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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 公園緑地におけるグリーンインフラの取組について

はじめに

「グリーンインフラ」という言葉は、自然環境が有する機能を社会におけるさまざまな課題解決に活用する考え方で、1990年代後半頃から欧米を中心に使われていたものが、我が国においてもその概念が導入され、さまざまな研究が進められてきた。
また、行政分野においても、国土形成計画(平成27年8月閣議決定)において、初めて「グリーンインフラ」という用語が登場し、その後、社会資本整備重点計画(平成27年9月閣議決定)、「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」(平成28年5月)等においても内容が盛り込まれた。
 
グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組である(図-1)。
グリーンインフラの「グリーン」は単に緑、植物という意味を示すのではなく、さらに「環境に配慮する」、「環境負荷を低減する」といった消極的な対応を越え、緑・水・土・生物などの自然環境が持つ自律的回復力をはじめとする多様な機能を積極的に活かして環境と共生した社会資本整備や土地利用等を進めるという意味を持つ。
また、グリーンインフラの「インフラ」は、従来のダムや道路等のハードとしての人工構造物だけを指すのではなく、その地域社会の活動を下支えするソフトの取組も含み、公共の事業だけではなく、民間の事業も含まれる。
都市公園をはじめ、従来の社会資本整備や土地利用等の取組においては、グリーンインフラと称してはいないものの、自然環境が持つ防災・減災、地域振興、環境といった各種機能を活用した取組を実施してきた。
本稿では、グリーンインフラの推進に向けた動向や、公園緑地分野での取組について報告する。
 

図-1 グリーンインフラの意義・効果
図-1 グリーンインフラの意義・効果
 

グリーンインフラ推進戦略(令和元年7月)

我が国においては、人と自然が共生する生活が営まれてきた歴史を有するとともに、近代以降は都市化の状況を踏まえた緑地保全・緑化政策、生物の生息・生育・繁殖環境および多様な河川環境を保全・創出する「多自然川づくり」などの取組が推進されてきた。
このような経緯の上、グリーンインフラという概念についても、前述の国土形成計画、社会資本整備重点計画等に、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生育・生息の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるグリーンインフラに関する取組を推進する」と位置づけられ、事例紹介等が行われてきたが、その広がりは一部の個別事業での先進的な取組にとどまっている状況にあった。
 
自然災害の激甚化・頻発化、人口減少や少子高齢化等の社会経済情勢の変化を踏まえ、次世代を見据えた社会資本整備や土地利用等を推進する観点から、一部の先進事例にとどまっていたグリーンインフラの取組を、社会資本整備や土地利用等を進める上での全般的な取組として普及・促進するため、平成30年12月から有識者からなる「グリーンインフラ懇談会(以下、「懇談会」)」を開催し、欧米の事例も参考にして議論が進められた。
 
懇談会においては、グリーンインフラが必要とされる社会的・経済的背景、グリーンインフラの特徴や位置づけ、グリーンインフラの活用を推進すべき場面、グリーンインフラを推進するための方策などについて議論を重ね、令和元年7 月に「グリーンインフラ推進戦略(以下、「推進戦略」)」がとりまとめられた。
 
推進戦略では、グリーンインフラの特徴と意義として、グリーンインフラを構成する自然環境(緑地、植栽、樹木、河川、水辺、森林、農地等)は、生物の生息・生育の場の提供、雨水の貯留・浸透による防災・減災、水質浄化、水源涵養、植物の蒸発散機能を通じた気温上昇の抑制、良好な景観形成、農作物の生産、土壌の創出・保全など、多様な機能を有することとしている。
またこれらの機能は、個別の施設にとどまらず、多様な主体が連携してエリア全体の資源や空間を活かすことにより、より効果的、多面的に機能を発揮することが期待されること、グリーンインフラの機能は、植物や樹木の生育、水辺地の形成など、時間の経過とともに変化するという特徴があり、利用方法の変化等により新たな機能が発現することもある一方、適切にマネジメントされない場合には、周辺住民や地域にとってマイナスの環境をもたらすこともある、といった点が整理された。
 
