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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > 災害時のトイレ機能確保のためのマンホールトイレの整備・運用

はじめに

災害時においても確保すべき下水道機能の一つにトイレ機能があり、そのための手段として、マンホールトイレの活用が期待されています。
東日本大震災(平成23年)、熊本地震(平成28年)では、避難所に整備されていたマンホールトイレが運用され、被災者から好評を得たことなどから、マンホールトイレを整備する地方公共団体は徐々に増加しており、全国での整備基数は平成28年度末時点で約2万6千基、令和3年度末時点では約4万2千基に達しています。
 
本稿では、マンホールトイレの概要や、マンホールトイレの普及促進に向けて国土交通省で策定しているガイドライン等について解説します。
 
 

1. 災害時のトイレ機能の確保

災害時においても確保すべき下水道機能、必要となる対応の例を表-1に示します。
このうち災害時のトイレ機能の確保のためには、主に防災部局や環境部局が行う災害用トイレの設置等と下水道部局による下水道(管路・処理場)へのトイレ排水の受入れが適切に連携して行われる必要があります。

表-1 災害時においても確保すべき下水道機能,必要となる対応(例) (2)
表-1 災害時においても確保すべき下水道機能,必要となる対応(例) (2)

 
 

2. マンホールトイレとは

マンホールトイレは、下水道の管路のマンホール(公道上)、または管路につながる排水管のマンホール(学校等の敷地内)の上に、便器および仕切り施設(テント、パネル等)を設置して使用するトイレであり、し尿を管路に受け入れることができます(図-1)。
上部構造物(便器および仕切り施設)、鉄蓋、下部構造物で構成され、下部構造物としては主に「本管直結型」「流下型」「貯留型」という3形式があります。

図-1 マンホールトイレのイメージおよび設置状況

 
災害用トイレには、携帯トイレ・簡易トイレ、マンホールトイレ、仮設トイレという3タイプがありますが、マンホールトイレの特長は以下のとおりです。
 

  1. すぐに使える:マンホールの上に便器および仕切り施設を設置するだけで使用可能。
  2. 段差なし:高齢者および車椅子の方も使いやすい。
  3. 洋式トイレ:使い慣れたトイレ空間を提供。
  4. くみ取り不要:し尿は下水道へ流せるので臭いも少なく衛生的。

 
 

3. マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン

国土交通省下水道部は、マンホールトイレの有用性、整備の基本的な考え方、被災者が使いたいと思う快適なマンホールトイレの整備の在り方を地方公共団体等に示すことで、マンホールトイレの普及を推進し、来るべき災害に対して快適なトイレ環境を確保することを目的とし、平成28年3月に「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」を策定しました。(最新版は令和3年3月改訂)。
 
本ガイドラインの位置付けを図-2に示します。

図-2 本ガイドラインの位置付け
図-2 本ガイドラインの位置付け

 
防災基本計画は、災害対策基本法に基づき、中央防災会議が作成する防災に関する基本的な計画であり、防災基本計画には、防災に関する総合的かつ長期的な計画や防災業務計画および地域防災計画において重点をおくべき事項、防災業務計画および地域防災計画の作成の基準となるべき事項で中央防災会議が必要と認めるものを定めることとしています。
防災基本計画においては、災害予防対策として、市町村は指定避難所においてマンホールトイレ等を要配慮者にも配慮した施設の整備に努めるものとされています。
また、災害応急対策として、避難所の生活環境を確保するために、必要に応じマンホールトイレ等を早期に設置するものとされています。
以上により、マンホールトイレの整備は、地方公共団体が地域防災計画に位置付けて取り組むべき事項の一つとされています。
従って、本ガイドラインにおけるマンホールトイレの整備・運用に関する考え方を参考としていただきながら、地方公共団体が策定する地域防災計画や下水道BCPにマンホールトイレの整備方針等が既に位置付けられている場合は、その内容に基づき方針を作成するなど、関係部局が連携し、マンホールトイレの整備推進を図ることが望まれます。
まだ位置付けられていない場合には、先行的にマンホールトイレ整備の基本的な方針を作成し、地域防災計画や下水道BCP等の計画に反映することが望まれます。
 
本ガイドラインの主な内容は、以下の6点です。
 

  1. 災害時のトイレの確保の基本的考え方:それぞれの災害用トイレの特性を踏まえ、時間経過および被災状況に応じて組み合わせ、避難所等において良好なトイレ環境を切れ目なく
    提供するよう努める必要がある(図-3)。

