• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 土木インフラの維持管理 > 道路橋RC床版の長寿命化対策─取替プレキャストRC床版の製作および施工事例─

1. 橋梁の現状と維持管理

1-1 橋梁の現状

2022年時点の橋長2.0m以上の橋梁は約72万橋であり、地方自治体が管理する橋梁が全体の約90% を占めている。
また、橋梁の多くは高度経済成長期に建設され、建設後50年以上を経過する橋梁の割合は、10年後の2032年に約59%に達すると言われている。
 
老朽化した道路橋の維持管理対策は、2009年から地方公共団体では「道路橋長寿命化修繕計画」を立案して、健全性の判定区分Ⅳから順次、修繕が行われてきた。
しかし、道路橋長寿命化修繕計画が始まる前に各種補強された橋梁RC床版においては再劣化が生じ、その対策として取替床版が検討されている。
現在開発されている取替床版の多くは、主筋方向をPC構造とした取替プレキャストPC(Pc. PC)床版である。
我が国の橋梁のほとんどは地方公共団体が管理しており、交通量が少なく、2等橋で設計される橋梁も多い。
これらのことから、RC構造とした取替プレキャストRC(Pc.RC)床版の開発を行った。
 
本稿では、取替Pc.RC床版構造および施工事例について述べる。
 
 

2. 取替床版の現状および構造

2-1 取替床板の現状

取替床版の主な種類を図- 1、図- 2に示す1)
大きく分類するとRC床版、PC床版、鋼・コンクリート合成床版、鋼床版、I型格子床版などである。
RC床版には、場所打ちRC床版があるが、これは老朽化したRC床版を撤去し、図- 2(1)に示すように主桁上に型枠・鉄筋を配置してコンクリートを打ち込む工法であり、新設橋梁の床版施工と同様である。この場合、長期間の通行止め が必要となることから、取替Pc.RC床版が提案される。次に、PC床版には場所打ちPC床版と取替Pc. RC床版があり、この内、場所打ちPC床版は工事期間が長期にわたることから、取替Pc.PC床版が提案されている。
取替Pc.PC床版は図- 2(2)に示すように、PC構造としたPc. RC床版を工場で製作し、架設現場において橋桁上に設置し、これを各企業が開発した継手構造で一体化している。
 
鋼・コンクリート合成床版においても場所打ち 合成床版と取替合成床版がある。
取替合成床版は図- 2(3)に示すように鋼板を型枠として用い、スタッドを設け、鉄筋を配置してコンクリートを打ち込んで合成構造とした床版であり、現場施工であることから新設同様の工期が必要となる。
RC床版の取替えに鋼床版の検討もされるが、鋼床版の取替えについては比較的新しい構造であることから取替工事はあまり行われていないと考えられる。
次に、I型格子床版は図- 2(4)に示すようにグレーティング床版があり、強度部材と型枠が一体したプレファブ型の床版である。
工場製作されたパネルを配置し、簡単な接続と付属品の取付で、コンクリートの打設が可能となる。
施工においては支保工と型枠が不要となることから、工期の短縮が図れる床版である。
本稿では、RC構造とした取替Pc.RC床版について述べることとする。

図-1 劣化した床版の取替床版の種類の一例
図-1 劣化した床版の取替床版の種類の一例
図-2 劣化した床版の取替床版の種類の一例
図-2 劣化した床版の取替床版の種類の一例

 

2-2 取替Pc.RC床版の構造

我が国の橋梁の多くは地方自治体によって管理され、1等橋やB活荷重で設計された床版ではなく、2等橋やA活荷重で設計された橋梁も多い。
従って、取替床版構造においては必ずしもPC構造とした床版は必要なく、建設地域に最も近いプレキャスト二次製品工場で製作可能なRC構造が必要となる。
これらのことから、日本大学、東北大学、岩手大学、(株)小野工業所、(株)後関製作所が共同研究を行い、RC構造とした取替Pc.RC床版の開発を行った。
構造性能については日本大学生産工学部が評価している。
 

