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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 横須賀「長井海の手公園(ソレイユの丘)」のPark-PFI事業について

はじめに

横須賀市が管理する長井海の手公園「ソレイユの丘」(写真- 1)(以下、ソレイユの丘)は日本で初のPFIにより整備された公園であり、平成15 ~ 16 年で整備した後、平成17 年から10 年間の運営が行われた。
その後PFI 事業終了に伴い平成27 年度から8 年間の指定管理者制度に移行し、年間来園者数が70 万人の市内最大級の集客施設となっている。
 
令和5 年度からは、新たにPark- PFIを含む複数のスキームを活用した、官民連携による第3 ステージを迎えた(図- 1)。
 
本稿では、このソレイユの丘のリニューアル事業について紹介する。
 

写真-1 ソレイユの丘
写真-1 ソレイユの丘
図-1 ソレイユの丘 リニューアルイメージ(パース)
図-1 ソレイユの丘 リニューアルイメージ(パース)

 

1.横須賀市の紹介

横須賀市は、神奈川県南東部の三浦半島に位置し、東京から50km圏内に含まれる中核市である(図- 2)。
 
東京湾に面した東側は商業施設、工場、港湾施設が発達し、JR や京浜急行電鉄等の交通網が整っており、市街化が進んでいる。
 
中央部の三浦丘陵部を挟んで西側は相模湾に面し、自然が多く残され、立石、荒崎といった景観に優れた地形を有しており、農業、漁業といった産業が盛んである。
 
本市では、平成25 年に人口減少が全国ワースト1 位の転出超過(総務省統計による)となり、
 
その後も10 年間で2 万人以上の人口が減少。
かつて人口が右肩上がりであった時代の社会の仕組みは、少子高齢化や重工業の撤退などによる「地域経済の停滞感」や「まちのにぎわい低下」へと転じ、さまざまな分野において課題として表れている状況が続いている。
 
こうした状況から市では、「横須賀再興プラン(横須賀市実施計画2018-2021)」により、観光を産業の柱とする「観光立市よこすか」の実現に向け、さまざまな施策を推進している。
 
市西海岸(長井地区)においても、地域資源を生かした交流拠点の創出など、より多くの人々が西海岸を訪れ、エリアの魅力を堪能できるための政策展開が求められている。
そのため「横須賀再興プラン」の最重点施策として、長井地区の交流拠点機能の創出・拡充を目的としたソレイユの丘の機能強化が位置付けられている。(写真- 2)
 

図-2 横須賀市の位置
図-2 横須賀市の位置
写真-2 ソレイユの丘と長井地域(ドローン撮影)
写真-2 ソレイユの丘と長井地域(ドローン撮影)

 

2.Park-PFI導入に向けて

1) ソレイユの丘の現状と課題

ソレイユの丘は農業体験や大型遊具、動物ふれあい施設など、子ども向けのコンテンツが多く、ファミリー層の利用者が全体の7 割以上、利用者の約8 割が他施設へ寄ることなく帰宅しているというアンケート結果があり、周遊拠点としての機能は限定的であった。
 
また、1 人当たりの消費単価は、開園当初から徐々に低下し、近年では1,000 円/ 人前後と、施設の内容に比べて低い状態となっていた。

 

2) リニューアルの経緯

PFI事業終了に伴い、さらなる魅力向上に向け、民間事業者による観覧車の設置や、市による大型遊具、キャンプ場の整備などの機能拡充を図っている中で、開園20 年の節目を前に、老朽化・陳腐化した施設の更新を含む新たなステージに向けたリノベーションが求められていた。
加えて、三浦半島へのアクセス性向上(横浜環状南線開通(令和7 年度予定))により、集客エリアが圏央道沿線(内陸部)へと広がり、三浦半島における観光需要創出の機運が高まっていた。
 
こうした中、ソレイユの丘に隣接する6.7haの未利用国有地(図- 3、「B 隣接地」「C 崖地」部分、以下合わせて、「隣接地等」)を市が取得する見込みとなったことから、隣接地等を活用した公園拡張や公園全体のリニューアルなどにより、交流拠点としてのポテンシャルの最大化に資する拠点機能の充実や見直し(転換)等を検討することとなった。

図-3 事業対象地平面図
図-3 事業対象地平面図

 

