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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 基礎地盤 > 鉄道における基礎工関連の生産性向上の取組み

はじめに

我が国では、急速な少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面し、土木分野の技能労働者の確保や技術力の維持・向上、生産システムの変革も含めた生産性の向上が喫緊の課題である¹)。
鉄道分野に着目すれば、鉄道の安全・安定輸送のため、鉄道施設の維持管理の重要性は益々高まっている。
さらに、コロナ禍後の社会変化に対応すべく、鉄道経営の効率化に資する研究開発と早急の実用展開が求められている。
一方、基礎工分野は学会等で指摘されるように、過去の技術導入当時と比較して、生産性の飛躍的な向上が遅れている分野である²)。
 
本稿では鉄道における基礎工関連の生産性向上の取組みとして、実用化事例を総括して示すとともに、最後に数値解析と模型実験を組み合わせた最新の取組みを紹介する。
 

1. 鉄道における基礎工関連の生産性向上策

鉄道における基礎工関連の生産性向上に関わる実用化技術を、①~⑤に分類した(表-1)。
基礎工の生産性向上には、①建設材料である鉄筋やコンクリートに高強度材料を用いて部材寸法や鉄筋量を低減させることや、機械式継手や機械式定着具の適用など「新しい建設材料等の利用拡大」がある。
この他に鉄道工事特有の②「低空頭・狭隘箇所施工の基礎工」の他、③施工性に優れた「新しい基礎工」がある。
一方、基礎工・上部工の施工精度の観点から、④その境界部である「基礎工の結合部」の構造改善や、⑤基礎工省略に繋がる「構造形式の選定」も対象となる。
以下では、個々の項目を詳述する。
 

 

1-1 新しい建設材料等の利用拡大

鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)³)では、新しい材料等の適用範囲の拡大を図り、18~50N/mm²の設計基準強度を有するコンクリートの使用を標準とし、これを超過するコンクリートや高流動コンクリートを使用可能とした。
また、SD390超の高強度鉄筋やD39超の大径鉄筋の他、帯鉄筋用に高強度スパイラル鉄筋も使用可能とした。
この他鉄筋の機械式継手や機械式定着具、および既製杭の機械式継手の使用により施工性向上を図った。
ただし、最新の鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)⁴)により、一部制限があることに注意が必要である。

 

1-2 低空頭・狭隘箇所施工の基礎工

鉄道施設の改良工事等は、鉄道運行を継続しつつ実施するため、鉄道施設下での基礎工となる場合がある。
この場合、低空頭施工の基礎工となるが、工法としてはストランド場所打ち杭工法⁵)、⁶)、ボトムサーキュレーションホール工法(BCH工法)⁷)、超低空頭場所打ち杭工法⁸)などが開発された。
BCH工法は、軽量かつ小型のBH 掘削機を使用するが(掘削機高さ:1.8~2.35m、掘削機重量:2.9~6.8tf)、揚泥管および口元管を追加して配置し、リバースサーキュレーション工法と同一の安定液循環を実現した工法である(図-1)。
一方、超低空頭場所打ち杭工法はホーム下2.0m程度の空頭施工を可能にした。
 
一方、フーチング構築時の仮土留め材の鋼矢板と直接基礎を組み合わせることで、支持杭不要の浅い基礎としてシートパイル基礎⁹)が開発された。
地盤条件はある程度限定されるものの、支持杭不要の工期短縮効果や省スペース施工の優位性は高い(図-2)。
また、既設杭基礎の耐震補強にシートパイル基礎を応用したシートパイル補強工法¹⁰)も実用化された。
増し杭等による既設基礎の補強工法と比較して、サイレントパイラー等の小型圧入機の使用や、既設フーチングから最小離隔距離での鋼矢板打設等の施工メリットは大きい(図-3)。
シートパイル補強工法は、既設河川橋梁の洗掘被災リスク低減策としての利用にも適する。
 

 

 

1-3 その他の新基礎工法

鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)では、新たに導入した杭工法として、プレボーリング根固め杭工法、鋼管ソイルセメント杭工法や回転杭工法がある。
このうち回転杭工法¹¹)は、先端部に杭径(400~1600mm)の1.5~2.0倍の羽根を有する鋼管杭を回転させることで、羽根の推進力により地盤に鋼管杭を貫入させる工法である。
特長として羽根により先端支持力や引抜き抵抗力が大きく、低騒音・低振動で掘削土の排出がないことによる施工環境面でのメリットが大きい。
一方、杭径400mm以下の小口径回転杭は、鉄道付帯設備工事や鉄道駅舎の耐震補強・リニューアル工事での施工優位性からニーズが高い工法である¹²)。
 