2-3 取替Pc.RC床版の継手構造
(1) 既往の取替床版

取替床版の多くは、軸直角方向にPC鋼材を配置し、軸方向には鉄筋を配置している。
PC構造としたプレキャスト版を工場で製作、架設現場で並列に並べて一体化し、その上に橋面防水工を施し、アスファルト舗装を舗設して完成となる。
取替床版の一般的な継手方法は、床版を主桁上に並列した後、各企業で開発された継手材料、例えばPC鋼棒やボルトなどを用いて、図- 3(1)に示すように直接繋ぐ事例もある。
一般的には、図- 3(2)に示すように重ね継手構造とし、この部分を間詰部として、並列後にコンクリートを打ち込み一体化している。
本稿で述べる取替Pc.RC床版の継手構造は図- 3(2)に示すように、並列後、間詰部にコンクリートを打ち込む工法を採用した。

図-3 取替PC床版の継ぎ手構造
図-3 取替PC床版の継ぎ手構造
(2) 取替プレキャスト床版の継手構造

取替Pc. PC床版は主鉄筋方向をPC構造とし、配力筋方向はRC構造である。
例えば、継手構造にはループ状に加工した鉄筋の内側の橋軸直角方向に鉄筋を配置した構造や鉄筋端部に突起を設けたエンドバンド継手など、各企業が開発した特殊な継手構造がある。
 
一方、本稿で取り扱う取替Pc.RC床版に用いる継手構造は、主筋方向および配力筋方向ともにRC構造であり、その構造を図- 4に示す。
主鉄筋となる突起の形状は図- 4(1)に示すように三角形状とする。
配置においては三角形の底辺をかぶり側とする。
また、配力筋の突起は円形とし、図- 4(2)に示す。
配置は主筋の内側となる。
また、主鉄筋と配力筋の交差部およびかぶりを図- 4(3)、間詰部の鉄筋配置状況を図- 4(4)に示す。

図-4 突起付き鉄筋の継手構造2)
図-4 突起付き鉄筋の継手構造2)
(3) 突起の寸法および断面積

使用鉄筋はRC床版に使用されているSD345のD13、D16、D19とし、必要に応じてD22を用いる。
ここで突起の寸法および突起断面積を表- 1に示す。
なお、突起断面積については、支圧効果を考慮しない継手構造とした場合の断面積であり、橋梁構造に応じて自由に製作することが可能である。

表-1 突起付き鉄筋の寸法・断面積
表-1 突起付き鉄筋の寸法・断面積

 
 

3. 取替RC床版の耐荷力および耐疲労性の評価

3-1 実験概要

RC床版および取替RC床版供試体の耐疲労性の評価には、日本大学生産工学部が所有する輪荷重走行疲労試験機を用いる。
ここで、RC床版供試体を用いた輪荷重走行疲労試験の状況を写真- 1に示す。
実験装置は荷重装置に幅300mm、直径450mmの車輪(3/5モデル)を取り付け、荷重は500kNまで載荷が可能である。
この試験機を用いて1走行ごとに荷重を増加する走行荷重実験による押抜きせん断耐荷力および輪荷重走行疲労実験より得られた等価走行回数を用いて耐疲労性を評価した。

写真-1 輪荷重走行疲労試験の状況
写真-1 輪荷重走行疲労試験の状況

 

3-2 供試体材料および寸法
(1) 供試体材料

RC床版材料の耐疲労性の向上のために圧縮強度は材齢28日で40N/mm²を目標とした。
間詰部のコンクリートには超速硬コンクリートを用いた。

(2)供試体寸法

供試体寸法は、実寸法の3/5モデルであり、図- 5に示す。
橋軸方向は2000mm、橋軸直角方向1400mmであり、中央に幅300mmの間詰部を設けた。
床版厚は150mmである。
施工においては間詰部界面に高耐久型エポキシ系接着剤(KSボンド)を用いて(写真- 2)、接着剤の効果について検証した。

図-5 供試体寸法
図-5 供試体寸法
写真-2 接着剤塗布した供試体
写真-2 接着剤塗布した供試体

 

3-3 結果および考察3)

