- 2023-09-04
- 積算資料公表価格版
はじめに
コンクリートは安価で容易に供給され、自由なデザイン、強度に対応できる特徴を持ちますが、必要な性能、品質確保のためには原材料の品質から配合設計、練混ぜ、運搬、打込み、締固め、養生の適切な管理を必要とします。
コンクリート構造物に求められる性能、品質を確保するためにはこれらの全ての段階において性能や、品質を的確に検査・確認することが重要です。
打込み前のフレッシュコンクリート(以下、生コン)のワーカビリティー(施工性)や配合確認などの品質試験はコンクリート構造物の品質確保のためには重要であり、過去よりJIS規格や仕様書が改定されてきました。
まだ固まらない半製品である生コンの施工時の品質確認はスランプ・スランプフロー試験により、施工性と設計配合からの単位水量の逸脱がないこと、棒状温度計によるコンクリート温度、ワシントンエアメーターによる空気量測定により適正空気量の確認をそれぞれ行っており、人手を要する作業が標準となっています。
国内におけるコンクリートの出荷量は1990 年の1 億9,799 万m³ をピークに国内建設投資額とともに減少し、2022 年度は7,445 万m³ となっていますが、ますます高機能化する構造物と頻発する地震対策としての品質確保は今後も重要事項です。
人口減少、少子高齢化も伴い、有効求人倍率の 上昇の一方で、建設業では若い人材の確保が難しくなっています。
国土交通省は、2017 年1 月より調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスでICT等を活用して建設現場の生産性向上を図る i-Construction 推進コンソーシアムを設立しました。
労働集約の最たるコンクリート工事では生産性の向上が遅れていることから、コンクリート生産性向上検討協議会を設置し2023 年2 月までに第 12 回に及ぶ会議を開催しています。
1. スマートアジテーター®よる生産性向上
スマートアジテーター®(以下、当システム)は、生コンの製造出荷から荷下ろしまでの品質情報を自動で連続的に測定することが可能であり、車両・作業情報とともに、それらを記録してリアルタイムに場所を問わず確認できる技術です。
当システムはコンクリート製造・コンクリート工事に生産性向上効果をもたらす解決策になることを目指しており、システムの特徴は、トラックアジテーター積載中の生コンのスランプ・スランプフロー・コンクリート温度測定を一切の荷下ろしをせずに自動で測定可能としたことです。
この特性を活かして以下3 つの特徴がコンクリート製造・工事への生産性向上が見込めます。
①装置による自動測定により客観的な測定データが取得可能
日本では大地震のたびに建築基準法が改正され、構造物の安全性向上が図られてきました。
構造計算において保有水平耐力など世界的にも厳しい規格で構造物の安全性を確保しています。
撹拌から試験用コンクリートを採取するまでの複雑な工程を人手により行うコンクリート試験では、人による測定値の差を払拭し難いと考えられます。
当システムでは装置による自動測定により客観的な測定データが取得できます。
②生コン輸送中の経時変化を自動記録、材料温度・輸送時間などのデータと照合・分析することにより気温や輸送時間に合わせて配合の修正を最適化
生コンは製造直後からセメントと水の水和反応が始まり、JIS A 5308 でも90 分以内に荷下ろしできるようにとの規定があります。
水和反応速度は生コンの温度に左右され、その温度が高いほど経時による品質変動は顕著になります。
しかしながら生コンの品質は主に温度と運搬時間に影響を受けやすいため、製造担当者は厳しく製造工程を監視し、与えられた裁量の範囲で製造装置の表面水補正値(通常± 0.5%:水セメント比で± 1.5%程度の影響)を調整することにより、施工現場からの要請による品質を確保しているのが一般的です。
運搬中の生コンの品質が変動して行く中、経時変化データは、その試験の荷下ろしを伴う煩雑性から原材料や環境温度による品質変動がロジカルに解析されてきませんでした。
当システムでは自動でデータの取得が可能であるため、暑中・寒中など環境による品質変動への影響を材料温度・気温・輸送時間など、それらの因子と組み合わせて定量的に分析することが可能となります。