ケーソン基礎には、オープンケーソン工法¹³)やニューマチックケーソン工法¹⁴)がある。
両者とも地盤深くの大気・水中状態、あるいは圧気状態での地盤掘削と同時に、ケーソン躯体を沈設させる工程をとる。
このため、施工性・安全性向上や施工精度向上が工法開発期からの課題であった。
最近では躯体レール走行式掘削機、天井走行式掘削機の出現や掘削部の搬出・搬入設備の改善により、掘削部の無人化技術が実用展開され、課題解決がなされてきた。
 

1-4 基礎工の結合部

鉄道構造物の基礎工の結合部では、鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)や鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計)¹⁵)の考え方を踏まえ、場所打ち杭、既製杭に対応した杭頭結合部の設計法を参考文献16、17)に示した。
鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)には、剛結合を標準とし、半剛結合¹⁸)や損傷抑制型の杭頭結合の記載を追加している。
これらの結合方法を選定することで基礎工の部材寸法等の低減が期待できる(図-4)。
 
また、鋼管杭の杭頭結合部は、円形配置したアンカー鉄筋とこれを囲む帯鉄筋からなる組立て鉄筋を、施工済みの鋼管杭頭内部に配置し、中詰めコンクリートを打設することで、アンカー鉄筋と鋼管杭の結合を図っている。
場所打ち杭の主鉄筋配置と異なり、鋼管杭のアンカー鉄筋は円形配置の必要性はないことから、柱・地中梁の主鉄筋とアンカー鉄筋の交差を容易にする目的で、アンカー鉄筋の正方形配置を提案した。参考文献19)は鋼管杭が斜杭の場合であるが、直杭の場合でも使用可能である(図-5)。
一方、基礎工の結合部は、上部工と基礎工両者の施工精度から生じる施工誤差を吸収する箇所でもある。
前述の鋼管杭のアンカー鉄筋の考え方を場所打ち杭の杭頭結合部に応用したのが、杭頭主鉄筋の小径配置である²⁰)。参考文献21)では、プレキャストラーメン高架橋の適用に当たり小径杭頭配筋を用いることで、柱主鉄筋の内側に場所打ち杭の主鉄筋を配置し、プレキャストラーメン高架橋上部工と場所打ち杭の施工誤差吸収余裕が確保された。
 

 

1-5 構造形式の選定

構造形式の選定により地盤改良を併用した直接基礎へ変更することで支持杭の省略や、鉄筋コンクリートラーメン高架橋の地中梁の省略²²)、桁・橋台形式橋梁から支承部や基礎工を省略しラーメン構造化したGRS一体橋梁²³)がある。
これらは、基礎工の一部、または全てを省略した構造形式である。
GRS一体橋梁の考え方を既設の鋼桁・橋台形式橋梁の耐震補強・リニューアルに適用したものが、鋼桁・橋台・盛土一体化橋梁である²⁴)。
 

2. 改良型BCH工法

「1-2低空頭・狭隘箇所施工の基礎工」で「BCH工法」を示したが、掘削機が小型であるため礫の排出に課題があった。
そこで、礫地盤での施工性向上を目的とし、小型掘削機の施工優位性は残しつつ、掘削ビット形状を改良することとし、掘削効率の改善効果を「流体解析」、「小型模型実験」および「大型模型実験」により検証した²⁵)~²⁷)。
 
掘削ビット形状の改良は、既存の掘削ビットの掘削主翼の上面に対して、補助翼を直角に、かつ斜め下45度の中心内側に補助翼面が向くように取り付けるもので、掘削ビットの回転によって生じる回転中心から外向き上方の安定液の流れを、中心内向き上方に変えるものである(図-6、これを「改良型BCH工法」と呼ぶ。特許出願中)。
大型模型実験では従来型掘削ビットに対して、改良型BCH工法の掘削ビットは大幅に掘削効率が改善され、10mm以上の砂礫は2倍以上の割合で掘削可能となった。
今後、実施工による検証を予定している。
 

 

おわりに

本稿では、鉄道における基礎工関連の生産性向上の取組みを紹介した。
一方、2016年9月に開催された未来投資会議において、建設現場の生産性を2025年までに2割向上を目指す政府方針が示された。
当然ではあるが、鉄道の基礎工の分野においても対応する必要があり、従来の固定概念を振り払い、基礎工関連の省力化・省人化、そして生産性向上に寄与するために基礎工の個々の建設現場の改善だけではなく、新しい技術を導入しやすい設計・施工の生産システムの変革を行う必要があると考える。
 