軸直角方向に間詰部を設けたPc.RC床版Aの最大耐荷力に対して2方向に間詰部を設けたPc. RC床版Bは1.04倍向上する結果が得られた。
また、輪荷重走行疲労実験における耐疲労性の評価においては等価走行回数を得て評価した。
同一寸法のRC床版に対してPc. RC床版Aは12.1倍、軸方向および軸直角方向の2方向に間詰部を設けたPc.RC床版Bは12.5倍の等価走行回数が得られた。
これは、間詰部の鉄筋が2倍配置され、間詰部が弱点とならず耐疲労性が向上する結果が得られた。
さらに、接着剤なしの供試体に対して間詰部側面に接着剤あり(写真- 2)の供試体は1.20倍の等価走行回数が得られた。
これは界面の引張強度およびせん断強度が高く、付着力が向上したためと考えられる。破壊状況は押抜きせん断破壊である。
 
以上より、間詰部は弱点とならず、間詰部側面に接着剤を塗布することで、さらに耐疲労性が向上することから、間詰部側面に接着剤の塗布を提案し、実橋においても採用されている。
 
 

4. 実橋取替RC床版の施工事例

4-1 山形県の取替Pc.RC床版
(1) 橋梁概要(赤山橋)

橋梁の現状および橋梁の諸元を写真- 3、表- 2に示す。
赤山橋は山形県上山市が管理する橋梁である。
道路橋RC床版の下面には鋼板接着補強が施されており、目視点検では損傷状況の調査が困難であるので、コア採取等を行った結果、健全性 Ⅳ 4)に相当する損傷であったため、取替Pc.RC床版が検討された。
橋梁支間は16.1m、幅員7.0m、斜角83°の橋梁であり、A活荷重で設計した。

写真-3 橋梁の現状(山形県)
写真-3 橋梁の現状(山形県)
表-2 赤山橋の諸元
表-2 赤山橋の諸元
(2) Pc.RC床版の製作

Pc. RC床版の製作には、鋼製型枠3タイプを製作し、軸直角方向2.0mごとに間詰部を設け、幅員の1/2、すなわち中央主桁上の軸方向に間詰部を設ける構造とした。
本来は幅員7.0mのプレキャスト版の製作は可能であるが、多くの技術の検証を行う目的で軸方向に間詰部を設けた。
さらに斜角83°の橋梁であることも特長である(写真- 4)。
 
プレキャストRC床版はA活荷重で設計し、鉄筋にはSD345D16、コンクリートの要求性能として材齢28日の圧縮強度を40N/mm2以上となる配合とした。
Pc.RC床版の製作は架設現場に近い、山形市の東栄コンクリート工業(株)で製作した。

写真-4 Pc.RC床版の製作
写真-4 Pc.RC床版の製作
(3) 老朽化したRC床版の撤去

RC床版の撤去および仮桁の設置を写真- 5に示す。
先ず、 舗装を撤去し( 写真- 5(1))、 老朽化したRC床版の撤去には、一般的に採用されているセンターホールジャッキを用いた(写真- 5(2))。
撤去時間は6時間程度である。
劣化したRC床版を撤去した後、鋼桁の補修および取替床版設置に伴い、安全性を確保するために鋼桁に仮桁を設置した(写真- 5(3))。
仮桁は取替P c. RC床版設置後撤去した。

写真-5 RC床版撤去および仮桁設置
写真-5 RC床版撤去および仮桁設置
(4) 取替Pc.RC床版の施工

取替Pc. RC床版の施工手順を写真- 6に示す。
本工事は片側交通規制を行い、既設RC床版を撤去し、鋼構造部の劣化部の補修およびジベルを取り付ける。
その後、トラック輸送されたプレキャスト床版(写真- 4(2))をクレーン作業により端部から順次設置する(写真- 6(1))。
この橋梁では、片側車線にプレキャスト版9枚を6時間で設置した。
次に、鋼製の伸縮装置を設置し(写真- 6(2))、間詰部には3時間で圧縮強度24N/ mm2以上となる配合条件とした超速硬コンクリートを用いる。
練り混ぜには移動式プラントを用い、練り混ぜ後、間詰部に打設して平滑に仕上げる(写真- 6(3))。
次に、反対車線側の既設R C床版を撤去し、プレキャスト版を設置する(写真- 6(4)、(5))。
 
