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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 どこでもトイレプロジェクト > 東京都地域防災計画震災編の修正について ─ 被害の全体像とその対応策およびトイレ対策の概要 ─

はじめに

全国各地では、依然として地震の発生が相次いでいる。
また、東京は様々なプレートが沈み込む複雑な構造を成す領域に位置するほか、南海トラフ地震の発生確率が引き上げられるなど、巨大地震発生の切迫性は高まっている。
 
東京は多くの人口を抱え、政治経済の中枢機能が集積しており、一度大規模災害に見舞われた場合には、その影響は計り知れない。
 
このため、あらゆる事態を想定した事前の備えと発災時の臨機応変で的確な対応により、被害を最小限に抑えることが極めて重要となる。
 
 

1. 新たな被害想定

震災対策の推進に当たっては、起こりうる被害像をできる限り科学的知見に基づき分析し、被害を軽減するための実効性ある手立てを講じていくことが重要となる。
このため、東京で想定される主な震災リスクを紹介する。
 

1-1 定見直しの背景

南関東地域でプレートの沈み込みに伴うマグニチュード(以下「M」)7程度の地震が今後30年以内に発生する確率は70%程度と推定されている。
 
東京都防災会議では、被害想定の策定から10年が経過する中、この間の取組み状況や社会環境等の変化や、最新の科学的知見等を踏まえ、被害の全体像を明らかにするため、令和4年5月に被害想定の見直しを行った。
 

1-2 被害想定で対象とした地震動

今回の新たな被害想定では、国の中央防災会議における見解や発生確率等を踏まえ、8つの想定地震を設定した。
この内、具体的な被害量を算出した想定地震は表- 1のとおりである。

表-1 新たな被害想定の対象地震
表-1 新たな被害想定の対象地震

 

1-3 被害想定の結果
1) 定量評価

都内で最大の被害が想定される都心南部直下地震の被害想定は表- 2のとおりである。

表-2 被害想定
表-2 被害想定

 
前回の被害想定で、最大の被害が想定された東京湾北部地震とは、地震動が異なるため単純に比較できないが、耐震化・不燃化の取組みの進捗等により、建物被害および人的被害は、3割ないし4割程度減少することとなった。
しかし、未だ甚大な被害が想定されており、更なる防災対策の推進が求められる。
 

2) 定性シナリオ評価

今回の被害想定の実施に当たり、最新のデータ等を活用し、被害想定の精度向上を図ったものの、科学的な知見に基づき定量化できる事項は限られる。
また、定量評価だけでは、実際に都内で起こり得る被害の全容が見えにくい。
 
このため、被害の過小評価により都民や行政による備えが十分でなくなるおそれがあることから、今回の被害想定では定量的に示すことが困難な事項についても、定性的な被害シナリオとして提示することで、災害リスクの「見える化」を図ることとした。
 
具体的には、過去の大規模地震において地域や家庭等で実際に発生した被害様相や、東京の各地域における特有の状況などを参考に、時々刻々と変化する被害の様相や復旧の状況を「シナリオ」として具体的に描き出し、被害の全体像をできる限りわかりやすく表現した(図- 1)。

図-1 定性シナリオのイメージ
図-1 定性シナリオのイメージ

 
都民・事業者の視点で「身の回りに起こり得る災害リスク」が明らかになり、都民一人ひとりが災害を自分事として捉えることで、日頃からの備えにつなげていくこととする。
 
被害の様相は1つの想定として作成したものであり、実際の災害時に記載した様相どおりの事象が発生するものでないことに留意が必要である。
 

3) 南海トラフ巨大地震

南海トラフ地震は、島しょ地域への津波の影響が大きく、内陸部では長周期地震動による被害が発生するおそれがあることから、M9クラスの巨大地震における被害想定を実施した(表- 3)。

表-3 南海トラフ巨大地震の主な被害想定
表-3 南海トラフ巨大地震の主な被害想定

 
前回の被害想定と同様、島しょ地域における津波の影響が大きいことから、迅速な避難対策と孤立対策が求められる。
また、本土における長周期地震動による高層建築物等への影響については、定性シナリオで整理した。
 
 

2. 新たな被害想定を踏まえた東京都の対策

今回の新たな被害想定で明らかになった震災リスクから、都民の命とくらしを確実に守るため、東京の総力を挙げて防災対策を進める上での羅針盤となる東京都地域防災計画震災編について、令和5年5月に修正を行った。
 

2-1 3つの視点と分野横断的視点

今回の修正に当たっては、東日本大震災以降の防災対策の取組み状況や、社会環境の変化等を踏まえた課題およびその解決に向けた基本認識を整理した上で、具体的な減災目標を設定するため、3つの視点と分野横断的な視点を整理した(表-4)。

表-4 具体的な減災目標設定のための視点
表-4 具体的な減災目標設定のための視点

 

2-2 減災目標

表- 4で示した3つの視点と分野横断的視点を踏まえ、区市町村や関係機関など、各主体との連携を一層強化し、各防災施策の重層化を図るため、「2030年度までに首都直下地震等による人的・物的被害を概ね半減」させる減災目標を設定した。
また、減災目標の達成に向け、3つの視点や分野横断的視点ごとに、各施策の具体的な指標を設定した(図- 2)。

図-2 各視点に対して講じる各施策の具体的指標
図-2 各視点に対して講じる各施策の具体的指標

 