また、多様な主体の連携・参画のもと、時間の経過とともに変化する自然環境の有する多様な機能の発現を図るグリーンインフラの取組は、持続可能な開発目標(SDGs)に示されているように、複数の地域課題の同時解決にアプローチする手法として有効であり、①気候変動への対応、②投資や人材を呼び込む都市空間の形成、③自然環境と調和したオフィス空間等の形成、④持続可能な国土利用・管理、⑤人口減少等に伴う低未利用地の利活用と地方創生、⑥都市空間の快適な利活用、⑦生態系ネットワークの形成、⑧豊かな生活空間の形成において、グリーンインフラの活用が想定されると整理された。
 
グリーンインフラを推進するための方策として、国、地方公共団体、民間企業、大学、研究機関など多様な主体が幅広く参画するプラットフォームを創設すること、グリーンインフラ推進のための支援を充実すること、グリーンインフラに関する評価手法の開発等に取り組むことが位置づけられた。
 
 

グリーンインフラ官民連携プラットフォームの設立と取組

推進戦略を受け、多様な主体の積極的な参画および官民連携によりグリーンインフラを推進し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりにつなげることを目的に、令和2年3月に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」(以下、「GI官民連携PF」)が設立された。
 
設立当初の会員数は409者であったが、国、地方公共団体、民間企業、大学・研究機関など、多様な主体の参画を得て、令和5年3月時点の会員数は1,698 者まで拡大している。
 
GI官民連携PFでは、グリーンインフラを推進する上での課題(テーマ)に光を当て、その解決への道筋をつけていくために、産官学はもとより、市民を含めた多様な主体の知見を集める場や機会を提供するオープンな環境づくりを目指すとともに、我が国におけるグリーンインフラの意義の普及・啓発に取り組むこととしている。
また、グリーンインフラの普及、調査・研究、資金調達手法等に関する検討を行う3つの部会「企画・広報部会」、「技術部会」、「金融部会」を設立し活動を展開している(図-2)。

図-2 GI官民連携PFの活動概要
図-2 GI官民連携PFの活動概要

具体的な活動の例として、まず「グリーンインフラ大賞」の取組が挙げられる。
本取組では、グリーンインフラに関連する取組事例や技術・手法を幅広く募集し、優れた取組事例は、「グリーンインフラ大賞」として選定し、広く情報発信している。
また、取組に活用された技術・手法は、グリーンインフラの技術等の研究に活用するほか、広くWEBサイト等での公開を行っている。
企画・広報部会では、多様な主体に対してグリーンインフラへの理解を促すとともに、具体の取組みイメージを形成することを目的に、グリーンインフラ大賞受賞事例など、優れたグリーンインフラへの取組事例について掲載した「グリーンインフラ事例集」のとりまとめを行っている。
また、国土交通省・農林水産省・環境省では、グリーンインフラの導入に関連して利用が想定される支援制度を紹介した「グリーンインフラ支援制度集」の策定・公表を行っている(図-3)。

図-3 グリーンインフラ事例集・支援制度集
図-3 グリーンインフラ事例集・支援制度集

公園緑地分野では、官民連携・分野横断により、積極的・戦略的に緑や水を活かした都市空間の形成を図るグリーンインフラの整備を行い、都市型水害対策や都市の生産性・快適性向上等を推進することを目的に、「グリーンインフラ活用型都市構築支援事業」による支援を行っている。
本事業では、公園緑地の整備だけでなく、公共公益施設の緑化や民間建築物の緑化も補助対象となっており、地方公共団体向けの補助だけではなく、国が民間事業者等に対して直接補助することも可能となっている(図- 4)。

図-4 グリーンインフラ活用型都市構築支援事業
図-4 グリーンインフラ活用型都市構築支援事業

 

都市公園新時代~公園が活きる、人がつながる、まちが変わる~

(都市公園の柔軟な管理運営のあり方に関する検討会 提言)