3) 官民連携の可能性調査

平成30 年度に国土交通省の「先導的官民連携支援事業」を活用し、本事業の可能性調査を実施した。
 
調査では、事業者にマーケットサウンディングを実施することで可能性を調査したが、具体的な内容のない検討段階では、公募などによる一般的なマーケットサウンディングを行っても事業に慣れた大手事業者に偏り、事業参画が期待される地元事業者の意見を拾えない可能性が懸念された。
そのため市広報やSNSを用いた周知の他、地域の商工会議所・業界団体・金融機関等を通じた呼びかけや、市職員による直接の声掛けなどを行い、サウンディングとは別に地元事業者に対する本事業の周知や電話ヒアリングを実施した。
 
この結果、PPP やサウンディングになじみのない地元事業者が多く、単なる周知だけではなかなか当事者として事業を受け取るに至らないことが課題として明らかになった。
一方、事業説明会に参加した事業者は高い関心を示しており、参画に前向きな意向を確認することができた。
 
サウンディング実施時期がソレイユの丘の繁忙期(5 月~ 10 月)から外れており、民間事業者が原則として営業日(平日)に現地視察を行うと考えられたため、土日祝日における稼働状況や事業のポテンシャルが民間事業者に正確に伝わらず、本事業への関心が得られないことが懸念された。
サウンディング実施に先立ち、参加事業者に 事業対象地の魅力や集客力の実態を伝え、積極的な事業参画を促進することを目的として、ドローンを用いた事業対象地の眺望や週末のにぎわいを空撮した写真資料とプロモーション動画を制作。
本市ホームページおよび動画投稿サイト(YouTube)において一般公開するとともに、参加事業者(14 社)に対しDVD によるデータ配布も行った。
 
この動画配布により、事業対象地の魅力が視覚的に伝わり、半数以上の参加事業者が本事業への関心を示すとともに、意欲的な民間収益事業の提案や積極的な参画意向を引き出すことができた。

 

4) 地域プラットフォームの活用

官民連携事業を進める上で重要な地域経済活性化を目指した地元密着型の官民対話を単なる周知に終わらせないため、地元企業の参画促進を阻害するハードルを取り除く必要があった。
 
そこで率直な意見収集とともに、地元事業者の参画可能性が広がる工夫を見出すため、内閣府、国土交通省と「横須賀PPP/ PFI地域プラットフォーム」として地域プラットフォーム協定を締結し、令和元年度に2 度の地域プラットフォームを開催した。
 
1回目は地域プラットフォームの講師派遣の支援を受け、官民連携事業の近年の動向など座学を行った後、グループに分かれて地域の魅力について市内外の事業者がさまざまな視点で意見交換を行い、市外の事業者だけでなく、地域の事業者も改めて地域の魅力を確認する場となった(写真- 3)。
 
2回目は地元の農業・漁業者が企画し、地元でしか食べられない地魚や三浦野菜の魅力を紹介する試食会を開催し、官民連携事業に興味を持つ事業者、飲食事業者と地元の農業・漁業者が繋がる機会となった。

写真-3 地域プラットフォーム
写真-3 地域プラットフォーム

 

5) 基本計画の策定とコンセプト

先述の内容を踏まえ、地域の魅力の活用により、より多くの人が楽しく過ごすことができる公園・観光交流拠点を目指し、コンセプトを「~海と大地のエンターテイメント・パーク~」と設定した。
 
このような課題と、公園の方向性やコンセプトについて令和2 年4 月に基本計画(素案)をまとめ、パブリックコメントを実施し広く意見を募った。
 
自然を感じられる公園、環境負荷低減に配慮した公園とするような意見が集まり、これらを反映し令和2 年6 月に基本計画を策定し公表した。

 

6) 事業範囲の検討

事業スキームと並行して、事業範囲について、既存公園の21.4haと新たな隣接地等6.7haを一体で募集するか、それぞれ別の事業者を募集するかの整理が必要であったため、マーケットサウンディング等を行い、ソレイユの丘に適した事業範囲を検討した。
 
それぞれの優位性が認められたが、ソレイユの丘が地域の交流拠点として存在感を発揮するため、公園としての一体感、スケールメリットを勘案し、28.1haを一体で公募することが適切であると判断し採用した(表- 1)。