2-3 減災目標の達成に向けた今後の取組み

今回、指標を設定した各施策に加え、長期的な視点から今後、一層具体化を図るべき取組みを「重点事項」として地域防災計画に新たに位置付けた。
 
減災目標の確実な達成のため、東京都防災対策推進ワーキンググループ等において、引き続き検討を進めていくこととしている。
 
 

3. トイレ対策

災害時におけるトイレの確保・管理は、被災者の健康や被災生活における衛生環境の確保等の観点からも極めて重要である。
 
このため、先述の被害想定において、首都直下地震等が発生した際に、トイレを取り巻く環境がどのような状況になるのか定性シナリオで明らかにした。
 
またこれらを踏まえ、今回の地域防災計画の修正において、トイレに係る新たな取組みを位置付けた。
今後は、減災目標で掲げた「災害時トイレ空白エリアの解消」に向け、関係機関等と連携を一層強化し、東京全体を見据えた総合的なトイレ対策を進めていく。
 

3-1 トイレに関する定性シナリオ
1) トイレをめぐる全般的な状況
  • 断水等により、公共施設やコンビニ等のトイレが利用できなくなる。
  • トイレが利用できる場合でも、長い列ができる。
  • 停電・断水した地域では、自宅の建物に被害がなくても水やトイレの使用が困難となり、周辺の公園や避難所等に仮設トイレが設置されるまで、被災者自身が携帯トイレなどで対応することを求められる。
  • 上下水道の機能支障や、停電等による各世帯・建物のトイレ機能の停止により、仮設トイレの需要が増大するが、早期の設営は困難となる。

 

2) マンション等集合住宅
  • 周辺の下水管路に被害がなくてもオフィスビルやマンションなどの集合住宅では、建物の所有者や管理会社による排水管等の修理が終了していない場合、水道の供給が再開されていてもトイレが利用できない。

 

3) 避難所等
  • 避難所等の仮設トイレに被災者が殺到する中、その管理等が適切に行われない場合、避難所や仮設トイレの衛生環境が急速に悪化する可能性がある。
  • くみ取り式の仮設トイレでは、貯留槽がすぐに満杯になるが、処理作業を行うバキュームカーは台数が不足するほか、道路渋滞等で都外からの応援および巡回が困難となり、使用できなくなる。

 

3-2 地域防災計画震災編の修正で新たに位置付けた主なトイレ対策
1) 東京都の取組み
  • 避難所や災害復旧拠点に加え、一時滞在施設や災害拠点連携病院等に対象を広げ、これらの施設から排水を受け入れる下水道管とマンホールの接続部の耐震化などを推進。
  • 避難所等におけるトイレ環境の確保等について区市町村を支援(携帯・簡易トイレの配備支援)。
  • 生活必需品等については、毛布、敷物、簡易トイレ、紙おむつ、生理用品、ストーマ装具などを確保。
  • 災害用トイレの確保基準の見直し。
    災害発生当初:避難者約50人当たり1基。
    避難が長期化する場合:約20人当たり1基。
  • 関係各局や区市町村と連携し、災害用トイレの需要と供給や、災害関連死対策の観点、女性・要配慮者等の視点を踏まえた総合的なトイレ対策の推進。

 

2) 区市町村の取組み
  • 避難所における女性や子供等に対する性暴力・DVの発生を防止するため、女性用と男性用トイレを離れた場所へ設置、トイレ・更衣室・入浴施設等の昼夜問わず安心して使用できる場所への設置、照明の増設、注意喚起のためのポスターの掲載。
  • 非常用便槽等を活用できる施設がある場合は、区市町村がマンホールトイレ等を設置。
  • 避難所またはその近傍に備蓄施設を確保し、食料、飲料水、災害用トイレ、常備薬、マスク、消毒液、簡易ベッド、パーティション、炊き出し用具、毛布等避難生活に必要な物資や新型コロナウイルス感染症を含む感染症対策に必要な物資等の備蓄に努める。
  • 要配慮者の利用を想定して、車椅子使用者対応トイレ等の設置、一般トイレの洋式化、育児・介助者同伴や性別に関わらず利用できる男女共用トイレ等の設置などバリアフリー化推進。

 

3) 家庭・事業所の取組み
  • 当面の目標として、最低3日間分、推奨1週間分の災害用トイレ、トイレ用品を備蓄。
  • 排水管等の修理が終了していない場合はトイレが使用不可となることを踏まえた携帯トイレ・簡易トイレの準備。

 
 

おわりに

未曾有の大災害となった東日本大震災を契機に、これまでの災害対応が抜本的に見直された。
一方、人口構造の変化や通信量の増大、技術の進歩など、目まぐるしく変化する社会環境等にも柔軟に対応しながら、東京の特性を踏まえた効果的な対策を進めていくことが重要である。
 
東京都としては、関東大震災から100年の節目を契機に、都民、地域、事業者の皆様が、改めて防災について考え、災害に備えることができるよう、様々な取組みを進めるとともに、いつ起こるとも知れない大規模災害に備え、国や区市町村、関係機関など、各主体との一層の連携強化により、東京全体の災害対応力向上を図っていく。
 
 
 

東京都 総務局 総合防災部 防災計画課長
濵中 哲彦

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年12月号

公表価格版12月号

最終更新日:2023-11-21

 

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