 
国土交通省では、令和3 年度から4 年度にかけて、都市公園の柔軟な管理運営のあり方に焦点を当て、取組の方向性をとりまとめることを目的に、「都市公園の柔軟な管理運営のあり方に関する検討会」を設置した。
そして当該検討会での議論を経て提言を策定し、令和4年10月に公表を行った。
 
提言では、新たな時代における公園の意義・役割は、個人と社会の「Well-being」の向上に向け、地域の課題や公園の特性に応じ、その多機能性のポテンシャルをさらに発揮することであるとされた。
具体的には、「持続可能でレジリエントなまち」、「ゆとりある時間を過ごせるまち」、「多様な暮らし方・働き方を実現できるまち」、「デジタル技術も活用して新たな価値創出を目指すまち」、「社会課題の解決に挑む人々がつながるまち」、「健康で幸福に暮らせるまち」といった新たな時代のまちづくりに貢献する役割を果たすことが期待されると取りまとめられた。
 
グリーンインフラの観点では、公園は、

  1. 人口が集中し市街化の進んでいる都市において、多様な生物が生息・生育できる貴重な空間であること、
  2. 緑の蒸発散効果等によるヒートアイランド現象の緩和、
  3. グリーンベルト等の形成による市街地の拡大や拡散防止などによる、都市環境を改善する機能を有すること、
  4. 雨水貯留浸透、火災の延焼防止などの機能により各種災害に対する都市のレジリエンスを高める効果、
  5. 地域の歴史・文化を守ることにより地域アイデンティティを醸成する効果、
  6. 都市をめぐる社会的・経済的状況が複雑化するなかで、公園を自然環境の多様な機能を活かした社会的共通資本であるグリーンインフラとして積極的に活かし、多様な都市課題の解決への貢献が求められていること、
  7. 公園をグリーンインフラとして活用する取組が進むことにより地域の歴史や文化を見直し、守り育てる意欲を高める契機となるもの

等が期待されている。
 
こうした期待を踏まえ、提言では、新たな時代に向けた3 つの重点戦略と7つの取組を提示し、
「重点戦略【1】新たな価値創出や社会課題解決に向けたまちづくりの場とする」において、公園におけるグリーンインフラの取組が位置づけられている。
具体的には、都市公園がそのポテンシャルを最大限発揮するには、都市や地域が抱える課題、公園の特性を踏まえ、公園ごとに求められる役割を果たせるよう、公園は戦略的に整備や管理運営を進める必要がある。
またその際、公園は、豊かな生活を支える自然環境、グリーンインフラであるとの認識のもと、官民を含めた多様な主体と連携を図りながら保全・利活用に中長期的な視点で計画的に取り組むことが重要であることが指摘されている。
 
地球規模の環境問題の深刻化、特に自然資本の喪失が問題となっていることを背景とし、新たな価値創出や社会課題解決の方策については、NbS(自然を基盤とした解決策)の考え方が広がっていること等を踏まえ、公園をグリーンインフラとして保全・利活用していくとともに、2050 年カーボンニュートラルの実現に貢献するため、特に以下のような取組を推進する必要がある。
これらの取組は、政策立案のエビデンスとなる各種の基礎データ(自然環境及びその機能に関するデータ、健康、教育等社会環境に関するデータなど)を蓄積・共有し、進めることが重要であることが示されている。
 

  • 緑の基本計画に、都市公園の整備および管理の方針を記載し、都市のグリーンインフラとして戦略的に公園の緑を整備・保全・育成する
  • 公園を都市の貴重な環境基盤として捉え、緑の基本計画や広域緑地計画等に基づき地域課題やそれに応じた目標を設定し、雨水貯留・浸透機能の維持・向上、生物生息空間の保全・創出、賑わい創出等に向け多機能性を保全・利活用する
  • 緑による二酸化炭素吸収固定、ヒートアイランド現象緩和によるエネルギー消費量の削減等を通じた二酸化炭素排出抑制に取り組むとともに、その効果を適切に評価し、市民等への理解醸成を図る
  • 公園で利用するエネルギーについて、カーボンニュートラルの実現に向けた目標を検討し、太陽光発電、バイオマスなど再生可能エネルギーを積極的に活用する