本橋梁は3主桁であることから、負曲げ作用によりプレキャスト版と間詰部コンクリートとの打ち継ぎ界面がはく離する可能性を考慮し、打ち継ぎコンクリートとの付着力を高めるために付着用接着剤KSボンドを用いた(写真- 6(6))。
軸方向間詰部上を輪荷重が走行した場合においても間詰部は弱点とならず、耐疲労性が向上する結果が得られている。
その後、直ちにコンクリートを打設する(写真- 6(7))。
その後に伸縮装置の設置、橋面防水工、アスファルト舗装(写真- 6(8)、(9))を行い、片側5時間程度で終了した。

写真-6 取替Pc.RC床版の施工事例(山形県)
写真-6 取替Pc.RC床版の施工事例(山形県)

 

4-2 秋田県の取替Pc.RC床版
(1) 橋梁概要(外ケ沢1号橋)

橋梁の現状および橋梁の諸元を写真- 7、表- 3に示す。
秋田県男鹿市が管理する外ケ沢1号橋は(写真- 7)、1959年に供用され、既に60年以上が経過した老朽橋梁である。
床版には塩害等による損傷、鋼桁は凍結防止剤と飛来塩分による発錆が見られ、鋼桁の取替工事が必要となる。
この橋梁は、橋長7m、幅員2.9 ~ 3.4m、斜角50°であり、A活荷重で設計した。
鉄筋にはSD345D13、 D16、コンクリートの要求性能は材齢28日の圧縮強度を40N/mm2以上となる配合とした。
 
外ケ沢1号橋は橋長が7mであるが、架橋地周辺の集落と男鹿市街を結ぶ唯一の路線にあり、迂回路が設定できない環境で、長期の通行止めは住民生活に大きな影響を及ぼす。
そのため、工期をできる限り短縮化する工法が検討され、ボックスカルバートの設置が有力だったが、架設する大型クレーンが設置できず、さらに橋梁形状が複雑なことから、鋼桁の取替と取替Pc.RC床版の取替工事を実施した。

写真-7 橋梁の現状(秋田県)
写真-7 橋梁の現状(秋田県)
表-3 外ケ沢1号橋の諸元
表-3 外ケ沢1号橋の諸元
(2) 取替Pc.RC床版の制作

取替Pc.RC床版は写真- 8に示すように、10枚に分割して製作した。
橋梁の形状も考慮すると、床版の形状は、斜角50°三角形状(1枚)、四角形状(6枚)、台形(3枚)となり、全て異なる床版形状( 写真- 8(2)、(3))となった。
この形状の自由度が高いことはRC構造を用いた取替Pc.RC床版の大きな特長である。
鋼製型枠を数種類組合せることにより、10種類のPc.RC床版を3週間で製作した。

写真-8 プレキャスト版製作
写真-8 プレキャスト版製作
(3) 桁の損傷およびRC床版の撤去

鋼桁の腐食・損傷が著しい(写真- 9(1))ことから新設が検討された。
先ず、既設RC床版の撤去(写真- 9(2))後に既設鋼桁を撤去した。

写真-9 鋼桁の損傷状況およびRC床版撤去
写真-9 鋼桁の損傷状況およびRC床版撤去
(4) 取替Pc.RC床版の施工

取替Pc.RC床版の施工手順を写真- 10に示す。
本工事は全面通行止めで施工するため、工事に先立ち、地域住民の利用する車両は、男鹿市街側の駐車場に移設し、歩行者用の仮橋を設置した。
 
本橋梁の更新工事は、新規鋼桁架設(写真- 10)、取替P c. RC床版の架設(写真- 10(2))、グラウト注入、間詰部充填(写真- 10(3))、伸縮装置設置、防水工、アスファルト舗装工となる。
本来なら数日で終了するが、既設鋼桁撤去および橋台のひび割れ補修工、水道管工事等を行い、伸縮装置設置までに約3週間要した。
その後、夜間のみ通行禁止とし、床版防水アスファルト舗装までは約1カ月を要した。

写真-10 取替Pc.RC床版の施工事例(秋田県)
写真-10 取替Pc.RC床版の施工事例(秋田県)

 

4-3 岩手県の取替Pc.RC床版
(1) 橋梁概要(猿越橋)

