 

1-2 「2.実施者」について

実施者は、図-1に示す実施体制で進めるとしている。
例えば、ドローンを利用しない赤外線調査では、外壁調査実施者と赤外線調査実施者で遂行する。
また、ドローンによる赤外線調査については、「ドローン調査安全管理者」を加えて実施する体制としている。
 

図-1 外壁調査ガイドラインのドローンによる赤外線調査の実施体制2)と役割

図-1 外壁調査ガイドラインのドローンによる赤外線調査の実施体制 2)と役割


 
「ドローン調査安全管理者」の定義については、「外壁調査ガイドライン」の解説に従うと、次のとおりである。
 
「ドローン調査安全管理者は、外壁調査実施者あるいは赤外線調査実施者との業務を滞りなく遂行するために、外壁調査を含めた一般的な建築知識が必要となる。
さらに、ドローン操縦者に安全管理を含めて適切に指示するために、ドローンに関わる法令や機体操縦と運用等を含めた一般的な知識も兼ね備えておくことも必要となる。
 
本ガイドラインではこれら建築側とドローン側の両方の知識(経験を含む)を持つ者をドローン調査安全管理者とする。
ドローン調査安全管理者として、例えば、(一社)日本建築ドローン協会で実施している建築ドローン安全教育講習会を修了した者が就く建築ドローン飛行管理責任者が挙げられる。」
 
 

1-3 「4.3事前調査」について

この「ドローン調査安全管理者」は、表-1の「4.3事前調査」については、表-2で示す以下の6つの確認事項が定められている。
 

表-2 ドローンによる赤外線調査(事前調査)の確認事項と実施

表-2 ドローンによる赤外線調査(事前調査)の確認事項と実施 2)


 
 

(1)①ドローン飛行可否判断と飛行安全対策の確認

図-2で示すように、①調査範囲内で明確な電磁波(電波等)の影響があるかどうかの確認、そして②ドローンの衝突やフライアウェイ(ドローンが飛行機能を有したまま操縦不能状態となり、思わぬ方向へ飛行してしまう現象のこと)等のリスクへの対応、の2段階に分けて行う。
 

図-2 ドローンによる赤外線調査の可否と飛行リスクへの安全対策措置の流れ図2)

図-2 ドローンによる赤外線調査の可否と飛行リスクへの安全対策措置の流れ図 2)


 
 

(2)⑤建築物の構造・形状および外壁の仕上げ材の確認

建物の軒裏、出隅・入隅、庇等の調査が困難と思われる部位および仕上げ材が反射率の高いタイル等であるかの確認をする。
 

(2)⑥建築物の近隣状況の確認

調査対象建築物の飛行の妨げとなる障害物(樹木、電信柱、配電線、付属看板等)の状況および近隣建築物・鉄道等重要インフラの有無の状況を確認する。
次に調査対象建築物周辺半径100m以内に携帯電話基地局等の強い電波が発せられる施設や、無線LAN(Wi-Fi)設備の有無について確認する。
 

(2)⑦ドローンの飛行方法と赤外線装置の撮影方法の確認

ドローンをどのルートで安全に飛行させ静止(ホバリング)させるのか、また分析に必要な熱画像を考慮した上でどのように可視画像と熱画像を撮影するかの方法を検討する。
 

(2)⑧打診との併用による確認を実施する箇所

打診と赤外線調査を併用して確認する箇所を決定する。
 

(2)⑨事前調査結果に基づく飛行書類作成及び申請

事前調査の結果から、必要に応じて国土交通省航空局等への申請書等を作成し申請する。
 
また交通の状況に応じて、警察等関係機関と協議し、誘導員の配置等の対策を検討する。
 
 

1-4 「4.4調査計画書の作成」について

調査計画書は、「ドローン調査安全管理者」がドローン飛行計画書を作成、もしくは確認し承認する。
この計画書は、調査概要、調査方法、仕様・性能、安全管理および添付資料から構成され、表-3に記載例を示す。
なお、ドローン飛行計画書 3)は、JADAが作成した「建築物へのドローン活用のための安全マニュアル」を参考にしている。
 

表-3 ドローン飛行計画書記載例(日本建築ドローン協会様式を参考

表-3 ドローン飛行計画書記載例(日本建築ドローン協会様式を参考) 2)


 
 