表-1 公募エリアの検討(原本)
表-1 公募エリアの検討(原本)

 

7) 事業スキーム

事業スキームの検討においてはPFI手法以外にも、平成29 年度の都市公園法の改正の際に追加されたPark- PFIの検討や、PFI手法と指定管理者制度、DB 方式を併用したスキームなどを検討しVFM(Value of Money)、PIRR(Project Internal Rate of Return)、民間事業者の事業性(マーケットサウンディングにより予想)、などの観点から比較を行った。
 
この結果、事業者のノウハウが活用でき、独立採算が可能な施設(カフェレストラン・アスレチック・キャンプ場など)はPark- PFIの公募対象公園施設、設置管理許可施設を活用し、トイレや管理施設などを特定公園施設とした。
 
また、新たに取得した隣接地等については、更地、雑木林で、インフラ等の整備が必要であったことから、基盤施設(造成・インフラ)はDB 方式を採用し、市の負担による整備とすることで事業者の参画を促した。
 
一方、Park-PFI事業者とDB 方式により施工する事業者を一括で公募することにより、既存公園のリニューアルと公募対象公園施設・特定公園施設とを統一感のあるデザイン・計画となるよう配慮した。
 
管理運営については指定管理者制度と設置管理許可を併用することとし、公募対象公園施設を含めた公園全体のブランディングを認定計画提出者の業務とすることで、指定管理者と公募対象公園施設の運営者との調整が行える運営体制とした(図- 4)。
 
公募開始は令和2 年8 月頃を予定していたが、新型コロナウィルスの影響による事業者の参画意欲の低下や作業の遅延が懸念されたため、公募直前ではあったが、新型コロナウィルスの影響を確認するためのマーケットサウンディングを実施した。

図-4 事業スキームのイメージ
図-4 事業スキームのイメージ

 
この結果、参画意欲は確認されたが、飲食店の参画がコロナ禍以前より不透明であるとの回答があったほか、スケジュールについて、新型コロナウィルスの影響により提案資料等を作成する時間が長期化しているとの回答があったため、事業者が参画しやすいよう提案書提出の期間を変更した。
また、複数の事業者から直近のコロナ禍における公園利用者数について問い合わせがあったため、毎月、ホームページに公園利用者数を掲載した(表- 2)。

表-2 第1波コロナ期間の入園者数
表-2 第1波コロナ期間の入園者数

(ソレイユの丘はオープンスペースが多い公園のため、公園利用者が増加傾向にあった。
この結果の公表により、公園の魅力を発信できたと考えている)
 
 

3.事業者公募・選定後の調整

1) 事業者公募の経緯

令和2 年8 月5 日から公募を開始し、事業者を令和3 年2 月8 日に株式会社日比谷花壇を代表とする9 社によるグループ「エリアマネジメント横須賀共同事業体」に選定した。
 
提案では、長期の事業期間を見据えた新たな公園のあり方を目指すコンセプトに加え、長井海の手公園等交流拠点機能拡充事業基本計画に即した、将来性のある公園計画や観光交流拠点としての取組みの提案が評価された。
導入施設は、主なもので幅広い世代が楽しめる地域の食材を活用したカフェレストラン、崖地の景観を楽しめるグランピング施設、新たな利用者層を開拓する高難易度のアスレチック施設などが提案され、ソフト事業では毎年大型イベントを複数回実施する提案がされた。
 
事業費については、整備費として約21.8 億(国:市:民間=約7.1 億円:約7.2 億円:約7.5 億円)、そのうち民の内訳は特定公園施設1.1 億円、公募対象公園施設等への民間投資6.4 億円となった。
運営費である指定管理料は19 年で約42.6 億となり、現在と比べて面積が約30%増加したが指定管理料は約3%縮減効果があった。

 

2) リニューアル工事に伴う全面休園

令和5 年4 月のリニューアルオープンを目指している中で、現場においては「隣接地等」のみならず既存部分を含めた公園全体の工事を予定していたため、通常開園している中での工事は来園者の安全面や工期的にも実施が困難な状況であった。
そのため、前指定管理者(長井海の手公園パートナーズ(代表企業:西武造園株式会社))、市および認定計画提出者の3 者による協議を充分に重ねた結果、前指定管理者のご理解・ご協力をいただき、前指定管理期間である令和4 年10 月1日から令和5 年3 月31 日までの半年間をリニューアル工事期間として全面休園することを決定した。
 