[参考文献]

1)土木学会平成28年度会長特別タスクフォースWG1:2050年の社会と建設産業のシナリオ、土木学会誌、Vol.102、No.6、pp.6-7、2017.
2)石橋忠良:コンクリート構造物における品質を確保した生産性向上に関する提案、土木学会誌、Vol.102、No.6、pp.14-15、2017.
3)国土交通省鉄道局監修、(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)、丸善、2012.
4)国土交通省鉄道局監修、(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)、丸善、2023.
5)築嶋大輔ら:空頭制限用ストランド場所打ち杭の開発と実工事への適用、土木学会論文集、Ⅳ-57、No.721、pp.105-117、2002.
6)山野辺ら:ストランドを用いた新しい場所打ち杭工法の開発、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、Ⅲ-272、2005.
7)神田政幸:超低空頭な狭隘箇所での基礎工-BCH 杭・シートパイル基礎-、基礎工、Vol.44、No.7、pp.43-46、2016.
8)和田旭弘ら:超低空頭場所打ち杭工法の開発(1)、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、VI-333、2011.
9)西岡英俊ら:鉄道橋における鋼矢板併用型直接基礎-シートパイル基礎-、基礎工、Vol.37、No.10、pp.64-67、2009.
10)神田政幸:構造物基礎の耐震補強技術-シートパイル基礎補強-、地盤工学会誌、Vol.60、No.4、pp.28-29、2012.
11)鋼管杭・鋼矢板技術協会:回転杭工法施工管理要領[Edition1.0]、2017.
12)西岡英俊ら:鉄道構造物に用いる小口径回転杭の鉛直地盤抵抗のモデル化、鉄道総研報告、Vol.29、No.10、pp.35-40、2015.
13)岩沙政治:オープンケーソン工法における施工技術の進化、基礎工、Vol.36、No.11、pp.7-16、2008.
14)斎藤良太郎:ニューマチックケーソン工法における施工技術の変遷と施工実績、基礎工、Vol.36、No.11、pp.17-23、2008.
15)国土交通省鉄道局監修、(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計)、丸善、2012.
16)(公財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説【基礎構造物】(平成24年版)杭体設計の手引き、2015.10
17)西岡英俊ら:鉄道橋基礎における杭体および杭頭結合部の設計法、基礎工、Vol.45、No.11、pp.26-33、2017.
18)青島一樹ら:杭頭半剛接合法の効果と留意点、基礎工、Vol.40、No.6、pp.19-23、2012.
19)清田三四郎ら:斜杭基礎の水平抵抗特性と鉄道構造物への適用性の検討、地盤工学ジャーナル(Web)、Vol.5、No.2、pp.293-307、2010.
20)青木一二三ら:杭頭接合部を改良した場所打ち杭の模型水平載荷実験、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、Ⅴ-480、pp.959-960、2005.
21)陶山雄介ら:小径化した杭頭部の施工試験、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、Ⅲ-376、2018.
22)滝沢聡ら:地中梁のないパイルベント構造の杭と柱の接合構造の設計施工事例、基礎工、Vol.45、No.11、pp.94‐96、2017.
23)(公財)鉄道総合技術研究所、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構:補強盛土一体橋梁(GRS一体橋梁)の設計・施工指針、2017.
24)神田政幸ら:構造境界の耐震化-鋼桁・橋台・盛土一体化工法-、基礎工、Vol.45、No.12、pp.65-67、2017.
25)橋立健司ら:低空頭対応場所打ち杭BCH工法改良に向けた新たな取組みについて(その1)~流体解析による掘削ビットの改良効果の検証~、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM)、Ⅳ-883、2023.
26)佐名川太亮ら:低空頭対応場所打ち杭BCH工法改良に向けた新たな取組みについて(その2)~縮小模型実験による掘削ビットの改良効果の検証~、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD- ROM)、Ⅳ-884、2023.
27)井出雄介ら:低空頭対応場所打ち杭BCH工法改良に向けた新たな取組みについて(その3)~実物大実証実験による掘削ビットの改良効果の検証~、土木学会年次学術講演会講演概要集(CD- ROM)、Ⅳ-884、2023.
 
 
 

公益財団法人 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部長
 神田 政幸

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年3月号


公表3月号

最終更新日:2024-02-29

 

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