橋梁の現状および橋梁の諸元を写真- 11、表- 4に示す。
岩手県県北広域振興局土木部二戸土木センターが管理する猿越橋は、橋長61.2m、幅員7.5m(有効幅員6.5m)の鋼単純上路式トラス橋(非合成)であり、1964年の「鋼道路橋設計示方書」で設計され、1972年に供用された。
取替Pc.RC床版の設計はB活荷重で設計すると同時に、幅員も全幅を7.8m、有効幅員を7.0mに拡張された。
 
当該路線は、国道4号線と八戸市を結ぶ重要路線であり、かつ一次緊急輸送道路に指定されているため維持管理においては、早期の交通開放が求められ、取替Pc.PC床版と比較してコストが大幅に縮減する取替Pc.RC床版が採用された。

写真-11 橋梁の現状(岩手県)
写真-11 橋梁の現状(岩手県)
表-4 猿越橋の諸元
表-4 猿越橋の諸元
(2) 取替Pc.RC床版の製作

取替Pc. RC床版の製作は、架設現場に近い青森県の二次製品工場で製作した。
Pc. RC床版の寸法は幅員方向7.8m、支間方向1.5m、床版厚は死荷重の増大を抑制するために既設床版と同様に170m mとした(写真- 12)。
品質管理はJIS A 5372および5373に基づいて促進養生(蒸気養生)と自然養生を施したほか、凍害による早期の損傷を起こさないよう標準空気量も4.5%±1.5とし、ASRや塩害の抑制を期待して石灰石骨材を採用した。
取替Pc. RC床版は34パネルの設置を約1カ月半で製作した。

写真-12 プレキャストRC床版の製作
写真-12 プレキャストRC床版の製作
(3) 老朽化したRC床版の撤去

工事は、作業員12人態勢で旧床版撤去、新設床版架設、伸縮装置設置を15日で完了した。
RC床版を現場打ちする従来の工法の場合は、旧床版撤去、新設床版打設、伸縮装置設置で、約270 ~ 330人工で約55日(コンクリート養生28日除く)全面通行止めとなる。
 
撤去作業は、現場は夜間全面通行止めを行い、 1日2 ~ 3パネル程度の床版を取り替える。撤去においては幅員が7.5mであることから幅員方向の幅は3.75m、橋軸方向は1.8mで、切断する。撤去1パネル当たりの重量は約4.3tである。
これを半断面ごとにコンクリートカッターにより切断(写真- 13(1))し、センターホールジャッキにより撤去し(写真- 13(2))、360tオールテレーンクレーン(ATC)で撤去(写真- 13(3))した。
取替Pc. RC床版2 ~ 3パネル相当分の旧床版を撤去した後に、主桁の上フランジ上面を研掃(写真- 13(4))した後に、スタッドジベルを溶植(写真-13(5))し、桁と床版間にスポンジシール型枠を配置(写真- 13(6))して、その上に新設する取替Pc.RC床版を設置する。

写真-13 RC床版撤去および鋼桁の補修
写真-13 RC床版撤去および鋼桁の補修
(4)取替Pc.RC床版の施工

取替Pc.RC床版の設置手順を写真- 14に示す。
360tのATC作業によりPc. RC床版を設置する(写真- 14(1))。
次に、ジベル孔に無収縮モルタルを打設する。
間詰部の継手部(写真- 14(2))および間詰部下面の状況を(写真- 14(3))に示す。
間詰部下面に鋼製型枠を設置して、上面から超速硬コンクリートを移動式モービル車で練り混ぜし、間詰部コンクリートを打設(写真- 14(4))する。
夜間に床版の撤去から架設、間詰コンクリートの打設までを実施、既設床版と新設床版の境部には覆工板を設置して昼間は交通開放することを繰り返した。
 
床版取替完了後、橋面防水工は、塩害・凍害地域であることから、NEXCO仕様のグレードⅡを採用した。舗装の基層には再生密粒度アスファルトを40mm、表層に密粒度アスファルト改質Ⅱ型を30mm敷設した。部分開放および完成状況を写真- 15に示す。

写真-14 取替Pc.RC床版の施工例(岩手県)
写真-14 取替Pc.RC床版の施工例(岩手県)
写真-15 交通開放および完成
写真-15 交通開放および完成

 