全面休園に関しては、来園者離れや従業員の雇用問題などのさまざまな懸念事項も想定されたが、そうした中でもリニューアル工事を精力的に進めるとともに既存施設の破損状況や所有権の確認を含めた設備・備品の整理、公園と地元町内会とのさらなる連携方法の確認等について、時間をかけて丁寧に進められたことは新たに19 年間の管理運営を控えた中で有益な機会となった。

 

3) 工事費や利用料金に関する調整

全国的な物価上昇に伴い、認定計画提出者の提案内容についても一部変更を余儀なくされたため、提案時に示されたコンセプトを守りつつも提案内容から大きく逸脱しないよう、数十回に渡り協議を重ねた。
 
また、公園内有料施設の利用料金に関しては認定計画提出者の提案に基づき、原則、市の承諾を必要としている。
しかし、これまでの来園者や料金設定を重視する市と、リニューアルに伴い来園者の利便性向上が図られたことも踏まえ、既存有料施設の利用料金の値上げや新規整備施設の料金を設定したいとする認定計画提出者間において、それぞれ想定した金額には大きな乖離があった。
そのため、これまでの経緯を再確認することや双方の料金設定根拠の共有、将来的な展望等の考え方について整理するなど、工事費同様に充分に協議を重ねた結果、新規・既存施設ともに適切な料金設定がなされたものと感じている。
 
 

4.今後の展望

新たな管理運営者の下、公園のコンセプトを「~海と大地と、人をつなぎ、新しい出会いと発見のある場所へ~」として年間来園者100 万人の目標を設定した。
この大きな目標を達成させるためには、これまで来園いただいていた若いファミリー層を中心とするお客様を大切にしながら、新たなターゲットとして高齢者層や大学生などの男女グループ、3 世代の家族で訪れていただくなど、幅広かつ魅力的なコンテンツ・イベントを充実させることが重要となってくる。
これからのソレイユの丘を作り出す魅力的なコンテンツとしては次のことなどを具体的に検討している。
(写真- 4 ~ 9)

  • 圧巻の花・緑の景観
  • カメラを持って行きたくなるフォトスポット
  • 天候に左右されないコンテンツ
  • 何度も挑戦したくなるアスレチック
  • 愛犬と過ごす大切な時間
  • ゆっくり過ごせるグランピング・キャンプ施設
写真-4 ソレイユの丘 全景
写真-4 ソレイユの丘 全景
写真-5 新設ボードウォーク
写真-5 新設ボードウォーク
写真-6 フォトスポット
写真-6 フォトスポット
写真-7 フォトスポット
写真-7 フォトスポット
写真-8 グランピング施設
写真-8 グランピング施設
写真-9 グランピング施設
写真-9 グランピング施設

 
ソレイユの丘は、市民限定プレオープンなどを経て令和5 年4 月14 日(金)にリニューアルオープンを迎えた。
 
当日、実施したオープンセレモニーは、ソレイユの丘独自の取組みを意識し、関係者のみで執り行うものではなく、多くの一般来園者や報道陣が見守る中で晴天の下、盛大に行われた。
 
リニューアルオープン以降は、コロナ陽性者数が減少傾向であったことからも市内外に関わらず多くのお客様にお越しいただき順調なスタートを切れたものと感じている。
一方で、来園者増に伴う渋滞の発生、土日祝日利用の偏り等、これまでの課題も含めて解消に向けて改善の余地が大いに残されている。
 
今後は、新しいカフェレストランやアスレチック施設といった公園の魅力の強化による多様な利用者、平日利用の促進、食や景観といった地域の魅力を体験してもらい、宿泊機能の強化等による地域への波及効果を期待している。
 
そして、19 年間という長期の管理運営となるため、認定計画提出者と市が一丸となり、今回新たに整備した施設等の評価をモニタリングにより適切に行い、魅力的な長期運営を目指していく。
 
 
 

横須賀市 建設部 公園活用推進担当課長

辰馬 和義

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年8月号

公表価格版8月号

最終更新日:2023-07-28

 

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