1-5 「4.5調査の実施」について

調査の実施は、図-3に示す通り、ドローンの利用の有無に関わらず、表-4に示す気象条件の判定により調査を実施するかどうかを判断し、外観目視、打診による確認調査、そして赤外線装置による撮影という調査手順で行う。
なお、外壁調査に適した赤外線装置は表-5に示される項目を満足するものとする。
 
この中で、ドローンによる赤外線調査における撮影画像の取得方法と判定方法が重要となる。
これについては、表-6に示す通りであり、ドローンをホバリングした状態で熱画像を取得し、外壁の浮きの検出精度を高めるために、撮影時間や撮影位置(角度)を変えて、外壁面の撮影を複数回実施するとしている。
また、取得した熱画像は現地で撮影を行った赤外線調査実施者が分析を行う必要があるとしている。
 

図-3 調査の実施におけるフロー2)

図-3 調査の実施におけるフロー 2)


 

表-4 気象条件
表-4 気象条件 2)
表-5 赤外線装置の諸元
表-5 赤外線装置の諸元 2)

 

表-6 ドローンによる赤外線調査における撮影画像の取得方法と判定方法

表-6 ドローンによる赤外線調査における撮影画像の取得方法と判定方法 2)


 
 

2.ドローンを用いた外壁調査に関わる人材育成

2-1 建築ドローン安全教育講習会

建設業において、安全管理は労働災害防止のためにも必要不可欠な重要な対策である。
このためJADAでは、2018年から「建築ドローン安全教育講習会」を実施している。
 
本講習会は建築業界では唯一のドローン関連の安全管理に関わる講習会であり、「外壁調査ガイドライン」でも引用されている。
本講習会では、図-4左上に示すようにドローンの活用に関わる基礎と建築知識、ドローン技術と安全運用、建築物の施工管理・点検調査におけるドローンの安全活用を解説した「建築物へのドローン活用のための安全マニュアル(現在は第4版)」を教材として、航空法改正(係留技術を含む)および1-2で述べた「ドローン調査安全管理者」の重要項目を含めた最新情報を更新し、「建築ドローン飛行管理責任者」が具備すべき内容の充実化を図っている。
 
 

2-2 建築ドローン飛行管理責任者

「建築ドローン飛行管理責任者」は、JADAが定義した責任者であり、JADA建築ドローン安全教育講習を受け、考査により合格した建築ドローン安全教育講習修了者が就くことができる。
建築物の点検・調査を対象にしたドローンに関連する職務の遂行に責任を負う者として位置付けられ、図-4左下に示すように建築を専門とする調査者とドローンを操縦する者を統括して安全を管理する役割を担う。
具体的な職務内容については、調整、ドローン飛行計画書の作成、機体管理等について担当することとしている。
また、業務内容、安全対策の一切を把握し、ドローンの飛行時は常時立ち会い、業務において危険と判断した際に、ドローンを飛行させる者の業務の中止の権限を持つとしている。
 

図-4 JADA-JUIDA連携「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の事業概要

図-4 JADA-JUIDA連携「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」の事業概要


 
 

2-3 建築ドローン安全教育講習レベルアップ研修会(建物調査編)

「建築ドローン飛行管理責任者」は一般的にドローンの操縦を対象外としている(ただし、ドローンの操縦ができる者はこの限りではない)。
これより、JADAでは2019年から建築ドローン安全教育講習修了者を対象に、建築物付近でのドローン飛行に関わる安全に関する知識、飛行計画書の作成、それに基づいた点検・調査業務の実地見学を通し、「建築ドローン飛行管理責任者」の役割と実務を学ぶ「建築ドローン安全教育講習レベルアップ研修会(建物調査編)」(写真-1)を実施している。
 

写真-1 JADA建築ドローン安全教育講習レベルアップ研修会

写真-1 JADA建築ドローン安全教育講習レベルアップ研修会(建物調査編)


 
 

2-4 ドローン建築物調査安全飛行技能者コース

さらに、2022年からはJADAはこれまでの建築物点検・調査のノウハウを活かし、JUIDAと共同で、「ドローン建築物調査安全飛行技能者コース」を設置し、建築物点検・調査におけるドローンの安全飛行技能者の育成事業をスタートした。
この概要について図-4右に示す。
 