4-4 取替Pc.RC床版の特長

取替Pc.RC床版は既に3橋で実施した。
本取替RC床版の特長は、型枠の製作、鉄筋配置が可能であれば、事例1 ~ 3に示すように、斜角のある橋梁床版も可能である。
特に、地方自治体の管理する橋梁においては、斜角を有する橋梁が多いことから、これらの取替床版工事には最適な取替床版である。
また、地方道においてば2等橋で設計された橋梁も多く、これに対応するA活荷重、さらにB活荷重での設計も可能となる。
プレキャストRC床版の製作においても、架設現場に近いコンクリート二次製品工場での製作が可能であることから、輸送距離も短く、地元企業の繁栄にも貢献できると考えられる。
 
この取替RC床版は、岩手県、山形県で2橋目の採用が決定されるなど、交通量に限らない橋梁の取替床版として期待されている。
 
 

5. 水路や用水路の取替RC床版橋5)

5-1 概要

近年、用水路や水路に架設されている道路橋プレキャストRC床版は老朽化によるひび割れ損傷やプレキャスト床版間の隙間からの漏水・ひび割れの発生などにより取替工事が検討されている。
これらのことから用水路の幅、すなわち橋台間を支間とし、幅員方向にPc.RC床版を並列する取替Pc. RC床版橋が日本大学生産工学部、(株)小野工業所、(株)橋梁保全研究所により開発されており、この内容について述べる。
 

5-2 既設RC床版の損傷状況および提案する取替Pc.RC床版の概略
(1) 既設Pc.RC床版、RCスラブ橋の損傷状況

用水路に架けられた既設プレキャストRC床版およびRCスラブ橋の損傷事例を図- 6に示す。
図- 6(1)はプレキャストRC床版を幅員方向に並列した床版であり、床版間の接合部は並列したのみであることから、隙間から漏水している。
さらに輪荷重の作用により、接合部は擦り磨きによる遊離石灰の発生、支間方向にひび割れが発生している。
次に、図- 6(2)は、支間4.4m、幅員8.0mのRCスラブ橋である。
アスファルト舗装面はRC床版の凍結融解の繰り返しによる土砂化による2方向ひび割れが発生している。

図-6 既設Pc.RC床版およびスラブ橋の損傷事例
図-6 既設Pc.RC床版およびスラブ橋の損傷事例
(2) 既設プレキャストRC床版の損傷過程

既設Pc. RC床版の損傷過程を図- 7に示す。
既設のPc. RC床版は幅2.3m以下で、これを幅員方向に並列するのみの施工法である。
よって、T荷重幅1.75m以下の幅のPc.RC床版を並列した場合は図- 7に示すようにT荷重の作用により隣接する床版との接合面は変位による段差が生じ、繰り返し作用することで接合面に擦り磨きが生じる。
また、接合面からの漏水も発生する。
よって、幅員方向の接合面を一体化する必要がある。

図-7 既設取替Pc.RC床版の損傷過程
図-7 既設取替Pc.RC床版の損傷過程
(3) 用水路用取替Pc.RC床版の概略

本稿で述べた取替Pc. RC床版は写真- 6、10、 14に示すように、橋軸方向にPc. RC床版を並列し、橋軸直角方向あるいは橋軸方向と橋軸直角の2方向に継手構造を設け、間詰部に超速硬コンクリートを打ち込みして一体化している。
一方、用水路に架けられているPc.RC床版は、一般的にPc.RC床版を幅員方向に並列するのみである。
開発した本工法では取替Pc.RC床版橋を突起付き鉄筋で一体化することから、劣化による取替工事においては、老朽化した床版橋を撤去し、近隣の二次製品工場でPc.RC床版を製作、現場において並列し、間詰部にコンクリートを打ち込みして一体化することからRC床版橋として取り扱うことができると考えられる。

(4) 取替Pc.RC床版の継手構造

取替Pc.RC床版の概略は図- 8に示すように、幅員方向のP c. RC床版には機械式継手を設ける。
機械式継手には、円形突起付き鉄筋を用いることとし、その形状・寸法を図- 9に示す。
取替Pc.RC床版の継手構造となる配力筋にD13を用いた場合の機械式継手長は道示の規定により継手長は217mmである。
継手構造は図- 9(1)に示すように、D13の鉄筋を用いた場合の突起部はφ30m mの円形であり、面積は580m m2となる。
次に、配置状況とかぶりの関係は図- 9(2)に示すように、橋軸方向の主筋の内側に配置することから道示6)に規定するかぶり30mmが確保できる配置となる。
継手構造は重ね継ぎ手とし図- 9(3)に示す。