提言に関連し、参考事例集を取りまとめているので参照いただきたい(図-5、図-6)。

図-5 グリーンインフラ(みどりの保全・豪雨対策)※1
図-5 グリーンインフラ(みどりの保全・豪雨対策)※1
図-6 中間支援組織がつなぐ狭山丘陵広域連携事業 ※2
図-6 中間支援組織がつなぐ狭山丘陵広域連携事業 ※2

 

新たなグリーンインフラ推進戦略に向けた取組

令和元年の「グリーンインフラ推進戦略」策定以降、グリーンインフラを取り巻く背景等に変化が見られ、グリーンインフラの取組はさまざまな社会課題を解決する一手段として、一層の実践への期待が高まっている。
そのため国土交通省では、今後あらゆる社会資本整備やまちづくり・土地利用等において、グリーンインフラを反映させることを目指し、改めてその推進方策について幅広く議論するため、有識者からなる「グリーンインフラ懇談会」を令和5年3月から開催している。
ここでは、新たな推進戦略を検討する上で考慮されている社会的背景等の一部について紹介する。
 
①ネイチャーポジティブ実現に向けた動き
令和4年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、これを受けて、我が国でも令和5 年3 月に「生物多様性国家戦略」を改定。
 
令和3 年には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task force on Nature-related Financial Disclosures)が立ち上がり、令和5 年の開示枠組の公表に向けて議論が進んでいる。
 
②カーボンニュートラル実現に向けた動き
我が国においては、令和2 年10 月、2050 年カーボンニュートラルの実現を宣言。
 
令和5年2月には、今後10年間で官民150兆円超のGX投資実現に向けた先行投資やカーボンプライシングの導入等を盛り込んだGX実現のための基本方針を策定し、同年5月、これらを進めるためのGX推進法が成立。
 
③気候変動への適応
気候変動が及ぼす社会経済等へのさまざまな影響の深刻化に鑑み、地球温暖化緩和策のみならず、気候変動適応策も車の両輪として一体的に取り組むことが必要であり、気候変動適応計画では、自然災害分野のほか、国民生活・都市生活の中でグリーンインフラを活用した適応策に取り組むこととしている。
 
④自然災害の激甚化、頻発化への対応
河川整備等の事前防災対策を加速化させることに加え、あらゆる関係者が協働して、流域全体で行う「流域治水」の実効性を高める枠組みとして、令和3年4月、流域治水関連法が成立。
 
⑤人口減少社会での土地利用の変化への対応
人口減少・少子高齢化の本格化に伴い、土地を管理する担い手の減少や開発圧力の低下が進行。
森林や農地等の管理放棄地や低未利用地等が増加することが想定される中で、グリーンインフラの取組は解決策の一つとして期待されている。
新たな国土形成計画では、「グリーン国土の創造」が重点テーマとして掲げられている。
 
⑥ SDGsの実現に向けた意識の高まり
誰一人取り残さないというSDGsの実現にグリーンインフラは不可欠であり、世界的にSDGsの実現が求められる中で、投資家や金融機関がこうした分野への投資を加速している。
 
⑦ウェルビーイングの向上や歴史・文化等へのニーズの高まり
価値観の多様化、働き方改革の推進等の中で、ウェルビーイング向上へのニーズが高まっているとともに、コロナ禍を経て、デジタル社会の浸透が急速に進展している。
こうした中で、新しいライフスタイル等も考慮し、自然の恵みを享受することができる都市空間・生活空間の形成が求められている。
 
また、人・動物の健康と環境の健全性は、生態系の中で相互に密接につながり、強く影響し合う一つのものであるという「ワンヘルス」の考え方が示されている。
 
 

おわりに

グリーンインフラの推進において、公園緑地が果たす役割は極めて大きい。
引き続き、産学官の連携を強化し、グリーンインフラの導入を通じ、持続可能で魅力的な都市空間の創造に努めてまいりたい。
 
 
 

国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 公園利用推進官

石川 啓貴

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年8月号

公表価格版8月号

最終更新日:2023-07-28

 

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