多くの運搬時経時変化データを積み上げれば、現場配合の修正を最適化することが可能になり、施工現場では安定した品質の生コンを受け入れられるようになります。
現在、施工現場より使用されず工場に持ち帰られる戻りコンは神奈川生コンクリート協同組合(神奈川県横浜市)で3 ~ 5%(およそ391 万m3,920 万トン)と報告されています。
荷下ろしすることなく廃棄不要の受入検査が可能となれば、試験のために廃棄する分の容積割り増しも不要になり、受入検査にかかる工数など大幅な歩留まり改善の効果を得られるなどのメリットが考えられます。
③全数管理によるトレーサビリティーの確保
当システムを装備した車両すべてのデータは即時クラウド上にアップロードされるため実質、全数検査データはどこからでも遡及して確認、取得可能になり、構造物に品質問題があった場合などの非常時にもトレーサビリティーの全数確保が可能です。
以上のように、当システムによる受入検査の自動省力化、受入検査に時間・工数を要しないため、輸送車両の回転率の向上、品質安定効果によるロスの低減などで全体の歩留まりは大幅に改善し、生産性向上に寄与します。
現在当社では、生コンの空気量測定について COMMAND ALKON CANADAとデータ取得における基礎実験を進めており、生コンの空気量試験データの自動取得を目指しています。
また、当システムは以下の評価を受けており、現在はNETIS登録に向けて作業準備中です。
- 2016 年経済産業省主管Io T LAB 第2 回先進的 Io Tプロジェクト選考会議においてIo T Lab Selection のファイナリスト、また独立行政法人情報処理推進機構主催「先進的Io Tプロジェクト支援事業」に選出。
- 2022 年に改定された日本建築学会建築工事標準仕様書JASS5 鉄筋コンクリート工事に新しい検査方法例として掲載。
- 2023 年一般財団法人日本建築総合試験所による建設材料技術性能証明(GBRC 材料証明第22-4 号)を取得。
2. スマートアジテーター® の測定原理
以下共同実験研究会の成果によるデータを交えてその特性を記します。
①プローブセンサーによるセンシング
スランプおよびスランプフローの推定、コンクリート温度の測定に用いられるプローブセンサーは図- 1 に示すように、 アジテータ車のドラムハッチ部分に溶接した鋼製フランジを用いて、先端をドラム中心に向かって垂直に取り付けます。
なお、摩耗限界はメーカー公証値で3 万m³ の測定まで対応しています。
②スランプまたはスランプフロー
プローブセンサーは、図- 2 のようにドラムとともに外周部分にそって回転する構造となっています。
ドラムの回転に伴って、プローブセンサーがコンクリートに接触した際に、ドラム最下部で得られたプローブ圧力を測定するように設計されており、直近2 回計測値の平均を出力します。
このプローブ圧力は、コンクリートの硬さ(スランプ・スランプフロー)と強い相関があり、同一指数近似曲線上に表すことができます。
この近似曲線上の任意の数点(最小6 点~最大16 点)を一覧表示したものをキャリブレーションテーブルと呼び、推定スランプをレシーバで演算・表示するように設計されています。
③指数回帰式の作成
共同実験研究会では、実測スランプとプローブ圧力の関係を、夏期、標準期および冬期において、異なる強度とスランプを組み合せたコンクリートを使用材料の異なる工場において実験的に求め、図- 3 の通り指数回帰式を求めました。
④校正曲線
次に図- 3 の指数回帰式の推定しようとする範囲において、任意の複数点(最小6 点~最大16 点)をプロットし校正曲線を推定します。(図- 4)
⑤キャリブレーションテーブル
校正曲線から図- 5 の通りキャリブレーションテーブルを作成します。
プロット間の推定値は、自動的に直線補間されます。
⑥コンクリート温度
コンクリート温度は、プローブセンサーのハブ内に内蔵された2 つのサーミスタによって計測され、それらの平均値を表示するよう設計されています。
部材に使用しているステンレス自体も非常に優れた熱伝導体であり、ドラムの最下部にセンサーが来た際の温度を計測するように設計されているため、より安定した温度測定が可能です。