図-8 取替Pc.RC床版の概略
図-8 取替Pc.RC床版の概略
図-9 円形突起付き鉄筋および配置状況5)
図-9 円形突起付き鉄筋および配置状況5)
(5) 実験供試体の概略および実験方法

実験に用いる供試体を図- 10に示す。
継手構造を設けない供試体、間詰部を輪荷重直下の中央および輪荷重端部から右側に間詰部を設け、間詰部が曲げの影響およびせん断の影響を受けた場合の耐疲労性の評価について検証する。
また、図- 9に示す継手構造を有する幅200mmの間詰部を設けた。
直上を輪荷重が走行する供試体および継手構造を中央から250mmの位置に幅200mmの間詰部を設け、間詰部が曲げおよびせん断の影響を受ける供試体とする。
また、間詰部には付着用接着剤を用いた供試体も製作した。
ここで接着剤なしを図- 11(1)、接着剤ありを図- 11(2)に示す。
この供試体記号をそれぞれPc.RC-A、Pc.RC-Bとする。
Pc. RC床版側面には付着用接着剤を用い、接着剤ありの供試体をそれぞれPc. RC- C、 Pc.RC-Dとする。
耐疲労性の評価は輪荷重走行疲労実験(図- 12)を行い、等価走行回数を得て評価する。

図-10 用水路用取替RC床版橋
図-10 用水路用取替RC床版橋
図-11 接着剤あり,なしの間詰部の状態
図-11 接着剤あり,なしの間詰部の状態
図-12 疲労試験状況
図-12 疲労試験状況

 

5-3 結果および考察

輪荷重走行疲労実験における等価走行回数は、継手部を設けない供試体に対して、円形突起付き継手を設け、曲げの影響を考慮した間詰部を設けた供試体の等価走行回数は40% 低下した。
また、せん断の影響を考慮した間詰部を設けた供試体は18%低下した。
なお、大型車両の計画交通量を1日1方向当たり、2000台とした場合の乾燥状態で100年以上使用しても問題ないとの結果が得られている。
次に、間詰部界面に接着剤を用いた供試体の等価走行回数は、継手部を設けない供試体に対して中央に間詰部を設けた供試体は5% 低下し、せん断の影響を受ける位置に間詰部を設けた供試体は同等の等価走行回数が得られた。
よって、本実験の範囲内では間詰部界面に接着剤を用いることで耐疲労性が向上する結果が得られた。
なお、接着剤なしにおいても耐疲労性は十分満足できる床版である。
 

5-4 施工手順

本開発した取替Pc. RC床版橋の施工手順(イメージ)を図- 13に示す。
また、施工手順は、二次製品工場で製作した幅2.3m以下の取替Pc. RC床版を架設現場まで輸送し、クレーン等で幅員方向に並列する。
幅員方向には機械式継手構造を有する間詰部を設ける。
通行車両の幅を考慮して片側交通規制、あるいは1日交通規制で設置工事を行うことから間詰部にコンクリートを打ち込むまで実施する。
例えば、幅員8.0mの場合は、Pc.RC床版の幅2.0mの取替Pc.RC床版が4枚、継手部を有する間詰部が3箇所必要となる。
間詰部コンクリートには超速硬コンクリートを用いることから材齢3時間でコンクリートの圧縮強度が24N/ mm2以上が確保される。

図-13 施工手順(イメージ)
図-13 施工手順(イメージ)

 

5-5 遊間部の止水工法および伸縮装置の提案

取替Pc.RC床版橋は、輸送重量の関係から支間長が最大でも6.0m程度であることから、橋梁の伸縮量に対して殆ど伸縮しないため、橋台と取替Pc.RC床版橋は数センチの隙間が発生する。
よって、この隙間の止水にはSMジョイントを提案する。
SM止水材は国土交通省・北海道開発局が認定した材料である。
 