本コースは「A.外壁点検・調査安全技能教育」と「B.係留技能教育」に分かれている。
 
A.では前述のJADA「建築ドローン安全教育講習レベルアップ研修会」を拡張させ、外壁点検の飛行管理等の座学と実際のドローン飛行を含めた実技から構成されている。
 
B.では、表-7に示す外壁調査における衝突やフライアウェイを防ぐ安全補助装置として利用されている1点と2点係留装置について座学と実技を通して習得できる。
なお、本係留装置については「外壁調査ガイドライン」においても引用されている。
 

表-7 ドローンによる各種係留装置の分類

表-7 ドローンによる各種係留装置の分類


 
 

3. 今後の展望

建築分野におけるドローンを業務として期待される領域は、前述の「外壁点検・調査」と次に示す「マイクロドローンを利用した建築狭所空間の調査」と考えられる。
 
JADAでは2020年9月に建築狭所空間ドローン利活用WGを設置した。
本WGでは天井裏、床下等の狭所空間の調査を対象とし、各建築部門の関係者およびマイクロドローンのメーカー・高度操縦技術者等が委員となっている。
これまで、建築狭所空間におけるマイクロドローンに関わるニーズのアンケート調査、運用セミナー等を実施し、 2022年8月に「建築狭所空間ドローン利活用実施ガイドライン(案)」を制定した4)。
本ガイドライン(案)の目的、対象とする空間とマイクロドローン、そして適用範囲については次の通りである。
 

1.1 目的
「建築狭所空間ドローン利活用実施ガイドライン(案)」(以下、ガイドラインとする)は、マイクロドローンを建築物屋内の狭所空間(以下、建築狭所空間)に利用する際の、実施組織の構築、マイクロドローン点検・調査実施計画及び飛行計画の立案、事前準備、点検・調査の実施、安全管理などの業務の標準を示すことを目的とする。
 
1.2 対象とする空間、マイクロドローン
a.航空法適用除外の屋内における建築狭所空間を対象とする。建築狭所空間は、マイクロドローンが飛行可能な天井裏、床下、EVシャフト、地下ピット、ダクト等の狭い空間を対象とする。
 
b.マイクロドローンは、FPV(一人称視点の映像の送信用・受信用システム)で操縦・撮影するドローンを対象とする。
 
1.3 適用範囲
a.ガイドラインは、以下に掲げるマイクロドローンを利用した建築狭所空間の点検・調査において、マイクロドローンを利用する場合に適用する。
 
建築生産:建築施工管理、施工の情報化等の確認建築点検調査:定期的・定期・臨時点検、補修や改修の実施に際して行われる調査
災害:地震、火災、水災などの被災時に緊急に実施される点検・調査あるいは救助等
建築構造:耐震診断調査や劣化調査など、状態把握のために随時行われる調査
建築設備:空調、衛生、給排水、電気、ガス等の調査建築意匠:建築の空間の把握、設計イメージ等に利用
防犯:建築物の受動的防犯と能動的防犯に利用
情報システム:測定方法、取得したデータの分析や活用方法等への利用専門技術者の立ち会いのもとで行われる臨時点検その他、マイクロドローンが適用可能な空間
 
b.屋外空間や航空法に関連する点検・調査は、ガイドラインの適用範囲外とする。
 
c.マイクロドローンによる点検・調査の範囲として、ガイドラインでは事前調査から調査結果までとする。

 
なお、マイクロドローンは航空法適用除外の空間で利用できること、建築分野内でその活用や規制に関してある程度対応が可能であること、手のひらサイズで軽量であるため衝突に対するリスクは小さく、機体のコストが安価である等の多くの利点がある。
しかし、狭所空間内ではマイクロドローン飛行時の電波障害や高度な操縦技能が必要になる等の課題があるため、今後、JADAでは本ガイドライン(案)に基づいて、マイクロドローンの安全管理や操縦技能教育について検討を進めていく予定である。
 
 
参考文献
 
1) 国土交通省住宅局建築指導課長、建築基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(技術的助言)、国住指第1581号、国住参建3982号、2021年3月
2) 日本建築防災協会、定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン、2021年3月
3) 日本建築ドローン協会、建築物へのドローン活用のための安全マニュアル(第4版)、ISBN978-4-9912628-0-7、2022.8
4) 日本建築ドローン協会、建築狭所空間ドローン利活用実施ガイドライン(案)、2022.8
 
 
 

一般社団法人 日本建築ドローン協会 副会長
宮内 博之

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年11月号

文書名積算資料公表価格版2022年11月号

最終更新日:2023-06-26

 

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