プローブセンサーに使用されているサーミスタの特性は
- 使用温度範囲: -55 ~ +150 ℃
- 温度測定精度: 0.5 ℃
- 反応時間: 7 秒
となっています。
コントロールユニットのファームウェアでは、平均値を計算する前に2 つのサーミスタがほぼ等しく機能していることを確認する設計となっています。
一方のサーミスタにエラーが発生すると、正常に動作しているもう一方のサーミスタのみで計測され、さらにこれらの機能が動作不能になった場合には、温度データは送信されず、異常を把握できるように設計されています。
⑦実測スランプと推定スランプの関係
図- 6 に指数回帰式による推定スランプと実測スランプの比較、図- 7 に指数回帰式から求めた推定スランプと実測スランプの差(以下、スランプ差)の分布を示しています。
設計スランプは80mmおよび180mmですが、経時変化や途中で流動化しているため、実測スランプは44mm ~ 264mm の範囲にあります。
スランプ差は、+ 28 ~ -23mmの範囲にあり、標準偏差σは12.3mm、2 σは± 24.6mmとなり、図- 6 の指数回帰式を用いて± 25mmの精度で推定スランプを求めることが可能であることを確認しました。
さらに、共同実験研究会では同様に実験でスランプフローについても± 75mmの範囲で測定可能であることを確認しています。
おわりに
国土交通省のi-Construction コンソーシアム設置以降、AIや画像診断を利用した品質判定など優れた先進技術により、飛躍的に生産性向上の素地が揃いつつあります。
また、カーボンニュートラル2050 年宣言から、経済産業省では“グリーンイノベーション基金事業/ CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト”を立ち上げ、炭酸ガスを材料にするカーボンプールコンクリートの研究開発等、ゼネコン、セメントメーカー等大手企業を中心に産官学においてコンクリートによるDX ・GXなどの動きが活発化しています。
今後、これらの目標を達成しつつ新しいICT技術やAIを駆使してコンクリート製造から施工まで、すべてのデータが必要に応じてリンクし有効に活用される日も近く、その時にはスマートアジテーター® が貢献できることを願っています。(図- 8)
謝辞
長きにわたり共同実験に参画いただいた研究会各位、また指導、助言をいただいた先生方、関係各位に深く感謝いたします。
参考文献
1) 安田正雪ほか:スランプフロー管理の流動化コンクリートのプローブシステム適用に関する一考察、コンクリート工学年次論文集、 Vol.43、No.1、pp.772-777、2021.7
2) 財団法人建材試験センター中央試験所:工業標準化法JNLA 制度における測定の不確かさの推定及び技能試験用試料開発に係る調査 委託業務成果報告書、平成17年3月
3) 梅津順一、安田正雪、廣藤義和、毛利彰仁:プローブセンサー搭載のアジテータ車によるコンクリート品質の連続管理技術、第3回i-Constructionの推進に関するシンポジウム発表論文集、土木学会
4) 廣藤義和、毛利彰仁、山田雅裕ほか:アジテータ車のドラム内に設置したプローブによるコンクリート品質の連続管理の検討、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、pp333-344、2015.9
5) 廣藤義和、毛利彰仁、山田雅裕ほか:アジテータ車に設置したプローブによる普通コンクリートのスランプフローの連続管理、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、pp.845-854、2020.9
6) 廣藤義和、毛利彰仁、山田雅裕ほか:アジテータ車のドラム内に設置したプローブによるコンクリートの品質推定と各種施工性能評価試験、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、pp.417- 422、2017.7
廣藤 義和
【出典】
積算資料公表価格版2023年8月号

最終更新日:2023-09-04
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