施工法を写真- 16に示す。
先ず、隙間にバックアップ材を設置し、プライマーを塗布した後、養生し、乾燥後バックアップ材を設置する。
SM止水材はシール主剤と硬化剤を混合攪拌し、その後添加剤を加え十分に攪拌する。
SM止水材を入れた容器を傾けても材料が流れないことを確認してから充填する。
充填は、ヘラ・コテなどで平滑に仕上げ、SM止水材の充填を完了する(写真- 16(1)、(2))。
施工時期と桁伸縮の関係を考慮して、仕上げ高さに注意する。
とくに冬季施工の場合は路面高さより低く仕上げる。
SM止水材を充填して仕上げた後、一定時間を経たら表面保護のため石粉または石灰を散布する(写真- 16(3))。
施工時の気温により変動するが、施工後1時間~ 3時間が交通開放の目安とする。
なお、隙間が小さい場合は変成シリコン系シーリング材を使用して隙間に充填しても良い。
 
次に、アスファルト舗装が必要な場合は、舗装厚と同等な厚さの埋設型のMM-DSジョイントの設置も可能となる。

写真-16 SMジョイント施工法
写真-16 SMジョイント施工法

 
 

6. まとめ

道路橋RC床版の長寿命化対策-取替プレキャストRC床版の製作および施工事例-ついて述べた。
本稿で述べた「取替Pc.RC床版」(NETIS登録TH-220003-A)は、地方公共団体を対象にして提案した。
とくに、交通量の少ない地方道においては現行示方書に規定するA活荷重およびB活荷重での設計も可能である。
また、用水路の幅を支間とする新たな取替Pc.RC床版橋においても、継手構造を設けて、一体化することから、現状における取替Pc.RC床版橋として、長寿命化が図れる床版橋であると考えられる。
現在最も多く採用されている取替床版は、PC構造が多く、これは製作工場や技術も限られている。
本取替Pc.RC床版は、架設地域に最も近いコンクリート二次製品工場で製作が可能となり、さらにコストの縮減効果、施工性にも優れている。
よって、国土交通省が推奨するi-Construction(建設現場の生産性革命)における、コンクリートの生産性の向上を図るための対策の一つである鉄筋のプレハブ化に対応できる取替床版および工法であると考えられ、社会的にも認知され始めている。
本工法が国や地方自治体が管理するRC床版の長寿命化対策の一助になれば幸いである。
 
 


参考文献
1) 阿部忠:道路橋床版の健全性評価と長寿命化設計、建設図書、
2021.9
2) 高橋明彦他:間詰部を設けた取替RC床版の耐疲労性の評価に関する実験研究、構造工学論文(1)SM止水材充填(2)充填完了
(3)表面保護・完成集Vol.65A、pp.711-721、pp.655-664、 2019.3
3) 小野晃良他、プレキャスト床版に突起型継手を設けた取替RC床版間詰部の開閉幅が耐疲労性に及ぼす影響、構造工学論文集Vol.68A、pp.711-721、2022.3
4) 国土交通省:橋梁定期点検要領、2019
5) 重松伸也他:橋軸方向を支間とするプレキャスト取替RC床版橋の輪荷重走行疲労実験による耐疲労性の評価、コンクリート構造物の補修、補強・アップグレード論文報告集、第23巻、pp.-、 2023.10

道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策
道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策

 
本著書では、本稿で述べた補修・補強工事について筆者が長年研究した成果を取り纏めたものです。
本著書11章で構成されています。
1章 道路橋の健全性の評価と維持管理、2章 道路橋RC床版の点険および劣化診断、3章RC床版および補修・補強床版の力学性状、 4章 道路橋RC床版の上面補修法、5章 道路橋RC床版の上面増厚補強法、6章 道路橋RC床版の下面補修・補強法、7章 道路橋RC床版のコンクリート部分打ち換え補強法、8章 道路橋RC床版の取替床版工法、9章 橋梁伸縮装置の補修・補強および設置法、10章 鋼床版・ RC床版のコンクリート舗装法、11章 溝橋および橋梁RC部材の補修・補強法技術
出版社:建設図書
定 価:3,850円(本体3,500+税10%)
本著書は台湾においても2023年5月に財団法人中華顧問工程司により、出版された。
 
 
 

一般社団法人 日本橋梁メンテナンス協会 代表理事日本大学・名誉教授(博士(工学))
阿部 忠

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年2月号

最終更新日:2024-01-22

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品