    図-3 災害時におけるトイレの充足度
    図-3 災害時におけるトイレの充足度
  2. マンホールトイレの必要数の算定数等:整備すべき施設、使用想定人数、1基当たりの使用想定人数(50 ~ 100人)、確保すべき水源(学校のプール水等)、上部構造物等の保管場所、その他(放流先の管路の能力等)について検討し、必要数を算定。
  3. 快適なトイレ環境の確保に向けて配慮することが望ましい事項:計画時に「安全・安心面」
    「要配慮者」「衛生面」への配慮を検討する必要がある。
  4. 事前準備と訓練:災害時に住民自身が組立から使用・維持管理までを担えるよう、毎年の防災訓練の際にマンホールトイレの設置訓練を実施することが大切。
  5. 使用後の片付け:災害時または防災訓練の使用後には、次に使用する災害時を想定して迅速かつ衛生的に使用できるよう適切な清掃および上部構造物の保管等を行うことが重要。
  6. マンホールトイレ整備・運用における7か条:整備・運用の4つの段階(整備計画時、避難所開設時、避難所開設後運用時、片づけ時)ごとに、要点を7か条として整理。

 
さらに、資料編では、熊本県熊本市、宮城県東松島市他、計10市におけるマンホールトイレの導入例が取り上げられ、整備の考え方、設置訓練、機能改善、普及啓発、災害時およびイベントにおける使用実績、役所内の体制構築事例等が紹介されています。
 
 

4. マンホールトイレの整備・運用チェックリスト

マンホールトイレは下水道事業を実施している地方公共団体の内、約4割の団体(令和3年度末時点では全国585団体)で既に導入されていますが、多くの自治体では整備後に実際に使用して課題を把握・改善する機会が無く、発災時になって初めて使用上の課題に直面するケースが危惧されます。
そこで、国土交通省下水道部は、マンホールトイレの整備・運用に関して地方公共団体の実績から得られた課題や改善方法を留意点として整理し、チェックリストにすることで、「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」を補完し、実践的なマンホールトイレの整備・運用に関する計画の策定および整備の推進に寄与することを目的として、令和5年4月に「マンホールトイレの整備・運用チェックリスト」を公表しまし
た(図-4)。

図-4 チェックリストの例
図-4 チェックリストの例

 
本資料は、マンホールトイレの使用実績のある地方公共団体の意見を基に、災害時において快適なトイレ環境を確保するために必要な検討項目をチェックリストとして整理したものです。
また、マンホールトイレの整備計画を策定する際には、マンホールトイレの配置や空間・設備、運用、片付けまでの一連の業務や留意点など、全体像を把握することが必要で、その際にも本資料を活用いただくことを期待しています。
 
本資料では各検討項目に対し、大項目として「配置」、「空間・設備」、「運用」、「片付け」の4項目、中項目として「安全」、「快適」、「衛生」、「要配慮」、「維持管理」、「防犯」、「清掃」、「補充」、「収納」の9項目に分類することで検索性・利便性を高めるとともに、各項目の「ねらい」を併記することで、趣旨に合った応用動作が取り易くなるよう工夫しています。
また、マンホールトイレの設置・運営を担う行政関係者や市民等が必要な対応をすぐに理解し、迅速な行動に移せるよう、なるべく短い文章かつ平易な表現を使用して判読性を高めています。
 
 

おわりに

国土交通省下水道部では、上記ガイドラインやチェックリストの他にも、マンホールトイレの認知度向上および使用方法等に対する理解醸成に向け、マンホールトイレに関する漫画や動画といった各種普及啓発ツールを作成し、同部HP『災害時に使えるトイレ』(図-5)で公開しています。

図-5 『災害時に使えるトイレ』HP
図-5 『災害時に使えるトイレ』HP

 
こうした種々のツールを、地域の防災訓練やイベント、学校での防災教育、行政内部での防災会議など、さまざまな場面で活用いただければ幸いです。
 
また、「下水道総合地震対策事業」(防災・安全交付金)において、マンホールトイレ(下部構造物)の整備を補助対象としており、令和5年度予算からは、対象施設数の上限撤廃、対象施設の敷地面積の要件緩和等の交付対象の拡充を行っています。
なお、便器、仕切り施設(テント等)については、引き続き効果促進事業として財政支援が可能です。
 
地方公共団体におかれては、これらの情報を参考にしていただき、関係部局と連携の上、さらなるマンホールトイレの設置推進および有効活用に努めていただければ幸いです。
 
 
 

国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道企画課 企画調整係長
大森 匠

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年12月号

公表価格版12月号

最終更新日:2023-11-21

 

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